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■【ボトムライン・アナザー≪バトル1:rookie≫】■
切磋巧実
【0592】【エリア・スチール】【エスパー】
●ボトムラインの風
 ――フェニックス。
 アメリカ南西部ソノラン砂漠の中心にある町だ。
 太陽の谷とも呼ばれたこの町を訪れる者は様々だが、皆どこかに喪失感を持っている者ばかりだ。或る者は大金を狙って訪れ、或る者は酒場の美人オーナー目当てに訪れ、そして、戦場の硝煙の匂いと緊張感が忘れられない者が訪れる。
 ――ボトムライン。
 かつて警察の賭博だったモノが何時の間にか広まったMS(マスタースレイブ)バトルだ。つまり、MSに乗った者達が互いに戦い合い、行動不能にすれば勝利となるゲームと呼ぶのが相応しいだろうか。
 何ゆえ金色の大海に囲まれ、気温は40度を越える町で開催されているのか定かでないが、密かな話題になっているのは確かだ。

 この物語は、硝煙の匂いと鋼鉄の弾け合う戦いを忘れられない者達が、トップ・ザ・バトラーを目指して戦い合う記録である。

●酒場エタニティー
 物憂げなバラードが店内に響き渡るものの、客共はいたって陽気だ。アルコールと煙草の匂い、客の喧騒が室内を包み込む中、耳を傾ければボトムラインの噂話ばかりが溢れていた。
 ――酒場エタニティー
 ボトムライン闘技場の傍にある安酒場である。
 闘技場の近くとあってか、最新情報も入手できると、ボトムバトラーや関係者には、評判が高い。

「それにしてもよぅ、あれは見掛け倒しだよな」
「あの見慣れないMSの事か?」
「これまでの戦績は黒星ばかり、一度も勝ってないんだと」
「ボトムバトラーは若い娘だって噂だぜ。たいそうな美少女って聞くぜ?」
「するってーと、金持ちの嬢ちゃんの遊びかよ?」
「最近は女バトラーも増えたからな、ったく女の出る幕じゃないぜ。面が良いなら、わざわざボトムラインに関わるなっての!」
「あら? 随分と余裕のない事を言うのね」
 男共の噂話に落ち着いた声を響かせたのは、酒場の美人オーナー、アンナ・ミラーだ。噂では過去に何人もの男から求婚され、どれも撃墜したとも聞く。飾りっ気は無いが、腰ほどある赤毛と薄での衣服から窺える肢体は大人の色香を漂わせており、どこか少女的な風貌が妙なアンバランスさを醸し出していた。
 アンナはカウンターに頬ずえをつき、クッと小首を傾げて見せる。
「ボトムラインは男だけの舞台じゃない筈だけど?」
「あー、いや、つい愚痴っただけだよ」
「それよりアンナ、次のバトルは決まったのか?」
 アンナの少し垂れた瞳が微笑する。
「ええ、バトルは一週間後‥‥種目はイングリッシュバトルよ☆」
 ――イングリッシュバトル。
 またの名をピットファイトと呼ばれるバトルだ。
 中世の戦いを意識したものかは定かでないが、このバトルは格闘武器のみで行われる。正に拳と拳のぶつかり合い、刃と刃の弾け合う格闘技だ。それ故に、手加減は効き難く、下手をすれば命の保証もない。
「今更ピットファイトかよ!」
 ――ボトムラインには幾つかの種目がある。
 迷路を駆け巡りながら模擬弾(ペイント弾)でバトルする『サーチ&アンブッシュ』。射撃武器無しの接近戦のみで行う『イングリッシュバトル』。MS対サイバー、または複数対1の変則マッチなど、所謂異種格闘技に近い『アストラルバトル』。そして、正真正銘の戦闘を行う『ブラッディーバトル』だ。

