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■■Love Phantom-Dream Drug-■■
東圭真喜愛
【0026】【プティーラ・ホワイト】【エスパー】
■Love Phantom-Dream Drug-■

 かつて赤く凪いだ土地のため、ひとりの少女が自らの罪のため犠牲になった。
 その少女を人は天使と呼び、その天使の唄声が聞こえる時、

 「それ」は始まるという。

 Dream Drug
 そう呼ばれた究極の薬の再来か。

 それとも、
  愛に死した者の再来か。

 恐れ慄く者に残されているのは、無の空間のみ。
 神の手毬の中で翻弄されるは、いずこの流浪か───
 何れにしても、決して。
 決して、恐れてはならない。
 「それ」が来ても。



「おい。おい、ユキト!」
 聞き覚えのあるその声に、青年は、はっと目を覚ました───びっしょりと、汗をかいている。
 視界には、自分を心配している執事や使用人、そして来客の者、親友の───シノム・瑛の顔がある。
 いくぶんほっとして、青年───世界有数の財閥、その頂点に立つ若頭のユキト・ヤノは周囲の手を借りて起き上がる。
 彼が執筆業をしており、その中に出てくる自らが命を与えたキャラクターの「少女」の夢を見て毎晩苦しんでいる、というのは内容も共に、この会場に招かれた者の殆どは知っていた。
 そして、彼が余命一年である、ということも。
 彼専用ドクターがしばらく診察していたが、「パーティーを続けても大丈夫だ」と診断を下す。片眼鏡のこのドクター、まだ歳こそ若いが、腕は確かだった。ユキト専用ドクターと公認されながらも、主人の許可も得て、時折スラムにまで足を伸ばし、無償で、金の払えない深刻な病人達を診ることもあるのだという。
「すまない、皆さん。パーティーを続けてください」
 すっと通った鼻梁、すっきりと整った顔立ちに、滑らかな低音の声。色が白すぎるがそれすらも、ユキトの魅力となっていた。
 確か、歳は今年で27になるはずだ。
「前から気になってたんだが、ユキト。その夢はお前が書いたあの人気絶頂の本に出てくる文章、そしてキャラの女の子だったんだよな。内容は確か……少女が無意識に超能力を使い、巨大流砂を起こして街を次々に飲み込み、世界を破滅させてしまうから、彼女を研究していた研究員達が『いい夢を見る薬だ』と言ってついに毒薬を飲ませる。それが、永久に眠りから絶対に覚めない、いい夢しか見続けないという───Dream Drug。それで世界は救われ、少女は永遠の眠りにつく。そんな話で間違いなかったか?」
 瑛の真面目な言葉に、ユキトは苦笑する。
「ああ。よく覚えていてくれたな」
「その夢はお前の不安の表れなんじゃないのか? それがお前の───原因不明と言われている病気の素なんじゃないのか?」
 突飛な意見に、ユキトは目を丸くした。
 確かに、ユキトの病気は不知の病ではある。確実に身体機能が弱っているからで、一日歩いてすごせば十日は起き上がることも出来ない。しかし、未だ病名は不明なのだ。だから───逆に言えば、対処法が見つからずに不治の病、でもあるのだが───。
 ユキトはだが、すぐにまた微笑んだ。ゆっくりと、身体に害のない、ユキト専用に作られた酒の入ったグラスを傾けて口の中にそそぐ。
 そして、あらためて瑛を見つめた。
「あの本にはストーリーとしては書かなかったが、裏話としてDream Drugには『9つ飲ませたら死者をも蘇生させることができる』作用もあるんだよ。……俺はそれを望んでいるのかもしれないな」
 だから、あんな夢を見るのかもしれない。
 こうして余命一年と分かった今、新年を迎えて第一日目の日に。
 恐らくは最期の新年だからと、貧富も年齢の差もなく、服装制限もつけずに自分の豪邸に知人や友人、そうでない者も招んでいた。
 皆、楽しそうだ。
 瑛の知り合い達もこの会場にきているはずだが、料理や飲み物、ニューイヤーパーティーのプレゼントを楽しんでいるのだろう。
 その瑛は、ゆっくりと、言った。
「───ユキト。
 お前が今さっき発作で倒れる寸前に、俺は見たんだ。
 お前の───すぐ背後のカーテンの陰に、黒い覆面までした、全身黒ずくめの人影がいた。そいつが近寄ってきた途端に、お前は倒れた。何か関係があるのかもしれない」
 すう、とユキトの白い顔から更に血の気が引いていくのが分かった。
「全身黒……覆面……?」
 再び倒れこみそうになるのを、使用人と共に瑛は支える。
「知り合いか?」
 冷静な瑛の問いに、ユキトはつぶやくようにこたえる。
「ついこの前、少し足を伸ばしたとき、セフィロトの奥地まで迷い込んだことがあった。そこには人がこっそり住んでいるような、とても小屋ともいえない小屋があった。そこで俺は、『そいつ』に会った。『そいつ』が言った、俺の顔に死相が出ている、と」
「───」
 そんな身体で奥地まで、と叱り飛ばしそうになったが、瑛は耐えた。余命少ない人間が、無理をしたがる気持ちも分かったからだ。
 どうも、何かが引っかかる。
 「何かが」、「誰かが」。
 この、ユキト・ヤノの「いくばくもない命」を、裏で糸を引いているような気がしてならない。
 ニューイヤーパーティーは、様々な人間が集まっている。
 ───ちょうどいい。
 瑛は集まっていた知人達や協力者を呼び、この「不可解な謎」を解くことにしたのだった。
■Love Phantom-Dream Drug-■

