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■花唄流るる■

草摩一護
【0322】【高遠・弓弦】【高校生】
【花唄流るる】

 あなたはどのような音色を聴きたいのかしら?

 あなたはどのような花をみたいですか?

 この物語はあなたが聴きたいと望む音色を…

 物語をあなたが紡ぐ物語です・・・。

 さあ、あなたが望む音色の物語を一緒に歌いましょう。



 **ライターより**

 綾瀬・まあや、白さん(もれなくスノードロップの花の妖精付き)のNPCとの読みたい物語をプレイングにお書きくださいませ。^^

『花唄流るる  ― four―leaf clover ― 』


 きーんこーんかーんこーん♪ 
 きーんこーんかーんこーん♪♪♪
 授業と授業の合間。
 10分という短い放課の終わり。3時間目の始まり。そのチャイムの余韻にあわせて聞こえてきそうなのは生徒たちのため息の唄。ふぅー♪
 窓際の前から3番目。皆が羨む特等席。そこが高遠弓弦の席。その席に座る弓弦は頬杖ついて窓からさわさわと風に揺れる木々の枝の動きを楽しそうに眺めている。それはまるで踊っているよう。
 授業開始のチャイムが鳴っても教室の雰囲気はやっぱりざわざわとして。そんな教室を満たす音色は華やかな少女たちのおしゃべりの声。
 弓弦は小鳥が囀る歌のようなそれを音色に窓の外の風景を楽しそうに眺めている。
 ほんの少し開けた窓のスペースから入り込んでくる風になびく髪に首筋をくすぐられるのがひどくこそばゆい。弓弦はくすりと微笑みながら髪を掻きあげる。大好きな白兄様と同じ色の髪。さらさらと手の平から零れて。
 奏でられていたおしゃべりの唄がぴしゃっと止んだのはがらっと教室の扉が開いたから。エンジェルタイム。天使が通り過ぎる瞬間に起こる沈黙とは別。通り過ぎるのではなくって入ってくる。天使じゃなくって教師。憂鬱な授業の始まり始まり。ふぅー♪
 頬杖ついて運動場を眺めていた視線を弓弦は開いた教室の前の扉に向ける。そして彼女はちょこんと小首を傾げた。教室に入ってきた教師が何やらアルバムを持っているのが不思議だったから。
 これから始まるのは三番目に辛い4時間目(ちなみに一番はお昼を食べ終わった後の5時間目で、二番目は1時間目)。今日のそのコマは神学の授業。
 神学の時間とアルバムとどう関係するのだろう?
 さらりと揺れた銀色の前髪を左手の人差し指で掻きあげながら赤い瞳をわずかに細めて考えるけど弓弦にはちっともその繋がりがわからない。
 ふぅーと吐いたため息で前髪がひらりと額の上で踊る。
 結論、授業を受ければわかるじゃない。
「うん♪」
 明快な答えを出した弓弦は嬉しそうに頷いた。
「起立、礼、着席」
 クラス委員長の娘が綺麗な声で歌うように言う。彼女はこの学校の合唱部に所属していて、一番の歌姫。だから本来なら学生にとっては気だるいはずのこの彼女が担当する授業の始まりの挨拶はだけど弓弦は嫌いじゃない。
 と、言ってもその彼女の声の余韻を感じながら席に座り、だけど教師が第一声をあげるとあーぁ、授業かぁ…とげんなりとしてしまうのだけどぉ・・・。
(ごめんなさい、主よ)
 ぺこりと心の中で学生の本分である授業を嫌う事を主に懺悔する。
「それでは今日の神学は少し趣向を変えてクローバーについてやります。えーと、今日は12日だから、高遠さん」
