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■こちら邪神温泉地獄一丁目前旅館■
姫野里美
【0026】【プティーラ・ホワイト】【エスパー】
 ある日、皆のもとに、封筒が送りつけられてきた。真っ白なそれには、差出人の名前はなく、宛名もプリントアウトされたものだ。
 それには、和紙で出来た『招待状』が2通入っており、それと共に、こんな手紙が入っていた。
『前略。日ごろお忙しい日々を過ごされている皆様へ。そんな皆様をねぎらい、我が一丁目温泉に御招待することとなりました』
 そこまでは普通の文章だ。だが、穏やかな文面に混じって、表示されていた温泉の効能。それには、とんでもない効能が表示されていたのだ。
『なお、当家では、普段中々言えないことを、包み隠さず告白していただきたいとの配慮から、男女の湯の間は、非常に声が通りやすくなっております。また、普段中々意思の疎通が図りづらいカップル様、片思い中の方々の為、性転換の湯などもございます。この外にも、子供になれる湯、大人になれる湯、また動物に変化する湯、人体に無害なれど服の溶ける湯など、様々な効能を持つ温泉を御用意いたしておりますので、皆様ふるって御来館下さい』
 並べられただけでも、まともな湯は一つもない。むろん、きちんとした湯はあるのだろうが、その文面から察するに、是非その不可思議な湯に浸かって欲しいとの意図が丸見えだった。
 そもそも、温泉の名前からして怪しげである。だが、面白そうな事件が待ち受けている事は間違いない。
 興味を引かれた彼らは、その信用性の欠片もない怪しげな招待状の導くまま、己の好奇心とそれぞれの動機をもとに、『邪神温泉地獄一丁目旅館』へと赴くのだった。

【ライターより】
 と言うわけで、面白そうな効能の温泉を多数用意してみました。むろん、これ以外にも楽しそうな効能の温泉はたくさんあると思います。是非そこで騒動を起こし、巻き込まれてみてください。
こちら邪神温泉地獄一丁目旅館
●おいでませ邪神温泉
 その温泉は、新幹線とローカル線、さらにはレンタカーを乗り継いで、街の中心部から、6時間ばかり奥地に行った場所にあった。
「ふぇぇぇぇ。やっとついたぁぁぁぁ」
 ぱたぱたと背中の羽根を休ませながら、そう言うプティ。インチキして、ここまでたどり着いたはいいが、すでにへろへろのぼろ雑巾状態だ。体力は、人並みなんである。
「イラッシャイマセ」
 感情のまるでこもっていない、まるで骸骨の様なフロントの青年に、握り締めた旅館からの招待状を差し出す。と、彼は無言で旅館の奥を指差した。どうやら、そこへ進めと言うことらしい。どこか、おどろおどろしい状況だったが、プティは何も気にせず、すたすたと湯殿に向かって歩いて行った。
 と、その途中で、まるでアンドロイドの様に血色の悪い従業員が、ほかほかと湯気を立てる温泉饅頭を温めて居るのを発見する。
「わー、おいしそー」
 お小遣いで買えるかなっ? と、わくわくした表情で覗き込むと、その血色の悪い従業員は、やっぱり張りのない声で、「ドウゾ」と、饅頭を差し出してくれた。
「え? いいの? じゃあ、いっただきまぁす」
 遠慮と言う物を知らないお子様なプティは、満面の笑顔でもって、それを口に放り込む。
「オイシイデスカ?」
「うん。とっても! やっぱり温泉はこうじゃなきゃ」
 もふもふと、口の中で饅頭の欠片を転がしつつ、彼女は次のターゲットであるロッカーへと向かった。木製の古いそれに、彼女はぽいぽいっと着ていた物を、くしゃくしゃに丸めて放り込むと、手ぬぐいに、『目にしみにくい』なんぞと銘打たれたお子様用シャンプーを黄色い洗面器に入れると言う、ある意味完璧ないでたちでもって、腕にロッカーキーを巻きつけ、がらりと、湯殿へ向かう。
「さぁて、入るぞぉ! まずは、大人になる温泉からだ!」
 と、そこには先客が居た。15歳くらいの少年だろうか。物怖じしない性格の彼女は、とてとてと近づくと、人懐っこい明るい表情でこう話かけた。
「こんにちはー。お兄さんも、温泉に入りに来たの?」
「え? ああ」
