寒い。ここは寒い。
こんな暗闇になぜ自分は居るのだろう?
「迷子?」
声をかけられた。
この暗闇の中、その女の姿が見えた。
目深に被った白い帽子に白のコート。白づくめの女は小さく笑った。だが輪郭がぼやけていてはっきりとは見えない。
「また来たのか。よく迷う魂だな。
安心しな、きちんと帰してやる。
ああ……でも、せっかくだからまた見ていくか? ここは全ての分岐点が見える場所。
そういえば一度肉体に戻るとここでのことは忘れるんだったな。何度も説明するのは疲れるんだが……。
あんたの望んだ未来や、あるかもしれない過去が見れるかもしれない。
多重構造世界、って知ってるかな? サイコロを振って、1が出たとする。だが他に2から6まで出た世界があるとされるあれだ。
簡単に言えばあれと似てる。だがちょっと違うかな。まぁ……言葉で説明するのがまず難しいからな……。ああ、これは前も言ったっけ。
とにかくだ。
たくさんの過去とたくさんの未来があるってこと。
その中で、あんたの望むものを……いや、望んだそのままの世界があるなんてことは稀だ。
あんたの望んだ世界に近いものを見せてやれる。それがいいことか悪いことか……それはアタシにはわからない。
完全に望んだ世界かもしれないし、望んだ世界に近いだけかもしれない。
過去を見たいならば……あるかもしれなかった世界でもいいが……。どうせ身体に戻れば忘れてしまう。
それでも見たいというなら、ほら……言ってみろ。どうせ忘れるんだから、迷子の望みくらい叶えてやるさ」
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