 かつて赤く凪いだ土地のため、ひとりの少女が自らの罪のため犠牲になった。
 その少女を人は天使と呼び、その天使の唄声が聞こえる時、

 「それ」は始まるという。

 Dream Drug
 そう呼ばれた究極の薬の再来か。

 それとも、
  愛に死した者の再来か。

 恐れ慄く者に残されているのは、無の空間のみ。
 神の手毬の中で翻弄されるは、いずこの流浪か───
 何れにしても、決して。
 決して、恐れてはならない。
 「それ」が来ても。



「おい。おい、ユキト!」
 聞き覚えのあるその声に、青年は、はっと目を覚ました───びっしょりと、汗をかいている。
 視界には、自分を心配している執事や使用人、そして来客の者、親友の───シノム・瑛の顔がある。
 いくぶんほっとして、青年───世界有数の財閥、その頂点に立つ若頭のユキト・ヤノは周囲の手を借りて起き上がる。
 彼が執筆業をしており、その中に出てくる自らが命を与えたキャラクターの「少女」の夢を見て毎晩苦しんでいる、というのは内容も共に、この会場に招かれた者の殆どは知っていた。
 そして、彼が余命一年である、ということも。
 彼専用ドクターがしばらく診察していたが、「パーティーを続けても大丈夫だ」と診断を下す。片眼鏡のこのドクター、まだ歳こそ若いが、腕は確かだった。ユキト専用ドクターと公認されながらも、主人の許可も得て、時折スラムにまで足を伸ばし、無償で、金の払えない深刻な病人達を診ることもあるのだという。
「すまない、皆さん。パーティーを続けてください」
 すっと通った鼻梁、すっきりと整った顔立ちに、滑らかな低音の声。色が白すぎるがそれすらも、ユキトの魅力となっていた。
 確か、歳は今年で27になるはずだ。
「前から気になってたんだが、ユキト。その夢はお前が書いたあの人気絶頂の本に出てくる文章、そしてキャラの女の子だったんだよな。内容は確か……少女が無意識に超能力を使い、巨大流砂を起こして街を次々に飲み込み、世界を破滅させてしまうから、彼女を研究していた研究員達が『いい夢を見る薬だ』と言ってついに毒薬を飲ませる。それが、永久に眠りから絶対に覚めない、いい夢しか見続けないという───Dream Drug。それで世界は救われ、少女は永遠の眠りにつく。そんな話で間違いなかったか?」
 瑛の真面目な言葉に、ユキトは苦笑する。
「ああ。よく覚えていてくれたな」
「その夢はお前の不安の表れなんじゃないのか? それがお前の───原因不明と言われている病気の素なんじゃないのか?」
 突飛な意見に、ユキトは目を丸くした。
 確かに、ユキトの病気は不知の病ではある。確実に身体機能が弱っているからで、一日歩いてすごせば十日は起き上がることも出来ない。しかし、未だ病名は不明なのだ。だから───逆に言えば、対処法が見つからずに不治の病、でもあるのだが───。
 ユキトはだが、すぐにまた微笑んだ。ゆっくりと、身体に害のない、ユキト専用に作られた酒の入ったグラスを傾けて口の中にそそぐ。
 そして、あらためて瑛を見つめた。
「あの本にはストーリーとしては書かなかったが、裏話としてDream Drugには『9つ飲ませたら死者をも蘇生させることができる』作用もあるんだよ。……俺はそれを望んでいるのかもしれないな」
 だから、あんな夢を見るのかもしれない。
 こうして余命一年と分かった今、新年を迎えて第一日目の日に。
 恐らくは最期の新年だからと、貧富も年齢の差もなく、服装制限もつけずに自分の豪邸に知人や友人、そうでない者も招んでいた。
 皆、楽しそうだ。
 瑛の知り合い達もこの会場にきているはずだが、料理や飲み物、ニューイヤーパーティーのプレゼントを楽しんでいるのだろう。
 その瑛は、ゆっくりと、言った。
「───ユキト。
 お前が今さっき発作で倒れる寸前に、俺は見たんだ。
 お前の───すぐ背後のカーテンの陰に、黒い覆面までした、全身黒ずくめの人影がいた。そいつが近寄ってきた途端に、お前は倒れた。何か関係があるのかもしれない」
 すう、とユキトの白い顔から更に血の気が引いていくのが分かった。
「全身黒……覆面……?」
 再び倒れこみそうになるのを、使用人と共に瑛は支える。
「知り合いか?」
 冷静な瑛の問いに、ユキトはつぶやくようにこたえる。
「ついこの前、少し足を伸ばしたとき、セフィロトの奥地まで迷い込んだことがあった。そこには人がこっそり住んでいるような、とても小屋ともいえない小屋があった。そこで俺は、『そいつ』に会った。『そいつ』が言った、俺の顔に死相が出ている、と」
「───」
 そんな身体で奥地まで、と叱り飛ばしそうになったが、瑛は耐えた。余命少ない人間が、無理をしたがる気持ちも分かったからだ。
 どうも、何かが引っかかる。
 「何かが」、「誰かが」。
 この、ユキト・ヤノの「いくばくもない命」を、裏で糸を引いているような気がしてならない。
 ニューイヤーパーティーは、様々な人間が集まっている。
 ───ちょうどいい。
 瑛は集まっていた知人達や協力者を呼び、この「不可解な謎」を解くことにしたのだった。