 その少年は、一瞬戸惑った様だったが、そう言ってうなずいてくれる。
「じゃあ一緒に入ろう! 一人で入るより、皆で入った方が楽しいもん。ね!?」
「いや、僕は一人で‥‥」
 見かけは少年でも、中身は30過ぎの立派な青年である。断ろうとした彼‥‥クリストフ・ミンツァーだったが、プティは構わずその手をがしりとつかむと、駆け湯もせずに湯船へ飛び込んでしまう。
「うわっ。危ないだろうがっ」
 つられて、どっボーンと、中へ落ちてしまうクリス。ぷはぁっと顔だけ出して、文句を言おうとした刹那、底にいたのは、もちろん能天気お気楽天使の六歳児、プティちゃんではなく。
「え? なぁに?」
「ぶっ!」
 自分より少し年上のレディ。『エンジェル』プティだ。
「あれっ? お兄ちゃんどうしたの? 鼻血なんか噴いちゃって。のぼせたの? どっか具合悪いの?」
 だが、中身はまぁぁぁったく変わっていないので、エンジェル・プティは、鼻を抑えながら顔を背けるクリスを、その魅惑のダイナマイト・ボディを晒しながら、がくがくと揺さぶる。
「あのー‥‥。お願いですから、その格好で、私に近づかないで下さい‥‥」
「えー!? 何で何で何でー?」
 分かってない彼女に、栗栖は頭を抱えたまま、無言で壁の大きな鏡を指差す。
「あー! プティちゃん、大人のお姉ちゃんになっちゃったんだぁ! すごぉーい! 本当だったんだー」
 湯殿中に響き渡るプティの声。身体を洗っていた他の客が、思わず振り返り‥‥そこに居る彼女を見て、硬直している。
「あーもー。分かってないな‥‥。出ますよ」
 このままでは、痴女扱いされた彼女が、警察のお世話になるまで、時間はかかるまい。これも腐れ縁だとばかりに、もっていたタオルをかけ、クリスはそう言った。
「えー。なんでなんでなんでー?」
 再び大騒ぎするプティ。「もっと温泉で遊ぶのー!」と、いやいやをする。
「遊ぶなら、女湯で遊んで来なさい。ここは男湯です!」
 クリスが、そんな彼女を強制的に女湯へ叩き込んだのは、言うまでもない。

●性転換の湯〜女湯編〜
 性別を帰られる湯‥‥と言う、どう見ても趣味な人しか入らないであろう温泉の女湯は、いかにもその筋大好きですっ! な、まがまがしいオーラを放つ若い女性達で、大盛況となっていた。
「あと、動物になる湯と、服の溶ける湯に入れば、全イベント制覇だ! 頑張るぞ!」
 フルーツ牛乳片手に、プリクラ交換しまくっているプティ。大きくなっても、その人懐っこさは変わらない。その為、もって行った手帳は、写真で膨れ上がる事となっていた。
「ほらほら。ちゃんと髪を乾かさないと、風邪をひくわよ」
「わかってるよー。でも、写真も撮りたいのっ」
 首から『水の中でもOK!』と銘打たれたインスタントカメラを提げ、バスタオル一枚で、声を掛け捲っている彼女。傍から見ると、迷惑な行為なのだが、16、7の高校生くらいの少女と言うのは、えてしてそう言うものだと言う認識があるのか、たいていの女性達は、快く応じていた。
「何でそんなにたくさん‥‥。プリクラで充分でしょう」
「えー、だって。こう言うのはいい思い出になるって、どっかのおば‥‥お姉さんが言ってたから。あと、せっかくこう言う所に来たんだから、交流を温め合うべきだし!」
 マグダレーナの言葉に、そう答えるプティ嬢。レーナは、「まぁ、それはそうだけど‥‥」と、仕方がない娘さんだこと‥‥と行った表情で、笑顔をやわらかくしている。と、彼女はまるで姉か母親に許可を求めるかのように、こう尋ねてきた。
「あ、そうだ! 髪乾かしたら、ゲームコーナーで、卓球してきても良い?」
「ええ。汗かいたら、また入るのよ?」
 彼女は、カメラを持って温泉宿のイベントの1つ、『その辺の人を捕まえて、温泉卓球バトル』をやりに行くつもりらしい。「はーい」と、良い子のお返事をして、とててててっと、ゲームコーナーの片隅にある卓球台に向かって、走り去って行った。

●災難の引き金
 散々卓球で遊んで、戻ってくると、そこではある女性が、道をふさいでいた。
「おねーさん、どうしたの? 早く入ろうよ」
