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■超能力心霊部 セカンド・ドリーマー■

ともやいずみ
【5698】【梧・北斗】【退魔師兼高校生】
「この写真……」
 ざわつくファーストフード店でのいつものように集まっていた時のことだ。
 正太郎に渡された写真を見て、奈々子は顔をしかめた。
 写っているのは高見沢朱理にほかならない。
 しかし……。
「……薬師寺さん、これ……」
「うん……」
 二人の深刻な顔に気づかず、朱理はとりあえず食欲を満たそうとがつがつハンバーガーを食べている。
 その能天気な表情を見て、奈々子は拳を振り上げたくなった。
 写真には眠っている朱理の枕元に立つ、幼い少女の姿。
 青白い肌と、冷めた瞳がこちらを睨んでいた。うって変わって朱理は今と変わらず間抜けな顔で眠っていたが。
 予兆、だ。
 正太郎の能力・念写の一つ、未来を写すものだろう。
 それがいつなのかまでは……奈々子にはわからない。
「朱理さん」
 正太郎の声に朱理は「ん?」と彼を見遣る。
「この写真の女の子を見たら、とにかく気をつけて」
 朱理は奈々子の手にある写真を覗き込み、それから明るく笑ってみせる。
「だ〜いじょうぶだって! いざとなったらあたいにはパイロがあるんだしさ〜」

 しかし二日後、写真は現実のものとなる。
 朱理は眠ったまま目を覚まさなくなってしまったのだ……。
超能力心霊部 セカンド・ドリーマー



 梧北斗はファーストフード店の二階へとあがった。
 窓際のほうへ視線を遣る。
(お。いるいる)
 そちらに近づいて北斗は片手を挙げた。
「おーい。やっぱりそこが定位置なんだな〜、おまえら」
 前に会った時のことを思い出して北斗は笑いを堪える。また面白可笑しい会話を展開されたらどうしようかと今から楽しみでならない。
 笑顔で近づくが、あれ? と北斗は違和感を覚える。
 なんだか物足りないような気がした。
(あ。そうか。一人いないからだな)
 前に窓際に居座っていたのは確か三人。奈々子と正太郎は居るが……。
「珍しいな。朱理は一緒じゃねーのか?」
 北斗の声に二人はぴくっと小さく反応し、顔をあげた。
 思わず北斗はのけぞる。
「う、うお……っ。ど、どうした? なんか二人とも暗いな……」
 無理に笑みを浮かべる北斗は暗い面持ちの二人をうかがった。
 朱理がいないだけでなんだか火が消えたように静かだ。
(通夜みたいだな)
「朱理は補習か何かか?」
 わざと明るく言う北斗だったが、奈々子の深い溜息に「うっ」と言葉を洩らす。
 き、気まずい……。
 嫌な汗をかく北斗に、正太郎が苦笑する。
「朱理さんは家にいるよ」
「えっ? そうなのか? ケンカでも……したのか……?」
 奈々子と。
 心の中で最後の一言を呟く北斗。
 正太郎は力なく笑う。
「そうじゃないんだよ。ちょっと……病気で」
「病気!? 朱理がっ?」
 信じられない。
 あのいつも元気な……騒がしいとも言うが……朱理が病気になるとは。
(天変地異の前触れか……)
 異常気象でも起こりそうだ。
 しかし朱理がいくら能天気そうに見えてもやはり人間には違いないのだから、病気くらいなるだろう。
「へー。風邪か? 最近の風邪は長引くって聞くしな」
「……風邪ではありません」
 冷たい奈々子の言葉に北斗はビクっとする。
 木枯らしが吹いてきそうな雰囲気を出している奈々子は目を細めて北斗を見遣った。背筋にぞわぞわ〜っと寒気が走る。
「原因不明の昏睡状態なんです」
「げっ、原因不明!? 昏睡だと!?」
 仰天した北斗は正太郎を見遣る。
 正太郎は視線を伏せた。どうやら本当のことらしい。
「ど、どういうことだ? なにがあった!?」
「とりあえず座ってください。それから話しをしますから」
 奈々子の言葉に頷き、北斗は正太郎を奥側へ無理に押しやって席に座った。

