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■人形博物館へようこそ!■

日向葵
【3275】【オットー・ストーム】【異世界の戦士】
 東京某所にあるアンティークドール博物館――かつては個人所有だったものをそのまま人形博物館として使っているそこは、雰囲気たっぷりの白い洋館で周囲のレンガ塀には蔦が覆っていて、昼に見れば綺麗だけど夜はちょっと恐いかも……。

 一見すればただの博物館。けれど、実はここには十人の動くお人形さんが住んでいます。
 普段はきちんと展示物のお人形さんをやっている彼女たちだけれど、実はみんな退屈しているのです。
 もちろん、下手に騒ぎを起こして幽霊だのなんだの言われたくはないですから、退屈でも我慢してじっとしてます。
 ときどき、夜中に抜け出したりもしてますけれど。

 でも……もし、妖怪だとか幽霊だとかを信じていて怖がらない人が目の前に現れたら。
 そうしてその人が話しかけてくれたら。
 お人形さんはきっと返事をかえしてくれるでしょう。
 だって、一日中ずぅっと喋らないでじっとしてるのって、結構大変なんですよ?
人形博物館へようこそ!〜侵入者の災難

 草木も眠る丑三つ時。人気のない人形博物館に、女の子たちの軽やかな話し声が響き始める。
 毎夜の日課となったお喋りの最中に、いつもと違う気配を一つ見つけて。少女たちは何故かきゃいきゃいと楽しげに盛り上がり始めた。
「今日はだぁれも正体してないよね」
「招かれざる客ってやつ?」
 くすくすと笑みが零れる。
 そして彼女は部屋から出ていった。
 ……真夜中のお客様を歓迎するために……。