■13人目のために■

「あ、はっぴぃにゅういや〜!」
 おいしいものいっぱいでご機嫌、といった感じの、盛装と言ったら極東様式の和装を適当に着てきてそれが妙に似合っているプティーラ・ホワイトが、鶏肉を片手に、周囲の人間にそう挨拶しながらやってくる。
「こんにちは、プティーラさん」
「クレインちゃん!? やっぱり来てたんだ」
 プティーラの傍らに優雅な身のこなしで寄り添ったのは、きっちり正装しているクレイン・ガーランドである。
「手招きで呼ばれたはいいのですが、また何かあったのでしょうか」
「だとしたら、シノムってとらぶるめいか〜だね」
 少し楽しそうな、けれど苦味も含んだプティーラの言葉。
 既に瑛の傍には、クレインも知っているリュイ・ユウが来ていて、同じくプティーラも見知っていたメイ・フォルチェと向き合って何か話していた。
「で、今度は何がどうしたの?」
 人ごみを掻き分け辿り着いたプティーラとクレインにも、瑛は事情を話す。
 その間に、こちらも医者であるリュイがさり気なく、ユキトの容態を窺っている。あまり、調子は良くないようだ。
 医者とは言っても、ユキト専属の若医者のように白衣は着ていない。今日は完全なフォーマルである。メイもちょっと小奇麗な格好、といった感じだった。
 ユキトが誰かと笑顔で話しているのを確認しつつ、聞こえないように瑛達は話をする。ちょうど、すみのほうでよかった。
「話を聞く限り、ユキトの枕元と専属ドクターの身元の確認をしたほうがいいと思うけど。あと、シノムってユキトの今の現状に一番詳しそうだから聞くんだけど、」
 プティーラが、まず口火を切る。
「本の内容と、余命一年って話の源、かな。ユキトにとって本が完全な創作なのか、『夢』なのか……」
 プティーラは読むのは大して好きでもないし、なにか自分のことを思い出してしまうから、とその本を読んでいなかった。
「その本には興味がわきますね。いずれ読んでみたいですが」
 クレインが、もう見に染みついてしまっているのか───影を選びながら、壁に背をくっつけて長い足を組む。
「先にその不審な人や気にかかることからお聞きしてもいいでしょうか?」
「ああ」
 瑛の言葉と、先に発言してもいいかどうかリュイやメイにも視線を走らせて同意を得ると、クレインは再び唇を開く。
「物語に出てくる『Dream Drug』ですが、本が発表されてから効能によく似た薬が存在するのかどうか、彼専属のドクターにお聞きしてみたいのです」
「どういうことだ?」
 眉をひそめる瑛に、「推測していることがあるので、確認をしたいのです」と、クレイン。
「ええと……なんだか本人が人生捨てちゃってる感じもするから……」
 メイが、話の区切りを見計らって、ユキトを呼ぶ。瑛の知り合いや友人達だと分かると、ユキトは少しホッとしたような笑みを見せた。
 そんなユキトに、メイは言う。
「あのね、お呼ばれしておいてなんだけど、こういう開き直ったパーティーはどうかなぁ……個人的には、最後まで頑張って欲しいな」
 そんなメイの言葉にも、ユキトは淋しそうに微笑んだだけだ。今だけ治療がいるかどうか聞こうとしたメイだったが、その笑顔を見てその気をなくした。───どんな病気も、本人が治そうとしなければ治るものも治らないというのに。
「ユキトさん。俺も医者ですから、やれることはやっておくべきだと思いますよ」
 リュイが口を挟む。
「今のような状況なら特にそう思います。他にもどんなに些細なことでもいいので、覚えていることがあったら教えてください」
「覚えていること、ですか?」
 不思議そうに、ユキトが聞き返す。リュイは頷いた。
「ユキトさんはセフィロトのどこに迷い込んだのか。それに、男の特徴等をもっと詳しく教えて頂けないでしょうか? あなたに死相が出ると言った、その黒ずくめの男の特徴を」
「分からない……分からないんです」
 ユキトがまた、震え始める。蒼白になってゆく。「聞くこと」すら「駄目」なのだろうか?瑛達は互いに視線を飛ばし、互いの意図をその瞳の中に探り合う。
 ぽんぽん、と瑛がユキトの背を軽く叩く。
「分かった、もう聞かないよ。悪かった」
「すみません。病人は病人らしく、ですね。休んでいてください」
 リュイが謝罪すると、ユキトはちからなくかぶりを振ったものの、またすぐに専属のドクターがやってきた。
 どうかしたのかと瑛たちに問うより先に、ユキトの様子を診る。同じ医者であるリュイにはその時、確信したものがあった。
 質問したそうなクレインに気づき、瑛はドクターに声をかけた。