「乗る気がないようね? どうやらグランプリを開催するみたいよ。つまり、格闘戦の『イングリッシュバトル』、射撃戦ありの『ブラッディバトル』、チーム戦や異種戦の『アストラルバトル』、迷路を進行して旗を取る『フラッグバトル』などを開催し、この街の最強バトラーを決める大会らしいわ☆」
「その第1バトルがピットファイトって事か‥‥」
「噂の『白いお嬢様』も出場するらしいわよ」
 ボトムラインに最近出場しているMSだ。機体名はサーキュラー。シャープなシルエットで模られたMSだが、下半身は膝部を覆う裾の広いフレアスカートのようなイメージを醸し出す機体であり、外観から、白いお嬢様とバトラー達に呼ばれていた。
「参戦したい人はマッチメーカーと契約するのを忘れちゃダメよ。因みに私もマッチメイクしてあげるけど? 仲間を探すのもOKよ♪」
 ボトムラインに参戦するには『マッチメーカー』と契約する必要がある。これは面倒な処理と対戦カードを取り仕切る所謂マネージャーに近い存在だ。
 酒場に集うバトラー達は喧騒を奏でながら、アンナの用意した広告に群がり出す。

 今、この街に新しいボトムラインの歴史が刻まれようとしていた――――
【ボトムライン・アナザー≪バトル1:rookie≫】

 ガレージから明かりが洩れ、けたたましいグラインダーの音が響き渡っていた。夜の帳がスッカリ降りており、時刻は0時を当に回っている中、銀髪の小柄な人影は、MSの装甲に火花を疾らせ続ける。細身の身体なのはシルエットから読み取れるが、顔は防塵マスクとゴーグルに遮られて分からない。
 暫らくすると装甲からグラインダーを離し、スイッチをオフへと切り換える。けたたましい咆哮が次第に小さくなり、グラインダーの回転がゆっくりと止まった。
「ふぅ」
 ゴーグルを上げ、防塵マスクを外して風貌は、おっとりした雰囲気を醸し出す少女のものだ。端整な風貌に汗が伝うところを見ると、相当な時間を費やしたようだ。
 エリア・スチールは腰を屈め、先ほど削った装甲へと顔を近づけ、白い指で触れて見る。
「あつッ!」
 真新しい研磨面を見せる装甲は未だ熱を帯びており、白い指がピクリと跳ねた。エアガンのチューブを配管に接続し、ゆっくりと装甲面を冷やす。残った粉塵が舞い飛び、少女は慌てて顔を背けた。
「これくらいかな?」
 再び研磨面に触れる。完全に冷えたようだ。「うん♪」と頷き笑みを浮かべると、傍の机に向かい図面を覗き込む。赤い瞳が素早く動き、機体と図面を交互に見つめた。
「えーと、ここの装甲は溶断したし、そっちの装甲は削ったから、ポチポチポチッと‥‥うん、かなり軽くなったかも♪」
 恍惚さすら感じられる満面の笑みだ。更に図面に指をしなやかに走らせ、分析を続ける。
「そっか☆ ここも軽く出来るよね♪」
 彼女の長い作業は朝日が昇るまで続いた――――。

「‥‥リアさん? エリアさん?」
 名前を呼ぶ声が聞こえる。ゆっくりとまぶたをあげると、ぼんやりとした視界に銀髪の少女が映った。快活で明るそうな風貌は、珍しく不安気だ。クリスティーナ・クロスフォードは、尚もエリアを揺り動かす。
「駄目だよ! こんなとこで寝たら風邪ひいちゃうよ?」
「あ、クリスティーナ様‥‥」
 瞳は未だ、とろんとしたままで、エリアは柔らかな笑みを浮かべた。‥‥ふと現実が甦り、瞬きを数回繰り返すと、慌てて床から跳ね起きる。口元に掌を当て、顔を赤く染めた。
「ごめんなさいッ! わたくし眠っちゃったみたいで」
「ううん、眠るのは良いけど、ちゃんとベッドで眠ろうよ、ね♪」
 クッと小首を傾げて微笑むクリスティーナ。「はい☆」と穏やかな返事を聞くと、少女はMSを見上げる。ガレージの隙間から陽光が注ぎ、SilveWolfを輝かせていた。