(………えっーとぉ、出席番号12番じゃないんだけど………な)
 苦笑を浮かべながら弓弦が席から立ち上がると、神学の教師はにこりと笑って、
「高遠さんはクローバーと聞いて何を連想しますか?」
「あ、えっと、トランプとか、あとは結婚式、それと幸運の四つ葉のクローバーです」
 結婚式、という言葉を弓弦が自然に口に出すとその教師は何か微笑ましそうなモノでも見るかのように瞳をわずかに細めて、そして弓弦に頷いた。
「そうね。結婚式では教会の前に出てきた新郎新婦にバラの花と一緒にクローバーを投げますね。では、高遠さん。どうしてクローバーを一緒に投げるかわかりますか?」
「えっと、クローバーの花言葉が『約束』で永遠の絆を象徴しているからです」
「そうですね。座っていいわよ」
「はい」
 弓弦が席に座るのを待ってそれを確認してから教師は、教卓の上に乗せておいたアルバムを手にとって、一ページ目を開いた。そしてそれを両手で高くあげてラウンドガールのように彼女は教室にいる生徒全員に均等に見えるようにしてやる。そこに貼ってあるのは写真ではなく押し花にされたいくつかのクローバー。
「ここに貼ってあるのは全部クローバーです。三つ葉のクローバーから七つ葉のクローバーまで」
 そして教師はそのアルバムを開いたまま窓際前列の生徒の机の上に置き、見たら後ろの生徒に回すようにと指示をして、説明を始める。
「それじゃあ、まずは三つ葉のクローバーから説明しましょうか。ヨーロッパでは、三つ葉のクローバーはキリストの三位一体を、そして四つ葉のクローバーは十字架を表し、幸運をもたらすと言われています。それでそのアルバムにも貼ってある五つ葉のクローバーは金銭上の幸運を、六つ葉は地位・名声を手に入れる幸運を、七つ葉は九死に一生を得るという最大の幸運を意味しているのですね。ちなみにそのアルバムに貼ってあるクローバーは先生の私物のはずなのですが、今のところ先生はただのしがない一教師であったりします。くぅ」
 三流の喜劇役者のように大仰に肩をすくめてそう言う教師にどっと笑う皆。口元に軽く握った拳をあててくすくすと笑う弓弦にアルバムがまわってくる。
「はい、弓弦ちゃん」
「ありがとう」
 なるほどそこには本当に色んな数の葉のクローバーがある。それを見ながら弓弦は面白いな、と想って顔を綻ばせる。
「それでは皆さんもきっと探した事のあるであろう四つ葉のクローバーについてもう少しお話ししましょうか。ヨーロッパでは先ほども説明したように四つ葉のクローバーは十字架を表していますし、また中夏節…ミッドサマーデー 6月24日、またはその前夜に積んだ四つ葉のクローバーは魔除けのお守りになると信じられている地方もあります。ちなみにアメリカでは四つ葉のクローバー4枚の葉はそれぞれ名声Fame、富Wealth、満ち足りた愛情Faithful Lover、素晴らしい健康Glorious Healthを表し、4枚そろった葉は、真実の愛True Loveを表しています。また4Hという考え方もあり、希望hope、幸福happiness、愛情heart、健康healthを表しているのですね。それで・・・」
 弓弦はにこにこと笑いながら教師の説明を聞いている。しっかりと記憶する。自分が大好きな白兄様にこれと同じ説明をする光景を想像しながら。きっと白兄様は喜んでくれるだろうな。
「くすぅ。楽しみ♪」
 弓弦は小さな体を喜びに震わせて微笑んだ。


