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■味見と言うより毒見〜解決編■

深海残月
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
 そしてアンティークショップ・レンへ向かった一同は。
 …CLOSEの札が掛けられたドアに出迎えられる事となった。

「…何処行ったあの女は」
「ったくひとを勝手に実験台にしやがって」
「でもあれ美味しかったよ〜?」
「そうかあ?」
「つーか正体不明なもんが出てくる辺りが問題だって。そういうもんひとに食わせるな、って」
「なぁんか腹下した奴も居たとか居ないとか」

 文句は止め処なく続く。
 と。

「ねえねえこっちこっち〜」
「こんなものがあるよ〜?」

 のほほんと呼ぶ低い位置からの声。
 その声に呼ばれるまま一同は下を見た。
 するとドアの下に、二つ折りにされた紙切れが挟んである。
 引っこ抜いて、開いてみると。


≪草間興信所及び月刊アトラス編集部及びゴーストネットの常連さん及びあやかし荘の皆さんへ

 …アタシでも鬼は怖いのよ。
 左慈の旦那も怖いしね。

 と、言う訳であと一日ダケ待ってておくれよ。そしたらちゃんと説明するからさ☆

 byレン≫


「…何これ?」
「…と、言う訳で、って言われても意味がわからん」
味見と言うより毒見〜解決編


■そして人々は動き出す…■


「『一日待て』か…」
 改めてドアの下から引っ張り出された手紙を見、ふむ、と頷いたのは御影涼(みかげ・りょう)。
「…これにも何か理由があるのか…それともただの逃げ口上か…」
 涼は手紙の文面を眺めつつ、考える。
「どーでしょうねぇ。この文面は確かに随分と軽くも見えますが…その実、裏を読むと何か本気で切羽詰まっているようにも見えるような見えないような…」
 わざと軽く書いているようにも見えたり見えなかったり。
 涼の脇で、思いついたようにぽつりと呟く久遠樹(くおん・いつき)。
「…『アタシでも』と書く辺りが碧摩さんらしいと言いますか…」
 更にその脇で、呆れたような…何とも言い難い口調で呟いたのは綾和泉汐耶(あやいずみ・せきや)。
「それと…『左慈』って…左慈仙人の事でしょうか…三国志はじめ神仙伝やら後漢書でも出て来る…」
「…あの…『鬼』と言われて思いつくのは件の仙人の方々…と言うのは穿ち過ぎでしょうか?」
 同じく、静かに口を挟むのは漁火汀(いさりび・なぎさ)。
「…そう仮定しますと…『鬼が怖い』、と来れば…鬼姓の仙人がいつ来るかわからない場所…草間興信所に、ゴーストネットのネットカフェ、アトラス編集部…そして当のおひとりが部屋を持ってらっしゃるあやかし荘には、碧摩さんは行きそうもない…」
 …と、考えてはおかしいでしょうか?
 誰にともなく汀が問う。
 と。
「でもそーいう括りになると丁香紫も『鬼』になるよね?」
 …何か元々関係あるのかな?
 その場に居る面子を見上げ、無邪気に告げたのは海原(うなばら)みあお。
 ちなみに丁香紫と言うネットカフェによく居、あやかし荘に部屋を持っているこの仙人の名乗りは――『鬼』丁香紫。今までの経緯からして…取り敢えずは味方?のような相手。
 どうも、この件に首を突っ込んで来てはいるが、元々知っていたような様子ではない。否、そもそも丁香紫も元を辿ればネットカフェの時にどさくさで巻き込まれたのではなかったか。
 更に言うと、あやかし荘の件があった時には…丁香紫は当のあやかし荘に滞在中だった筈だ。
 そしてその時は…特に碧摩蓮は丁香紫の存在を考えてはいなかったような気がする。そこに行くだろう相手に手渡す、と言う遠回しな手段を取らず、直接自身で持ってその場に現れていた。
 つまりその時は別に避けてもいなかったような気がする。
 今になって何か避けるべき理由でも見付けたのだろうか。
「…」
 その場に集った皆の言い分を黙って聞いていたシュライン・エマは、おもむろに携帯電話を取り出した。自分の物ではなく先日、なりゆき上、今話に出ている丁香紫当人に唐突に渡された代物――人界〜仙界直通可能な宝貝らしい電話――の方。通話ボタンを押し、耳に当てる。
「――…もしもし。突然すみません。いえ、今回は例の物が持ち込まれた訳ではなくて、今蓮さんのアンティークショップ前に来ているんですが…。ええ、さすがにそろそろ我慢の限界と言うか。…気になりますからね。直に来てみたんです。蓮さん捕まえようと思って。零ちゃんに変な命令吹き込んだのも許せませんし。で、店にきたら…私たちが来るのを予想していたかのように妙な置き手紙を見付けまして…一日待てとか左慈の旦那とか鬼が怖いとか書いてあったんですが…お心当たりありませんか? ええ。…確かにこちらでも丁香紫さんたちの事か、とは察したりもしていたんですが一応違う可能性もあるかと思いまして確認に。…そもそも一日経ったら何がどうなるのかと。一日待ったおかげで摂取した人たちへの現象が悪化したらと思うと心配ですし…。…はい。…はぁ。え? …それって…。じゃ、これを調べる事もお願い出来るんですね? わかりました取り敢えずは失礼します」
 ぴ。
「…どうでした?」
 通話が終わるのを待ってから汐耶が声を掛ける。
「『一日待て』の件はよくわからないって。『鬼』の件もよくわからないけど自分たちの事である可能性は否定できないそうよ。向こうも向こうでそう名指されれば気になるから『怖い』の理由も調べてみるって言ってたわ。で、『左慈』は…やっぱり三国志の左慈で当たりみたい…」
「…そうですか…」
「で、丁香紫さん曰く件のお騒がせ人参樹の持ち主が左慈らしいのよ」
「………………はい?」
 いきなり判明?
「…但し、人界に出回っている分の実は全然把握出来てないそうよ」
 仙界内では節操無くバラ撒いてはいるそうだけど、人界に持ち出してはない筈なんだって。
 だからこそ、人界の何処かで持ち込まれたら何はともあれ連絡しろ、と言う話になっていたらしい。
「把握出来てないって…それを信じるなら蓮さんはいったい何処から…」
 その人参果もどきを入手した?
「…その辺りで…『鬼』が絡んでくるって事でしょうかね?」
 小首を傾げつつ、汀。
「じゃあ、丁香紫さんはひとまず考えの外に置くとしても…誰か他の『鬼』がその辺りに手を出してるって事はあるかしら…?」
 難しい顔で、汐耶。
「…どちらにしてもやっぱり蓮さんを見付ければ色々謎は解けそうよね」
 ――各所で見え隠れする鍵は彼女。
 言ってシュラインはもうひとつ携帯電話――今度は自分の物を取り出すと、ぴぽぱぽぱ。
 今度は何処に掛けたかと言うと碧摩蓮の携帯電話。
 が、案の定相手してくれたのは留守番電話のアナウンス。取り敢えずまた伝言――と言うか恨み言?を吹き込んでおいて、シュラインは通話を切る。
「じゃ、どうしましょうか…ちょうど人手もある事だし、手分けして捜しましょうか?」
 と。
「…ちょっと待って下さい」
 静かに制止したのは、汀。
「僕は…取り敢えずこの場が怪しいと思うのですが…灯台下暗しと言う感じで…」
 アンティークショップ内もしくはここのすぐ近所に居る可能性。
 汀のその科白に、涼も同意した。
「…それは俺も思いますね。鍵が閉まっている以上勝手に店内に入る訳にも行きませんが…周囲くらいはひとまず警戒して見て良いかもしれない」
「ではひとまず…『風』たちに…ここであった事などを聞いてみたいと思うので…少々お時間を頂きますよ?」
 静かに告げると、汀は風にでも乗るよう、すぃ、と中空に手を伸ばした。
 そして、誰にとも無く――否、『風』に向け、語り掛ける。
「…さて、この周囲をよく知る皆さん…ここで起きた事、何があったか…僕に教えて下さいね。
 どうぞ宜しくお願いします」


