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■記憶の再生■
雨音響希
【0592】【エリア・スチール】【エスパー】

 ふらりとジャンクケーブを彷徨っていると、目の前に〈サファイラ劇場〉と書かれた看板があった。
 何の気なしにそっとその扉を開くと・・・中は白を基調とした礼拝堂だった。
 朽ちかけた聖母の前で佇む1人の少女。
 「貴方は、何かを望みがあるのね・・。」
 少女はそう言うと、振り返った。
 銀の髪が大きく弧を描き、青の瞳をじっとこちらに向ける。
 「思い出したいのなら、開いてあげる。
  見たいのなら、見せてあげる。
  思い出したくないのなら、閉じてあげる。
  忘れてしまいたいのなら、消してあげる。」
 少女は一気にそこまで言うと、すっとこちらに近寄ってきた。
 手を引っ張り、礼拝堂の中へ入って行き・・・長椅子に座るように目で合図してきた。
 なんだか分らないが、とにかく座るほかないだろう。
 「見せてあげる。貴方の記憶を。そして・・貴方が望むようにしてあげる。私には・・ソレが出来るから・・・。」
 少女の手が伸びてきた・・・それを視界の端に認めた途端、目の前はブラックアウトした。

記憶の再生


□オープニング

 ふらりとジャンクケーブを彷徨っていると、目の前に〈サファイラ劇場〉と書かれた看板があった。
 こんな所なんて、あったかしら・・?
 エリア スチールは僅かに小首を傾げると・・・そっと、扉を開いた。
 中は真っ白な礼拝堂だった。
 確かに看板は劇場だったはずなのに・・・。
 エリアの視線が、礼拝堂の中央で止まった。
 そこにいたのは、朽ちかけた聖母の前で佇む1人の少女。
 「貴方は、何かを望みがあるのね・・。」
 少女はそう言うと、振り返った。
 銀の髪が大きく弧を描き、青の瞳をじっとこちらに向ける。
 「思い出したいのなら、開いてあげる。
  見たいのなら、見せてあげる。
  思い出したくないのなら、閉じてあげる。
  忘れてしまいたいのなら、消してあげる。」
 少女は一気にそこまで言うと、すっとこちらに近寄ってきた。
 「え・・?あの・・わたくし・・。」
 手を引っ張り、礼拝堂の中へ入って行き・・・長椅子に座るように目で合図してきた。
 なんだか分らないが、とにかく座るほかないだろう。
 「見せてあげる。貴方の記憶を。そして・・貴方が望むようにしてあげる。私には・・ソレが出来るから・・・。」
 「けれど、わたくし、思い出したい記憶なんて・・。」
 「忘れている記憶って言うのは、忘れている事を忘れているから・・忘れてしまっているの。」
 少女はそう言うと、そっとエリアの手の上に手を重ねた。
 「記憶自体は貴方の心の中で生き続けているわ。でもね、忘れている事を忘れてしまっているから・・覚えている事を思い出せないの。」
 「えぇっと・・。」
 混乱する頭の中を見透かしているかのように、少女はクスリと微笑むとエリアの目の前に手をかざした。
 ・・・それを視界の端に認めた途端、目の前はブラックアウトした。


■眠る記憶

 目の前が真っ暗になり、次に目を開いたのはどこか見知った場所だった。
 どこだかは思い出せない。けれど、絶対に知っている場所・・。
 ふっと、目の前に小さな女の子が現れた。
 それは・・。
 「わたくし・・??」
 エリアは驚いて目の前の少女に触れようと手を伸ばした。
 そして再び、視界がブラックアウトして・・・。




 「きょうは、なにして遊びましょう・・。」
 エリアはキョロキョロと辺りを見渡すと、目の前の小さな砂場にしゃがみ込んだ。
 そこは公園と言うにはあまりにも小さすぎる、ちょっとした空き地のような場所で、大きな遊具などは置いていない。
 砂場と花壇、そしてベンチだけがポツリと置いてある場所だった。
 エリアは手に持ったバケツを下ろすと、砂場の中央にしゃがみ込んだ。
 周りから砂をかき集め、中に入っているシャベルで形を整えて、山を作り出す。
 そして手で山の形からエリアの思い描くお城の形へと砂を弄っていく。
 三角の屋根に、小さな塔。
 その中では王子様とお姫様がダンスパーティーの真っ最中だ。
 お城の門では、衛兵達が不審者はいないかと警備をしている・・。
 エリアの頭の中では、そんな物語が形作られ、進んでいく。
 王子様がお姫様の手を取り、それを王様とお后様が微笑みながら見つめている。
 夢中になりながら砂のお城を作るエリアが、ベンチに座る男に気付いたのはかなり後だった。
 そう、それこそ・・男がターゲットを決めた時だった。
 ペシペシと砂のお城を作り続けるエリアを、男がすっと抱き上げる。
 エリアの手からシャベルが落ち、乾いた音を響かせる。
 「えっ・・・??」
 「大人しくしてろ!そうすれば、なにも痛い事はしねぇよ。」
 男はエリアの耳元でそう囁くと、大きな手でエリアの小さな口を塞いだ。
 “殺される”
 エリアは直感でそう思った。
 声を上げようにも、口を塞がれてしまっているため、篭った音しか出ない。
 “助けて”と叫んでも、その意味はエリアにしか伝わらない。
 篭った言葉は、何の意味も持たない・・。
 真っ赤に染まる頭の中で、エリアは必死に助けを求めていた。
 “怖い”“助けて”“イヤ”“お願い”“誰か”
 滲む視界が、風景をボンヤリと歪ませる。
 じたばたともがいてみるものの、エリアの力では到底どうすることも出来ない。
 “怖い”“怖い”“怖い”

