■聖者の石■
霜月玲守
【2872】【キング=オセロット】【コマンドー】
 石屋、エスコオド。聖都から離れた森の中にあるというそこには、本来ならば路傍の石にしか過ぎぬ石が、所狭しと売られている。
 世界中から様々な石を仕入れてくる店主エディオンは、肩からかけている袋から一つの石を取り出した。
 真っ黒なその石は、見ているだけで禍々しさを感じるほどだ。
「これはまた、ロウエイ石としても見事ですね」
 エディオンは苦笑し、石を見た。見ていると、ふわりと黒の霧が浮かんで来た。そしてそれは、エディオンに向かって掴もうとする手のような動きを見せた。エディオンは苦笑し、その手をひらりとかわす。
「貪欲ですね」
 エディオンはそう言うと、ポケットから水晶のように輝く石を取り出す。そこから光が放たれ、黒の霧は石へと戻っていった。護身用の結界石だ。
「とりあえずはこの石で封じて……鎮めて貰うしかなさそうですね」
 結界石を黒い石の隣に置いて呟き、エディオンはそっと黒い石に触れる。そこから読み取れたのは、泣いている尼の姿だった。
 尼は泣きながら呟いている。
『愚かな、愚かな私。ああ、どうか……』
 エディオンはそれを確認し、依頼書を書いた。泣いている尼を見た事、彼女がしきりに『愚かな』と石に向かって呟いていた事。そして最後に、この石を取ってきたのがカルブ村の教会近くだと言う事を付け加える。
「比較的最近に出来たらしい石ですから……まだ、あの尼は生きているかもしれませんね」
(もっとも、自らを愚かだと言った事を忘れているかもしれませんが)
 エディオンは呟き、完成した依頼書を入り口に設置してある掲示板へと貼りに行くのだった。
聖者の石


▲序

 石屋、エスコオド。聖都から離れた森の中にあるというそこには、本来ならば路傍の石にしか過ぎぬ石が、所狭しと売られている。
 世界中から様々な石を仕入れてくる店主エディオンは、肩からかけている袋から一つの石を取り出した。
 真っ黒なその石は、見ているだけで禍々しさを感じるほどだ。
「これはまた、ロウエイ石としても見事ですね」
 エディオンは苦笑し、石を見た。見ていると、ふわりと黒の霧が浮かんで来た。そしてそれは、エディオンに向かって掴もうとする手のような動きを見せた。エディオンは苦笑し、その手をひらりとかわす。
「貪欲ですね」
 エディオンはそう言うと、ポケットから水晶のように輝く石を取り出す。そこから光が放たれ、黒の霧は石へと戻っていった。護身用の結界石だ。
「とりあえずはこの石で封じて……鎮めて貰うしかなさそうですね」
 結界石を黒い石の隣に置いて呟き、エディオンはそっと黒い石に触れる。そこから読み取れたのは、泣いている尼の姿だった。
 尼は泣きながら呟いている。
『愚かな、愚かな私。ああ、どうか……』
 エディオンはそれを確認し、依頼書を書いた。泣いている尼を見た事、彼女がしきりに『愚かな』と石に向かって呟いていた事。そして最後に、この石を取ってきたのがカルブ村の教会近くだと言う事を付け加える。
「比較的最近に出来たらしい石ですから……まだ、あの尼は生きているかもしれませんね」
(もっとも、自らを愚かだと言った事を忘れているかもしれませんが)
 エディオンは呟き、完成した依頼書を入り口に設置してある掲示板へと貼りに行くのだった。


