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■赤褌のサンタクロース■

遠野藍子
【2152】【丈峯・楓香】【高校生】
 今日も平和な白王社月刊アトラス編集部。
 いつもの事ながら、ボツをくらった三下が泣きながら必死に原稿の書きなおしをしている。
 そんな姿を横目に、編集長碇麗香はかかってきた電話を取った。
「はい、アトラス編集部―――って、なんだ」
 電話をかけてきたのは巷で噂の怪奇探偵草間武彦だった。
「え、今から? えぇ、別に構わないけど当然おいしいネタ持参で来るんでしょうね? えぇ、判ったわ。じゃ」
 草間はもうすぐこちらに来ると言う。
 自分が呼び出す事があっても、彼が呼び出しもしないのに自ら出向いてくるのは珍しい。
 一体、彼が持ってくるというのはどう言うネタなのだろう―――そんな事を考えながら麗香は窓の外の景色に目をやった。

 時間を遡る事約1時間前。
 草間興信所に1人の女性が訪れていた。
「で、今回はどういった御用件で?」
 草間はそうにこやかに目の前の女性に向かって問い掛けた。
 彼女は非常に困惑した表情をしている。
「おかしいんです」
「おかしい?」
「えぇ。あ、私、保育士をしているんですけれど……最近生徒達が―――」
 季節柄彼女の勤める保育園でも子供達が熱心に色々書いている。それは、欲しいプレゼントの絵だったりサンタクロースへの手紙であったり。
 そして彼女は気付いたのだ、ある子供達が――そう、全ての子供たちがと言うわけではないのだが――描いたサンタクロースの絵が“普通ではない”と言う事に。
「普通ではない?」
「普通じゃないんです」
 どこが普通ではないのか彼女は戸惑いながら説明した。
 そして、草間は後悔した。
 後悔というよりもむしろ恨んだ。
 彼女を、ではない。彼女をここに行かせる事になった“何か”を。
 依頼者が帰った後に、草間は苦虫を噛み潰したような顔をしながらアトラス編集部へ電話をかけた。
「あー、オレだ。オレ。今からちょっとそっちに行こうと思ってるんだが。―――あぁ、うってつけのネタがウチに来たんだよ」
 話はついて、草間は、
「ちょっとアトラスまで行ってくる」
と零に告げて興信所を出て行った。