■■■


「………………どうもはっきりしませんね?」
 曰く、蓮が色々動いていると言うのは『風』たちにもわかるのだが、具体的に何をしていたか、まではいまいち掴み切れない。
 菓子折りを持ってうろうろしている時が計六回だか七回(その菓子折りがすべて人参果だとすると二回分程多いのは気のせいか)何も持たずに外出している事が数度。どうも人参果――と言う意味で気になる類の来訪者は来ていない様子。単純に胡散臭い骨董商のような人物が数名来ていたりもするが…特に何かを持ち込んでいる様子では無く単なる客人のようだ。
「…何処か…本拠地でも決めてじっくり腰据えて動いた方が良いかも知れませんね?」
 アトラスか何処かで会議室か何か借りれませんかね…?
 俄かに考え込む汀。
 そんな科白を聞きつつ、腕組みして考え込む涼。
「やはり足で稼ぐしかないのか…うん。それでもやるしかあるまい。レンさんが立ち寄りそうな関連各所をひととおり見て回ってみよう。…あんな面白い物をバラ撒…」
 と、やたら真面目に涼がそこまで漏らした時点で、お姉さんたちの青くて冷たい視線が約二名分。
「………………もとい、危ない人参果をバラ撒いた理由を聞かない訳には行かないしな…。このアンティークショップにも、今はその姿が見えなくともそのうち戻って来る可能性も充分考えられる…まぁ、それが手紙に書いてある『一日待て』の後なのかもしれないが」
 内心慌てつつも表面上は大真面目な顔で続ける涼。
 それで冷たい視線は取り敢えず外された。