▲集

 森の中を颯爽と歩きながら、キング=オセロットは小首を傾げていた。
(何故、私はこの森を歩いているんだ?)
 何も考えずに歩いていた筈なのに、気付けば森の中を歩いていた。無意識に。まるで、運命の糸に手繰り寄せられたかのように。
 キングはそう考え、くつくつと笑った。森の中に一体どのような運命が待ち受けているというのだ。
(野生動物とのふれあいか?それとも、魔獣との戦闘か?)
 いずれにしても、木々の他には何も無い。そう、思っていた矢先だった。
「……なんだ、あれは」
 森の中に、店が建っていた。キングは眉間に皺を寄せつつ、その店に近付いた。
 石屋エスコオド、と書いてある。
 店の入り口付近には、掲示板があった。そして、件の依頼が書かれている張り紙も。
「こんな所に、店があったとは」
 このような中で店を出して、果たして採算が在るのだろうか?キングは苦笑を交えつつ、店の入り口を開けた。
「いらっしゃいませ」
「あなたが、店主?」
「そうです。エディオンと言います」
 にこ、と笑いながらエディオンが答える。キングは掲示板のある方を指差しながら「あれを見たんだが」と言う。
「あの依頼を、引き受けたい」
「有難うございます。……では、こちらに」
 キングの申し出にエディオンはそう言い、店の奥へとキングを誘う。
「後で、詳しい説明をします。もう少ししたら休憩を入れますので、それまで待っていただけますか?」
「すぐには、説明しないのか?」
 キングが不思議そうに尋ねると、エディオンは微笑みながら首を振る。
「私の道楽でやっているのではないので、それは出来ないんですよ」
「それは、どういう意味だ?」
 キングは尋ねたが、エディオンは答えなかった。そして「それでは」と言って店のほうへと行ってしまった。
 一人残されたキングは、エディオンが案内した奥の部屋のドアを掴む。他にも、誰かいるようだ。
(一緒に待っておけ、という事か)
 キングは苦笑を漏らし、ドアを開けるのだった。


 再び、奥の部屋にエディオンが現れた時には、四人になっていた。皆、石屋エスコオドの依頼を引き受ける者達である。
「全員で四名ですね。では、ここにいる四人の方にお願いします」
「そりゃあ構わねぇが……よくもまあ、こんな辺鄙な所に四人も来たよな」
 オーマ・シュヴァルツがけらけらと笑いながら言うと、隣にいたキングが「全くだ」と頷く。
「それも、同じような時期に。気が向いたから、来ただけだと言うのに」
「まるで、何かの運命のようですね」
 にこ、と柔らかく笑いながらシルフェが言う。
「そういうのはあるかもしれない。引き寄せられるみたいに」
 リージェ・リージェウランも、シルフェに同意しながら頷く。そこで四人は顔を見合わせて考え込むが、やはり答えは出ない。エディオンは「まあまあ」と言って苦笑する。
「ある意味、そういう運命にあったんですよ。それよりも、依頼についてお話ししますね」
 エディオンはそう言い、コト、と音をさせて机の真ん中に石を置いた。
 見ているだけで禍々しい、真っ黒な石である。
 そしてその隣にすぐ、また違う石を置いた。こちらは水晶のような輝く石であり、隣に置いてある黒い石を封じ込める為の結界を張るものだと、すぐに分かった。
「これが、ロウエイ石か?」
 黒いほうの石を見つめながらキングが尋ねると、エディオンは頷いた。
「あまり近くに寄らない方が良いでしょう。一応封じてはいますが、それ以上に貪欲かもしれませんから」
「わたくしにも手を伸ばすかどうか、試してみたいのですが……」
 シルフェがいうと、エディオンは「駄目です」とシルフェを制する。
「恐らくは、あなたにも手を伸ばすでしょう。危険です」
「貪欲、とは物騒な話だな。一体何に対して貪欲なんだ?」
 オーマが尋ねると、エディオンはゆっくりと首を振る。
「詳しい事は、私にも読み取れませんでした。ただ、何かを掴もうと……得ようとしているのは間違いないようです」
「その何かというのは、具体的には何なのでしょうか。表の張り紙には、泣いている尼の方が関わっているとありましたが……」
 シルフェが言うと、エディオンは一つ頷く。
「愚かな、とも言ってました。何かがあるのは間違いありませんが、それがどういうものなのかは良く分かりませんね」
「つまり……直接カルブ村に行かなければ分からない、という事?」
 リージェがいうと、エディオンは「そうなりますね」と頷いた。四人は顔を見合わせ、一つ大きく頷きあった。
 目的地は、カルブ村であるという確認だ。
「おっと、その前に」
 オーマはそう言い、袂から一本の花を取り出した。偏光色に光るその花をそっと黒い石に近づけると、花は赤黒い色となった。
「何ですか?それ」
 シルフェが尋ねると、オーマは「心を映す花だ」と答える。
「人の思いを映し見て輝く、ルベリアの花っていうんだ。……こんな色になっちまったがな」
 オーマは赤黒く染まった花をひらひらと振る。それが人の心を映したのだとすれば、中々にして禍々しい色であった。


