コミュニティトップへ



■竜神様のおなやみ■

谷口舞
【1252】【海原・みなも】【女学生】
 東京都内にある小さな神社。そこは捨てられた動物達の駆け込み寺となっている。
 ここ、竜閑神社(りゅうかんじんじゃ)も人から忘れられたり捨てられた動物達の憩いの場所として有名だ。野良猫や野良犬はもちろん、野良オウムや野良トカゲなどおおよそ日本の環境に肌が合わなさそうなものまでいる。
 竜閑神社は2年程前に建て壊しの計画が決まったが、不況の影響を受けて中止になり、人々から存在を忘れられた神社だ。
 主である竜神は今も健在だが、信仰の薄れた神ほど弱いものはない。堂々と居座る動物達をどうにかしたいが、彼にできることと言えば2Kmまでの空間移動の能力だけ。ちょっとした手品とあまり変わらない。
 そんな中、猫又になりかけた年寄りの三毛猫が現れた。名札と鈴付きの首輪を下げていることから死を悟って自分から家を出てきたのだろう。
「今日からここは私の家にするよ。もちろん主人は私。文句ないね?」
 じろりと三毛猫ーモモーは竜神を睨み付ける。
 彼女に対抗する力を手に入れるため、竜神は力のある「人」との接触を試みるのだった。
竜神様のおなやみ

◆遠くから呼ぶ声
 学校からの帰り道。気配に呼ばれて、海原・みなも(うなばら・みなも)は町外れの小さな神社に来ていた。
「こんにちは。お呼びになられたのはどなたでしょうか?」
 ぼろぼろの境内に向かってみなもは声をあげた。……が、すぐに返事は返っては来ず、やけに動物達の鳴き声が聞こえてくる。首をかしげながらもみなもは慎重に辺りを見回しながら歩みを進めていく。
 ふと、視線を向けると。いつのまにか竜神が傍らに立っていた。少々驚くものの、みなもはすぐさまいつもの優しいほほえみで彼に話しかけた。
「何をお悩みですか?」
 竜神はぽつりぽつりと事情を語り始めた。化け猫がこの神社に住み着いてしまったこと。追い払いたいが力がないこと……
「それで、竜神さんはどうなされたいのですか?」
「力さえあれば、この神社に結界をはって誰もいない状態にしたいぐらい。時折来てくれる子達なら歓迎だけど、僕の居場所を奪い取るのは許せないよ」
「……わかりました。では、そのように交渉いたしましょう。その猫さんはどちらにいらっしゃいますか?」
「私ならここにいるよ」
 振り返ると賽銭箱の上に寝そべるように年老いた三毛猫がいた。金色の瞳を細め、意地の悪い顔でみなも睨みつけている。
「何を吹き込まれたか知らないけど、私はここをどく気はないからね」
 手ごわい相手になりそうだ、と心で呟きながらもみなもは言葉を慎重に選び話し始めた。

◇忘れられた神社
 梅雨明けのちょっと涼しい爽やかな昼下がり。橘・穂乃香(たちばな・ほのか)はいつもの散歩に出かけていた。今日は天気も良いし、気分をちょっと変えて1本遠くの曲がり角を曲がってみる。と、
 ちりり……ん。
 まだ成熟してない真っ白な幼い子猫が目の前を通り過ぎて行く。穂乃香は興味深々に猫の後をついていった。
 いつもと違う道を抜けて見たことのない屋敷の角を曲がると、小さな赤い鳥居が見えた。ずいぶんと長い間手入れが入ってないようで、まわりの木々は苔むしツタが絡み付いている。鳥居の奥にのびる階段の手前に巫女姿をしたひとりの少女がいた。黄金色の瞳でじっと階段の先を見つめている。
「どうかなさいましたか?」
 足元に擦り寄ってきた子犬を拾い上げ、穂乃香はやんわりとした口調で問いかける。
「……この神社から不思議な波動が感じられたので、導かれてきましたの。かすかなほど弱い力と力をつけつつある強い存在が対立しているようですの」
 そう言って少女−榊船・亜真知(さかきぶね・あまち)−はゆっくりと階段を上り始めた。その後を追いかけるように穂乃香も階段を上っていく。