「…じゃあ、取り敢えずは漁火さんの提案通り本拠地ひとつ作りましょう、か」
 最後、溜息混じりにシュラインが提案する。



■ひとまず草間興信所にて■


「…で、ここか」
 気のない科白を吐いたのはこの場所――草間興信所の主である草間武彦。
「…お前があんな出て行き方をした以上、そう来るだろうとは思っていたがな…シュライン」
 件の手紙をテーブルの真ん中に置いた上で、元々興信所に居た面子も話を聞いていた。
「ここならちょうど頃合でしょ。元々、探偵事務所だしね」
「…取り敢えず、何かあったら連絡頂けるよう根回しした上で、途中で別行動組に分かれたんですが…」
 当の蓮を見つけるなり、何か起きるなりしたら…誰かの携帯電話に連絡は入れるようにと番号交換した上で。
 で、まずみあおはと言うと『もしもの事(→また今まで同様別の場所にバラ撒いている)』を考えその場合一番有り得そうな神聖都学園と言い出し、場所が広いだろうと言う事で…関連各所をひととおり見て回る気だった涼もそれに同行。汀はもう少しこの近辺を見てみましょうとその場に残り、樹は自分の店の御近所に当たるあやかし荘とアトラスの方面にひとまず行ってみるとの事。
 で、一応道々御近所さんにそれとなく伺いつつ、草間興信所に来たのはシュラインと汐耶。
「…今のところ…ここの近所では特に目撃証言はないみたい。見掛けたら連絡下さいって頼んでは来たけど」
「では…そこのところは他の方に頼るしか無いですか」
 目撃証言を追うのが一番だとは思うのですがね。
 興信所で待っていた――話だけは取り敢えず元々通してある――セレスティ・カーニンガムはそう告げる。
「勿論、本腰入れてまた捜索に出ようとは思っていますけどね」
 言いながら自分の持っていた――ちょっとした紙の束を、はい、と武彦に渡すシュライン。
 思わず自然に受け取ってしまった武彦に、それを横からひょっこり覗き込む、たまたま来ていた真咲御言。
 ふたりともその紙束には見覚えがある。
 ――各所に新しい物が持ち込まれるたびしつこく作っていた人参果の資料。
「…ああ、例の」
「………………これを俺に渡したその心は?」
「武彦さんなら私たちより目敏いでしょ」
「…つまり手伝えと言う事だな」
「…嫌ならちゃんと断ってね?」
「構わんさ。碧摩には少々言っておかにゃならん事がある…」
 …零に変な事を吹き込みやがって。
 ぼそりと呟き、武彦はシュラインから受け取った今までの資料にそれとなく目を通し出す。
 どうやら武彦も、シュライン同様、零に変な命令を出した、と言う部分が気になっていたらしい。
「ああ、忘れるところでした。これも」
 それを横目に手帳を取り出すと、リフィルを一枚外して差し出す汐耶。
「ん?」
「…それって」
「草間興信所であった…シュラインさんが遭遇したのとは別の時のデータです。取れるだけ取っておきました」
「…汐耶さんその時居たのね」
「…はい。何故か最後には酒盛りしてたんですけどね。ちなみに、ラクスさんが予防線を張って下さった事もあり…特に危ない効能は出てませんでしたよ」
「は? 酒盛り?」
「あの時は…漁火さんとラクスさんもいらっしゃいまして」
 ふと部屋を見渡し、振る汐耶。
 漁火汀はここには居ないが――実はラクス・コスミオンの方はセレスティ同様、話を聞いた上で興信所で待っていたクチである。つまりここに居る。
 アンドロスフィンクスと言うその身故か、あまり人と関り合いたくない故か…とにかく、男性の居る率が高かった興信所の隅、唯一の女性である零の影に隠れつつも待っていたようなところがある。
「…は、はい。確かあの時は草間様が少々自棄気味で酒でも持って来いと…そうしたら仙人様が本当にお酒をお持ちになって…」
 ラクスの科白を聞き、ふと武彦をじーっと見るシュライン。
 何となく視線を逸らす武彦。
 …何処か気まずい。
 が、シュラインから発された科白は武彦にとっては想定外の内容だった。
「…えーと、武彦さんにはその時の記憶もあるって考えて良いのかしら?」
「…いや、あれ?」
 シュラインの指摘に混乱する武彦。
「そう言えばそうですね。今ここに居る草間さんには…二回あったと言うこの件の…どちらの記憶があるんでしょう?」
 続けるセレスティ。
「…いや、どうだったか。ちょっと待て…?」
 はたと考え込む武彦。
 言われて見ればどちらの記憶もある気がする。…だから今、武彦はシュラインから目を逸らした。そうでもなければ見られて気まずくなるべき理由がない。
 変だ。
「…ちなみに俺もいまいちはっきりしないんですが気のせいですか。…どうも、酒飲みながら汐耶さんの人参果料理を食べた時も、生の人参果を引っ掛けられて左腕が二本になった時も、両方薄らと記憶にあるんですが。但しどちらも妙にうろ覚えで現実感無いんですけれど…」
 悩む武彦を見、ふと御言も口を挟む。
「って真咲さん…」
 がく、と項垂れる汐耶。
 さりげなく流されていたが、左腕が二本になったって何。
「あの…私もそうかもしれません…人参果を使ってシュラインさんとお料理した時と綾和泉さんとお料理した時と両方あったような…」
 御言に続き、途惑いつつ、零。
「じゃあ、このうろ覚えな記憶の両方が現実にあったとすると…これ自体も効能のひとつだと考えて良い訳か? …確かコスミオンさんが…次元がズレて同じ時間帯が二度あった、と言うような事を言ってたと思うんだが…」
 この記憶は間違いないか?
 武彦がラクスに確認する。
「え、は、はい。『ラプラスの悪魔』ではそれに近い事が起きた、と出ました」
「そんな計算をしてた…よな?」
 とは言え自信は無さそうな様子。
「…それが先程私が言ったラクスさんが張って下さった予防線、の事です」
 そんな武彦の科白に続き、汐耶がその内容を補強する。
「ええ、コスミオンさんに確認して頂いてから…色々行動に出たんですよね、汐耶さんと居た時は」
 更に確認する御言。
「そうです」
 頷く汐耶。
「でももっと大人数で居た記憶もあるんですよ。人参果がここに持ち込まれた時。…その時は汐耶さんは居ませんでした」
 続ける御言。
「私もあの時はやたら大人数だった記憶があるわね。ああ、生をひとつミキサーに掛けて砕いてあったっけ」
 今度はシュライン。
「それが問題の部分のようでしたね」
 頷くセレスティ。
「料理したもの自体は問題無かったようだがな」
 ぼそりと武彦。
「………………この件については幾ら考えてもどうしようもなさそうに思えるのは気のせいですか」
 汐耶は溜息。
 人参果の効能と言う事で纏めて取り敢えず脇に置いておいて、これもやっぱり碧摩さんを捜した方が早い話じゃ?
 考え込みつつ続けると、汐耶は今度は御言を見た。
「…ところでちょっとお伺いしたいんですけど、命に関らなければ人体実験平気でやるような『鬼』の方に心当たりはありませんでしょうか…?」