 写真を前にして北斗は腕組みする。
 朱理が原因不明の昏睡状態に陥ったのはこの写真を撮ってすぐだったらしい。ということは、原因はこの写真にある。
 いや、正確にはこの写真に写っている童女に原因があるに違いない。
「どう考えてもこの女の子が原因だろうな」
「やはり梧さんもそう思いますか」
 奈々子は渋い表情で呟いた。
「朱理は変なものに好かれる体質ですからね……。前も妙な本を拾って大変なことになったりしましたし。今回もその類いではないかと私は思ったんですが」
「何か拾い物をしたってことか? うーん。ありえない話じゃない。古い物には魂が宿るとよく言うし。拾ったものに何かが取り憑いていて、朱理が巻き込まれたって可能性もあるな」
「確かに……。朱理さんて物は大事にするからね。どこかで妙なものを拾ってても不思議じゃないよ」
 肩をすくめて同意する正太郎。
 北斗は写真の童女をじっと見つめた。きつくこちらを睨む様子からして、穏やかな敵ではないだろう。
(妖怪の類いか、それとも魔物の類いか……。どちらにせよ、眠ったままにさせるわけにはいかねーからな)
 いつも明るい朱理がいないと、なんか変だし。
(眠ったまま……。魂を抜き取っているなら呼吸はしていないはず。ということは……心を封じられているのかもしれない)
 本人を直接見なければ詳しくはわからない。
 北斗は立ち上がった。
「とにかく一度朱理の様子を見たい。案内頼んでもいいか?」
 北斗の声に、奈々子と正太郎は決意して頷く――。