「ドクター。ちょっとだけユキトの代わりに話を聞かせてもらえないか? ユキトも少しは休み休みじゃないと身体がもたないだろう」
 ドクターは茶色く長い前髪の隙間から、特徴的な片眼鏡と赤い瞳を覗かせて瑛たちを見ると、小さく頷いた。
「そうだな。俺もそう思っていたところだから」
 そして使用人を呼び、すぐにユキトを少し休ませてくるようにと、「厳重な警護」もつけ加えて命ずる。心配そうな顔をしていたユキトだが、瑛が片目をつむってみせたので、少し微笑んだ。
 パーティー会場ではろくに話も出来ないだろうということで、彼らはドクターの案内で客間に移動した。自分の家よりもすごいなと内心クレインは思いつつ、何事もないような顔をしてソファに座ると、開口一番尋ねた。
「ユキトさんは本を書いてから不治の病が始まったとのことですが、本を読まれる年代などは、そのユキトさんの書いた本に出てくる少女と同じくらいなのでしょうか?」
「ああ、確かにその年代は一番多いな。もっとも、老若男女にそこそこ人気もある。だがああいう話を一番好むのはやはりその年代だからね」
 特に、ロマンチストに浸りやすい少女達だ、とドクターはクールに言う。
「悪夢の中において、ユキトさんは自分から手を出すようなことは出来るのでしょうか? 見ているだけというのもつらいと思いますし、それも何度もとなると……」
「ユキト様から話を聞いたところによれば、自分からは手出しは出来ないようだ」
 その後も2、3質問をして、クレインは思案に入った。かわりとばかりに、プティーラが身を乗り出す。
「ドクターが一番分かってるよね、ユキトのこと。そのセフィロトの小屋に行って確かめてもみたいんだけど、色々なことが分かるかもしれないし」
「あんなところへ?」
 声を跳ね上げる、ドクター。そこへ、ゆっくりとした態度で、出された飲み物を飲みつつ、リュイ。
「失礼、ドクター。俺も医者なんで口を挟ませて頂きますが、あなたはユキトさんの身体を診る時、何かを探している素振りでしたね。それが何かの『心』なのか形を取った『物』なのかは分かりかねますが」
「………あんた、俺を疑ってるのか」
「いいえ。ただ、そんな行動をしていても、あなたはユキトさんを本当に心配しているのも分かりました」
 リュイの言葉に、ユキトの悟りきったような言動にいまだ困惑していたメイが、彼とドクターとを交互に見る。
 リュイは、続ける。
「失礼ですが、ユキトさんに投与している薬を拝見できますか? それと、先程『あんなところへ?』と言われましたけど、ユキトさんを発見したのはドクター、あなたで間違いありませんね?」
「ユキト様がセフィロトの奥地にまで行こうと言い出した、あの時は俺だけじゃなくたくさんの護衛もついていった。護衛の者数人と共にユキト様とはぐれて───足跡(そくせき)を見つけてあの小屋に辿り着いた時、ユキト様はひどく怯えていた。護衛の者は皆、殺されていて───不思議な紫色の、血液が大量にかかっていた」
「むらさきいろ?」
 怪奇の世界、と思いつつプティーラが問い返す。その間に、ドクターが話しながらポケットから出した薬を、メイが探査している。
「うかつに触った者は毒に侵された。何故かユキト様だけが無事だった。一体何が起きたのか───俺にも、分からない」
 小屋の場所はとまだ思案顔のクレインが聞くと、「あんな迷路のような場所には二度行こうとしても辿り着けないよ」との応答。
「ドクター、ちょっといいかしら」
 メイが、薬をようやく探査するのをやめてポケットに入れると、手を差し出す。不審そうに見返してくるドクターに、微笑む。
「場所が分からなくても、探査なら出来るから。もし本当にユキトさんを助けたくて私達に協力してくれるなら、あなたの記憶を見せてもらいたいの」
「………それならユキト様に触れて探査とやらをしたほうが早いんじゃあないか?」
 ドクターは、手を差し出さない。だが、言っていることももっともだ。人間、誰だって記憶を見られるというのは嫌なもの。苦笑して、メイは手を引っ込めた。
「ごめんなさい。でも、ユキトさんに許可を取らなくても? 私が言うのもなんだけど、かなり失礼な行為だから」
「ユキト様が無事でいられるなら、俺が許可する」
 その言い方に、黙っていたプティーラが顔を上げた。まっすぐに、ドクターを見る。
「まるで、ユキトのためなら殺人もしそうだね。あと───何かにとても怯えてるみたいだね」
「子供が何物騒なこと言ってる」
 苦笑はしたものの、ドクターの片方だけの瞳に昏い色が走ったのを、全員見逃さなかった。