 “誰か助けてっ・・・!!!!!”

 力いっぱい心の中でそう叫んだ時・・視界に青いものがよぎった。
 (なに・・?)
 そう思った瞬間、エリアの身体は宙に投げ出されていた。
 ふわりと、宙を泳ぎ・・そして、青いものの中に飛び込む・・。
 それはしっかりとエリアを抱きとめると、薄い布越しに温かな体温を伝えてくれた・・。
 「大丈夫・・?」
 見上げた先、そこには男の人が微笑んでいた。
 「もう大丈夫だよ。さぁ、俺の後ろに隠れて。」
 青年はそう言うと、エリアを地面に下ろし・・自分の背に隠れるように命じた。
 青年の背中越し、あの男が腕から血を流して顔を歪めていた。
 「さて、こんな小さい子を誘拐なんて・・。許されると思っているのか?」
 「うるせぇ!さっさとそのガキをこっちに渡しな!!」
 「・・この子を取り戻したいなら、俺を倒す事だね。・・まぁ、君なんかに出来るとは思えないけど。」
 青年の挑発に男が乗り、凄い剣幕でこちらへと走ってくる。
 エリアは思わずビクリと肩を上下させ、その場にペタリと座り込んでしまった。
 「さぁ、目を瞑るんだ。お嬢ちゃん。ここから先は・・見てはいけないよ。」
 チラリとエリアに目を向けると、青年はすっとその腰から細身の剣を抜いた。
 エリアは青年の言葉どおり、目を瞑った。
 そして、聞こえてくる・・・あの男の叫び声と何かを切り裂く音・・・。
 恐怖は無かった。
 「さぁ、もう目を開いて。」
 エリアは指示通り目を開くと、目の前にしゃがみ込む青年の瞳をじっと見つめた。
 「怖かっただろう?大丈夫だったか?怪我とか、してない?」
 「だい・・じょうぶ・・です・・・。」
 「そうか、それは良かった。」
 青年はそう言ってエリアの頭を撫ぜると、柔らかく微笑んだ。
 「あの・・」
 「うん?」
 「さっきの・・かた・・は・・?」
 「あぁ、大丈夫。急所は切ってないから・・助かるよ。いくら悪い奴でも、人を殺めるのはあまり好きじゃないからね。」
 青年はそう言うと、すっと立ち上がった。
 その格好は・・いつか読んだ絵本の中の“騎士”そのもの・・。
 エリアはじっとその姿を見つめた。
 絶対に忘れないように、いつでも思い出せるように・・・。
 「ありがとう、ございました・・。」
 「これからは気をつけるんだよ。誰かが助けてくれるとは限らないんだから・・。」
 青年はそう言って、苦笑いを浮かべると・・そっとエリアの頬に・・・。


□決して、忘れないように・・

 ズキンと鈍い痛みが体中に走り、エリアは顔をしかめた。
 目の前に広がるのは、白の礼拝堂・・。
 「わたくし・・。」
 「それが、貴方の思い出したかった記憶よ。・・もっとも、思い出したいと思っていたのは記憶自体だから・・貴方に自覚なんて無かっただろうけど。」
 少女はそう言うと、エリアの瞳をじっと見つめた。
 吸い込まれそうな青の瞳・・。
 「貴方はこの記憶をどうすることも出来るわ。このまま固定する事も、今までみたいに閉じる事も、抹消する事も出来る。」
 「わたくしは・・この記憶、このまま覚えていたいです。」
 エリアはしっかりと少女の瞳を見つめた。
 「わたくし、あの時から騎士様に憧れていたのですね。・・どうして今まで忘れていたのでしょう・・。」
 「大切な記憶ほど、大切にしまいすぎて・・忘れてしまったりするものなのよ。よくあるでしょう?大切な思い出の品を、大事に大事に箱にしまって、戸棚に入れて・・結局、何処にしまったのか忘れてしまう事って。」
 「そうですわね・・。」
 「それじゃぁ、記憶を固定するので良いわね?・・記憶を固定するにも、抹消するにも、閉じるにも・・なににしても酷い痛みを伴うの。・・・耐えられるわね・・?」
 「えぇ、大丈夫ですわ。」
 エリアが力強く頷いたのを確認すると、少女は先ほど同様手をかざした。
 「大丈夫、その痛みの記憶は消しておくから・・。」
 少女の小さなささやきが聞こえたと思った瞬間、凄まじい痛みがエリアを襲った。
 そして再び、闇の世界へ・・・。