 ――フェニックス。
 アメリカ南西部ソノラン砂漠の中心にある町である。
 太陽の谷とも呼ばれたこの町を訪れる者は様々だが、皆どこかに焦燥感を持っている者ばかりだ。中でも、戦場の硝煙の匂いと緊張感が忘れられない者が多く訪れる。
 ――ボトムライン。
 かつて警察の賭博だったモノが何時の間にか広まったMS(マスタースレイブ)バトルだ。
 何ゆえ金色の大海に囲まれ、気温は40度を越える町で開催されているのか定かでないが、密かな話題になっていた。

 この物語は、硝煙の匂いと鋼鉄の弾け合う戦いを忘れられない者達が、トップ・ザ・バトラーを目指して戦い合う記録である――――

●これでいいの? チーム名?
「出来るだけ早く動けるようにわたくしなりに改造してみたわ、その分装甲が犠牲になってるから、相手に捕まらないようにね」
 バトラースーツに身を包み、MSへと向かうクリスティーナの後をパタパタと追い、エリアは忠告していた。
「うん、ありがとう☆ 僕、頑張るよ♪」
「それと‥‥チーム名なんだけど‥‥」
 エリアはチョット俯き、胸元に手を添える。なんか言い難そうだ。
「なに? チーム名がどうかしたの?」
 太陽のような微笑みが向けられた。エリアも笑顔で口を開く。
「機体名がsilverwolfだからって、大っきいわんこって安易過ぎない?」
「そうかなぁ? 僕にとっては大っきいわんこなんだよね」
 靴音が止まる。クリスティーナはsilverwolfを見上げ、微笑んで見せた。隣に佇み、エリアも機体を見上げて笑う。
「そうね、大っきいわんこね♪ クリスティーナ様、頑張ろうね」
「うん!」