 むかしおれには・てんしがいた
 てんしは・そして
 おれのせいで・ぎせいに なった



 かたり、と本をざっと読んでいたクレインが、枕元に置いてあったユキトの書いた例の本を本棚に入れる。
 「枕元の確認をしたほうがいい」とプティーラが言っていたが、確認するまでもなく、彼はすぐ読めるようにか枕元に本を置いて眠っていた。
「この『天使がいた』の独白は、元凶となった少女に救われた悲劇のヒーローのもの、ですよね」
 つぶやき、その本の内容をざっと全員に聞かせる。内容は、瑛に聞いていたとおりのものだったが───ただ、その部分が少し引っかかるのだとクレインは言う。
「もしあのドクターが『少年』で、『天使』がユキトさんだとしたら、どうでしょう」
「分からなくはないな」
 突飛な考えに、プティーラがさも納得、といったふうに頷く。
 目の前には、パーティー会場に戻っていったドクターから扉の前まで案内されて部屋に入った全員と、そして、疲れていたのかよく眠っているユキトの手を取り探査しているメイの姿。
「今も、シノムさんが見たという、その黒ずくめの男は『ここ』にいるのでしょうか」
「会場もあとで探査してみないといけないわよね」
 疲れたように、ユキトの手を離すメイ。
「小屋の場所、分かったわよ。でも───記憶を見ても、例の黒ずくめに出会った場面、よく分からない」
 メイの話では、その「場面」は───疲れきって小屋に倒れていたユキトのおぼろげな視界に入ってきた黒ずくめの男。そして片方の赤い瞳。「死相が出ている」と指さされ、気を失うほどの恐怖と怯え。
 記憶を視ているメイですら、伝わりすぎて精神がどうかなりそうだった。
「赤い瞳、は……普通にいるよね。クレインちゃんだってそうだし、プーの知り合いにも何人もいるし」
「これが稀な色であれば、ドクターが怪しいということになったんですけどね」
 リュイはしかし、端からドクターを疑ってはいないような声色だ。
 とにかく準備を整えてその小屋の場所まで行ってみよう、と、メイが視たユキトの記憶を頼りに、一向は準備をし、ユキトによろしくとドクターに伝言を頼み、
 セフィロトの奥地へと、出発した。



「ドクターに、黒ずくめの人物を目撃したときのアリバイはあるようね」
 外見年齢のわりにクールなメイが、出てくる時に、ドクターと一緒にいたという護衛の人間達の何人かに聞いてまわった結果、そう言いながら戻ってきた。
 ドクターは「その時」、気が狂ったかのようにがむしゃらにユキトを探していたという。
「やっぱり黒ずくめの人間が気にかかるな」
 プティーラが、足を進めながらつぶやく。
「医者としての意見ですが。
 夢も無意識に出るものですが、それを元に書いたものもヒントになると思います。ものを書く人間というものは、少なからず自分が経験したことが混ざってしまうものですから」
 リュイの言うことも大いに頷ける。
 クレインだけが、何かが気にかかるように、けれど今は言うべきではないと判断してか───黙りこくってゆっくりと歩いている。
 やがて、たまに襲ってくるタクトニム達を倒しながら奥へ奥へと進むと、メイの先導により小屋が見えてきた。びっしりと苔むした小屋だ。
 気を抜けば、どこからでもタクトニム達にやられてしまう───こんな場所まできて、護衛の者さえいなければユキトは確実に死んでいただろう。
「とても人が住むようなところじゃ、ないね。本当に」
 プティーラが言うとおりだった。
 むしろ住んでいるというよりは、何かを荒らしているといった感じで様々なものが、ちょっと手をかけて体重をかければ崩れ落ちてしまいそうな机の上や、ギシギシと歩くたびに音を立てる床に散乱している。
「時折めぼしい物品を探しにセフィロトにやってくる人間───の、ちょっとした休み場所のようなものでしょうか」
 リュイが、苔むした悪い空気に、ふうとため息をつく。
 そして、ふと床の黒ずんだ場所に視線を落とす。老化している床、だから黒ずんでいると思っていたが───どうも、違うようだ。しゃがみこみ、メイを呼んで慎重に探査してみてくれ、と持ってきたビニール袋に手を入れてもらい、その手で黒ずんだ部分に触れてもらう。
 その間、クレインは、何か本の内容と共通するものはないかと自分も壁に背中をもたれかけさせて休みつつ、小屋の中を見ていた。
 ふと、机の一点に目を凝らす。
 ゆっくりと歩み寄ったクレインは、机の右端に不思議な8つの切り傷を見つけた。まるで身長を年々はかってそこに傷をつけるような、一定間隔の幅の───何か数えて覚えておくためにつけたような、ナイフの切り傷。
 またやってきたタクトニムと対峙している瑛を援護していたプティーラが、もうあとは瑛だけで大丈夫そうだと額の汗を拭いつつクレインのもとへやってきた。
 覗きこみ、つぶやく。
「8つ───? これって、故意に誰かが傷つけた傷跡だよね」
「本の内容では、『Dream Drug』という薬は───9つ飲ませたら死者をも蘇生することができる───んでしたよね」
 クレインは、何かの考えに辿り着いたような棒読みである。
「毒物ね」
 背後で、探査を終えたメイが眉間にしわを寄せる。
「でも血液でもあるみたいな感じ───なんだか、変ね」
「人工に作られた毒物の入った血液、と考えれば説明はつきます。ただし、もうそれは『血液』ではなく、サイボーグ等に注入するような『オイル』の種類ですけれどね」
「でもこんなものを持って動いている『何か』がいれば、危険よね」
「ドクターの話だと、紫色の血って事だからそれなんじゃないか?」
 タクトニムを銃器で片付け終えた瑛の耳にも入っていたらしい。小屋の中に再び入ってくる。
「恐らく、そうでしょう」
 リュイが、採取のために、常備している道具を使う。その後ろでクレインがつぶやいた。
「考えていたんです、この件をシノムさんから聞いた時から。
 本を読まれる年代が本の中に出てくる少女、つまり『天使』と同じくらいのものであれば、もしそうならば……話にのめりこんで『天使の少女』とよく似た状態になってしまった少女がいる、とは考えられないでしょうか」
 プティーラが、彼を見上げる。
「年頃の女の子なら、あり得ない話じゃないよね」
 自分はもっと年下だと自覚しているのだろうか。だが、プティーラの大人びた言葉には頷ける。
「8つの傷───これが、『その少女』がいたとして、ですよ───この8つの傷が、その『Dream Drug』にかわる『何か』を数えている傷跡だとしたら……?」
 めまいがしそうだ。
 疲れすぎたのだろうか、クレインはくらくらする頭を手で抑える。
「少し休みましょう、考えることも体力を浪費するんですよ」
 リュイがクレインの身体を支えながら、一度安全な場所───タクトニムの比較的少ない場所にでも移動しようと提案した、その時。