 ――――――――――――――――――――


 学校からの帰り道。ちょっと寄り道。回り道。
 メモ帳には白兄様が教えてくれたスケジュールが書かれている。この時間の白兄様はお得意さんでありお友達のお爺さんのお家。
 前に弓弦も白兄様についてそこの家に行って、庭の木の根元に腐葉土をかけたり盆栽の松に栄養剤をあげたりと色々とお手伝いをしてすっかりとそこの木々や盆栽たち、そしてお爺さんと仲良しだから訪ねて行くのも気が楽だし、ちゃんとその家の場所も覚えているから迷わずに行ける。
 ふんふんふんと鼻歌を歌いながらその家に到着した弓弦はチャイムを鳴らす。ぴんぽーん♪
「こんにちは」
 でもチャイムの向こうからは何の反応も無くって。あれ?
 ちょこんと小首を傾げる。
「お庭の方、かな?」
 さらりと揺れた髪を耳の後ろに流しながら弓弦は垣根に囲まれた方を見た。
 とことこと庭の方にまわってぴょこんと背伸びをしてほんの少しだけ弓弦よりも背の低い垣根の上から庭を覗く。
 そこにいたのは何やら盆栽などの土に差す栄養剤を両腕で抱えもってひらひらと踊りながら飛ぶスノードロップの花の妖精。だけどいるのはそのスノードロップだけ。白兄様とお爺さんは見当たらない。あれ?
「白兄様はどうしたのかしら?」
 一端かかとをつけて休憩。
 もう一度背伸びをして・・・と、一端俯かせた顔をあげたら視線の先にあったのは小さな妖精がにへらーと笑った顔。
「きゃぁ」
 思わず驚いた声をあげると、かわいいどんぐり眼からだぁーっと滝の涙。
「ひ、ひどいでし、弓弦さん・・・」
「わ、わ、ごめんね、スノードロップちゃん。飴、あげるから許して」
 苺の絵が描かれた包み紙で包まれた小さなイチゴ味の飴を、小さく砕いてあげると、泣いていたカラスがもう笑ってそれを美味しそうに食べるスノードロップ。
 弓弦はくすりと笑ってしまう。
 垣根の上にコロンをほんの一滴零したいい香りのするハンカチを綺麗に折りたたんで乗せてやり、それの上にスノードロップを座らせてやる。彼女は正座しながら飴玉の欠片を美味しそうに舐め、弓弦もスノードロップに勧められて一緒に残りの欠片を舐めている。
「美味しいでしね」
「そうだね」
「ご馳走様でした」
「どういたしまして」
 お互いにこりと笑いあって、それで弓弦は訊いた。
「えっと、白兄様は?」
「白さんはお爺さんのお見舞いに行ったでし♪ わたしはここでお留守番で、みんなのお世話をしていたんでしよ♪♪♪」
「お爺さんのお見舞い?」
 ちょこんと小首を傾げた弓弦にスノードロップはこくりと頷いた。
「そうでし。5日前に入院したそうで、さっき来た時に丁度奥様に聞いて、それで白さんは奥様と一緒に行ったんでし♪」
 弓弦は口元に手をあてて、そうか、と庭の木々や盆栽たちに赤い瞳を向けた。それでなんとなく庭の木々や盆栽たちも元気が無さそうに見えるのであろうか?
「心配だよね」
 そうみんなに語りかける。さわっと吹いた風に木々や盆栽たちが揺れて、それはまるでそう言った弓弦に木々や盆栽たちが『はい。心配です』と答えたかのようであった。
 弓弦はこくりと頷いて、
「スノードロップちゃん。そこの病院わかる?」
 にこにこと笑っているスノードロップにそう訊いた。