「あー、うちに来た依頼なんだがな……アレを着たサンタクロースが一部に現れるらしいんだ」


 そう、草間興信所に今回きた依頼はその後こう呼ばれる事になる。
 “赤い褌のサンタクロース事件”と―――

赤褌のサンタクロース


 参考物件として依頼人が置いていった子供達が描いた奇妙珍妙な格好をしたサンタクロースの絵。
「……」
 とても色んな意味で草間興信所に白い空気が流れていた。
「……ええと、寒そうよね……」
と、その絵を1度見たっきり目をそらし、やや遠い目でシュライン・エマ(しゅらいん・えま)はそう言った。
 そう言ったというか、そうとしか言えなかったというか……寄りによってなんでそんな依頼が来るのか……。
 まぁ、考えるだけ無駄だろう。そこが草間武彦が怪奇探偵などと言われる所以でありそこで事務員をしている限り、シュラインも逃れられないのだから。
 それでも、直視したくない依頼はあるわけだ。今回のように。
「本物のサンタさんなんて凄いよね! 見て見て、この前やっと私もカメラ付きケータイに買い換えたんだ♪ なにか激写して送りたかったんだけどなかなか良いもの見つからなくって。でもサンタさんならバッチリだよね季節的に」
 運が良ければプレゼント貰えるかなぁ、と女子高生丈峯楓香(たけみね・ふうか)はまだ傷ひとつついていないピカピカの携帯電話を見せてくる。
 花も恥らうハズのお年頃の女子高生のメール交換に相応しい写真となるかどうか、かなり疑問が残るところだが、本人が撮りたいというのならそれも良いだろう……多分。
 真名神慶悟(まながみ・けいご)はそんな楓香をみて、
『赤い褌のサンタ……とは、タダのヘンタイなのでは……』
とはとても口に出せずに―――というか“褌”という言葉自体を口にすると過去諸々のアレにもたらされたさまざまな不幸不運災難などなど、口に出したくもない諸々の思い出が走馬灯のように頭の中を駆け巡りやはりシュライン同様どこか遠い目をしている。
「まぁ、子供達が揃って絵に描いているという事は……別に害をなしたというわけでもなさそうだし」
 今回は、今回こそは過去に一寸あった褌の霊とかそんな類とは違い、きっと個人的な趣味嗜好であって他人に強制したり人様の意識を乗っ取ってみたり、そんな悪質なアレではないだろう、ないはずだ、きっと!
……多分!
……そうに違いない!
―――と慶悟は自分にそう言い聞かせた。というか、そう思わなければもうすぐその場から走って去りたい衝動に打ち勝てなかったと言った方が正しいのだが。
 アレに関してはもう、自分で自分のみを護るしかない。
 四面楚歌、信じられるのは己だけなのだ。
 もう、ここまで人間不信を極めれば、立派にトラウマと言って差し支えないだろう。
「そうね、別段サンタに格好を止めさせたいとかいうわけではなく、存在を確認して生徒が変でないという証明が取れれば良いんだろうって武彦さんも言ってたことだし……」
 そう言いつつも、シュラインも出来れば直視せずに謎のままにしたい気持ちでいっぱいな様子で溜息を吐く。
「サンタに見えるって事は、ヒゲと帽子はつけてるのかしら?」
 目の前の子供達の絵を見る限り、はっきりいってあまり想像したくない。
 もっとはっきりいうなら全く全然想像したくはないのだが、頭の中にサンタ帽に真っ白いヒゲをたくわえたちょっと小太りなサンタクロースの赤い褌姿が描かれている。
 否応無しにリアルに想像してしまった。
 これで遠い目をしなくていつ遠い目をするというのだ。
 シュラインと慶悟は、なんだかすっぱいものが胸のあたりからこみ上げるような切ない気持ちになった。
「はいはーい」
 そういって楓香が両手を上げる。
「褌を締めてるとか言ってたけど、多分、これはあたしの予想なんだけど、ズボンが濡れたとかで脱いで乾かしてたところを子供に見られちゃったとか」
「それがなんで下着がアレだったんだ?」
「えぇと、それは、ズボンが濡れたからパンツも濡れちゃったわけで……褌を近所の人に借りてはいてた……とか? だってそのまま歩いてたら警察に捕まっちゃうし、子供に夢を与える人がお尻出して歩いたりしてないでしょ!……きっと」
 自分で言いつつも、なんだか苦しい理論だなぁと思ったのか楓香の説明もしどろもどろになる。
 借りたはいいが、それが無断拝借だったりした日には露出狂の上に下着ドロだろう。そうなっては良い子の味方のサンタにヘンタイの烙印がべったりと押されてしまうことになる。
「ここはサンタさんの名誉の為にも頑張らないと、ね!」
 そう言って意気込む楓香が同意を求めて振り向いたのだが……そこにはそれぞれ現実との戦いに以上にテンションを低くしているシュラインと慶悟の姿があった。
 少なくともサンタの名誉など2人にとってはどうでもよいようだ。
 シュラインとしてはここで逃走するのは簡単だが、サンタの名誉よりも草間興信所の信用のために覚悟を決める事にした。


