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■獣達の啼く夜■

水貴透子
【2259】【芹沢・青】【高校生/半鬼?/便利屋のバイト】
「今回で7件目か」
 桃生 叶は遺体に被せられているビニールシートを捲りながら小さく呟く。
 今回もまるで獣に食い荒らされたような遺体だった。
 ここ3週間で七人もの人間が通り魔にあっている。
 被害者の共通点は全くなく、共通して言えることは毎回、獣に食い荒らされたような遺体だという事。
「叶さん、気合入ってますね」
 名も知らない同僚達が声を潜めて言っている。
「気合も入るさ、この通り魔事件の最初の被害者は彼女の妹だったんだからな」
 年を取ると口が軽くなうというのは本当らしい。
「…すみませんケド、これ以上見ていても無意味なので失礼します」
 そう言って叶はすたすたとどこかへと歩いていった。
 これが普通の刑事課なら許されないのだろうが、叶が所属しているのは無職一課。
 迷宮入りになりそうな事件、迷宮入りになった事件を調べる一課、といえば聞こえはいいが
 簡単に言えば邪魔者を放り込む用なしの一課、というのが事実だ。
「…ふん、里香の仇は必ずとるわ…」
 そう言って叶は調査書をファイルしてある分厚い本を取り出してパラパラと捲る。
「昨日の事件は公園か、今日の夜にでも調べに行こうかしら…」


         ▽ライターより▽
 初めましての方もそうでない方もこんにちは、瀬皇緋澄です。
 このシリーズ…獣達の啼く夜は一応続きモノですが、短編の集まりにする予定です。
 ですから、最初から参加されても途中から参加されても大丈夫…だと思います^^:
獣達の啼く夜〜act1〜

オープニング

「今回で7件目か」
 桃生 叶は遺体に被せられているビニールシートを捲りながら小さく呟く。
 今回もまるで獣に食い荒らされたような遺体だった。
 ここ3週間で七人もの人間が通り魔にあっている。
 被害者の共通点は全くなく、共通して言えることは毎回、獣に食い荒らされたような遺体だという事。
「叶さん、気合入ってますね」
 名も知らない同僚達が声を潜めて言っている。
「気合も入るさ、この通り魔事件の最初の被害者は彼女の妹だったんだからな」
 年を取ると口が軽くなうというのは本当らしい。
「…すみませんケド、これ以上見ていても無意味なので失礼します」
 そう言って叶はすたすたとどこかへと歩いていった。
 これが普通の刑事課なら許されないのだろうが、叶が所属しているのは無職一課。
 迷宮入りになりそうな事件、迷宮入りになった事件を調べる一課、といえば聞こえはいいが
 簡単に言えば邪魔者を放り込む用なしの一課、というのが事実だ。
「…ふん、里香の仇は必ずとるわ…」
 そう言って叶は調査書をファイルしてある分厚い本を取り出してパラパラと捲る。
「昨日の事件は公園か、今日の夜にでも調べに行こうかしら…」