 ───12人だ。

 低く滑らかな、けれど邪悪を感じさせるような声が、
 した。



 振り向いた時、いつからそこにいたのか。
 小屋の裏口に黒ずくめの人物が立っていた。
 今、声を発したのはこの人物。
 顔も黒い仮面で瞳の部分だけを覗かせている。その───瞳は、赤。
「こいつよ」
 メイが確信を持って、言った。
「ユキトさんの記憶に出てきた人物───こいつよ」
「謎を解かなければ見逃してやろうと思っていたのにな」
 黒ずくめの───体格や声からして性別は男だろう───人物は、そう言って少し、小首をかしげたようだった。
 瑛が、全員を護るように前に出る。
「気配なんかなかったぞ。いつからいた?」
「最初から。9人目の報告がいつ来るか、物品集めのついでにたまに来るのが日課だからな。タクトニムが皆、お前達のほうに行くからいつもよりも楽をさせてもらった」
「9人目ってユキトのこと?」
 睨みつけながら、プティーラ。男は、少し笑ったようだった。仮面から覗いている瞳が、可笑しそうに細くなる。
「謎を解かなければ、ということはクレインさんの推察したとおりなんですね」
 リュイが皮肉のこもった声で、瞳に険を添える。
「お前達に教える義務はない」
 男は冷たい声で言う。