 恐る恐る問い掛ける。
 手紙にあった『アタシでも鬼は怖いしね』。そちらから突付いてみる、と言う手はどうだ?
 取り敢えず常識的に話の通じそうな相手でありながら、『鬼』のひとことで括られそうな『彼ら』の事に比較的詳しいのは…様々な経緯からして、御言である気がするから。
 汐耶のその問いに、少しの沈黙の後、複雑そうな答えが返る。
「………………命に関らなければ、と仰いますが…命に関っても、必要と思えば平気でやりますよ」
「…ですか」
「ま、積極的に他者を傷付ける事は…必要が無い限りは嫌う気がするので…大丈夫だと思われますがね」
 その必要性がある…とはこの件に関しては考え難い気がしますし。
 事が事ですから。
「…性格的に一番やりそうな丁さんは今回に限っては違うみたいですしね」
 あの人が音頭取ってるにしては対応が後手後手に回り過ぎですし。…丁さんならもう少し能率的にやりますよ。
「…一番やりそうなんですか丁香紫さん」
「職人…と言うか研究者タイプですからね。だから亜種の方の実の樹の持ち主ともあっさりコンタクト取っているんじゃないですか? 元々無関係だったにしては妙に付き合い良いですし」
「ところでその…実の樹の持ち主…サジ、と仰いましたか」
「…あの…その方は…いったいどんな方なのです?」
 セレスティとラクス両方から疑問が飛ぶ。
 ああ、と思い至ったように零を除いた他の面子が顔を見合わせた。
 ふたりともそれぞれ書物や魔術に詳しい人物であっても、中国系はカバーしていないのだろうと改めて気付く。
 確かに漢字文化は慣れていないとややっこしい。
 武彦が口を開いた。
「…三国志、での曹操に関る話が特に有名だったか」
「…三国志、ああ、先日西遊記の件を聞いて少々中国文学を探していた際に見掛けましたね」
 少し考え、即座に思い至るセレスティ。
「ですがまだ拝読してはいませんでした」
「そうですか。まぁ、コスミオンさんも居る事ですし、読んでらっしゃったとしてもこの場で説明の必要はあるでしょうが」
 言いながら武彦は言葉を切る。
 と、誰からとも無く説明を始めた。
「…左慈とは、そこに出てくる不思議な人物の事です。孫権から曹操へ魏王宮落成の祝いとして柑子――つまり蜜柑を送る道中、突然現れてそれを手伝い軽々と持って行ってしまうんですよね。けれど後で曹操がその時の蜜柑を割ると中身が空。疑問に思ったところで偶然か必然か左慈が面会に来、曹操に疑問をぶつけられつつも左慈が蜜柑を割ると今度は実がぎっしり詰まっているんです」
 汐耶。
「驚いた曹操はその時左慈に宴の席を与えるんですがその時に人間離れした食いっぷりと飲みっぷりを見せたりと色々やる訳ですね。で、何故そんな事が出来ると曹操は問う訳です。すると左慈は『遁甲天書』で修行したと。で、あんたも修行したらどうかと曹操に言ってのけ、曹操は後の事はどうするんだと返したら…」
 続ける御言。
「左慈は、後の事は劉備にでも任せろと言って結局曹操の怒りをかうんですよね」
 更に汐耶。
「で、色々無理難題を押し付けられたり拷問されたりするんですけど、全部あっさりどうにかしてしまいまして左慈の方は平気な顔なんです」
 また、御言。
「で、更には命まで狙われるんだけど、それもあっさり逃げ切った上に曹操の死を予言して去ってしまう…」
 次にはシュライン。
「その後、曹操は本当に昏倒して病の床に…ってなところかしらね。三国志の場合」
 最後、汐耶が纏める。
 と、ラクスが首を傾げた。
「あまり…人参果と関係は無さそうですが」
 その科白に御言が頷く。
「仙界に関係しそう…と言う部分も、左慈が道士の端くれらしい、ってところくらいでしょうかね…いえ、ちょっと待って下さい、左慈と言えば九転丹がありました」
「それは神仙伝の方ですね。三国志で言う曹操の怒りをかった以後の話と似たような状況で各所から命を狙われまくるんですけれど、最後には霍山にこもって九転丹を作り昇仙したと…って、あ」
 汐耶も何かに気が付いたように声を上げる。
 セレスティが汐耶を見た。
「どうなさいましたか?」
「…左慈は丹薬の元祖とも言われます。煉丹術…即ち、道教錬金術の元の流れ、とも」
 確か例の挿し木で殖やしたって言う人参樹、丹薬でいじって根付かせたとか言ってませんでしたっけ?
「…確かに短絡的かとも思うんですけれど、人参樹自体、天地未だ開かれざる時より在る妙なる霊木ですから…」
 根付かせる為に丹薬を使ったと言っても、その丹薬が並みの丹薬なら幾ら何をしようと意味は無く、役立たずなのではなかろうか。
 だがその丹薬の主が、丹薬の元祖と目される人物ともなれば。
 更にそれが左慈と言うなら。
 …何か厄介な事も平気でしてそうだと思うのは穿ち過ぎな見方だろうか。
 一同はふと黙り込む。
「…まぁ、それで左慈の名が出た事は取り敢えず説明が付くかもしれん…とは言え、碧摩を探すには特に関係無さそうにも思えるが」
「うーん。…確かに、その実を持っていると言う事自体を隠してはいないみたいだし。話からすると…蓮さんの行動はわかってない可能性の方が高そうね」
「こう言った危険なものは安心の出来る管理体勢を取って頂きたいですね」
 ふぅ、と息を吐きつつ、セレスティ。
「まったく同感ね。…ま、ひとまずは…丁香紫さんの言を信じれば、持ち主から蓮さんへと流されているルートが問題、か。一応調べてくれるとは言っていたけど…蓮さんを捜した方が早そうでもあるのよね」
「確かに。一番手が届きそうなのは碧摩さんですし、彼女がやってる事の傍迷惑さがそもそも一番の問題ですから」
「で、私は…取り敢えずもう一度確り近くを探してから――高峰さんのところに行ってみようと思うのだけれど」
「私も…高峰心霊学研究所辺りは…可能性としてどうかと思ったところです」
 シュラインと汐耶は、同じ事でも考えていたのか小さく頷き合う。
 そしてシュラインは、次に零を見た。
「…えぇと、零ちゃんもお手伝いしてくれるかしら?」
 零の顔を窺いつつ、シュラインは言う。
「嫌だったらちゃんと言ってね?」
 誰かさんみたいに命令する気はないからね。
 シュラインの言葉に、零は少し考えてから――こくりと頷いた。
 と。
 あの、と弱々しい声がラクスから飛んできた。
「少々探索術を掛けてみたのですが…いえ、人参果は一度検証しておりますから探し出せるかと思いまして…あの、それでも高峰様の研究所が示されました」
 蓮様の手紙の文面と今までの事から考えて…一日分の実験をなさるのかと――つまり正確な検証が可能なそこではないか、とは元々思ってはいたのですが…。
「…高峰心霊学研究所…ちなみに私の占いでもそこが出ましたが?」
 いつの間にやらカードをテーブル上に広げた状態で、セレスティまでもそう告げた。