「ああっ。そんなトコに、そんな‥‥。それは、大変な事になりますわ・・・・っ」
 後ろから、プティが『どいてよー』と、突付くが、まったく動かない。
「ふふ、可愛いですよ・・・・」
「ガーン・・・・。そんな‥‥。あたしは捨てられてしまったのでしょうか・・・・」
 それ以前に、相手は近親相姦ネタに走っている様なものなのだが、頭に血の上った彼女は、そんな事には気付いていない。
「こうなったら自棄ですわ・・・・!」
「さようなら。俺の貞操・・・・」
 ケーナズが、覚悟完了して、己の貞操を娘に捧げる事を決めたその時だった。
「マスター・レーナ!」
「えっ!?」
 洗い場に響く大声。
「こ、こっぺりあ!? 何でここに!?」
「丁度いい! 助けて〜!!」
 目を丸くする2人だが、ケーナズは現金なものである。即座に可愛い声を作って、上にのしかかっている青年から、逃げ出そうとする。
「そんなお子様を相手になどなさらないで下さい! でないと、あたし・・・・」
 涙ぐんだガビィが向いた方向。そこには、『キケン』だの『毒』だの『どくろマーク』だの、人目でやばそうだとわかる湯船。
「うわぁぁぁっ、待った! ちょっと待ったー!」
「マスターに捨てられるくらいなら、どうなろうとも・・・・」
 止めようとするレーナと、他人の振りするケーナズ。
 と。
「お姉ちゃん。早く入ってよーう。次がつっかえてるんだからさぁ」
「あ」
 プティがえいっと、少し怒った表情のまま、ガビィを押した。
 水音、悲鳴、煙。
「おおー!」
 それらが収まった時、そこには服の溶けきったガビィの姿があった。
「きゃぁぁぁっ。見ないでぇぇぇ!」
「いやー。いい物を見せてもらった。じゃ、僕は上がるから」
 複眼複眼♪ と、しらーんぷりして、ケーナズが上がろうとした刹那。
「待ちなさぁぁぁいッ」
「まだ、何か?」
 おどろおどろしい声を出すレーナ。
「あたしのコッペリアの裸見ておいて、ただで帰れるとお思い? お父様」
「な、何を言っているんだ。僕は決してケーナズじゃ・・・・」
 図星を突かれ、引きつった表情で、そう言うケーナズ。
「誰も名前言ってませんよ」
「しまったぁぁぁっ」
 自ら名乗った事を、ガビィに指摘され、頭を抱えてしまう。
「お仕置きですわーーーー!!」
「うっぎゃぁぁぁぁぁ!!」
 彼が、レーナからどんな制裁を受けたかは‥‥そりゃあもう、ここでは伏字だらけになってしまうので、まったく書けない。
「大人の世界って、恐いなー」
 上がってきたプティは、そう言うカップルの所には、絶対に行かないぞっと、心に決めるのだった。
 本日の教訓‥‥自業自得。

●動物さんのお風呂・性転換の湯
「さて、次のお風呂は・・・・」
 最後に、動物さんになる湯に入ろうと、やってきたプティは、湯船の脇で、身体を寄せ合うようにしている兎を二匹、発見する。
「あれ? ウサギさん・・・・?」
 一匹は、耳の垂れたロップイヤータイプの兎。もう一匹は、黒い身体に青い眼の兎さんだ。
「可愛いー。おいでおいでー」
 だが、そう言って追いかけるプティから、二匹の兎は、いやいやをする様に逃げ惑う。
「えー。ダメなの? 遊んでくれないの?」
 哀しそうにプティが言うと、兎は少し立ち止まり、顔を見合わせていた。
「そこで何をしているんです?」
 と、そこへシオンが入ってくる。
「えっとねぇ。お風呂に入りに来たの。そしたら、うさぎさんがいたから、一緒に遊んでもらおうと思って・・・・」
 だけど、一緒に遊んでくれないの。可愛いのになーと、子供の感想そのままで、訴えるプティ。
(キウィに似てるうさぎですね・・・・)
 片方の‥‥ロップイヤータイプをじーっと見ていたシオンに、プティはこう聞いてきた。
「そのうさぎさん、おじさんの?」
「いや、そうじゃないんですけど・・・・。懐かれてしまったようですね」
 そのロップイヤーのほうは、てててっと黒ウサギの方を離れ、シオンの腕の中へと収まってしまう。
「あー、取られちゃったね。寂しいなら、プティちゃんがいっしょに寝てあげる」
 もう一匹が、つまらなそうにしているのを見て、プティが両腕を差し出した。と、その黒ウサギは、喜んだように、彼女の腕へジャンプしてくる。