■■■■■


 褌サンタを見たという子供達が通っている保育園に向かった3人はそこで声を掛けられて振り向いた。
 すると、そこには、
「なんだ、お前達も来てたのかー」
 動物並みの視力でいち早く3人を見付けたらしい鬼頭郡司(きとう・ぐんじ)、その後ろから現れた海原みあお(うなばら・みあお)がいた。
 2人の……特にみあおの姿を見て慶悟はさらにギョッとした顔をした。
「やっぱり出たな……」
 こんな意地悪をされるような事を何かしましたか神様―――彼がそう呟いたとしても広い心と生暖かい目で見守ってあげて下さい。
 嫌な感じのデジャヴにしばし硬直した慶悟だったが、その後に現れたのが村上涼(むらかみ・りょう)であった為、幾分か……そう、ほんの少しだけ胸を撫で下ろしている。
「聞いたわよー、赤ふんサンタの話し」
「えぇ、よりによってなんでこんな話がウチに来るんだか―――ともあれ引き受けた以上は探さないとなのよねぇ」
 シュラインはそういって溜息をついた。
「ところで、貴方達は見つけてどうするつもりなの?」
「はーい、みあおはねぇ、そのサンタクロースさんが本物だったらサインと記念写真お願いするんだ♪」
と首から下げたデジタルカメラと色紙、マジックの3点セットを見せる。
「絶対俺らのが赤フン似合うってことをバッチリ見せつけてやんねぇと!この勝負ぜってぇ引かねぇかんな!」
 僕は違いますよぉ―――という三下の意見はどうやら全く郡司の耳には入っていないらしい。
「で、涼は?」
「探してどうするかって決まってんでしょ。サンタは良い子にプレゼントくれるんでしょ? この際衣装はどうでも良いのよ。今年も精錬潔白清く正しく美しく生活していた良い子の私に職運という名のプレゼント貰うに決まってるじゃない!」
 これで就職戦争にピリオドを打つのよ!と、涼は意気込んでいる。
 どこまで本気なのかと問い掛ける事を許さない気迫であった。
「で? お兄ちゃんはなんでそんな顔してるの?」
 みあおは自分と決して目をあわせようとしない慶悟を見たが、さっと、視線を左に反らされる。
 左に回りこむと右に、右に回りこむと左に、身長差を活かして下に回りこむととうとう上を向かれてしまった。
「うわぁ、大人げないな〜」
「それだけの事をしただろうが!」
 アレの調査の時にはカメラをもった幼女には注意―――過去の数々の経験を考えると同情して余りあるのだが、如何せん場所が悪かった。
 保育園児で溢れかえる場所で子供相手に怒る成人男子。
「うわぁぁぁん――――」
 背後から何人もの子供の泣き声が上がる。
 あからさまにシュラインと涼にあからさまに白い目を向けられた。
「……すまん」
「大丈夫、こんな時はあたしに任せて♪」
 申し訳なさそうな慶悟を見て、楓香がフォローしようと思ったのが更にまずかった。
「子供が好きなものって言うとぉ……えい!」
 そう言って楓香は子供が好きそうなお菓子の家やメリーゴーランド、メルヘンちっくな遊園地を思い浮かべて子供たちの精神に投影させた―――
「わぁぁぁん、ママぁ〜〜〜パパぁ〜〜〜〜」
 お世辞にも巧いとは言い難い楓香のお菓子の家はお化け屋敷に、メリーゴーランドの白馬は白い河馬が追いかけてくる為に子供たちの泣き声は更に響き渡る。
「ひぃぃぃ―――」
 三下は子供と一緒に怯えていた。
 そして、その一方で、
「うわぁ、おもしろーい」
「すっげーすっげー。なぁ、あの白い河馬狩っていいのか? なぁ、なぁって」
喜んでいたのは、郡司とみあおの2人だった―――
「あんた達が喜んでどうするのよ!」
 涼の雷が落ちたのは言うまでもない。


