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■明言と提言■
有馬秋人
【0707】【ユリコ・カトウ】【オールサイバー】
マーケットの端っこで少年が途方にくれていた。視線はあちこちを彷徨い、露店の一つを覗き込んでは首を傾げて出て行く。そんなことを何度も何度も繰り返していた。
徐々に本格的な武器が置かれている中央ゾーンに足を踏み入れていく少年は周りが見えていないようだ。
人ごみの中をふらふらと何かを探しながら歩き続けている。露店の一つに目が引かれたのか、ふいに立ち止まった少年は前方の人影に気付くのが遅れてぶつかってしまった。
反射のように謝罪の言葉を口にしているが、相手はそれでは納まらないようだ。
さて、どうなることやら。


明言と提言


ライター:有馬秋人





マーケットの端っこで少年が途方にくれていた。視線はあちこちを彷徨い、露店の一つを覗き込んでは首を傾げて出て行く。そんなことを何度も何度も繰り返していた。
徐々に本格的な武器が置かれている中央ゾーンに足を踏み入れていく少年は周りが見えていないようだ。
人ごみの中をふらふらと何かを探しながら歩き続けている。露店の一つに目が引かれたのか、ふいに立ち止まった少年は前方の人影に気付くのが遅れてぶつかってしまった。
反射のように謝罪の言葉を口にしているが、相手はそれでは納まらないようだ。
さて、どうなることやら。