▲村

 カルブ村は、田園風景が広がる平和な村だった。農作業に勤しむ人々の姿は好感を与え、時折そこらを駆け回っている子ども達の姿も愛らしい。
「平和な村だ。……とても、いい村だな」
 リージェは呟き、微笑む。その横でシルフェが大きく伸びをしている。
「本当に、気持ちのいい村ですね」
「村を堪能するのはその辺にして、さっさと取り掛かろう。ここからは手分けをし、情報を集めるのがいいと思うんだが」
 キングがいうと、オーマが「賛成」と言ってにやりと笑う。
「それで、また集合して情報交換と行こうぜ。そうすりゃ、早く解決する事も可能だろうしな」
 四人は互いに顔を見合わせ、再び中央広場に集合する事を決める。そして、それぞれが情報を集めるために別れていくのだった。


 キングが向かったのは、村の西側だった。西側には店が多く並んでいた。商店街のようなものだろう。
 全体的に穏やかな雰囲気をかもしだしている村だが、流石に店は活気に溢れていた。安い、美味しいといったような文句がしきりに飛び交っている。
 そんな中、キングは酒場に目を留めて足を踏み入れた。このような店の中で、一番情報を手に入れやすいのは酒場だ。アルコールが人の口を軽くさせるのだろうか。
 カラリ、という音をさせながら中に入るが、中には客が殆どいなかった。端の方に二人か三人くらいいるというだけだ。昼間だから仕方が無いが。
「おや、お客さん。旅の人かい?」
 カウンターの向こうからバーテンダーらしき初老の男に声をかけられ、キングは頷いた。そして男の丁度目の前になるような場所に座る。
「このような村に来るなんて、珍しいね」
「そうか?穏やかで、いい村だが」
「有難う。……何にするかね?」
「では、軽いものを」
 これから調査だという事を踏まえ、キングは注文する。男は「はい」といい、すぐに出してくれた。淡い青色のカクテルだ。
「この村の宗教について、聞きたいんだが」
「宗教っていうと……ああ、一つだけ教会があるな」
「その教会には、宗教的な戒律とかはあるのか?」
「そうだなぁ。神は全ての者に平等であるとか、そういう教えだったと思うがね」
(強かったり、変に厳しかったりするものではないようだな)
 キングはそう判断する。お酒に口をつけていると、男は小さく溜息をついた。
「あの教会も……尼さん一人で大変そうだよ」
「尼僧が一人だけなのか?」
「ああ。一年前、旅人の男が身を寄せていてな。彼がそのままこの村にいてくれるのだとばかり思っていたのだが……」
(旅人の男、だと?)
 キングは眉間に皺を寄せる。
「その男はどうした?」
「気付いたら、村から出ていっていたよ。風の噂では、病気で亡くなったとか」
「亡くなった……。その事をその尼僧は知っているのか?」
「ああ。小さな村だからな、あっという間に知れ渡ったよ」
 キングはじっと考え込む。訪れた旅人がそのままい続けるといわれるまで、尼僧と仲良くしていたという事は容易に想像がついた。もしもそのような存在が亡くなったとしたら尼僧はどう思うだろうか?
「それで……その尼僧はどういう人なんだ?」
「いい人だよ。いつも優しくて、気立てのいい人だ。一年前……酷く塞ぎこんでいてな」
「それは、亡くなったという噂を聞いてか?」
「それくらいだったと思う。だが、数日後には何も無かったかのように振舞っていたよ。皆で気丈な人だと言ったものさ」
(気丈?……いや、それは忘れてしまったのではないか?)
 自らを愚かと罵る尼僧。何かしらの過ちを犯し、それを石に呟きつづけて封じ込めたとは考えていた。だが……。
(人の想いは凄いものだな)
 感心している場合ではないが、思わずキングは感心してしまった。良くも悪くも、すごいものだ、と。
「有難う。色々参考になった」
 キングはそう言うと、酒の代金を男に渡して酒場から出た。そして、皆と再び合流する為に中央広場へと向かう。
「尼僧に会わなくては……」
 勿論、慎重に。そう心の中でキングは呟き、足を速めるのだった。