■■■


 そしてやってきたのは高峰心霊学研究所。
 どうも滅多に来る気になれない場所でもある。
 興味だけはあるが…何となく、来難い。
 
「…どうやら、薄闇を覗きに来た訳では無さそうね」
 研究所に辿り着くなり、扉の方から勝手に開いた。
 そして、その隙間からすぅっと滑るように現れたのは高峰沙耶。
 まるで…彼らが来訪する事がわかっていたかのような態度で。
「いらっしゃい。…久し振りに騒がしくなるわね」
 腕に抱かれた黒猫が、主の目の代わりとでも言いたげに、来訪者をじーっと見詰めている。
「えー、とあまり騒がせるつもりはないんですけれど」
「それでも、人々の薄闇での記録を覗く…以外の理由でここに来る人は多くは無いわ」
「実は…私たち、蓮さんを捜しているんです」
「アンティークショップの主を?」
「はい。で…」
 人参果のバラ撒き騒ぎの事を簡単に説明し、研究所の主に蓮捜索の許可を求める。
 と、構わないわ、と静かな答えが帰ってきた。
 その言葉に甘え、研究所に来た一行は手分けして動き出す。
 研究所の中は広い。そしてわからない場所も多い。
「この扉…開けても構いません、か?」
 恐る恐る、ラクス。
「ええ、何が出るかは保証し切れないけれど」
 そんな彼女に対する主の返答は不穏極まりない。
 が、それは別にラクスに限った事では無く、他の面子に対してもそんな調子。――で、そんな怪しい扉の奥も何度か捜索。
 居ない。
「微かな埃の感じからこちらには居る気配も無さそうに思えますが…」
 そろそろと車椅子を転がしつつ、見回っているセレスティ。
「確かに。…ただあれがどうにも引っ掛かる」
 はぁ、と武彦は溜息を吐く。
 それは――主のデスクの上にあった件の人参果同様の菓子折り箱。中身も確り入っていて食うにしろ実験にしろ誰も何も手を付けていない様子。ちなみに見た目は今までの資料のどれとも当て嵌らない気がする。そもそも『赤ん坊の形』と言う大前提からして今回ばかりは間違っていると思うのは気のせいか。…それは、成分や内面的な部分が違っているか同じかは調べないとわからないだろうが。
 即ち、そんな見覚えのある菓子折り箱がある以上、少なくとも蓮は一度はここに来ている。
 涼曰く、神聖都学園でも人参果の菓子折りがひとつ確認、そして碧摩蓮の姿が目撃されていたそうだ。まだ涼自身で見つけてはいないとの事だが。…同時進行。となれば神聖都とここの研究所、そのどちらかにまだ居ると言う可能性は否定出来ない。
 が。
 蓮さんがまだここに居ると言う事はありますか、と各人あの手この手で主に問うと、何やら色々と迂遠に誤魔化され…妙に要領を得ない。…確かに主、高峰沙耶はいつもそんな感じだが…今回はどうにも、怪しい気もする。
 静かに歩きつつ、そーっと各所を覗いて見ているラクス。
 あまり動き回る事はせず、再び占ってみているセレスティ。
 ついでなのでふたりで捜しに動いている汐耶と御言。
 そして抜群のチームワークで動いているシュラインに武彦に零の…草間さんちの御一家。
 やがて密かな声が届いた。
「…ちょっと待って、聞き覚えのある音がする」
 シュライン率いる草間さんちチームである。
 零ちゃん、とシュラインは彼女を呼び、頷き合うと再び動き出した。
 とある一室。
 シュラインはゆっくり扉を開けた。
「蓮さん、居るわよね?」
 足を踏み入れる。
 中へ入る。
 ここもまた書棚が置いてある部屋。『記録』の一部か。
 シュラインが気付いたのは、部屋の奥からの微かな息遣い。
 それが蓮のものだったように思えたのだ。
 一列目に入る。
 棚を回り込み、二列目へ入る――入ろうとする、その直前、一瞬の死角になるだろう時に。
 赤い影が部屋から走り出た。
 が、
 その赤い影を遮るように、さっ、と小柄な影が動く。
 零。
 動きが止められた赤い影――チャイナドレスの上に羽織られた赤いコートの主は…捜し人。
「…見つかっちゃったわね?」
 くすくす笑う声と共に聞こえたのは研究所の主の声。
「…やっぱり高峰さんのところに来るのは間違いだったかねぇ」
 あーあ、とでも言いたげに、残念そうではありながらも潔く口を開いたのは捜し人、碧摩蓮。
「…やっぱり」
 部屋の中から溜息混じりに漏らしたのはシュライン。
「…この手のもので嬉々としそうなところはここかなあと思っていたら…」
 同様に、ひょっこりと顔を覗かせる、汐耶。
「ふふ、手に入り難いもの程、気にはなるものよ」
 霊的に反応する果物なんて言ったらね。心霊学を掲げている者としては無視が出来ないわ。
 研究所の主は何処と無く楽しそうな雰囲気である。
「あーあ、バレちゃったか」
 ぼやきつつ、疲れたように蓮は髪を掻き上げる。
 そして一同に改めて目を遣った。