◇モモVS竜神?
 階段を上っている途中、奥から声が聞こえてきた。かなり若い少年の声だ。
 上がるたびに声が大きくなる。どうやら相手もこちらに向かってきているようだ。
「ここは僕がいて封印をしている場所なんだよ! なんで僕が動かなくちゃならないのさ!」
「へー。封印ねぇ……そのわりにはずいぶんと何もないように見えるよ? そんな風に思ってるのはアンタだけじゃないのかい?」
 古びた賽銭箱(さいせんばこ)の上に寝そべりながら、モモは舐めるように少年を見る。
 と、彼の傍らにいたみなもが代弁するようにモモに言った。
「竜神さんはこの場所にいなければ消えてしまいます。それをお分かりになっていらっしゃって、そのような発言をされるのでしょうか?」
「消える? へえ……そんなこと初めてしったねぇ」
 知ったことじゃないといったそぶりをするモモ。明らかに相手をバカにしてる態度にもぐっとこらえ、みなもは更に強い態度でモモにつめよる。
「竜神さんはここで静かに暮らしたいそうです。確かに……今の状況だとそうは思えないかもしれません。ですが、モモさんは確かここで仲間たちと一緒に暮らしたいそうですね? それですと、竜神さんはとても困られるんです」
「あの……どうかなされたのでしょうか?」
 なんとなく会話に入ってよいか戸惑ったが、亜真知は思い切って声をかけてみた。
 その姿を見つけ、途端に竜神の顔がほころびる。竜神はだっと亜真知に駆け寄り、必死な声で助けを求めた。
「……お願いします! 協力してください!」
「……えっ」
「あなたのような力のある方なら、どーんと一発懲らしめられますよね!?」
「あらあら、やっぱりすぐにお分かりになられてしまったようですよ」
 にっこりと笑みを浮かべながら、後ろに立っていた穂乃香がそう呟く。
「やっぱり分かったって……この身体、そんなに力が強くないはずなのに……」
 少々困った顔で亜真知は肩をおろす。同類にはともかく、一見してただの女の子にしか見えない穂乃香にも正体が悟られていたのが、少なからずショックだったようだ。
「少し話を聞かせてもらったのですが、ようするに……モモ様はここに住みたいけれどもこの土地の主である竜神様は反対されているのですよね? まずは竜神様のご意思はどのようなものですか?」
「僕はここで静かに暮らしたいんだ。古くからここにいたし、この土地は結界の一部だって聞いたし、僕はその要だから動くわけにはいかない」
 はっきりとした口調で竜神は言う。彼はじっとモモを見つめて必死の思いを告げた。
「ここに住みたい気持ちは分かるけど……ここは僕の治める場所なんだ。おばあちゃんにはもっと良い場所があると思うよ?」
「では、こういうのはどうでしょう」
 ぽんと手を叩き、穂乃香が一歩前に出る。抱きかかえてた猫を下ろし、モモに微笑みかけながら言葉を紡ぎだす。
「よろしければわたくしの館にまいりませんか? お気に召すかどうか分かりませんが、きれいな花々で静かに余生を送ることが出来ますわ」
 だが、モモは渋い顔を緩めない。やはり彼女なりに気にいっている場所をそうやすやす腰を上げたくないのだろう。
「来て下さればおいしいお食事を毎日差し上げますわ」
 モモが一瞬、食事のひとことに反応したのを亜真知は見逃さなかった。どこからかきやっとフードの缶を取り出すと何気なく彼女の前に差し出す。
「ここにいてはこういった物も食べられないと思いますよ?」
「……」
「そうそう、こんな誰もいない場所じゃご飯も満足にいただけない恐れもありますわね」
 同意するかのようにみなもも言う。しばらく考え込んでいるようだったが、モモは軽く辺りをぐるっと見回して、小さな声で言った。
「……私はニャンプチゴールド粒タイプしか食べないからね。それ以外は却下させてもらうよ」
「……! それじゃあ、もしかして……」
「あんたたちの意気込みには負けたよ。そこにいるお嬢さんの屋敷に引っ越そうじゃないか。よろしくお願いするよ」
 そう言って、モモはにんまりと牙を見せながら笑みを浮かべるのだった。
 
 おしまい。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)   ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 /PC名前  /性別/ 年齢/    職業】
 0405 /橘 ・穂乃香/女性/ 10/「常花の館」の主
 1252 /海原・みなも/女性/ 13/中学生
 1593 /榊船・亜真知/女性/999/超高次元生命体
                    :アマチ……神さま!?
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 お待たせしました。
 「竜神様のおなやみ」をお届けいたします。
 ゲームノベルということで……プレイング内容でもっとも多かった、交渉シーンを重点に描写させていただきました。

 海原様:ご参加有り難うございました。補佐という立場上、あまり全面にだせなくて申し訳ございませんでした。でも一番竜神の心を分かってあげられた立場ではないかな、と思います。
 
 この物語は参加者の行動によってエンディングが変わります。
 意図しない結果となってもあんまり凹まないように頑張って下さい。
 
 それではまたお会いしましょう。
 執筆:谷口舞