■レセン島探訪記■
沙月亜衣
【2451】【エリア・スチール】【神聖騎士】
どこか異世界から墜ちてきたと言われている不思議な島、レセン島。
奇怪なものから危険なもの、ひょっとしたら食べたらおいしいものまで、さまざまな生物がうごめくこの島で、しばしの時を過ごしてみませんか?

フレディに懇願されて調査に同行するもよし、興味本位で上陸するもよし、砂浜でキャンプを楽しむもよし(楽しめるかどうかは微妙)、奇妙な生物を探しに来るもよし。
また、あるいは何かのきっかけでこの島に漂着して、脱出を試みるもよし。

自由にこの島での冒険を楽しんで下さい。いろいろな仕掛け(?)を用意してお待ちしています。

※基本的に、個別作成を考えています。お友達同士での探検ももちろん歓迎です。その際には、お手数ですが、プレイングにその旨添えて下さいませ。枠が足りなくて途中で閉まった際には、テラコンもしくはブログに備え付けのフォームでご連絡いただければ対処致します。

※探索する目的、場所、あと、余裕があれば季節や時間帯を書いて頂けると助かります。

※探索ポイントは随時増やしていく予定です。



レセン島探訪記 〜ある、うららかな春の午後〜

「これから僕と一緒に無人島に行ってくれませんか?」
 聖都エルザードの酒場にて。
 いきなり見ず知らずの男にはっしと手をつかまれ、エリア・スチールはその赤い瞳を瞬いた。
(えーと、これは……。やっぱり春だから?)
 何が起こっているのか把握しかねて困惑しているうちに、周りの興味深げな視線が集中する。少し人見知りをしがちなエリアの頭は、ますます混乱した。
「お願い、この通り。ね? ね?」
 金髪を無造作に後ろで束ねたその貧相な青年は、エリアの手を握るその手にさらに力を入れ、ぐっと顔を近づけてきた。
「は、はあ……」
 その勢いに押され、思わず頷いてしまうエリア。あちこちから下世話なヤジや口笛が飛び交う。
「ありがとう!!」
 エリアの戸惑いも周囲の好奇の視線も見えていないような青年は、エリアの返事を聞いた途端に破顔すると、飛び跳ねんばかりに喜んだ。
「いやぁ、よかったぁ。約束してた相手が急に都合が悪くなったとか言うんだもん。あそこは変わった生物いっぱいだし、地形的にも厳しいとこ多いから僕1人じゃ無謀だもんね。こんなに天気も良いのに今日の調査、諦めなきゃいけないかと思ったよ。本当、引き受けてくれてありがとう。すごく助かっちゃった。それにエルフさんとご一緒できるなんて光栄だなぁ」
 小柄なエリアの尖った耳や赤い目、銀髪を興味深げにしげしげと眺め、良く言えば親しげな、悪く言えば馴れ馴れしい口調で男はとめどなく話し続ける。
「あ、僕、フレデリック・ヨースター。レセン島っていう無人島の生態を研究している生物学者なんだ。フレディって呼んでくれると嬉しいな」
 青年は思い出したように自己紹介をして、エリアを促すように軽く首を傾げた。
「……わたくしはエリア・スチールです」
 結局、青年のペースに巻き込まれるように、エリアも自己紹介をしてしまう。
「エリアさんだね、どうぞよろしく」
 エリアの戸惑いに気付く風もなく、フレディはにっこりと笑ってエリアの手を握手の形に握り直したのだった。

「それでね、あそこの密林はね、植物がすごいんだ。こう、ねじ曲がっているっていうかな。こーんな大きな蛾が住んでてね、それで羽の模様が人の顔なんだよ」
 島へ向かう船の中でもフレディの無邪気なおしゃべりは留まることを知らなかった。
「……」
 エリアはそんなフレディをじっと見つめる。先ほどはこの青年の勢いに負けて島への同行を承諾してしまったものの、これはやっぱり新手のナンパだったりするのだろうか。一緒に船に乗ってしまってもよかったのだろうか。
 見た目は小柄な少女ではあるが、エリアは剣術、格闘、射撃とこなす神聖騎士。見るからに貧相なこの青年に力負けすることはないだろう。けれど、行き先が無人島というあたり、何ともうかつだったような気もする。
「それでね、今日は東の海岸で海生動物の調査をしたいと思っているんだ。あのあたりの海域では変わった魚が揚がると聞いているしね。ああ、楽しみだなぁ」
 これが演技だとしたら大したものだ。相も変わらず、エリアの心中に全く気付いていないかのように、フレディはにこやかに話し続けた。