 …碧摩蓮、確保。



■静かに笑う謎の貴婦人■


 暫し後。
 他の場所を捜していた面子も高峰心霊学研究所に到着していた。
「あー、本当にレンだー!! ねえねえ、ひょっとして別の人参果とか、もっとあるー? あるなら今度はレンに作ってもらいたーい!!!」
 みあおはお持ち帰り用らしいタッパーから何か箸で抓みつつもぐもぐと食べている。
 ――神聖都学園で遭遇し、結局誰かに作らせたと思しき人参果料理のようだ。
 唐突に、あ、と気付きみあおは蓋を開けたタッパーを皆の前に差し出す。
「ごめんねー、ひとりで食べてて☆ みんなも食べるー?」
「…遠慮するわ」
 げっそりとシュライン。
「あ、貰って良い?」
 これ幸いとばかりに涼。
「…私は…どうしましょうか?」
 苦笑しつつ、セレスティ。
「うーん…僕も…迷いますね…」
 首を傾げ、汀。
「いーよ涼。あげるー、ちょっとだけお裾分けー。ってセレスに汀、迷ってるとその間にみあおが食べちゃうよー?」
 と、言いながらも言葉通りにもぐもぐ。
 曰く、神聖都学園高等部の家庭科室にて件の料理を食べている最中に碧摩蓮発見、確保の報が入り、慌てて御土産用よりも余分に持って来ていた(…)空のタッパーに詰めて持ってきたとの話。
 みあおとしては食べられればそれで満足らしいのだが、蓮がこれをバラ撒いていた事情の方も御土産話用に知りたいとの事。なので、来た。抜け目無く神聖都での人参果料理の方も確保しつつ。
「素材が生きてて美味しいよー☆ ところで…ねえねえ、レンさ、最高に料理してくれる人材捜してたとかじゃない訳なのー?」
「…あー、本当に食べてたんだ銀髪のお嬢ちゃん」
「それはどう言う意味かしら」
「どうしても嫌だったら棄ててもらっても構わなかったから☆」
「…それが何処でどう間違ったら絶対食え、と変な命令を出す事になるのかしら?」
「だって建前があったんだよ。この実を手放すまであの鬼の爺さんに見張られてるようなもんだったからさー。唯一逃れられたのってここだけなんだよね実は」
 停止。
 今何と言った。
 その場に居る一部――シュライン・エマ、草間武彦、綾和泉汐耶、真咲御言――が瞬間的に凍り付いた後、蓮を見る。
「…『鬼の爺さん』って」
「…まさかとは思いますが、ひょっとして油烟墨の事ですか」
 ぼそりと具体名を口に出したのは御言。
「あら知ってンのかい? だったらアタシの気持ちも少しくらいはわかっちゃ貰えないかねぇ」
 意外そうな顔で呟き、苦笑する蓮。
 要領を得ない知らない面子は、訳知り風の四人を見遣る。
「誰ですか?」
「…油烟墨ってのはあの鬼の名を持つ仙人の中でも各段に迷惑な奴だ」
「あまり人界に来てらっしゃらない方ですか?」
 聞き覚えがないんですけれど。
 小首を傾げ汀が問う。
「…以前俺が、ちょっとした不興をかった…らしい、時が一度あってな…果てしなく妙な嫌がらせをされた事がある…いや、一日中『野馬台詩』が頭の中で唱えられっぱなしだったんだがな…」
「…なんですかそれ」
「よくわからん」
 苦々しそうに武彦が頭を振る。
「…とにかくその名が出た時点で物凄く嫌な予感がする程、良い思い出はないと言う事だ」
「アタシも似たようなモンなのよ。ある日突然店にあの小っさい爺さんが現れたかと思ったらいきなり菓子折り箱に詰めた人参果持って来て全部食えって迫って来るし。で、そんなの無茶だよって言ったらだったら知り合いのところでも何処にでも持って行って食わせて全部始末して来い、って殆ど脅しだよ。無視したら店の品に付いている因縁をすべて厄介な方向に捻じ曲げてやる、とか淡々と言い聞かせられるし。こいつは実際やる、ってわかっちまったからもう訳がわからないながらも怖くてね。元々ロクな因縁持ってない品物に妙な形で手を出されるのははっきり言って怖いだけじゃなく困るし。だから取り敢えずやらざるを得なくってさぁ」
 アンタたちみたいな…この手の騒ぎにゃ慣れてる面子に頼ったワケさ。
 何とかしてくれるっかなぁって思ってね。
 …そうでもなかったらこんなワケのわからないモン他人様に任せるなんて危なっかしい真似出来ないよ。
 零ちゃんに言っちゃったのはちょっとした言葉のあや、さ。
 と、蓮のその科白の直後、唐突にシュラインからぴーぴーぴーと聞き慣れない電子音が。
「?」
 疑問に思いつつシュラインは音の源を探す。と、どうやら件の宝貝電話。
 着信しているらしい。
 そしてこちらの電話で繋がる相手は取り敢えずひとりだけ――丁香紫。
 ぴ。
「――…もしもし。はい。………………………………そうですか。はい。どうやらその通りみたいです。蓮さん曰くその御老人から、食えもしくはバラ撒けと恐喝もどきの態度で人参果を渡されていたと言う話で。…そうですか。でしたらその横流しルートはばっさり断てますね? …烏角先生が怒髪天突いてるからそこのところは問題なさげ? だったら構わないんですが…今後は管理は確りしてやって下さいと人界一同を代表して伝言をお願いします。はい。ああ、そうですか、だったら安心です。では」
 ぴ。
「うわ、それひょっとして仙界直通可?」
 思わず声を上げる蓮。
「…らしいけど」
 あげないわよ。って言うか丁香紫さんに返さないとだし。
 即座に返すシュラインの科白に、ちぇ、残念、と苦笑する蓮。
 ちっとも悪びれていない。