 数分後、みあおはカバンの中のお菓子を振りまき、慶悟の式神の中でも子供受けしそうな式神を厳選して無理矢理子供相手に愛想を振り撒かせ、なんとか子供たちを宥めすかしてようやく話しを聞ける状態になった。―――ちなみに、慶悟の式神たちは子供に弄られまくりどんな敵を相手にした時よりも疲労困憊ボロボロになっていたが。
「で、この中で褌のサンタクさんの話し知ってる子は手ぇ、挙げてー」
 楓香がそう言うと、子供たちが何人も手を挙げた。
「その話ってどこで聞いたの?」
 みあおは歳が近いせいかみあおは全く警戒心なく子供たちに溶け込んでいる。
「なんだよ、ショーガクセーのクセにそんなこともしらないのかよー」
 ガキ大将っぽい男の子が得意げにそう言う。
 教えて?と、みあおが言うと、その男の子は頬を赤らめる。
「去年はアイツらの家に来たんだ。オレの家にも来たんだぞ」
 そう言って何人かの子供を指差した。
「サンタに何か言われなかったか? 例えば…ズボンを探している、とか?」
 慶悟は子供の目線に合わせてしゃがんでそう聞いたが子供たちは首を横に振る。
「サンタさんなにもいってなかったよ」
「ボクねててね、それでね、ガタンてきこえてめがさめたんだ、そしたらボクのベットのあたまのところにサンタさんがプレゼントおいてくれててね、それでねそれでね」
「アタシはことしこそサンタの正体をみてやろうと思って寝たふりしてずっと起きてたの、そしたらサンタが来たんだけどねズボンはいてなかったからきゃーって言ったらあわてて帰っちゃった。失礼よね、レディの部屋にそんな服装で来るなんて」
 ませた女の子は話しに割り込んでそう言った。
 だんだん、時間が経つにつれ話しが反れていき騒がしくなってくる。
「ねーねー、おばさんたちなんでそんなこときくの―?」
「あー、わかったー、オトナなのにサンタさんからプレゼントもらおうとしてるんだろう!」
「えぇ、オトナなのにサンタクロースなんてしんじてるのかよー」
 ついにはサンタクロースは居るのか居ないのかと言う騒ぎにまで発展する。
「えぇい、もう、こんなとこで良いでしょ。次、親のとこ行きましょう」
 きゃーきゃーぎゃーぎゃーという、子供特有の奇声やら嬌声に耐えられなくなったのか、涼がそう促したが、すっかり輪になった状態で子供地獄から抜け出る事は容易ではなさそうだ。
 そこで涼は、
「郡司ー、今よ!」
と、話には参加せずに輪の外で子供を担いだり振り回したりと体力勝負な遊びをしていた郡司に合図を出した。
 すると、いつの間に用意したのか褌サンタの扮装をした三下が現れた。
「ほーら、あそこに褌サンタが!!」
 涼の叫び声に、いっせいに子供たちが三下の元へ駆けて行き輪が崩れた。
 その隙に、すっかり囲まれていた面々は保育園を後にした。
「次は親ね」
 背後から三下の悲鳴が聞こえたが、全くそんなことを気にせずに一行は次なる情報収集の現場へ向かった。

 数分後、今度はお迎え前の母親たちが集まっている団地内の公園で聞き込みをした。
「ふんどし姿のサンタクロースでしょう? えぇ、ウチの子がお友達に聞いたって話してたけど、ねぇ。勿論、ウチの子は普通に描いてるわよ」
「子供って言うのは想像力が豊かだから時々突拍子もない事思いつくのよ。あなた達もそのうち子供を持てば判ると思うけど」
「あら、でもやっぱりそれって親御さんの教育が―――」
「ほら、あそこの旦那さん変わった趣味があったりして」
「やぁだ、奥さんったら」
「でもほら、あの旦那さんみたいなタイプの人に限って―――」
「…………」
 世の中の奥様たちと言うのはそんなに噂話に飢えているのか、ちょっと話しを向けるだけで喋る事喋る事。その勢いに、ついて行くには相当の気力を要する。
 涼は草々に奥様方のお相手を放棄した。
 まぁ、そこらへんはシュラインと、妙に奥様方に受けがイイ様子の慶悟にまかせておけば良いだろう、と。
 多分、どう考えても慶悟はホストと間違えられてるんだろうなぁなどと思いつつ、涼はその光景を眺めていた。


