コミュニティトップへ




■うちのコです!■

J.2
【2180】【作倉・勝利】【浮浪者】
雑居ビルの三階、春日居探偵事務所。その応接間で村上司は一人、駄々をこねていた。
授業が終わるや大急ぎで駆けつけたが、遅かった。
事務所はもぬけの殻。
書き置きから、春日居藤治、安斎勲の二人が出かけたことを知った。
「留守番つまんな──い!マイルズ、どこー?ヒマだよ、一緒に散歩しに行こうよー」
司は、次の遊び相手に森下マイルズを選んだ。
ピレニーズ犬・マイルズは人霊憑きだ。大野大吾が死の間際に取り憑いてしまい今に至る。

事務所内をくまなく探す司の耳に、チャカチャカと響くマイルズの足音…というより爪音が聞こえた。
それが徐々に地響きのような音に変わり、かなりの速度で近付いてくる。
バン!と乱暴な音を立てて事務所の扉が開かれ、白い物体が弾丸のように飛び込んできた。
「マイルズ?!」

「その犬はこちらの飼い犬ですか?」
マイルズの後から飛び込んできた男は、息も切れ切れに手帳を提示する──警察官だ。
それから、司に一枚の紙を突きつけた。
マイルズの写真の上に『探しています』の文字。失踪した犬の情報を切望する張り紙だった。
「捜索願が出ている、森下さん家のマイルズ君ではないんですか?!」
新人なのか、小学生相手に緊張を顕わに問い詰める。
「詳しいお話をお聞きしたいので、責任者をお呼び下さい!」
混乱している司の口からは、意味不明の呻き声しか出てこなかった。

***
「トージ、助けて!」
携帯電話を握りしめ、司は要領の得ない説明を繰り返す。電話の向こうの藤治はというと、面白そうに合いの手を入れるだけ。
司の泣き言と藤治の暢気さに苛立ち、とうとうマイルズは司の手から携帯を奪い取った。

マイルズは、相手の脳に直接語りかけることで意志の疎通が出来る。
電話を通しての会話には相当の力を使うが、自縛霊にだって出来ること、と気合いを入れて語りかけた。
(司じゃ丸め込むのは無理だ。俺の思念も届かねぇ。司と同じ鈍感体質だぜ?藤治、どうする?)
「トージ、犬語話せるの?!」
鈍感体質・司は、器用に携帯電話を持つ犬を前に新たな混乱を起こしている。
電話越しに、藤治が笑いを堪えているのが伝わってくる。
『大吾……いや。マイルズ、森下家に帰る?』
(どアホ!)
紫煙をくゆらせながら、この事態を楽しんでいるのだろう。
煙草の灰を落とす、微かな音が聞こえた。

『何人かそっちによこすよ。説得なり洗脳なりして、お引き取り願おうか』