▲尼

 再び皆に合流し、情報を交換し合う。皆、同じような情報であった。
 教会には尼が一人だけいて、一年前に旅人である男性と仲良くしていたという事。そして、その男性は風の噂によると病気で亡くなっているとの事だ。
「似たような情報だな」
 キングがいうと、リージェは「という事は」と続ける。
「それだけ確かな情報だという事にもなる」
「そうですね。そして、これ以上はご本人に聞くしかないという事ですね」
 シルフェがいうと、皆が頷く。
「ともかく行ってみようぜ。なるべく慎重に、刺激をしないようにな」
 オーマの言葉に、皆は再び頷いた。情報を得た時、皆一様に感じたのは尼に対する気使いだった。尼が抱いている思いの裏にあるのは、哀しい現実なのではないだろうかと皆が思っているのである。
 教会は、中央広場から少しだけ歩いたところにあった。ぽつんとそれだけしか建物はなく、周りには何も無い。あるといえば、恐らく教会が世話をしているだろう小さな畑と花壇だった。
 四人が扉に近付くと、扉は開放されていた。誰でも自由に入れるようにという、計らいなのかもしれない。
「こんにちはー」
 シルフェが声をかけると、中から一人の尼がやってきた。年は30歳くらいだろうか、全体的に柔らかな雰囲気を持っている女性だ。
「こんにちは。ええと……皆さん、旅の方ですか?」
「ああ。ここは、あんた一人でやってるのかい?」
 オーマが尋ねると、尼は「ええ」と言って微笑んだ。
「私一人ですから、中々手の回らない部分もありますが」
「あたし達のような旅人は、あまり来ないのかな?」
 リージェが尋ねると、尼は「そうですね」と言って微笑む。
「小さな村ですから。長く滞在される方も、いらっしゃいませんね」
 尼の言葉に、四人は顔を見合わせる。一年前の、旅人に着いては全く触れていないからだ。やはり、忘れているのだろうか?と互いの目線で話し合う。
「そう言えば……この教会にはご神体みたいなものは、あるかな?」
「ご神体、ですか?」
 キングの問いに、尼は小首を傾げる。
「例えばそう……石とか」
 キングの言葉に、皆がはっとした顔をし、続けて尼を見た。尼は一瞬身体をびくりと震わせた後、小さな声で「いいえ」と答える。
「石に、何か心当たりでもあるのでしょうか?」
 シルフェがやんわりと尋ねると、尼は目を大きく見開いたまま「いいえ……」と首を振り、すぐに「違う」と呟く。
「石……私は、知っている……?石……」
 尼は何度も呟き、そして小さく「愚かな」と呟く。
「何が愚かなのだ?」
 キングが尋ねると、尼は「私が」と答える。
「何故だ?俺ぁ、全くあんたが愚かだ何て風には見えねぇぜ?」
 オーマが言うと、尼は何度も「違う」と呟く。
「何が違うんだ?何でそう言う風に、愚かだ何て言うんだ?」
 リージェが尋ねると、尼は頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
「私は愛してはならなかったのに」
「どういう事ですか?……一年前に来たという、旅人の方ですか?」
 シルフェが尋ねると、尼ははっとした表情をしてゆっくりと顔を上げる。
「そう……そうだわ。私は神に仕える身だから……。あの人を愛してはならなかったのに」
「そんな事はないだろう。そのような戒律がある訳でもないのに」
 キングはそう言い、続けて「人は皆平等、が教えなんだろう?」と続ける。
「私もそう思っていました!だけど……だけど……!」
「病気、か」
 ぽつりとオーマがいうと、尼はこっくりと頷いた。
「私は愚かなのです。あの方を愛し、この村にひきとめようとし、更にここには残れないといったあの方を恨んでしまったのです!」
「でもそれは、単なる偶然でしょう?そんな事で、旅の人は病気になった訳では……」
 シルフェがいうが、尼は何度も「違います」と言って泣き叫ぶ。
「私があの時、あの方を愛さなければ!恨まなければ!あの方は……」
「そんな事、関係ない!あんたがそう言う風に思う必要は、何処にも無い」
 リージェがいうが、尼は「いいえ」と繰り返す。
「私は愚かなのです!……愚かな、愚かな私」
「……あんたは、それを分かったじゃねぇか。それで、いいじゃねぇか」
 オーマはそう言い、袂から花を取り出す。赤黒く染まっている、ルベリアの花を。元となっている尼が近くにいるためか、更に色は濃く光っている。
「これは……?」
「あんたの歪んだ気持ちが、こんな禍々しい色にしちまってるんだ。あんたの愛した旅人は、あんたがこういう色の気持ちを持つことを願ったのかい?」
 オーマの言葉に、尼は口を噤む。
「もう、許してやっても良いのではないかな?石も、あなた自身も」
「許す……?」
 キングはそう言い、尼の肩を優しく叩く。
「あなたは石に罪を告白した。告白した罪は、許される」
「許される……。私の罪が……愚かな私の……」
「それでも、愛していたんですよね?旅の方を。求めていたんですよね?」
 シルフェがいうと、尼は黙ったまま涙を流す。
「あなたが愚かだと呟き続けた石は、何かを掴もうとしていました。それは、それでも旅の方を愛していたからではないでしょうか」
「それでも……愛していたから……?」
「あたしも、そう思う。それは決して変な事じゃない。だから、もういいんだ」
「もう……いい……」
 リージェは頷き、歌を歌う。優しく響く調べ、柔らかな空気が包む声。尼の心を、溶かしていくかのように浸透する。
「私は……私の罪は……いいのでしょうか?」
 尼は小さく呟いた。その言葉を聞き、四人はそっと頷いた。尼は四人を見回し、そっと微笑む。
「ほら……あんたの心が綺麗になったから、花も色を変えたぜ?」
 オーマはそう言い、花を尼に差し出す。具現の力を応用して輝石化させた花の色は、柔らかな薄紅色。淡い色は、優しさを思い起こさせた。
 尼はそれを受け取り、大声で泣き叫んだ。魂が震えるような、声だった。