「おや、きみも気になるのかい?」
 そちらをちらちらと見るロップイヤーに、シオンがそう尋ねた。と、ウサギは言葉がわかるかのように、こくんと頷く。
「そうですか・・・・。大丈夫、心配しなくても、いじめたりはしませんから。ね?」
「うん。夜、一緒に寝るだけだよー」
 彼の言葉に、安心したのか、ロップイヤーは、再びシオンの胸に、鼻先をこすりつけるのだった。

●巫女姫な妹〜お兄様大好き〜
「お兄様♪」
「どうした」
 彩が、そんな兄貴にすりよってくる。
「正直に言ってもらって嬉しいです。答えがなんであれ、私はお兄様といっしょにいられれば、幸せですから・・・・☆」
「まぁ、たまには道具も手入れをしないと、錆びるしなー‥‥」
 あさっての方向を向きながら、そう答える兄。その光景を見ていたエルンストが、一言。
「おやおや。あてつけられてしまいましたね」
 いや。お前らそれ以前に、相手は血のつながった兄弟なんだが‥‥まぁ、世の中にはそう言う話はごろごろしているので、今更驚かないようだ。
「こう言うところは、苦手だから、僕はパースッ!」
 プティは恋人達の語らいに付き合う気はないらしい。さっさと上がってしまうのだった。

●チェックアウト〜お会計〜
「結局ここでは何もわからなかったですね‥‥」
 散々調べまわったクルスは、不満そうにそう答えている。
「楽しかったー。またこようねっ」
 プティは、遊園地を後にするときの様に、上機嫌のままだ。
「私も、お兄様とまた来たいですわ」
「あ、あははは‥‥」
 彩の隣では、その兄貴が引きつった笑みを浮かべていたり。
「ぶー‥‥」
「何か、機嫌が悪いんだが」
「しらん」
 ネイナの所は、連れの子供の機嫌の悪さに、その子を抱いた青年が、情けない表情をして居る。
「どこのご家庭もご亭主は大変ですわねー」
「マスター・レーナ。それ以前に、これ、どうしましょう」
 その様子に、レーナがほほえましく言った。と、隣でガビィが尋ねてくる。そう、たった一人、元に戻らなかったのもいたのだ。
「ぴぎゃぁぁぁぁっ」
「しばらく放っておけば元に戻りますわ。オールサイバーだから、元にも戻りにくいんでしょう」
 ケーナズである。お仕置きと幼児化の湯の相乗効果で、未だに赤ん坊状態だ。
「何か、まだ頭がボーっとする‥‥」
 黎司は、湯あたりを起こしてしまったようだ。しばらく風に当たっていれば平気だろうが、はたしてその原因は、温泉疲れだけだろうか。
「大丈夫ですか? 熱に弱いのに、無茶するからですよ」
「うん‥‥」
 もう1人、湯あたりを起こしてしまった青年が居る。シオンと共に来たキウィもそうだ。
「あたたた、腰が‥‥」
「無理するからですよ。まったく、温泉に来て、ぎっくり腰になるなんて‥‥」
 ローゼンクロイツはと言えば、年寄りの冷や水で無茶をしすぎて、ルツにさすってもらっている。
 と、そんな彼らに、旅館を代表して、礼服を着た一番血色の悪そうな従業員が、こう言った。
「アリガトウゴザイマス。ミナサマノオカゲで、貴重な生体エネルギーが手に入りましたわ」
「あ、血色が良くなった」
 見る見るうちに、その血色が良くなっていき、言葉も滑らかな発音になって行く。
「これで、しばらくは行動できます。また、何人かには招待状を渡すかもしれませんが、その時には、別の趣向を凝らしますので、楽しみに待っていてくださいましね‥‥」
 だが、ソレとともに、旅館は次第にその姿を薄くして行った。
「消えた?」
 後に残ったのは、雑草の生い茂る野原。申し訳程度に、建物の跡はあるが、温泉も従業員も、影も形もなく消えている。
「ホログラフか‥‥。実体を伴うなんて、どこの技術だよ‥‥」
 世の中には、まだ自分の知らない技術があるようだ。そう思うクルス。
 ところが。
「あれ? そういえば‥‥。ここ、戦争か何かで、一回崩壊した城の跡とか言う話を聞いた覚えが‥‥」
「「「「なにぃぃぃぃっ!!?」」」
 黎司の言葉が、一同の温泉熱を、一気に零下まで、湯冷めさせてしまったのは、言うまでもなかった‥‥。