 ─── かなりヤバそうな相手だ。ここは一旦引こう。

 テレパスで、瑛がプティーラ、クレイン、リュイ、メイに指示を出す。じりじりと一番後ろにいたメイが入り口のほうへ後ろ向きに移動しようとした、とき。

 とん

 そこにいた「もう一人の人間」にぶつかった。
 振り向いたメイは、息を呑む。いつから、そこにいたのか。いつから、「ついてきていたのか」。
 それは、ユキトの傍にいるはずのドクターだった。
 首を更に傾ける黒い仮面の男は、言葉を繰り出す。刃のように。
「『Rest』のお前に出来ることは、ユキト・ヤノの本を読んで眠りに落ちてしまった俺の姉のために12人の『夢を見る死体』を集めること。今回に限ってぐずぐずしているのはユキト・ヤノがお前の弟かもしれないからか?」
 さらりと、いった。
 その時には瑛やプティーラ、クレインとリュイも彼の存在に気づいていて───そして、その言葉に目を見開いた。
「『Rest』───レスト。それはあなたがつけたドクターの名前ですか? ミスター」
 ふと、可笑しいものを堪えるようにクレインが口を歪めた。他のメンバーは、クレインがどうしたのか意味が分からない。そんな仲間達に教えるように、クレインは言った。
「『Rest』は音楽用語で休符という意味です。この御仁の言い方と内容から考えて、恐らく『出来損ない』、『なりそこない』という意味合いでつけたのでしょう」
「なんの───なりそこない?」
 プティーラが、ごくりと喉に唾を送り込む。
「そういえばプティーラ。お前が言っていた、『ドクターの身元の確認』の報告を、まだしていなかったな」
 これを機とばかりに、瑛が半眼で黒い仮面の男を牽制しつつ、口を開く。
「そのドクターの身元は正確には確認できなかった。名前もまちまちで、ユキトの屋敷にいる時の名前はハルト。姓のほうは不明だ。ユキトの前に現れる数年前までは色々なところで医師としての奉仕活動、けれど正確には身元は分かっていないんだよ」
「『ユキ』に『ハル』───もしかしたらそれが本当の名前かもしれませんね。ハルト、というのが彼の」
「俺は、」
 リュイの言葉をひったくって、歯軋りするようにドクターは声を絞り出した。
「お前に言われて初めてユキトに逢ったとき───ユキトに本の話を聞かされた時、ユキトは俺の弟だと確信した。俺の肉親ならば見逃してやるというのがお前の約束だったから、俺は必死でその証拠になるものを探した。俺の弟なら、俺と同じ、この片目と同じ色が身体のどこかにあるはずだから。それがヤノ家の特徴だから」
 「色」を隠すためにしていた片眼鏡を外したドクターの瞳の色は、不思議な瑠璃色。代々瑠璃色を身体のどこかに持つのがヤノ家の特徴、それはヤノ家が口外していない家の者だけの秘密だった。
「……ユキトさんの身体に何か探そうとしていたのは、それだったんですか」
 リュイが、謎が解けたというふうにため息をつく。
「秘密にしている、ということは公開情報にすると何かのリスクを負うことになるから、よね? それって、このドクターのように、うっかりすると『何かのなりそこない』になる可能性のある『何か』に『出来る』身体───だから?」
 メイの推理は当たっているようで、ドクターも黒い仮面の男も何も言わない。
「ユキトさんがあなたを覚えていなかったのは、ドクター。あなたがまだどちらも幼い頃にヤノ家から攫われたからと考えても宜しいですか?」
 さっきまで疲れきっていたはずのクレインは、今は億尾にも見せずしゃんと立ってドクターを見つめている。
「代々あらわれる瑠璃色って、代々受け継がれる、よく聞く痣とかそんな感じで考えてもいいのかな」
 プティーラは、冷静に考える。
 そこへ、氷水のように冷たく冷えた声が一同を突き刺した。
「お喋りは好きじゃない。とにかくレスト。お前は例えユキト・ヤノが弟だとしてもそれを立証できず、躊躇ったことは確か。俺の姉にいつまで夢を見させる気だ」
 黒い仮面の男が、少しずつ歩み寄ってくる。しかしドクター ───ハルトは、声を上げて笑い出した。
 これには予想外だったようで、瑛達だけでなく黒い仮面の男も歩みを止めた。
「俺は迷子になって拾ってもらった恩だって忘れちゃいない。『なりそこない』にされたのも恨んじゃいないさ。けど『ジーク』、あんたは一つ気づいてなかったよ。
 俺も『少女の夢を見続けている一人』だってことにさ!」
 そして、ハルトは。
 後ろ手に持っていた銃で自分の胸を撃ち抜いた。
 やめてと叫んだのはプティーラだったかメイだったか。
 とめようとしたのはクレインだったかリュイだったか。
「ジーク……?」
 瑛は何か聞いたことがあるような気がして振り向いたが、ちっと舌打ちをして黒い仮面の男は身を翻したところだった。追いかけたかったが、今はハルトの容態が先だ。
「早く! 早く診てあげて、リュイ!」
 誰もが幸せでいられるといい、と今回も願っていたプティーラが、リュイの腕を揺する。倒れこんだハルトに、けれど、片膝をついて治療しようとしたリュイは、ハッと瞳を見開いた。
 ハルトの身体から流れてくるのは───先刻メイが探査した、「あの紫色の血液」。つまりは、ハルトは───実験か何かをされて、なりそこないになり───怪我をしても治療もできない身体になってしまったのだ。
「………っ」
 医者として歯噛みするリュイから、自分に触れようとする涙目のプティーラに、ハルトは視線を移してかぶりを振り、微笑む。
「俺に触ったら……俺の血(オイル)に少しでも触ったら……毒されて、しまうから……」
 はは、とそのまま笑う。
「ユキト様に……ユキトに、伝えてくれ……ドクターは旅に出たって……」
「伝えるけど! なんでこんなことしたの!」
 怒るように、メイ。
「『9人目』の死体があれば……『ジークの姉』の治療は少し進む……とりあえず『ジーク』はユキトから手を引いてくれる……悪かったな、シノムさん……ユキトの病気を不治の病と公開して……治さないでいたのは、この俺だから……リュイさん、あんた医者なんだろ……? ちゃんとした、治療を……毒じゃない薬を……やればユキトは……」
 なおる、から。
「薬って! あれはただの清涼感のある砂糖菓子よ? 毒性なんてなかった!」
 薬も探査していたメイが言うが、ハルトは更に弱々しくかぶりを振る。
「あれは小さな頃……ユキトと俺が好きだった、お菓子だ……カプセル状にした、だけ……」
「……確かに、そんな事情があれば毒の薬そのものを渡すはずがありませんね」
 苦々しく、クレインがつぶやく。
「早く行かないと……今に『ジーク』が……タクトニム達を誘導して……お前達、殺される、ぞ……」
「だけど!」
「分かった」
 プティーラが思わず触れようとするところを、瑛が抱きかかえる。リュイもぎゅっと瞳を閉じ、けれど確実に近づいてくる複数のタクトニムのたてる音に唇を噛んだ。
「……何か、言い遺すことは」
 暴れるプティーラをものともせず、瑛は尋ねる。
 ハルトは全員を順繰りに見つめ、ごろりと仰向けになって苔むした天井を見上げた。彼には青空が、見えていたかもしれない。
 その顔は、清々しかった。
「……ユキトといた日々……俺にはみんな宝物だった……」
 タクトニム達が、目に見えるほど近寄ってきている。相当な数だ。ハルトが瞳を開けたまま動かなくなったその瞬間に、瑛は床を蹴った。
「行くぞ!」
 そんな瑛の掛け声を聞き、リュイに力を借りて走り出すクレインは、ぼんやりと思っていた。
 あの机に、もうひとつの切り傷がつけられる。それを阻止することはできなかったのだろうか、と。
 瑛に抱えられながら、プティーラはハルトの最期と事件の真相で頭がいっぱいだった。
 どうしてこんなことばかりが、くりかえされるのだろう、と。
 クレインを護り支えながら走るリュイは、これからのことを思っていた。
 こんなことが、12人目まで続くのだろうか、と。
 最後尾を走り、にじむ視界を堪えながらメイは思った。
 いくら冷静な自分でも、こんなに悔しかったことはない、と。