視点⇒芹沢・青


獣達の啼く夜〜act1〜

 最近、通り魔事件が多発している事は青もテレビを見て知っていた。付近で起きている事も知っていたが、犠牲者の中に同級生がいたことを知ったのはつい最近の事だった。
「青君の所にプリントを届けた帰りに襲われたんですって」
 口の軽い女達は面白おかしく青に言ってきた。犠牲にあった奴の名前を見るとそんなに親しい奴ではなかった。だけど、関係ないと見放すわけにもいかなかった。自分の家に来たばっかりに襲われて死んでしまったのだから。罪悪感を感じているだけかもしれないけど、犯人に一矢報いてやりたい。その気持ちが青を夜の公園へと向かわせた。
「流石に誰もいないな…」
 青は真っ暗な公園に一人呟いて周りを見渡す。昼間にも青は公園へと出向いたのだが、警察やマスコミの人間がウザイくらいにいて、何も調べる事ができずに一旦家へと帰ったのだ。
「こんな所に何の用?」
 突然聞こえてきた声にハッとして青は声の方へと視線を向ける。そこに立っていたのは一人の女性だった、その女性は昼間にも見たような気がした。だから多分警察か、マスコミ関係者なんだろう。
「時間が時間だから補導しなきゃいけないんだけど…」
 補導という言葉が出てきたところを見ると、この女性は警察関係者と見て間違いはないだろう。
「ここで殺されたのって学生だったろ?俺の同級生だったんだ」
 青の言葉に女性は驚いたのか目を丸くしながら青を見ている。
「敵討ち…をするつもりなの?」
 女性の言葉に青は「どうだろう…」と疑問系の言葉で返事をした。
「分からないの?」
「分からない、仲が良かった奴でもないし、ただ俺のところに来た帰りに殺されたんだ」
 青の言葉を女性はただジッと聞いている。
「そう、この連続通り魔事件の最初の犠牲者が私の妹だったから貴方の気持ちは多少は分かるわ。でも―…危ないわ。その程度の気持ちでここをうろついているのなら帰りなさい」
 女性は青を突き放すような言葉を腕組みをしながら言った。
「その、程度?」
 その程度、と言われた事に腹が立ったのか青は女性を睨みつける。
「そう、その程度よ。私は違う。犯人と刺し違えても妹の敵をとりたいもの。分からないと言っているあなたとは違う」
「俺は…」
 そう青が反論しようとした時に獣の雄叫びのような声が聞こえ、二人はそっちの方へと視線を向けた。
「な、何…」
 女性は拳銃を構えながら声の方へと歩いていく。
 犯人は人間以外のような…テレビで言っていた事もあながちうそとは考えられない。
「待て、一人じゃ危険だ。俺も行く」
 そう言って女性のあとを小走りで追いかけて青いシートで隠された現場へと入っていった。
「警察です、大人しく投降しなさい!」
 拳銃を構えながら女性は少し大きめの声で叫ぶ。そこにいたモノを見て女性と、そして青は驚きで声を失った。
 そこにいたのは人に酷似している獣のような生き物だったからだ。ふーふーと荒い息を立てながらこちらを見ている。
「な、何よ…これは…」
 女性が呟くと同時にその獣はこちらに向かって走り出してきた。
「止まりなさい!止まらないと…」
 撃つわよ、という言葉は女性の口から漏れる事はなかった、言い終わる前に獣が女性を殴り倒していたからだ。
「…っ!」
 大丈夫か、と声をかける暇はない。余所見をすれば獣の振りかざす爪に一撃でやられてしまうかもしれないと思ったからだ。殴られた後、女性はピクリとも動かない。死んだわけではなさそうだが、壁に頭を強く打ちつけて気を失ったのだろう。
「ちっ」
 青は小さく舌打ちをして雷を獣に向けて落とす。手加減なんかしている場合ではないので全力で雷を落とし続けた。だが、獣の素早さも侮れず、いくつかの雷は簡単に避けられている。雷を落としながら精神支配も試してはいるが、変わりはない。知能はないと見て間違いないだろう。同じことを何度も繰り返しているうちに青に疲労の色が見えてきた。このまま遣り合っていたら多分、自分の方が負けるだろうと思ったその時、獣の雄叫びが再度青の耳に響く。
 何事かと思って獣に目をやると、額にナイフが突き刺さっていた。
「…ナイフ…?」
「ごめんねぇ、うちの出来損ないが迷惑かけてさぁ」
 ふと聞こえた高い声に青は振り向く。ジャングルジムの天辺にいたのは青よりもかなり年下に見える少年、見ようによっては少女にも見えた。
「出来損ない…?」
「そう、ソイツは俺が遺伝子を変えて作った合成人間。結構上手くできたんだけど、知性がなくて失敗作かな。ソイツ、喰う事しか興味を持たねーんだもん」
 はぁ、と少年は大げさな溜め息をつきながら答えた。
「…お前、…誰だ…?」
「俺?十六夜・夜白って一応名前がある。正体はそいつと一緒になるのかな。もっともソイツみたいな不完全なモンでもないけどね」
 夜白と名乗った少年は笑いながら青の問いに答えた。
「…お前も…人間じゃないのか…?」
「モト人間だよ。こう見えてもおにーさんの数十倍は生きてるよ。それにね、俺だって好きでこんな身体になったワケじゃないんだよ。だからこれは…俺の復讐。こんな身体にしたお前ら人間に対しての復讐。出来れば邪魔しないでほしいんだけど…今日はソイツを始末するだけの為に来ただけだから見逃してあげるけど、次に会った時は殺しちゃうよ?」
 それだけ言い残して夜白はすぅっと闇に溶け込みながら姿を消した。青はそれを見ながら拳を握り締めていた。
「じゃあ…あいつは…くだらない復讐の為に殺されたのか…」
 多分、また夜白と名乗った少年とは出会うだろう。その時に見逃してもらったのがどっちなのかを分からせてやる…。
 青の小さな呟きは夜の闇に浮かぶ満月だけが聞いていた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2259/芹沢・青/男性/16歳/高校生/半鬼?/便利屋のバイト

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■         ライター通信          ■
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芹沢・青様>

初めまして、今回「獣達の啼く夜」を執筆させていただきました、瀬皇緋澄です。
「獣達の啼く夜」はいかがだったでしょうか…?
すこしでも面白いと思ってくださったらありがたいです^^
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^

       −瀬皇緋澄