 ――――――――――――――――――――


 こんこんと病室の扉をノック。
「はい」
 ノックして6秒後に中から返事。
 扉を開けて、その隙間からちょこんと顔を覗かせた弓弦はそこにお爺さんの顔を見つけると小さく微笑んで頭を下げた。
「こんにちは、お爺さん。スノードロップちゃんに聞いてお見舞いに来ました」
「おお、弓弦ちゃん。こんにちは。よく来てくれたねー」
「失礼します」
 一端家に帰って、制服から私服に着替えて、それから近くのフラワーショップで花束を買ってきた弓弦。
 その彼女の手に持つ花束を見て、だけどお爺さんは残念そうな顔をした。
「ああ、しまった。ごめんね、弓弦ちゃん。この部屋に花瓶は無いんじゃよ」
 だけど弓弦は心配しないでくださいとお爺さんに微笑んだ。
 ナースステーションでカッターナイフを借りてきて、お爺さんと一緒に飲んで空にしたペットボトルを綺麗に水で洗うと、それをよくハンカチで拭いて、そして器用にそれを借りてきたカッターナイフで上部と下部に切り離して、下部を、花束を包んでいた包装紙で綺麗に飾り付けして、それに花束を活けてみせた。
 とても綺麗にかわいらしく出来た即席の花瓶にお爺さんは大変喜んで、作者の弓弦ははにかんだ笑みを浮かべた。
 そうしていると、別室でお爺さんの今後の治療に関して聞いていた白兄様と奥さん、それに担当医が病室に入ってきて、回診とその後にちょっとした説明をするという事であったので弓弦と白兄様は手を振るお爺さんと奥さんに頭を下げて、
「お爺さん、お大事にしてくださいね。また来ますね」
「おお、弓弦ちゃん。また来ておくれ」
「ありがとうね。弓弦さん」
「いえ。それでは失礼します」
「失礼します」
 病室を後にした。
 ちょこんと白兄様の隣に並んで歩く弓弦。ちらりと見ると白兄様は何やら試案顔。
「あの、白兄様。お爺さんのご容態、どうなんですか?」
 ちょっと不安そうな声(そして泣きそうな声)でそう訊いた弓弦に、白兄様はふわりと優しく包み込むように微笑んでくれる。
「大丈夫ですよ。手術をすれば心配無いそうです。その手術も簡単なモノだそうで」
「そう、ですか・・・」
 だけどそう言う弓弦は元気が無い。彼女はアルビノで小さい頃から虚弱体質だった。だから人一倍健康には気を遣っているし、それに人の事とは言えやはり誰かが病気なのは心が深く沈んでしまう。知っているから…とてもよく。病気の時の苦しみや不安を。
 しゅんとしてしまった弓弦に白兄様はだけど優しい兄の微笑みを浮かべながらぽんぽんと自分と同じ彼女の銀色の髪を撫でた。
「弓弦さん。まだお時間は大丈夫ですか?」
「え、あ、はい。大丈夫ですけど?」
 何やら楽しそうににこりと笑う白兄様に弓弦はちょこんと小首を傾げる。
「それでは四つ葉のクローバーを探しに行きませんか?」
「四つ葉のクローバー、ですか、白兄様?」
「はい。四つ葉のクローバーです。お爺さんのために」
 右手の人差し指立ててそう言った白兄様にもう一度、弓弦は言葉を繰り返して、
「四つ葉のクローバー。四つ葉のクローバー。四つバーのクローバ!!! 素晴らしい健康Glorious Healthに健康health。はい」
 嬉しそうに頷いた。
 自分が誰かのために何かができる、それはとても嬉しく、そして幸せなこと。弓弦は胸の前で両手を合わせてもう一度、大好きな白兄様に頷いた。
「はい。白兄様。幸せの四つ葉のクローバー探し、私もお手伝いします」
「はい、お願いします」
 そう言って頷く白兄様。
 弓弦にはわかっている。白兄様は弓弦のためにクローバー探しに誘ってくれた事を。こんな風にとても優しくしてくれて、そしてとても心に温かいから弓弦は白兄様が大好きなのだ。
「ところで弓弦さん。先ほどの素晴らしい健康Glorious Healthに健康healthとは?」
「えっとですねー・・・」
 そしてとても仲の良い兄妹は並んで野原に向いながら、クローバーについての事をおしゃべりしあった。


 ――――――――――――――――――――



 広い野原。大きな野原。一面の緑の絨毯。さあ、探そう、幸せの四つ葉のクローバー♪



「さあ、では探しましょうか、弓弦さん」
「はい、白兄様♪」
 満面の笑みを浮かべて弓弦は長い髪を後ろで一つに縛り、服の袖もまくった。良し、探すぞ♪
 両手の拳を握り締めて意気込む弓弦に白兄様も優しく穏やかに微笑む。



 緑の絨毯。
 ふわふわの絨毯。
 風に揺れて奏でる波のような音色。
 小船が揺れるように草の上の流れる木の葉っぱ。
 その葉っぱの船の行き先を優しく照らす灯台のような小さな蒲公英。
 ひらひらとその草の絨毯の上を飛んでいく黄色の蝶。
 一生懸命に草の絨毯を手で掻きわけて泳ぐように四葉のクローバーを探し回る弓弦の鼻の頭の上にひらりと蝶がとまる。
「・・・」
 弓弦は動けない。さあ、大変。動けば蝶がびっくりとしてしまうから。
 だけど・・・・
 ひどく鼻の頭がくすぐったい。
「はくしゅん♪」
 がまんしきれずにかわいいくしゃみをひとつ。
 ひらりと青い空に向って飛びだった蝶に、驚かせてごめんねと謝る弓弦。
 そんな妹を見て、くすりと笑う白兄様。
「あ、笑うなんてひどいです」
 ぷぅーっと頬を膨らませる弓弦に白兄様はだけどまた深く優しく微笑む。そんなかわいらしい妹に微笑ましそうに。
 もうどうすればいいのかわからないじゃない。
 ずるいな、と想う一方でだけどもうそれ以上は怒った表情をできなくって、くすくすと笑う弓弦。
 兄と妹、くすくすと笑いあう。
 そしたら今度は優しく穏やかに微笑んでいた白兄様の鼻の頭の上に蝶が止まって、さあ、大変。
 弓弦が見ている先で、
 白兄様もはくしゅん。
 それがまるでどこまでも仲の良い兄妹の印のようで、弓弦も白兄様もくすくすと笑いあった。