 朱理の叔母という人物によって三人は、家の中へ通された。
「すみません、突然」
 謝る奈々子に叔母である女性は笑顔を浮かべる。
「いいのよ。気にしないで。お見舞いに来てくれて朱理も喜んでるわよ、きっと。それに、ちょっと留守番をお願いできる?」
「あ、はい」
「助かるわ! ありがとう!」
 元気よく言って彼女は身支度を済ませると慌てて出て行ってしまった。家の中は眠った朱理を含めて四人だけだ。
「しっかし、朱理の叔母さんなのか。どーりで似てるな〜」
 感心する北斗に正太郎もうんうんと頷いた。
「そうなんだよ。雰囲気とか仕種が結構似てるよね。ボクも最初はすごく驚いたから。朱理さんも大人になったらああいう感じになるのかなぁ」
「うーん……でもまあ朱理は素材はいいから磨けば光ると思うぞ、俺は」
「ええーっ!? そ、そうかなぁ……」
 北斗の言葉が信じられないようで正太郎は小さく唸る。
(まあしょうがないか。奈々子があれだけ美人なら朱理は霞んじまうと思うからな)
 とりわけ綺麗な宝石があれば、その周囲に散らばるものは全て道端の石ころのように見えてしまうものだ。
 なにより朱理は奈々子が持っていない魅力を十分持っている。顔の美醜などその魅力の前ではどうでもいいことだろう。
「朱理はこの部屋に」
 奈々子の言葉に北斗は首を縦に振った。奈々子は慎重にドアを開く。
 いきなり何者かに攻撃されるかもしれないという用心のためだったが、何もなかった。
 安堵した奈々子と正太郎だったが、北斗は警戒を解きはしない。
 退魔師である北斗の気配に気づかないはずがないのだ。もし、朱理に取り憑いているのが魔の類いならば。
 朱理の部屋は和室だ。畳の上に敷かれた布団で彼女は寝息をたてている。
「なんだか腹の立つ寝顔ですね……」
 こめかみに青筋を浮かばせる奈々子を「まあまあ」と正太郎が落ち着かせた。
 北斗は朱理の枕もとに座り、様子をうかがう。
 悪夢をみている感じはしない。
(あれ〜? てっきりナイトメアの仕業かと思ったんだがなぁ)
 健やかな寝息である。夢を見ているならば何かもう少し反応があってもいいのに。
 ただ寝ているだけ、のようにしか見えない。
「どうでしょうか、梧さん?」
 そっと尋ねてくる奈々子に「えっ!?」と北斗は瞬きする。慌てて笑みを浮かべた。
「見たところ悪夢は見せられてないし、生気もなくなった感じがないから大丈夫だと思うけど……」
「……そうではなく、朱理は何かに憑かれているのかと私は訊いているんですよ……?」
 にこ、と奈々子が微笑んだ。
 悪寒が背中を駆け抜ける。
 北斗は焦って立ち上がった。
「と、とにかく原因があるはずだ。それを探すから!」
 あは。あははは。
 朱理の部屋の中を見回し、北斗は驚くしかない。じっくり見た今ならわかるが、この部屋には物が少ないのだ。
(女の子の部屋じゃないな、これは)
 座卓の上にあるものに気づき、北斗はそちらに近づいた。
 手鏡だ。
(へぇ。朱理もやっぱり女の子なんだなぁ)
 感心している北斗は鏡を手に取って覗き込む。刹那、場所が一瞬で移動した。
「な、なんだ?」
 北斗を取り残して周囲の景色が変わったように見えたが、実際は違うだろう。北斗一人が移動したのだ。
 手にしていたはずの手鏡はない。
(結界の中……? そういう感じじゃないが……どちらにしろ相手のテリトリーなんだろうな)
 周りはのどかな田舎風景だ。
 愛犬と一緒に散歩するといいかもしれないなあと北斗はぼんやり思う。
(ん?)
 森のほうから煙があがっているのが見えた。火事だろうか?
 北斗は気になってそちらに急いだ。
 森の木々を燃やす炎は勢いを増し、どんどん広がっていく。
「燃えろ燃えろ! 全て燃えてしまえ!」
 高笑いをあげて火を放っているのは黒いセーラー服姿の朱理だ。
「朱理! なにしてんだ、やめろって!」
 朱理を後ろから羽交い絞めにする北斗に、彼女は片眉をあげる。
「誰だおまえは」
「は? なに言ってんだ?」
「……おまえ、朱理の知り合いなのか」
 声の響きが変わった。北斗はぎくっとして腕に力を込める。ここで朱理を逃がすわけにはいかないと、退魔師の勘が言っていた。
「おまえ……おまえが朱理に憑いてるヤツか! 朱理に何をした!?」
「ふん。この娘は居心地がいいのだ。だから、この身体をいただこうと思ってな」
「なんだと……!」
「近頃の人間は不味いからな。この娘は中に居ても心地いい。住処にするにはうってつけだろう?」
「冗談じゃない! 朱理から出て行け!」
 正体はおそらくあの写真に写っていた童女だ。妖魔だとしても女の子なので、なるべくなら平和的に解決したかったが……。
 北斗はぎりぎりと手に力を込める。
「ぐっ……! いいのか? これは朱理の肉体なのだぞ……?」
「おまえが今まで乗っ取られなかったのは、朱理が抵抗してたからだろ!」
「それももう終わりだ」
「そうはいくか……!」
 締め上げると朱理の姿をした妖魔はうめいた。人間の肉体では呼吸できないと相当なダメージになる。
(さあ……! 息苦しくなって出て来い!)
 さらに力を込めると朱理の全身から力が抜けた。突然朱理の体重全てが北斗にかかり、おわっ、と声をあげて北斗は尻もちをついた。
 見れば朱理は気を失っている。
「おのれ……!」
 忽然と姿を現した童女に北斗が手を伸ばした。届きはしない。だが――!



 瞼を開けた北斗はすぐさま起き上がって、眠る朱理を見遣った。どうやら北斗は短い間だが眠っていたらしい。
 彼女の真上に、まるで朱理の体内から弾き出されたかのように童女が姿を現す。
「くそ……!」
 悔しさを滲ませて童女は颯爽と壁をすり抜けて逃げ去った。
 突然の出来事を理解できず、奈々子と正太郎は唖然としている。
「んー……」
 朱理が小さくうめいて瞼を開け、起き上がった。
「あー、よく寝た」
「朱理! 良かった!」
 やっと北斗は胸を撫で下ろす。もうこれで安心だ。あとであの手鏡は持ち帰って処分しておいてほうがいいだろう。あの手鏡が、きっと今回の原因なのだろうから。
 朱理は北斗のほうを見てやや呆然としていたが、ふいに微笑する。
「助けてくれて、ありがと」
「へっ!?」
 いきなりのことに北斗は赤くなった。
「なんかよくわかんないけど、梧さんにお礼言わなくちゃって思って……」
「あ、そ、そっか」
 お礼を言われて悪い気はしない。北斗は照れて後頭部を掻いたのである。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、梧様。ライターのともやいずみです。
 久々のご参加……そして朱理がメインの話でしたが、いかがでしたでしょうか?

 今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!