愛してるの、と少女が泣いた。
きらきらと銀色のハープが囁くように月光を照り返す。
コンクリートに囲まれた血の海の中、華奢な腕が動かなくなっていった。
黒い目からは涙がただ滴り落ちるだけ。
◆
ふ、と顔を上げる。
暮れかけた空には薄白い満月。
そんな空から、漣のように、音が聞こえた。酷く哀しい曲が。
だが、響く琴の音に誰も気が付かないように、街行く人々は少しも表情を崩さない。
この音が、聞こえないのだろうか。こんなにも哀しげな演奏なのに。
そう思いながら、仕方なく再び顔を元に戻すと、目の前に少女が立っていた。
細いのに癖毛らしく、ピンク色に染められた長い髪は大きく膨らんでいる。緑色の目は、年齢をわからせない奇妙な輝きに満ちていた。
明らかに彼女の小さな体には合っていない大きな白衣が風にあおられてバタバタとはためく。
そして少女は、静かな声で、こう訊いた。
「貴公、この音が聞こえるのであるな? ……この、悲劇の音色が」
こちらに何の問いも許さないまま、少女はさらにこう言った。
「ならば手伝うのである――たった一人の少女の絶望を終わらせるために」
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