 天候にも恵まれて、穏やかな波に揺られること数時間。船は目的地の無人島にたどり着いた。
 さして広いとは言えない砂浜に船がつけられ、2人は島へと降り立った。
「ここがレセン島……」
 小さく呟き、エリアは周囲を見回した。正面を見れば、砂浜の向こうにわずかながらの草地が続き、その奥には岩山がそびえ立っている。岩壁にぶつかった視線をそのまま南へと滑らせる。こちらは砂浜から続く磯の向こうに、濃い緑色の塊が遠目に見えた。船内でフレディの言っていた密林だろうか。反対側を見遣れば、やはりこちらも砂浜から磯へと続き、その向こうは島の中央部へと続く岩場となっていた。
 一見、何やらごちゃごちゃと詰め込んだ賑やかなだけの普通の島にも見えなくはないが、やはり漂う雰囲気には独特のものがある。とはいえ、なかなかに楽しそうだ。遊びに来るには悪くない場所かもしれない。
「ああ、すごい調査日よりだなぁ」
 空を見上げて、フレディも嬉しそうに呟いた。
「さてと。じゃあ早速……。どんな魚がいるのかな?」
 これもカムフラージュかも、とエリアが疑惑の眼差しを向ける中、フレディは脇目もふらずにいそいそと釣りの準備をし、磯に出てさっさと糸を垂れている。
 と、すぐに魚がかかったようだ。
「すごい、鱗がないし、全身紫色だ! この魚は何を食べて生きてるんだろう?」
 釣り上げた魚を見て、フレディは目を輝かせた。さっそくそれを針から外すと、まず全身をしげしげと見つめ、体長を測り、近くの小さな潮溜まりへとそれを放す。そして、一心不乱にスケッチをし、メモをとって、また海へと放す。
「ああ、エリアさん。もし釣りに興味なければ適当に遊んでてね。でも、いざという時はよろしくね」
 ここまでの作業を終えて、ようやくエリアの存在に気付いたかのようにフレディは振り向いた。そうしてそれだけ言うと、再び嬉々として釣り糸を投げ込む。
「……」
 どうやら、ナンパではなく純粋に調査をしているようだ。しかも、エリアに声をかけたのは護衛を頼むためだったらしい。
 うら若き――長命のエルフの基準で考えればエリアは十分にこう表現しても良い筈だ――乙女に対してこの態度。これは安心すれば良いのか、腹を立てれば良いのか、なかなか悩ましいところだ。けれど、少なくとも当初心配していたような、妙な下心はないと見て良いだろう。
「せっかくですからお手伝いくらいは……」
 言いながらエリアはフレディに歩み寄った。が、その足がぴたりと止まる。エリアの赤い瞳は、フレディの足元に浮かんでいる餌箱に据えられていた。
(うぁ……)
 思わず眉を寄せ、口元を押さえてしまう。小さな箱の中では赤い虫がうぞうぞとうごめいているのだ。
(なんてグロテスクなの……)
「あ、一緒に釣ってくれる? 竿ならもう1本あるから」
 また魚を釣り上げていたフレディが針を外しながらにこりと振り向いた。そして、餌箱の中から虫を一匹つまみ上げる。餌として海中に投げ込まれるのがわかっているのだろうか、虫はなんとかして逃れようと、うねうねと身をよじった。エリアにとって、その様は何とも形容しがたい不気味なものだった。
「……え、えっと、あの、浅瀬の生き物を見つける……というのはどうでしょう?」
 一瞬身をこわばらせ、エリアは引きつった笑みを浮かべた。
「あ、それ助かるな。ありがとう。お願いするよ」
 やはりエリアの心中に気付く様子もないフレディは、にっこりと微笑んだのだった。