「御多分の予想通り今の相手は丁香紫さんね。で、向こうでも調べたらちょうど油烟墨の名前が出て来たみたい。あ、ちなみに烏角先生って左慈の事だから。道号…つまり別名のひとつ。人参果の人界への流出の犯人が判明したからそこ完全にシャットアウトするって決めたそうよ。それから人界で洒落にならない効果が出てそうな奴は責任持って治すから連れて来い、とも言ってるらしいわ。今回の人参果の亜種の流出は結局自分の監督不行き届きだから、って事で。
 …となると、今ここにあるそれで人界に来ている人参果の亜種は打ち止め…って考えても良いのかしらね?」
 無造作に主の机の上に置いてあった、開いた包み――それはそろそろ見慣れた件のお騒がせ菓子折り――を指し示し、シュライン。
 と、汐耶がげっそりとした顔を見せた。
 みあおにセレスティと涼は興味深そうに中身を覗き込んでいる。
 上半身はちんくしゃで、下半身…と言うか足の生えているべきところがあろう事か魚の形をしている。
「…ところでこの人参果の亜種、何処ぞの寺だか何処かで保存されている人魚のミイラを彷彿とさせる形と思うのは気のせいですか…?」
 やがて口を開いたのは汐耶。
「人魚…ですか」
 少々複雑そうな顔をするセレスティ。
「つまり日本の人魚、と? そう言う事ですか?」
「ってもみあおのお姉さんとも全然違うよー?」
 む? と首を傾げ、頭上に疑問符を浮かべるみあお。…それでもやっぱり写真はぱしゃぱしゃ撮ってはいるが。
 そこに宥めるよう御言が口を挟んだ。
「…いわゆるマーメイドでイメージされる人魚とは別ですよ。で、その汐耶さんが仰った保存されている物の方は、猿と魚を組み合わせた偽物とも言われたりもしますが…確かに赤ん坊らしい見た目とも…言えば言えますね…取り敢えず、八百比丘尼とか…聞き覚えありますか?」
「…今度はそっちに行きます?」
 苦笑する汐耶。
「…何ですかそれは?」
 再び聞き覚えの無い話を振られ、興味深そうに問い返すセレスティ。
「人魚の肉を食べて不老不死になったと言う尼僧の話です」
「不老不死ですか?」
「そんな伝説がありまして」
「…それは本来の人参果とも効能が近いのかもしれませんね?」
 簡単ながらも問いの答えを聞いたセレスティは、ふむ、と頷く。
 と、黙って成り行きを聞いていた樹が一歩前に出た。
「また随分と興味深い形ですね…。宜しければその…最後のものは私に頂けませんかね? 良い薬の材料にもなりそうですし☆」
 爽やかな笑顔のまま、ふと提案する樹。
「やだー、みあおが食べるー!!! なんだか既に赤ん坊でも無い気がするけどまぁ良いや、だって結局元のところはバラ撒かれてた人参果と同じ物なんでしょー? 美味しく料理してよー、レンー!!!」
 樹に待ったを掛ける駄々っ子のように元気なみあお。
「…あの、蓮様、ラクスは…いえ、ラクスはその人参果の亜種らしいそれを食べる気はまったく無いのですが、宜しければ東洋魔術を学んでみたいとも思っておりまして…何処か適した場所は御存知ありませんでしょうか? 仙界は無理にしても、蓮様は…色々適した場所を御存知のように思えるのですが…」
 左慈様のお使いになられると言う道教錬金術――煉丹術と言うその話も興味深いですし。何とか伝手を付ける事は…。
「そうですね…私は…欲しい初版本があるんですけど、無料で探して頂こうかしら? 迷惑料として」
 考え込みつつ、ついでのように汐耶。
「あああああッ、ちょっと待っとくれよ皆ッ」
 一度に言われても困るって。
「…待てって…そう言えばそろそろ一日経つかと思われますがそこのところはどうなんでしょうかね?」
 ふと指摘する涼。
 ――確か置き手紙には一日待てと。
「それは単なる言葉のあやだって…」
「…ちょっと言葉のあやが多過ぎないかしら? 蓮さん?」
 更に冷たく指摘するシュライン。
「あー、わかったよ。零ちゃんの件に関してはごめんって。ホントに。不覚ながらも零ちゃんが元・霊鬼兵だって事まで考えてる余裕が無いくらいパニクっちゃってた、ってところもあってね…。強いて言うなら一日待ての理由はそれくらいでコレ全部手放して店に戻れるかなって適当ながらも時間計ってただけのハナシなの。今回同時に二種類持って来られちゃったからさ…。取り敢えず神聖都とここ…高峰さんトコに持ってきたワケなのよ」
 神聖都は広いから離れた学部にでも両方置いてくれば良いかなとも思ったんだけど、高峰さんにも世話になってるからね。興味あるかなと思ってさ…。
「でもソレを読まれたのかねぇ。随分あっさりバレちゃった、か…」
 言いながら、ちら、と一同を見遣る。
 冷ややかな視線と期待に満ちた視線と興味津々と言った視線がそれぞれ返された。
 蓮は心底困ったように顔を手で覆って溜息を吐いている。
「あー、どうしよ…」
「…いい気味よ。まったくもう」
「一応、碧摩さんも被害者だったって事ではあるのですかね?」
「それにしたってもっとやりようはあるでしょうよ。知り合いのところにバラ撒くならそれなりに」
 蓮の様子を眺め、誰からとも無く、はぁ、と溜息。
 が、そんな大多数の後ろでひとり楽しそうに…静かに笑っている人物が居る。
「前にも色々とあったらしいけど…今日のこれもまた『記録』になるのかしらね。…ふふ、楽しみにしているわ」
 にっこり。
 ある意味身も蓋もない高峰沙耶の科白。