 探しているのは四つ葉のクローバー。
 幸せの印。
 ちょこんと草を分けて見た弓弦が固まる。
 そこにはミミズがこんにちは♪
「きゃぁ」
 ミミズが怖くって悲鳴をあげた弓弦。その悲鳴を聞いて飛んできた白兄様によってミミズはさようなら。ほっと一安心。浮かんだ冷や汗を拳で拭いたら、弓弦から遠く離れた場所にミミズを逃がした白兄様がまたくすくすと笑う。
 なんだろう? だけど弓弦にはわからない。
 ちょこんと小首を傾げて、弓弦は背負っていた鞄の小さなポケットに入れていた小さな鏡を取り出して、自分の顔を映してみる。そうしたらそこに映っているのは手についた土で綺麗でかわいい顔を汚す弓弦の顔。
 まるでどこか公園の砂場で遊ぶ幼い子どもみたい。
 弓弦もそんな自分の顔に楽しそうにくすくすと笑った。
 ズボンのポケットからハンカチを取り出して、それで汚れた顔を拭いてくれた白兄様にお礼を言って、
 二人はまたくすくすと楽しそうに笑いあう。


 さらさらと風が吹いて、
 優しくそっと疲れて火照った素肌を、
 風が撫でていく。
 疲れをそれで癒そうとしてくれているように。
「白兄様。はい、お先にどうぞ」
「いえ、弓弦さんからどうぞ」
「はい、それでは」
「休憩が済んだら、そしたらもう少し奥へと行ってみましょうか」
「はい、白兄様」
 近くの自動販売機で買ったペットボトルのジュースを半ぶっこずつ飲んで兄妹は、野原の奥に行く。


 探し物は何ですか?
 探し物は四つ葉のクローバー。
 緑の絨毯の中に埋もれてしまっているそれを丁寧に丁寧に手で草をわけて探すのだけど、
 なかなかそうは簡単に見つかりません。


 さわさわとさわさわと風が優しく吹いて、
 緑の絨毯が揺れて、
 兄妹の銀色の髪がさらさらとなびいている。



 弓弦は口元に軽く握った拳をあてて白兄様の方を見ます。
 白兄様が探している場所は何度も兄妹で順ばんこに見ている場所。
 何度も何度も何度も間違い探しの絵を見るように見ている場所。
 もうそこには無い、よね?


 白兄様の左の服の袖を小さな子のように引っ張る弓弦。
 野原の奥へ奥へとやってきたのに、ちっとも四つ葉のクローバーは見つからない。
 不安だよ。
 哀しいよ。
 見つからないのかなー?
 ぐすっと涙ぐみそうになった弓弦に白兄様はぽんぽんと妹の頭を撫でる。温かで大きな手で妹の小さな頭を。
 その手の大きさと温もりに、折れそうになっていた弓弦の心が励まされる。
 それは言葉に出さずとも、
 にこりと微笑んだ顔で、
 白兄様にはどんな言葉を重ねるよりも伝わるの。
 だから白兄様は言ったのですよ。
「もう一度最初の場所に戻って、それでまた一から探しましょうか?」
「はい、白兄様」


 探し物は何ですか?
 探し物は四つ葉のクローバーです。
 四つ葉のクローバー。
 普通は三つ葉のクローバー。
 四つ葉のクローバーは見つけにくいかもしれませんね。
 はい。それでも、それでもだから見つけられたらそしたらその人は幸せになれるのではないでしょうか?


