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■ばってん兎■
紺藤 碧
【0351】【伊達・剣人】【エスパー】
 セフィロトの塔には数多のタクトニムがいた。その中でも彼(女)は群を抜いて特異だったろうか。
 人間30%兎70%の遺伝子混合体。二足歩行し(結構当たり前)、その身にかっぽうぎをまとい、片手には煌めく包丁を握っている。
 見た目は少女以外のなにものでもない。
 体長110cmがタクトニムの中ではかなり小柄な方ではあったが、彼(女)は見た目5歳児の可愛い少女であった。
 だが、見た目に騙されてはいけない。
 孤高の兎。一匹狼、されど兎。
 そう。彼(女)は兎の皮を被っただけの恐るべきバトルコックなのだから。
 右目は誰のまねをしたのかマジックで十字の傷を書き、残る左目が鋭い眼光を放っている。
 思った以上に俊敏な動きを持ち体術にも優れた彼(女)は、今日もいつものように都市マルクト内を徘徊し、屈強な料理人が現れるのを待っていた。
 ただ競う事が好きなのか。
 彼(女)が求めているのは獲物なのかそれとも好敵手なのか。
 名もなき彼(女)をビジター達はこう呼んでいる。


 ――ばってん兎。
真っ白な兎と万年ルーキー

 何時まで経っても新人が抜けないビジターのアイ・ヒラガは、持ち前の明るさはどこへやら一人大きなレーザーガンを肩から担いでとぼとぼと歩く。
「はい、ご主人によろしくねルナちゃん」
「ありがとうなのデショ♪」
 果物をいくつか入った紙袋を抱えた見覚えのあるフードとコートが眼に入る。その手と足はウサギの手袋とブーツというなんとも愛らしい容姿のラ・ルーナ。それでいて強いんだから世の中分からないものである。
「デショデショちゃ〜ん」
「げっアイ!!」
「げって何やの、げって」
 明らかに上腿をのけぞらせて、イヤそうな顔をしてみせる。だがルナもさしてアイの事は嫌いではないせいか、無下に逃げ出せない。
「いい所であったやん。一緒にパーティー組もうやないの!」
 またそれかとルナはがっくりと肩を落として、
「だからさぁアイ。ルナはアイとは違うって何時も言ってるデショ〜!!?」
 アイは小さなルナを横抱きにして意気揚々とゲートへと向けて走り出した。
「た〜す〜け〜て〜〜」
 ルナの声が木霊のように虚しく伸びていく、ゲートへと向けて走り去るアイ。嬉しさで何時もより腕力増してるんじゃないか?
 ちょうどその時、近場で買い物をしていた伊達・剣人は耳に入った聞き覚えのある声に顔を上げる。
 何処からの声だ?と振り返ると、その横を満面笑顔のアイが通り過ぎていく。
「た〜す〜け〜て〜〜」
 走り抜けていったアイの方向からもう一度耳に入る声。
 って、あれは…
「ん?あの兔はルーナ、拉致かっ」
 元気だなぁと視線を向けていたアイの小脇に抱えられている小さな白いもこもこの兎ブーツ。
「待てコラッ、誘拐犯っ!」
 剣人はルナの姿を確認するなり、二人の後を叫びながら追いかける。
「あ〜!ケント〜〜!!」
 抱えられた小脇から必死に手を伸ばして、必死にもがく。そんなにゲートの向こうに行きたくないのか?
 アイもそんなルナに気がついたのか、ふと後ろを振り返る。
 その瞬間、アイはぎょっと瞳を見開いた。探偵走りで自分達を追いかけてくる、赤シャツに白ネクタイの上にダークスーツ、顔にサングラス、付け加えて頭にソフト帽の男性。剣人の格好は、アイから見てマトモと妖しさを足して2で割ったような格好だった。
「いやや〜!!」
 何が嫌なのか説明してくれと言いたくなるが、今まで小脇に抱えていたルナを両手でギューっと抱きしめて、アイの走る速さが増していく。
「く…苦し……」
 締め付けるように抱きしめられ、ルナは息も出来ずに徐々に魂が抜けていくような錯覚に襲われながらも、早く帰りたいなどと余裕ぶっこいていた。
「待ぁてぇ〜!!」
 もうアイの眼には追いかけてくる剣人が、鬼の形相で不思議な走りをする人にしか見えていない。必死になって逃げる事に意識が奪われて、何時の間にかルナとパーティーを組んでゲートを潜る事など忘れて――…
「これじゃ何時まで経っても探査に行けないやんかぁ!!」
 いなかった。
 あぁ…とルナのため息が空に消えていく。
「諦めるなルーナ!」
 余りの呆れ加減にため息をついたルナがこのまま誘拐されてしまうことに諦めてしまったように見えて、剣人は大声で声をかける。
「俺が必ず助けてやるぞぉ!!」
 そこで、やっとはたっと気がついた。
「助けるってなんやの!?まるでうちが誘拐犯見たいやん!!」
 剣人は最初からそう叫んでましたが……。
 なんて突っ込みを思わず入れてしまいそうになったが、アイは全速力で走っていた足を止めて振り返る。
「急に止まるなぁ!」
 まるで車が急ブレーキをかけたときのような音が思わず聞こえてきそうなほど盛大に立ち止まり、バランスを崩してアイの横を通り抜け壁に突っ込んだ。
「あんた…大丈夫なん?」
「ケント…大丈夫デショ?」
 壁に直撃する寸前で思いとどまって、両手を壁につけてわなわなと震えている。いや、力いっぱい踏ん張っている。
「大丈夫だ」
 ばっと何事も無かったかのように振り返り、ずれたサングラスの中心を指でくいっとあげて元の位置に戻す。
「あんたも可愛い顔して誘拐なんていただけないな」
 剣人は変わり身の速さでダークスーツの襟を治すと、アイに詰め寄る。
「うちは誘拐犯と違うってば!ルナと一緒に探査に行こうって誘っただけや!」
「そういう嘘は言っちゃいけないぞ。嘘つきは泥棒の始まりだ。現にルーナは助けてと叫んでいたじゃないか」
 自信満々の剣人の言葉に、蚊帳の外でさっさと帰ろうと踵を返していたルナの足がピタっと止まる。
 そうだろう?と顔を向けた剣人と、ちょっとシュンとしたアイの顔がルナに集まる。
「………」
 ルナはばつが悪そうにゆっくりと振り返り、
「ケントの誤解なのデショ〜…。そ、それに!アイもルナ嫌だって言ったのデショ!!」
 口元だけが見える深めのフードから覗ける口元がぶーっと膨れている。
「ま…まぁ、アイもルナとわざわざ一緒に行かなくても、ケントもビジターだし?一緒に行けばいいのデショ」
 しれっと自分の事は棚に上げてアイの注意を自分から剣人に代えようと思いつくままに提案する。
「え…そうなん?」
 アイはぐりっと剣人に振り向き、手を組んで瞳をキラキラと輝かせると、至極満面の笑顔を剣人に向けた。
「あんた、うちら追っかけとったって事は暇なんやね!よし行こう!直ぐ行こう!!」
 キラキラの瞳を真正面から受けて、ん?とした顔をした剣人だったが、アイのその言葉を聴き、躊躇いもせず答えた。
「まぁ、いいが…」
 その一言で、周りのギャラリーが一瞬でそっぽを向いたことと、ルナがにやりと微笑んだ事は置いといて。