 柔らかな春の陽射しが降り注ぎ、穏やかな波の音が耳に心地よく響く。他に人のいないこの島では、時間が実にゆったりと流れていく。
 エリアは磯にできた潮溜まりを片端から覗いて回った。中には、角の生えた巻貝や、緑色のカニといった変わった生物がたくさんいた。
「あら、可愛い」
 自然とエリアの口元がほころぶ。移動しないものはそのままに、目を離せばどこかに行ってしまうものは、先ほどのフレディと同じように、特徴や大きさ、見つけた場所を簡単にメモにとる。
 エリアは、だんだんと海の方へと移動しながら水中を注意深く覗き込み、危なくなさそうな生き物には少し触ってみた。
 岩の塊かと思ったものは、つつけば鮮やかなピンク色の煙を吐いた。すみれ色のウニのようなものは、その先についた小さな足で水底を歩いた。きらきらと輝く一角を覗けば、小指の先程の小さなクラゲが群れ泳いでいた。オレンジ、スカイブルー、ライムグリーン、さまざまな色のそれが水中に泳ぐ様は、星空を眺めているかのようだった。
「綺麗……」
 エリアは瞳を輝かせてそれを見つめた。
「わわわ!」
 と、そこにフレディの悲鳴が割り込む。
「エリアさん、エリアさん、エリアさん!」
 その声に振り向けば、フレディがしがみつくように釣り竿を握っていた。その先は大きくしなり、海面に触れそうになっている。否、それどころかフレディ自身がじりじりと沖へと引きずられている。
「て、て、手伝って! 大物が!」
 言われるまでもなく、エリアはフレディに駆け寄っていた。
「うわっ」
 水に足を取られたのか、フレディの上体が大きく泳いだ。
「フレデリック様!」
 間一髪、フレディの身体が海中に叩き込まれる前に、エリアがフレディの手ごと竿をつかむ。
「あ、ありがとう。助かったよ」
 その間にフレディは体勢を立て直した。その間にも竿はものすごい力で引っ張られている。
「大きい……ですね」
「聖都で……魔法使いさんに強……化してもらったから、糸はっ……切れないと……思うよ」
 歯を食いしばりながら、フレディが言う。だが、この貧相な学者には、糸が切れない方が危険なのではないだろうか。現に先ほどだって海に引きずり込まれるところだったのだ。
 けれど、エリアにもそこをいちいちつっこんでいる余裕はない。
「釣り上げるのは……苦しい、ですね。砂浜に、引き上げましょう」
 幸いなことに、すぐそこが砂浜だ。
 エリアとフレディは、2人がかりでじりじりと砂浜の方へ魚を引きずった。向こうの方で、魚が跳ねる。
「あれ……、お魚?」
 ちらりと見えたその姿に、エリアは思わず目を丸くした。何だか妙なものがちらりと見えた気がしたのだ。
「エ、エリアさん、と……ともかく引き上げよう」
「ええ……」
 引いては緩め、緩めては引き。それから十数分に及ぶ死闘の末、ようやくそれは砂浜に引き上げられた。
 が。
「脚……、ですよね」
 エリアは呆然とそれだけを呟いた。その巨大な魚には、本来腹鰭のあるべき場所に、にょっきりと脚が生えていたのだ。それも、鱗や毛に覆われていない、人間のような脚が。さすがに足の部分は水鳥のそれのように細い指に分かれ、水かきがついているが。
 しかも、あろうことかそれはその足で歩いて2人の方へと向かって来た。
 魚が。
 陸を。
 歩いてくる。
 もしも、太陽が西から昇ってくるのを見たら、きっとこんな気分になるのではないだろうか。それまでの常識を跡形もなく粉砕するそれは、何とも衝撃的な光景だった。
 脚が縦に2本ついているため、カニ歩きのように横向きになって歩いてくるのだが、それは滑稽でもあり、かつ言いようのない本能的な恐怖を引き起こすものがあった。
「エ、エ、エリアさん、あれ、何とかして」
 その魚の異様さは学者の探究心をも上回ったらしい。フレディはすっかり動転した顔でエリアの腕をつかみ、魚のような生き物を指す。
「あ、でも、殺さないで!」
 自分の言葉で正気に返ったか、フレディは慌てて付け足した。
「えっと……」
 エリアは思わず困惑を顔に浮かべる。殺さずに何とかしろ、とはどうすればいいのだろう? よもやあの魚がエリアに懐くとは思えないし、そもそも懐かれたくもないのだが。
 妙案も浮かばないまま、とりあえずエリアが一歩前に出たその時、どさり、と重たそうな音を立ててその魚は倒れてしまった。どうやら、そもそもがバランスが悪い上に、慣れない砂地に足を取られたらしい。
「……」
 魚は大きな目を見開いて、脚をばたばたさせた。しばらく横になったまま脚をばたつかせたかと思うと、ぽたりと足が地に落ちる。そして数秒後、再び魚は両足をばたつかせた。
 どうやら1人では起き上がれないらしい。
「……大変だ、死んでしまう!」
 ふと我に返ったフレディが、魚のもとへと駆け出して行く。
「水! エリアさん、水!」
 スケッチをとる一方で、魚の動き具合に目を配り、慌ただしくフレディは叫んだ。
「ええと、はい、水ですね」
 エリアはほとんど反射的に返事をし、バケツを手に海へと走ったものの、けれどたかだかバケツ一杯の水でフレディは何をする気だろう、とふと疑問が浮かぶ。
 でも、まあいいか、とエリアはバケツを海中へと突っ込んだ。
 砕けた水面に、春のうららかな陽射しが跳ねる。
 こんなによい気候で。変なのも多いけど、楽しくて可愛くて綺麗な生き物もいっぱいいて。
 今度はバカンスで来るのも良いかもしれない。水を汲みながらそう思うエリアだった。

<了>
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2451/エリア・スチール/女性/16歳(実年齢48歳)/神聖騎士】

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■         ライター通信          ■
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初めまして。こんにちは。ライターの沙月亜衣と申します。この度はご発注、まことにありがとうございました。
春のよく晴れたポカポカした日、とのご指定でしたので、少しほのぼのテイスト(?)で書かせて頂きました。今回は危険な生き物はちょっとお休み、ということで。
のどかな雰囲気とはいえ、フレディのお守り役、おつかれさまでした。また気が向かれましたら次はバカンスでおいで下さいませ。

PC様のイメージと違うようなところがあれば申し訳ありません。とまれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。ご意見等ありましたら、遠慮なくお申し付け下さい。できるだけ真摯に受け止め、次回からの参考にさせて頂きたいと思います。

それでは、またどこかでお会いできることを祈りつつ、失礼致します。本当にありがとうございました。

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