 「あ・・気が付いた??」
 ゆっくりと目を開けた先・・一番最初に飛び込んできたのは紫色の瞳だった。
 ぼやける視界が段々とクリアになって行き・・・エリアは思わず固まってしまった。
 覗きこむ金色の髪と紫の瞳を持つ少年。
 その顔は、この世のものとは思えないほどに美しく整っている。
 それこそ・・思わず言葉を忘れてしまうほどに・・。
 「大ジョーブ?どっか痛いとことかナイ??」
 少年が優しくエリアの身体を起こし、心配顔で首をひねる。
 「あ・・大丈夫ですわ・・。」
 エリアはこくりと頷くと、周りを見た。
 いつの間にかエリアの身体は木の椅子の上に寝かされていた・・。
 この少年がエリアをここまで運んだのだろうか・・??
 「そ。それなら良かった。それより・・可愛らしいおジョー様、思い出した事、思い出せない事、なんかあります??」
 「わたくし・・騎士様を・・」
 「あ〜オーケーオーケー!わかった、固定の方をやってもらったわけね?そんで・・痛かったのとか、覚えてる?」
 「痛かった・・ですか・・?」
 エリアは僅かに首をかしげた。
 その記憶は・・ない。
 「ふ〜ん、んじゃまぁ、成功っつー事で。」
 少年はそう言うと、ニカっと笑って右手を差し出した。
 「初めまして、可愛らしいおジョー様。俺の名前はカイル。カイル セラウス。カイルでも、カイちゃんでも、セラリンでも、セラポンでも、何とでも呼んじゃって!」
 「あ・・わたくしは、エリア スチールと申します。」
 エリアはカイルの手をとり、軽く握手をした。
 「んで、あっちの無愛想な女の子・・エリアちゃんの記憶を固定した子ね、あれがセシリア。・・っつっても、なんてーの?カッコ仮名ってやつ??」
 「そうなのですか・・?」
 「ん〜、そう。んでぇ、エリアちゃんをココまで運んだのは、ルシアちゃんっつー美少女顔の俺様男なんだけど・・ちょっとねぇ、不良ネコちゃんだからすぅ〜っぐ家を抜け出しちゃうんだよねぇ〜。」
 「・・それ、ルシアに言っておくわ。」
 「うぇぇぇぇ〜!!セシリアちゃんの意地悪っ!」
 言いながらしょぼ〜んと地面にのの字を書くカイルは、かなり外見とのギャップがあった。
 「あの・・カイル様・・大丈夫ですか・・??」
 「あぁぁ〜、エリアちゃんがなんか天使様みたいに見えてくる〜!」
 カイルがそう言って、エリアを拝む。
 エリアはその光景に思わずクスリと小さな笑いを漏らすと、朽ちかけた聖母を見つめた。
 そして、そっと瞳を閉じて・・あの時にエリアを助けてくれた“騎士様”を思い出す。
 もう決して忘れないように、何度でも思い出して温かな気持ちになれるように・・・。
 「エリアちゃん、よかったらお茶してかない??ちょっとさー、美味しそうなお菓子もらっちゃったんだよねぇ〜。」
 「はい、ゼヒ。」
 エリアはニッコリと微笑むと、そっと胸に手を当てた・・・。

       〈END〉


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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】


  0592/エリア スチール/女性/16歳/エスパー


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 ■         ライター通信          ■
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 初めまして、この度は『記憶の再生』へのご参加ありがとう御座いました。
 ライターの宮瀬です。
 騎士様のお話と言うことで、ちょこっとお姫様や王子様のお話も入れてみましたが・・如何でしたでしょうか?? 
 セシリアの記憶の固定は再び“忘れている事を忘れない”限りは覚えているものですので、どうかこのまま大切な思い出として覚えておいてくださいませ。
 それにしても・・カイルがかなり浮いているような印象がありますが・・・。

  それでは、まだどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。