■■■■■


 窓の明かりが次々と消え出す時間、クリスマスイブ当日深夜、そんな時間に哀しいかな寒空の下、一同は集結していた。
 調査の結果、どうも褌サンタが現れたのは去年だけというわけではないようだった。そして、1番子供たちからの目撃証言が多かったのがここら辺では1番のマンモス団地内であった。
「真っ赤な褌のサンタクロース♪ 赤い布切れなびかせて〜♪」
 みあおの歌声が公園内に響く。
「でも、今回捕まえるて意味じゃ楽よねー」
 団地の各棟の屋上には慶悟の式神が配置されている。
「本物のサンタなら隠遁は得意だろうからな。ヘタに俺たちが張るよりはな」
とは慶悟の台詞だった。
「後は待つだけ……となれば、やっぱりここは宴会でしょう!」
 そう言って涼は徐に酒を取り出した。最近酒に逃げがちだということはこの場合禁句である。
 どうやら示し合わせてきたようで涼、シュライン、楓香、みあおが次々と酒だとかツマミだとかお菓子だとかどうやって今まで隠していたんだと問い掛けたくなるほど大量にレジャーシートの上に広げていく。
「酒〜〜〜! 食い物〜〜〜!」
 なぁ、肉は肉は?―――と、自分は何一つもってきていないにもかかわらず案の定郡司の食いつきは非常に良かった。
 一応みあおと楓香の2人はノンアルコール、その他はアルコールで深夜の団地内公園でクリスマスの名を借りた宴会がひそやかにはじまった。。
 とりあえず、酔っ払う前に褌サンタの出現を祈るばかりである。ご近所の人々の平和の為にも。


 宴もたけなわ―――あらかた飲み食いした草木も眠る丑三つ時に、獲物は御用になった。
 そう、あまりにもあっさりと。


「……」
「………」
「…………」
 慶悟の式神が見事しょっ引いて来たのは確かに間違いなく、トナカイの引くソリに乗り、赤い帽子を被り白いヒゲをたくわえ、赤いコートを着て……そして何故か赤い褌をしたサンタクロースだった。
「―――失礼ですけど、えぇと、本物のサンタクロースさんですか?」
 正面切って楓香が尋ねると、サンタクロースははっきりしっかりと首を縦に振った。
「……やっぱり、サンタなのね」
 すっかりアルコールを摂取した涼たちはあまりにもそのままの姿のため夢ならば覚めて欲しいと想ったが、どうも夢ではないようだ。
 とりあえず、捕縛を解かれたサンタに、
「えぇと、なんでサンタさんなのに赤い褌なの? ズボンは?」
みあおは早速デジカメを向けながら問い掛ける。
「実は……」
 赤ふんサンタが語るところによると、最近はサンタの世界も人手不足となっており彼はオーストラリア〜日本担当のサンタクロースだという。
 今、日本は真冬だが、南半球にあるオーストラリアは真夏だ。
 オーストラリアから日本に来る為にこんな格好だという。
「というわけで薄着だと、そう言いたいわけだな?」
「イエ〜ス」
「都合のいい時だけ外人ぶるな……」
 とてつもなく脱力したように慶悟がサンタに向かってそう言った。
 しかし、その答えは全く全然これっぽっちも褌姿の理由にはなっていない。
 だいたい、コートを持ってくるのならちゃんとズボンももって来いと、ここは声を大にして言いたい。
「そっか、サンタさんも忘れ物多いんだぁ、あたしもよくその日提出の課題とか忘れちゃうもん、仕方ないよね」
 うんうんと、楓香は頷いている。
「でもね、楓香ちゃんの場合はついうっかりなんだろうけど、サンタさんの場合は……」
 ズボンを忘れる―――それって痴呆の初期なのではとはとてもじゃないが口には出せず、
「……寒そうよね……」
コートからのびているあまり見たくないサンタクロースのナマ足を見てしまいシュラインは遠い目をした。
 なぜ褌なのか、とてもそれはもうとても興味があるが知らないほうがいいということも世の中にはある。
「とりあえず、存在を確認出来たという事で―――写真良いですか?」
 シュラインはとりあえず、依頼人に見せるため―――というか、依頼人はいると判ればそれでいいと言っていただけで証拠を見たいとは一言もいっていなかったが―――手持ちのデジカメで写真とサンタの全身をなめてとった動画をデジカメに残した。
 出来れば決して安くはなかったこのデジカメは、もっとこう色んな意味で“良い使い方”をしたかったと思いながら。
「その褌はどこで入手したのよ? 一体」
 とりあえずそれだけは聞いておかねばなるまい、もっともな疑問の確信をついた涼に、
「日本のサンタクロースはプレゼントを配るだけだけれども、本来サンタクロースにはお菓子などの歓迎の品を置いておくものなんだよ」
 珍しくも、とある家に入ったときにこの赤い褌がおいてあったのだという。
 それは単に畳んで置いてあっただけの洗濯物ではないのでしょうか?とは誰も言えなかった。
 勘違いから派生したことかもしれないが、立派な下着ドロだ。
 どうやらやっぱり、そんなオチだったらしい。