●真の狼 KatzevsSilveWolf
 機動音を響かせてSilveWolfが前進する。バリエベースの機体は右手に高周波ダガー、左手にチェーンを装備し、距離が縮まると同時に、鉄の鎖を振り回す。
 狭く薄暗いコックピット内で、走るリズムに合わせて銀髪が揺れる中、クリスティーナは沈着冷静に状況を判断する。
「相手の装備はモーニングスターにランスシュータベイルだね! 強力だけど重い武器! 手数と機動力なら、僕が上だよ!」
 銀色のMSは長距離で間合いを維持し、動き回りながらチェーンを薙ぎ振るった。風きり音を響かせて鎖の鞭が唸り、Katzeに火花を迸らせる。
(なるほど。得物の威力は少ないですが、その分の軽さで先制攻撃が出来るという事ですか‥‥)
 黒と灰に彩られたバリエはダメージを重ねるものの、幾つも突起の生えた分銅を高らかに掲げて振り回した。風を巻いて唸りをあげる中、キリルは黒い瞳を細める。
「届きなさいッ!!」
 絶妙のタイミングで分銅は放たれた。しかし、銀色のバリエは巧みに動き回り、その洗礼を結果的に躱す。変幻自在に分銅が振り回されるが、同時に薙ぎ振るわれる鎖の鞭がKatzeへダメージを蓄積させてゆく。
 ――俺が押されている!?
「へへん☆ 小さな損傷もコツコツと積み重ねれば、機体に大きなダメージを与えるんだよ!」
 クリスティーナが笑みを浮かばせた。チェーンを振るいながら、次第に距離を縮めてゆく。対するKatzeはモーニングスターを振り回し、距離を広げて牽制の構えだ。
「ぬぅッ!!」
 キリルは瞳を見開く。彼の視界には大自然を縦横無尽に駆け巡る銀狼が浮かんでいた。獣は左右に飛び跳ね攻撃を避け続け、やがてカメラ越しにSilveWolfが幻とシンクロする。右手に構えた高周波ダガーが唸り出す。
「好きになんかさせないよ!」
 少女の赤い瞳にKatzeの一点が集中する。
「僕は闇雲にチェーンを振るっていた訳じゃないんだから!」
 装甲が歪み削られた一点にダガーが叩き込まれた。元々装甲を犠牲にしたバリエだ。積み重ねた損傷により、左腕が機能の失う中、再び跳び退き、次の一刀を浴びせる。駆動部がショートすると火花を迸らせ、やがて黒煙が噴き上がった。
「私もまだまだ詰めが甘いと言う事ですか‥‥」
 キリルは瞳を閉じると、僅かに微笑む。
 ――場内にけたたましいサイレンが鳴り響いた。
 バトル終了を告げると同時、クリスティーナは胸部ハッチを跳ね上げ、飛び出すように両腕を掲げて力一杯に勝利を実感する。
「やったー! 僕の勝ちだよ!!」
 小さな身体一杯に歓声と祝福を受け止め、少女は満面の笑みで瞳を閉じた。
 ――凄い! まるで渦を巻いてるみたいだ♪
 僕は拍手と歓声の中でグルグルと回り続けているみたい☆
「クリスティーナ様!」
「エリアさん♪」
 少女の可愛らしい声が飛び込み、クリスティーナはパートナーを両手を広げて迎えた。赤い瞳に、一生懸命走って来る少女が映し出される。銀髪で細身の小柄なエリアは、どこかおっとりした雰囲気を醸し出す娘だ。彼女の笑顔が近づく。
「おめで‥‥きゃッ!」
 少女は小さな悲鳴と共に宙を舞う。この勢いだと床に砂煙をあげて豪快にスライディングしそうだ。しかし、床に叩き付けられる痛みも滑る感覚も無い。一寸した軽い衝撃だけを感じた。エリアは柔らかい温もりを感じて瞳を開く。
「クリスティーナ様」
「もう、トップバトラーのパートナーが埃でボロボロじゃ困るじゃない♪」
 彼女が何も無い所でよく転ぶのは何度も見て来たクリスティーナだからこそ、咄嗟にコックピットから飛び降り、エリアを支えたのだ。パートナーは少女に抱き付き、祝福する。
「おめでとう、頑張ったね。ゆっくり休むと良いよ」
「うん、そうだね」
 クリスティーナは視線をSilveWolfへ流す。
 ――おっきいわんこさんもお疲れだよね☆

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/クラス】
【0592/エリア・スチール/女性/16歳/エスパー】
【0656/クリスティーナ・クロスフォード/女性/16歳/エキスパート】
【0634/キリル・アブラハム/男性/45歳/エスパーハーフサイバー 】

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■         ライター通信          ■
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 この度は御参加ありがとうございました☆
 はじめまして♪ 切磋巧実です。
 始めに『この物語はアメリカを舞台としたボトムラインです。セフィロトにボトムラインはありませんので、混同しないようお願い致します』。また、MSの演出面もオフィシャルでは描かれていない部分を描写したりしていますが、あくまでライターオリジナルの解釈と世界観ですので、誤解なきようお願い致します。
 優勝おめでとうございます☆ これもメカニックの効果かもしれませんね。
 あ、各種ノベルを読むと分かると思いますが、イラストがあると演出の幅が広まります(笑)。これは、それぞれイメージがありますので、イラストや設定に書かれていない部分は差異が生じる可能性がある事から、描写は避けさせて頂いております。お気に召したらイラストも発注してみてはいかがでしょうか?。エリアさんがどんな容姿か気になります(笑)。髪の色も体形も身長もクリスティーナさんと似ていますからね。
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 いえ、リアクションが無いと不安にも‥‥。
 それでは、また出会える事を祈って☆