「不思議だ……リュイさんの薬、とっても効きます。ひとつ飲んだだけなのに、とても胸がすっきりして」
 あの後、なんとかタクトニム達の群れから逃げ出した瑛達は、ヤノ家に戻り、驚いたユキトに「ドクター」の言葉を伝えてから、ユキトの言葉に甘えて風呂に入らせてもらい、着替えさせてもらっていた。
「あなたは治ります。旅立ったドクターが、そう言っていましたから」
 ユキトの驚きの言葉に、リュイが言う。
 しかしユキトは、目を伏せた。
「ドクターは……ハルトは、旅立ってしまったんですね……仕方ないですよね、彼はとても忙しいから」
 そしてふと、「クレインさんは大丈夫ですか?」と尋ねてくる。
 クレインはヤノ家の一室で、休ませてもらっていた。リュイはそっちのほうも診ているのだから、実のところ忙しいのは彼である。
「今はシノムさんがついていますし、大丈夫です。ほら、もう一つの『薬』が出来上がったみたいですよ」
「え?」
 リュイの言葉に、視線をあげるユキト。
 調理場を借りて、メイの探査した記憶のもと、メイとプティーラとで作った「清涼感のある砂糖菓子」の皿が二人によって運ばれてくるところだった。
「食べてみて」
「絶対『いい』から!」
 メイとプティーラの強いすすめに、ユキトは恐る恐る、一粒口にする。あっという顔つきになった。
「なんだろう……すごく懐かしい」
 ぽろ、と落ちた涙は、
 遠く記憶の底に沈んだ、懐かしき兄との思い出が流したのかもしれない。


 やがて、ユキトはすっかり健康になった。
 それでもいつも、「いつ帰ってきてもいいように」と。
 ドクター・ハルトの部屋は毎日のように自ら掃除や手入れをしているらしい。
 謎は残ったが、ユキトは死なずにすんだ。
 とりあえず今はそれで心の中で一区切りをつけないと、さすがの冒険者達もやっていけなかった。



 おまえはユキで おれはハル
 ユキはすがすがしくて おれはすきだ
 ハルはあまくてあたたかいといってくれた おまえのために
 つめたくあまく なつかしい
 おれたちだけの おかしを つくろう───


《完》
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0026/プティーラ・ホワイト (ぷてぃーら・ほわいと)/女性/6歳/エスパー
0474/クレイン・ガーランド (くれいん・がーらんど)/男性/36歳/エスパーハーフサイバー
0487/リュイ・ユウ (りゅい・ゆう)/男性/28歳/エキスパート
0712/メイ・フォルチェ (めい・ふぉるちぇ)/女性/11歳/エスパー
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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。また、ゆっくりと自分のペースで(皆様に御迷惑のかからない程度に)活動をしていこうと思いますので、長い目で見てやってくださると嬉しいです。また、仕事状況や近況等たまにBBS等に書いたりしていますので、OMC用のHPがこちらからリンクされてもいますので、お暇がありましたら一度覗いてやってくださいねv大したものがあるわけでもないのですが;(笑)

さて今回ですが、新年初めての納品が切ないものになってしまい、シリーズ化するとしても一話で終わりと告知していたにはいたのですが、やはりこの終わり方はちょっと切なかったかな、謎が多すぎたかなと反響が心配だったりします。個人的には、満足のいくまで書き直しては書き直し、締め切りギリギリになってしまったのですが。
「ジーク」の謎、そして今回の件については続編が出るかもしれません。ただ、諸事情でサンプルがあがるのが遅くなるかもしれませんので、もし継続してご参加くださる方・新規でご参加を考えて下さっている方にはしばらくお待たせしてしまうことになると思います。
また、今回は全員、同じ文章とさせて頂きました。

■プティーラ・ホワイト様:いつもご参加、有難うございますv 枕元とドクターの身元確認は、いい着眼点だったと思います。個人的に、ハルトの最期を見たプティーラさんの反応が、少し違うものかもしれないと心配は残りましたが、如何でしたでしょうか。
■クレイン・ガーランド様:いつもご参加、有難うございますv 今回は、サイコマ個室のほうをご覧頂ければ分かりますように、音楽に微妙に関係していることから、「Rest」の謎はクレインさん自身の設定にもよりまして、すぐに解いて頂きました。セフィロト奥地での出来事でさぞかし身体に疲れが残ってしまったことと思いますが、その後が心配です。
■リュイ・ユウ様:ゲームノベルでは初のご参加、有り難うございますv 今回は「ああ、本当にお医者さんがいてくれてよかった」と東圭が助かる感じに役回りして頂きまして、本当に有り難うございます。採取した「血(オイル)」に関しましては、また後日出てくるかもしれません。
■メイ・フォルチェ様:続いてのご参加、有り難うございますv 前回ご参加くださったノベルよりも、少し感情を前に出してみましたが、如何でしたでしょうか。今回はメイさんの探査能力が大変役に立って頂きました。

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。それを今回も入れ込むことが出来て、本当にライター冥利に尽きます。本当にありがとうございます。ハルトはラスト、生きさせようかどうしようかかなり迷ったのですが、どちらにしろユキトとハルト、どちらかは死ななければならないシナリオになってしまったことは東圭の力不足によるもので……かなり気に入ったNPCだったのですが。もしかしたら、いつかどこかでハルトの意思を継ぐ人間が現れてくれるかもしれません。(と、自分を慰めてみます(笑))

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆
2006/01/04 Makito Touko