 ………………結局、それで良いんですか。


【終】



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/職業

 ■1415/海原・みあお(うなばら・-)
 女/13歳/小学生

 ■0086/シュライン・エマ
 女/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

 ■1998/漁火・汀(いさりび・なぎさ)
 男/285歳/画家、風使い、武芸者

 ■1883/セレスティ・カーニンガム
 男/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い

 ■1449/綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)
 女/23歳/都立図書館司書

 ■1576/久遠・樹(くおん・いつき)
 男/22歳/薬師

 ■1963/ラクス・コスミオン
 女/240歳/スフィンクス

 ■1831/御影・涼(みかげ・りょう)
 男/19歳/大学生兼探偵助手?

 ※表記は発注の順番になってます

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 ※以下、公式外のNPC

 ■真咲・御言(しんざき・みこと)
 男/32歳/バー『暁闇』のバーテンダー兼用心棒、昼間は基本的に暇人・元IO2捜査官

 ■鬼・丁香紫(くい・てぃんしぁんつー)
 無/664歳/職人・研究者気質な仙人で油烟墨の兄貴分でもあったり。外見は十代前半。通称・丁。

 ■鬼・油烟墨(くい・ゆーいぇんもー)
 男/606歳/仙人。左慈とは旧知。外見は老人。草間興信所調査依頼『詠唱』で諸悪の根源やってました。

 ■左慈
 男/?歳/仙人。挿し木で根付いた人参樹亜種の持ち主。特に煉丹術師でもある。

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■         ライター通信          ■
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 とにかく遅くなりました…。
 これ、なんだかんだと半年近く引っ張っているので(汗)せめて年内に終わらせようと思ってしまい…ああ十一月逃がしたところで止めておけば良いのに…師走に入って暫くしてから結局募ってしまいました。
 いろいろとお忙しいだろうところに申し訳ありません…。
 しかも結局年内納品に至らず…(滅)
 …あけましておめでとうございます(遠)
 昨年度はお世話になりました。どうぞ今年も宜しくお願い致します。

 改めまして深海残月です。
 …押し迫った時期でありながら御参加下さり有難う御座いました。
 予告が狂ってすみません…。
 どーも自分が信用できないので次からは時期は予告しないで常に不意打ちで動く事にします(おい?)

 と言う訳で各調査機関&あやかし荘+解決編と言う形になっている…と言っている間にあやかし荘やらアンティークショップ・レンにも調査依頼が出来、神聖都学園と言う完全に新しい舞台が増え…と、リニューアルにより状況が多少変わって来た事に伴い、ちょっとばかり前にも増して風呂敷が広がってしまいました(遠)「味見と言うより毒見」シリーズの「解決編」をお届けします。
 とは言え前振り編は以前まで通り、草間興信所・月刊アトラス編集部・ゴーストネットOFF・あやかし荘…の四つ以外に増やしたりはしておりません。今まで通りになっております。
 また、今回、色々分かれて動く事になると思います、と書いておきながら結局普段の依頼系とあまり変わらなかったですね(苦笑)。前振り編のように全面的に共通、ではないと言うだけで、それ以上はいつも通りでした。

 ちなみに何故人参樹亜種の持ち主が左慈だったかと言うと、煉丹術(道教錬金術)の元祖と目されている部分もある人物らしかったからです。
 それだけが理由なら魏伯陽やら葛洪とでも出した方が自然だったかもしれませんが…人参樹本家の鎮元大仙の方も比較的大物なので、分けてもらった方も…一応、礼儀的にその道の元祖らしい方を出すべきかと思い(さすがに神農まで遡る度胸はありませんでしたが…/汗)
 更に、左慈は各所で語られる内容的にも、一歩間違うと悪役系トリックスターっぽい悪戯な辺りが…手前のNPCと絡ませるにも良いかと思い…(結局趣味の話になるようです/笑)
 左慈を選んだのはそれだけの理由でした。

 そして今シリーズでは…東京怪談公式NPC内に於ける二大謎の人物(?)な碧摩蓮と高峰沙耶のイメージをいきなりぶち壊したかのような気もしております(汗)
 取り敢えずその点も謝罪をば。

 どうにも引っ張った価値があったか謎な話になっている気もしますが…いえ、初めっから何とも付き難い謎な話ではありましたが…取り敢えず最後はこんな形になりました(…そもそも解決してるんだろうか←マテ)
 少なくとも対価分は楽しんで頂ければ幸いです。
 それから…最近多くなっている気もしますが…個別のライター通信はまた省略の方向でお願いします…。プレイング内に色々書いて下さる方もいらっしゃるのに毎度マトモな返事してなくてすみません(特にシュライン様とセレスティ様/汗)
 なんぞありましたら、テラコンの方(FLもしくはPC登録済NPCへの交流M)からでもお気軽にばんばん言ってやって下さい。そちらでは必ず返信致しますから…。とは言えそちらでもやたら時期外れになりがちですが…(滅)

 では、また機会がありましたらその時は…。

 深海残月 拝