■ □ ■ □

 こそこそこそこそ。
 人の気配のない暗闇を、オットー・ストームは抜き足差し足で歩いていた。
 この人形博物館には価値の高いアンティークドールが置かれていると聞いたオットーは、金目のものを盗むべく侵入してきたのだ。
 夜は無人なうえ、セキリュティと言えば扉と窓の鍵くらいであるこの屋敷に忍びこむのはたいして難しいことではなかった。
「……金庫はどこロボ?」
 入場料金を取っているからにはお金を保管している場所があるはず。価値あるアンティークドールは確かに高く売れるだろうが、現金が手に入るならばその方が良い。
 それに暗闇の中で人形を見るのは……できればちょっと遠慮したかった。
 ガチャリ。
 スタッフルームと名のついた扉を開けた――その瞬間。
 ヒュルルルル〜〜〜〜……ポテッ。
「……!?」
 何かが上から降ってきて、オットーの頭の上に落ちた。
「ロボ?」
 声をあげるのはかろうじて我慢しつつ、自分の頭に手をやってみる。
 それに触れようとした直前、
「こーんばーんわ〜」
 響いたのは可愛らしい少女の声。
 ……しかし、周囲を見てみてもそれらしき人影はどこにもない。そもそも、こんな時間にこんなところに少女がいるのもおかしい。
 と、すると。
 今喋ったのは頭の上の何か。声の位置からしても間違いないだろう。
 だがこんな小さな人間などいるわけがない。いやそれ以前にここはこの時間は無人であるはず。
 しばし黙考ののち。
「ロボ〜〜〜っ!?」
 現状を理解したオットーは悲鳴をあげた。
 実はオットー、かなりの怖がりであったのだ。
 この博物館の噂を知る者ならば、そんな彼がよくもまあこんなところにと思うだろうが、不幸にも彼はこの博物館にまつわる噂を知らなかった。
 曰く。この人形博物館の人形は、夜中になると動き出すらしい―― 一般人には噂の域を出ないたんなる怪談話も同然のものだが、その手の人々にはれっきとした事実として有名なことだったりもする。
 ダッシュで走るオットーの頭の上で、少女らしき声はきゃらきゃらと楽しげに笑っている。
 逃げても逃げても遠ざからない声に、オットーはもうパニック寸前の状態にまで陥っていた。
「おもしろーいっv ジェットコースターみたいっ。もっと走れ〜〜っ!」
「のっ、呪われるロボ〜〜〜〜っ!?」
 少女の言葉はどこから聞いても人を呪うような様子ではないのだが、今のオットーにそんな冷静な判断はできなかった。
 つかず離れれずついてくる声を聞きつつ、たいして広くもない館内を右へ左へと駆けぬける。
 となれば。
「なんの騒ぎ?」
「あれ、キャルの声じゃない?」
 自分の部屋から出てきて廊下の様子を窺う人形たちも出てくるのは当たり前のことで。
「……睡眠不足は美容の大敵なのよ」
 一際不機嫌な声を出したのは他の人形たちにくらべると少々大人っぽい雰囲気を持つ女性の人形――グラディスである。
「ちょっと貴方」
 ふわりと宙を舞ってロボの目の前に浮かぶグラディス。
 オットーは空飛ぶ人形を目にした瞬間、
 ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッッッ!!!!
 完全にパニック状態に陥って、咄嗟に銃を乱射する。
「あっ! ちょっと酷いっ、そこ私の部屋のドアなのにっ。誰が片付けると思ってるのよっ!」
 部屋のドアどころか廊下に床に天井にとあちこちに穴が開きまくっている状態で、自分の部屋の心配だけする彼女――ミュリエルもなかなかに良い根性をしている。
 空を飛ぶなんて特技を持っていないミュリエルは、銃を撃つ拍子に立ち止まったオットーの足から伝って肩へと身軽に飛び移った。
「やほーっ♪」
 今だ銃の乱射を続けているオットーをはっきりきっぱり無視して頭の上からひょいと明るく顔を出したのはキャロラインだ。
「キャルぅっ。そこにいたなら止めてよお」
 ぷくっと頬を膨らませるミュリエルに、キャロラインはにこにこと楽しげな笑みを崩さない。
「むーりー。それよりねえ、この人すっごい面白いよ」
「人……? どっからどう見ても人じゃあないと思うんだけど。でも中に人が入ってる可能性も充分あるわよね、だって泥棒するのに顔バレたら困っちゃうし。にしてはなんかこの程度で固まるのもどうかと思うけど。泥棒だったらもうちょっと根性ないと」
 ミュリエルは拗ねたような声で、早口に言う。
 しかしオットーの耳にはミュリエルの声はまったく届いていなかった。
 弾切れを起こした銃を抱えたままの姿勢で、オットーは完全に固まってしまっていたのだ。
「ねえちょっと聞いてる?」
「…………」
 いつまでも反応のないオットーに痺れを切らしたのか、ミュリエルはつんつんとオットーの顔をつつく。
「…………」
 ここでようやっと、オットーが我を取り戻した。
 しかしまだまだ体は硬く、まるで油のささっていない蝶番のような動きでギギっと真横のミュリエルを見る。
「……人形、ロボ……」
「うんっ」
 ミュリエルは笑顔で頷いて見せる。しかしその表情はにっこりというよりはニンマリという表現がぴたりとはまりそうなもので。
 明るい陽の下で見れば悪戯っぽい可愛い表情に見えたかもしれない。
 だがすでに恐怖というフィルターをつけてしまっているオットーの目には、それはまるで悪魔の微笑みのように映ったのだ。
 ……普通、人形は喋らない。
 ついでに、動いて喋る人形となるとたいがいの怪談話では怖い物として描かれている。
 そんな先入観と恐怖のフィルター。二つ合わせた状態で、怖がりの者が本物の動く人形など目の当たりにすれば、反応は大方決まりきっている。
 その中でもオットーの反応はなかなか派手というか、ここまで怖がる人はなかなかいないだろうという反応だった。

 くらり。
 バタンっ!

「あ」
「倒れた」
 あまりの怖さに、オットーはその場に気絶したのであった。

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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

3275|オットー・ストーム|男|5|異世界の戦士

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         ライター通信          
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 初めまして、こんにちわ。
 今回はお人形さんへの発注、どうもありがとうございました。
 ギャグ傾向ということでお人形さんたちには思いっきり暴れてもらいました。
 怖がりのオットーさんにはとっても恐怖の一夜だったと思われますが……いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんでいただければ幸いです。
 それでは、またお会いする機会がありましたら、その時はどうぞよろしくお願いします。