■エピローグ■


 褌姿のサンタに、楓香は苦悩していた。
 さすがに、そのコートから伸びている生足を見てしまっては写真にとってメールで送るというのは……
―――引かれちゃうよね……
 お年頃の女の子に送るようなモノではないだろうと、実物を目の前にして初めて気付いたらしい。
 しかし、悩んでいる楓香をよそに、赤褌をはいているとはいえ、腐ってもサンタクロースはサンタクロース。順番にそこにいた面々にもプレゼントを渡していた。
「はい、お嬢さんにはこれかな」
といって、楓香に木製の小さなトランクケースのようなものをくれた。
「あー、油絵のセットだ。嬉しい! ありがとうサンタさん」
 サンタクロースがくれたのは油絵のセットだった。
「あ、そうか!」

 翌日、楓香が友人に送ったメールに添付されていたのは楓香とサンタクロースのツーショット。
 ただし、それはバストアップであった。
 その写真のサンタの下半身があんな状態だということに彼女の友達が気付くはずもなかった。


Fin


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

【0381 / 村上・涼 / 女 / 22歳 / 大学生】

【1415 / 海原・みあお / 女 / 13歳 / 小学生】

【0389 / 真名神・慶悟 / 男 / 20歳 / 陰陽師】

【2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15歳 / 高校生】

【1838 / 鬼頭・郡司 / 男 / 15歳 / 高校生・雷鬼】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、遠野藍子です。
 この度は御参加頂きありがとうございました。
すっかりクリスマスも過ぎてしまい申し訳ありませんでした。
 せっかくなのでクリスマスネタがやりたくてトモダチになんかネタないか相談したところ結局浮かんできたのがこんなネタだったのですが。
 こんなお馬鹿なネタ被るわけないだろうと思っていたのですが―――いや、被りはしなかったんですが先日朝、出掛けに某局の朝のワイドショーを見ていたらニューヨークでサンタ帽にビキニパンツの男性達のパレードなるものを取り上げていました……。
 さすが人種の坩堝アメリカ―――感心する前に呆然としてしまいました。
 あまり朝から見たくなかったなぁ、あんな光景。思い出すだけで遠い目になります。
 なんだか一寸切ない気分と同時に敗北感を味わいました。
 某PC様ではありませんが、自分で考えておきながらそんなサンタがいきなり家に居たら変質者ですよね。まず110番通報だよなぁと思いましたよ。えぇ。ワタクシ常識人ですから。ちなみにこんなネタ考えたヤツが常識人!?とかいうブーイングはしちゃいやです。
 ほら、だって実際にそんな格好でパレードやってる人達だって居るわけだし。意外とワールドワイドなネタだったんだなぁ、きっと。>支離滅裂
 ちなみに、そのパレードの映像ではビキニパンツは赤の他に青をはいている人も居ました。

 何はともあれ、とりあえず少しは参加者の方々の期待に応えられていたら良いなぁと思う次第です。
 では、また機会があればよろしくお願いします。