▲結

 哀しい影を持ちつつも、すっきりした表情になった尼に見送られ、四人はカルブ村を後にした。辛いという傷は当分癒えないだろうが、それを乗り越えられる事だろう。
 彼女は、自覚をしたのだから。
 そして再び石屋エスコオドに到着したのは、既に日が落ちかけている頃だった。
「皆さん、お疲れ様でした」
 エディオンはそう言って四人を出迎え、同じように奥の部屋へと案内する。そして四人が何かを言う前に、机の上に黒い石を置いた。既に隣に結界石を置くことは無かった。そうしなくとも、石からは禍々しさを感じる事は無かったからだ。
「お陰で、この石はちゃんと売り物とする事が出来ます」
「売り物って……尼の想いは浄化されたんだろ?」
 オーマがいうと、エディオンは微笑みながら「ええ」と頷く。
「ですから、穏やかな気持ちを得る石となりました」
「穏やかな気持ち?」
 キングが尋ねると、エディオンは石をキングに差し出した。
「どうぞ、触れてみてください。心が落ち着くような、穏やかな気持ちになるはずです」
 エディオンから石を受け取ると、確かにそのような気がしてきた。持っているだけで、やんわりとした気持ちが広がる。
「落ち着きますが……どこかしら、哀しい気持ちも思い出させますね。じんわりと、自分の持っている罪を思い出させるかのような」
 シルフェもキングの次に石を持って、そのように呟く。エディオンは「そうですね」と言って、苦笑する。
「それは、仕方の無い事でしょう。彼女が作り出した、石なのですから」
「この石、誰が欲しがるんだ?欲しがる人がいるのか?」
 リージェが尋ねると、エディオンは「勿論です」と言って微笑む。
「自らの罪を、静かな心で見つめたい方がいらっしゃるでしょう。言うなれば……聖者となりたい人の為の石なのです」
 エディオンの言葉に、四人は顔を見合わせた。
 聖者の石。
 確かにこの石は、そう呼ばれてもいい石なのかもしれない。四人は妙な納得と共に、自分たちを見送ってくれた尼の顔を思い返した。
 自らの抱え込む罪の意識を、静かに見つめる事のできる尼の顔を。

<聖者の石は静かに存在し・了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男 / 39(999) / 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り 】
【 2872 / キング=オセロット / 女 / 23(23) / コマンドー 】
【 2994 / シルフェ / 女 / 17(17) / 水操師 】
【 3033 / リージェ・リージェウラン / 女 / 17(17) / 歌姫/吟遊詩人 】

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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました、コニチハ。霜月玲守です。この度は初ゲームノベル「聖者の石」にご参加いただき、本当に有難うございます。
 ヒントが少なかった中で、皆様がしっかりと動いてくださって嬉しいです。分かりにくくて申し訳ない、とびくびくしていましたが、いらぬ心配だったようです。
 キング=オセロットさん、初めてのご参加有難うございます。尼の心を許そうと仰っていただけて、嬉しかったです。
 今回、個別の文章を交えております。宜しければ他の方の文章も併せて読んで見てくださいませ。
 ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。それではまたお会いできるその時迄。

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