 探し物は何ですか?
 探し物は四つ葉のクローバーです。
 見つけにくいそれを貴女はまだ探すのですか?
 はい、探すんです。お爺さんの手術が成功する事を祈って。
 皆が幸せに微笑む事ができるように。
 そしてそんな皆の幸せそうに微笑む顔が私の幸せだから。
 それはきっと大好きな白兄様も一緒。


 探し物は何ですか?
 探し物は物は四つ葉のクローバーです。
 素晴らしい健康Glorious Healthに健康health。
 お爺さんのために、
 皆のために・・・・・・・





 探し物は見つかりそうですか?
 ―――――はい、見つかりましたよ。
 ――――――――小さな幸せの四つ葉のクローバーひとつ
 ―――――――――――――――見つかりましたよ。





「見つけましたね、白兄様」
「はい。見つかりましたね、弓弦さん」
 ようやく見つけた四つ葉のクローバー。
 探し物はなぜか、見落としていた場所にぽつんとひとつあって、さわさわと吹く風に揺れていた。
「幸せが見つかってよかった♪」
 とても嬉しそうに微笑みながら赤い瞳を柔らかに細めてそう呟く弓弦。
 同じく穏やかに細めた青い瞳でその風にさわさわと揺れる四つ葉のクローバーを眺めながら、白兄様も優しい声で囁くように言う。
「そうですね……でもひとつだけなのですから…」
 そして優しい青と赤の瞳でその幸せの四つ葉のクローバーを眺める兄妹は仲良く通じ合えている事を証明するかのように、
 白兄様の言葉に被るように、
「ええ、ひとつだけなら摘まずにこの場所へ…お土産はお話だけになりますけど」
 と、弓弦は言葉を継いで、
 兄と妹は顔を見合わせあって、くすりと笑いあった。



 探し物は見つかりましたよ。
 だけど、見つかったけれど…
 励ましたいけれど…
 ひとつしかないから摘めない………。
 けど、このお話をお土産に持ち帰ることも出来るから、
 それで元気になってくれれば良いと願うのです。



 弓弦はよく見慣れたカメラを構えて被写体を写真に撮る時かのような仕草をしながら風にさわさわと揺れる四つ葉のクローバーを見つめながら、「ぱしゃり」と口にそう言葉を出しながらシャッターを切った。そう、心のカメラのシャッターを。
 そして彼女は大好きな白兄様を見つめ、白兄様も微笑むと、
 弓弦と同じ仕草をして、
「ぱしゃり」
 と、呟いて、
 そしてまた仲の良い兄と妹は顔を見合わせあって、仲良くくすくすと笑いあった。
 そんな兄妹の足下で四つ葉のクローバーは気持ち良さそうにさわさわと吹く風に揺れていた。
 無論、白兄様と弓弦のお土産話を胸に手術に挑んだお爺さんは、元気に病院を退院したのでした。





 ― お終い ―





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】



 0322 / 高遠・弓弦 / 女性 / 17歳 / 高校生



 NPC / 白


 NPC / スノードロップ





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■         ライター通信          ■
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こんにちは、高遠弓弦さま。
いつもありがとうございます。
このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。


このたびのお題はなかなかに個人的にもすごく嬉しく、
そしてとても緊張するものでした。^^
でもそれだけにすごく書き甲斐もあって、楽しく書く事ができました。
本当にありがとうございました。


ほんの少し色々とこちらでエピソードを付け足させていただきましたが、
あとはPLさまのイメージや想いを壊さぬようにと、
注意しながら書かせていただきました。
こちらでご用意した話、そしてPLさまの素敵なプレイング・イラストに対する想いを出来る限り文章にと再現した話、
そのどちらも気に入っていただけていたら本当にライターとしてもそれほどの嬉しいことはありません。
いかがでしたでしょうか?^^


最初にPLさまが今回のお題にと、指定してくださったイラストを見た時は、
ああ、本当に弓弦さんらしいなー、とものすごく微笑ましくなりました。
とても優しく、そしてとてもかわいい弓弦さん。
イラストに描かれていたそんな弓弦さんの魅力を文章にしている時は本当に楽しかったです。
またイラストがあり、PLさまが寄せてくださったプレイングもすごくしっかりとしてあったので、
文章のイメージ化もすごく楽でしたしね。


僕の場合はふわりと浮かんできた情景や動きをそのまま文章にトレースする感覚型の書き方をするので、
こういう書き方は本当に楽しいです。^^
ですからそういう意味でも本当に良い体験をできたと想います。



それとふわりとしたほのぼのとしたお話を書けるようにと、今回はお話の書き方をテンポ良く、
どこか童話や唄のリズムのような感じになるようにと心がけました。
そちらは上手く出ているのかわからないのですが、
しかしPLさまがプレイングに書いてくださったような感じが出ていれば嬉しいです。^^



それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
本当にご依頼ありがとうございました。
失礼します。