数時間後―――…

 閉じたゲートの前でぐったりとしている剣人と、ちょっと申し訳なさそうな顔をしているアイ。
 まったくこのお嬢さんは、放つレーザーガンは当たらないは、興味本位で何かを引っ張ってガラクタの下敷きになるは、今日一日で相当叫んだ気がする。
「ぁ゛…ぁ゛ぁ゛……」
 発声練習などしてみても、喉がからからになって、無駄に声に濁音がついている。
 ルナが一緒に行きたがらない理由と嫌っていない理由が一気に分かった。
 一生懸命だが空回りなのだ。
「剣人ほんまゴメン」
 いつもならさらっと行ってさらっと難なく帰れるはずの道のりが、波乱万丈の連続だった。見方を変えれば、新たなる発見が出来たとも言えなくもない。
「いや、まぁ、気にするな」
 苦笑いで剣人はアイに微笑みかけ、気を取り直すようにすっくと立ち上がるとふーっと一回息を吐いた。
「おかえり〜なのデショ」
 アイと一緒に行く事を承諾してから姿を消していたルナがにこにこ顔で現れる。
「どこ行ってたんだルーナ!!」
 えへへ〜と笑っているルナに、剣人は与えられた騒動から掴みかからんばかりの形相で叫んだが、その怒りも虚しいだけだと頭を抱える。
 誘拐だと思っていた時点で、最初から的外れだったわけだから、せっかくルーナの親か家族からお礼でも貰えるかもしれないなんて、密かに抱いていた期待も無に消え、その後アイと一緒に探査に向かったはいいが、アイのドジっぷりに探査どころではなく、結局手に入ったのは疲労のみ。
「まぁ剣人。今日はうちが奢るさかい、元気だして」
 ね?とアイに宥められ、剣人は気を取り直すようににっと笑うと。
「まだまだお嬢ちゃんに奢ってもらうほど俺は落ちぶれちゃいないさ。だが、どうしてもって言うなら、一杯奢ってもらうかな」
 グラスを引っ掛けるようなしぐさを見せる剣人に、アイは顔を輝かせると、
「よろこんで!」
 と、二人はヘブンズドアへと足を向けたのだった。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0351 / 伊達・剣人 / 男性 / 23歳 / エスパー】

【NPC / ラ・ルーナ / 無性別 / 5歳 / タクトニム】
【NPC / アイ・ヒラガ / 女性 / 18歳 / エキスパート】


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■         ライター通信          ■
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 真っ白な兎と万年ルーキーにご参加くださりありがとうございます。ライターの紺碧です。先ず最初に、このシナリオは報酬としてアイテムが貰えるものではありません。詳しい事情はジャンクケープの白い箱庭内にある発注についてを読んでいただけると助かります。
 剣人様はプレイングの書かれ方からしてシリアスよりはギャグな方だと認識し、殆どのボケを担当して頂きました。もしや剣人様は突っ込みキャラだったりしたのでしょうか?このノベルで剣人様のボケの一面として受け入れていただけると嬉しいです。
 それではまた、剣人様がルナ達に会いに来ていただける事を願って……