   ***





「…ここでの初仕事にしてはなかなか楽しかったわね…それにしても夏野のご飯美味しかったわね。…またあの二人に会えるといいなぁ…」
過日の出来事を思い出して、くすくす笑っていたユリコはマーケットの入り口に足を踏み入れた。先日戦っていたときにも実感したのだが、今の装備では仕事をすのに心もとない。まずは資本である武器を、と思い立ったのだ。
「さて、今日も仕事仕事!…って酒場で聞いたタクトニウムって化け物…そんな連中がいるならこの銃と今の弾薬量だけじゃ不安よね」
活気のある空気に触発されて、美味しいご飯の回想に浸っていた思考回路を現実にシフトする。鼻をくすぐるのは食欲を誘う匂いではなく、鼻につくオイルや火薬。そして血にも違えそうな金属の匂い。戦意が煽られるような。
入り口付近にあるのは護身用にもなる威力の低い銃器や細々とした装備品だ。ユリコの求めるものではない。賑わう人ごみを泳ぐように、身軽に進んでいくと中央ゾーンに到達した。そこで漸く足をとめ、露店の一つに顔を突っ込んだ。
「へぇ、なかなかいい物置いてあるのね」
手にしてずしりとした感触を確かめる。
「試し打ちするかい?」
「今は遠慮しとくわ」
「するなら言っとくれ」
弾代は当然とるからな、と側面に長い傷跡のある露店主がにぃっと笑う。愛想笑いを返したユリコは手早く銃把を握り、抜く仕草や振り上げる動作を繰り返す。シャコンと可動部も確認して、一旦置く。そのまま横のアサルトライフルを手にした。それからもマシンガンにショットガン大型銃器に触れていく。
「うーん…値が張る…」
距離を詰めて使うことが多いのを考えるとこういうものよりもハンドガンがいいかも知れない。オートマグ辺りであれば、威力のあるものもあるだろう。元々格闘は苦手ではない。銃はあくまでも補助として、接近戦メインのスタイルをたてるのもいいだろう。
視線を一列分ずらして片手で握れるサイズの銃把を取り上げた。重量は先のに比べると軽いだろう。けれど、頼りになる重さ。この列もまた、次々と持ち代えて、重心や振りの速度を確認する。
満足な品を発見したユリコは、値札を確かめて顔を顰めた。
「…でもハァ、値が張るのには変わらないのね……ってあれアイツ…また変なのに絡まれてるし…しょうがないわねまったく…」
値段の高さに目を逸らした先に、赤銅色があった。どうにも武器マーケットに似合わない相手だが、置かれている状況はなんだか相応しい気がするのは何故だろう。
体格が明らかに二周り違う相手に食って掛かる威勢はすばらしいが、自分の実力を考えていない。
ユリコは露店の亭主に適当に声をかけて駆け足で近づいた。少年の方に手を置いて、脅すようにしている男を見あげる。
「ちょっと、こんなガキ相手に何怒ってるのよ」
「ぁあん?」
ぎろりと睨まれても怯むようなユリコではない。少年の肩から強引に手を払って、目を丸くしている相手を自分の後ろに引っ張りこんだ。庇う形に抗議しようとする気配があったが一度だけ振り返り、「いいから黙ってろ」と目で告げる。
「ぶつかったって言ってもこんな子どもに壊されるような体じゃないでしょ、それとも何? その筋肉は伊達?」
ふっと笑った様に、嘲笑されていると思ったのか、男は憤慨の怒声を上げて殴りかかってくる。サイドに吊るしているショットガンを抜いていない辺りはまだ理性が残っていると見ていいだろう。しかして相手が悪かった。軍人としての動きを仕込まれているユリコに大振りの攻撃は聞かない。
どこを狙っているのか中途半端な高さで迫る拳を真下から押し上げ、軌道を変える。拳が上方へずれたせいでがら空きになったスペースに一歩で踏み込むと掌底をあてるように押し込んだ。ダンっと鈍い音と共に体が傾ぐ。
「……あっけないわね」
「あんたが強すぎるだけなんじゃないの?」
後ろからどこか呆れたような声がした。ユリコは勢いよく振り返り、腰に両手をあてて顔を顰める。
「ちょっと、助けてあげたのにその言い方はなぁに、可愛くないわよ」
「はいはい、助けてくれてありがと」
これくらいどうにかできたんだよ、とどこかふて腐れた様子の少年、花鶏にユリコは片眉を上げた。
「そういえばどうしてここに居るのよ。護身用具でも買いに来たの? アンタ危なっかしいからまぁ必要だと思うけど」
「それどういう意味なわけ、いっとくけどねっ、俺は別に一人でだって――」
「はいはい、大丈夫なのね」
花鶏の科白を遮って、ユリコは肩を竦めてみせた。
「なんか気に障る言い方…」
「それで、なんでこんなとこにいるのよ」
「夏野の誕生日がもうすぐなんだよ」
ぶすくれた顔を楽しげに覗きこんで、ユリコはにっと笑った。
「なるほど、プレゼントか。アンタも意外に可愛いとこあるわね♪ しょうがない。私も買い物のついでに手伝ってあげよう♪」
「………」
ふい、とそっぽを向いている辺り素直でない。ふんふんと楽しそうにしているユリコをちらと見あげた少年は、再び視線をそらして口を開いた。
「…女の人ってさ」
「ん?」
「どんなのが欲しいのかな」
「んんー?」
「……わかんないんだよっ、何か文句ある?」
首を傾げて、にやにやしているユリコに食って掛かった花鶏はすぐにばつの悪い顔になり俯く。その頭をぽんぽん叩いた。
「何を喜ぶかって? そうねぇ…」
ざっと辺りを見回して、目についたのは。
「あそこの置いてあるアサルトライフルとか…ってそれは私か♪」
「ああうん、あんたのじゃないから」
真剣に目を向けたらしい少年が、ユリコの科白を流さず突っ込む。しかも辛辣だ。そのつれない態度にむっとするが、花鶏の目が存外必死なのに気付いて軽く息をついた。
がやがやと賑わう道の脇で、買ったものではない、ずいぶん前から身につけている一丁の銃を取り出した。セーフィティをつけたまま銃身を天井に対して垂直に立てて神聖な何かを掲げるように扱う。
「………アンタと夏野がどうなのか知らないけどね」
少年の目が真っ直ぐにユリコに向かう。
「とりあえず気持ちがこもったプレゼントならどんな物でももらった方は大事にするわよ」
見あげる少年の視界からは、ユリコの黒髪が綺麗に光を反射していた。銃身もそれに呼応するように反射光を放つ。
「私のこの銃みたいに…ね…」
その時に浮かんでいた微笑が、いつもよりもずっと柔らかくて、花鶏はつかの間見とれる。けれどすぐに口元を緩めた。
「そっか…、俺がちゃんと選べばいいわけか。うん、分かったよ」
あんたみたいに大切にしてもらえるようなモノを探してみると笑んだ少年に、ユリコは少し照れたように笑い返し、銃をしまった。





2005/09/...



■参加人物一覧

0707 / ユリコ・カトウ / 女性 / オールサイバー


■登場NPC一覧

0204 / 花鶏
0207 / 佐々木夏野


■ライター雑記

前回に続きましてのご利用ありがとうございます。
騒動を引き起こしやすいらしいNPCですが、助けてやっていただけると嬉しいです。
火の粉があるなら煽るだけあおるようなヤツなので、鎮火していただけると幸いです。
ラストが少しばかりしんみりとしてしまいましたが、前回と比較してこういう形で落ち着けてもよいか、と締めました。
この話が少しでも楽しんでいただければ嬉しく思います。