コミュニティトップへ



■あの日あの時あの場所で……■

蒼木裕
【2029】【空木崎・辰一】【溜息坂神社宮司】
「ねえ、次の日記はカガミの番?」
「ああ、俺だな」


 此処は夢の世界。
 暗闇の包まれた世界に二人きりで漂っているのは少年二人。そんな彼らの最近の楽しみは『交換日記』。だが、交換日記と言っても、各々好き勝手に書き連ねて発表するというなんだか変な楽しみ方をしている。そのきっかけは「面白かったことは書き記した方が後で読み返した時に楽しいかもね」というスガタの無責任発言だ。
 ちなみに彼らの他に彼らの先輩にあたるフィギュアとミラーもこの交換日記に参加していたりする。その場合は彼らの住まいであるアンティーク調一軒屋で発表が行われるわけだが。


 さて、本日はカガミの番らしい。
 両手をそっと開き、空中からふわりとノートとペンを出現させる。
 開いたノートに書かれているのは彼の本質を現すかのように些か焦って綴られたような文字だ。カガミはスガタの背に己の背を寄りかからせ、それから大きな声で読み出した。


「○月○日、晴天、今日は――」
+ あの日あの時あの場所で……2 +



■■■■



「今日の日記は誰?」
「だぁれー?」
「僕じゃないよ〜? すがたんじゃないのー?」
「あ、うん。僕っ」


 三日月邸の和室でスガタ、カガミ、社、いよかんさんの三人と一匹はいつも通り和菓子とお茶を楽しんでいた。そんな彼らの最近の楽しみは『交換日記』。だが、交換日記と言っても、各々好き勝手に書き連ねて他の三人に発表するというなんだか変な楽しみ方をしている。そのきっかけは「面白かったことは書き記した方が後で読み返した時に楽しいかもね」というスガタの無責任発言だ。


 ちなみに本日はスガタの番らしい。
 彼はぽんっと机の上にノートを取り出す。よいしょっとノートを開けばすでに書き込まれた文字達が沢山。彼は皆の方を見る。それから大きな声で読み出した。


「四月三日、ちょっと曇っていたけれど晴れ。今日はー……」



■■■■



「御免下さいなんだよねー!」
「すみませんー」
「誰かいねえのー?」
「もしもしー!」


 声がしたので慌てて玄関に向かうと其処には以前一緒にお茶をしたいよかんさんが居た。
 その隣には双子っぽい少年二人と、女の子が一人。いよかんさんがちみっとした手をぶんぶん振って挨拶をしてくれる。相変わらず可愛いなと思いながら、空木崎 辰一(うつぎざき・しんいち)はにっこりと微笑んだ。


「こんにちは、いよかんさん。今日はお友達を連れて来たんだね。はじめまして、空木崎辰一と言います。宜しくね」
「僕は三日月社! この間はうちのいよかんさんがお世話になったんだよね〜っ。と、言うわけでこれはお土産の三色団子。美味しさには自信があるから食べてねっ!」
「俺はカガミ」
「僕はスガタ」
「「ちなみに双子ではないので、其処のところ宜しく」」


 社が空木崎に団子が入った箱を手渡す。
 ご丁寧にどうもと軽くお辞儀をしながら彼は素直に受け取った。スガタとカガミは声を揃えるようにしながら自己紹介をする。くすくす笑う声が妙に重なって聞こえた。空木崎は「双子だなんて言ったかな?」と思いつつ、あまり気にしないことにした。足元にいるいよかんさんがくいくいっと空木崎の袴を引っ張る。どうしたの? としゃがみ込めば、えへへっと彼? は笑った。どうやら視線が合わなかったのが寂しかったらしい。


「あ、そうそう。良かったら今晩、うちで御飯食べていかない? ご馳走しますよ」
「ほえ?」
「んん?」
「はい?」
「ごはんー……?」
「実は今から夕食の買出しに行こうと思っていたんですよね。どうですか? 何なら皆様の好物を作りますから」
「マジ!? はいはいはーい! 僕はね、里芋の煮物と具なしの茶碗蒸しがらぶー!!」


 社が勢い良く手を上げ、好きなものを叫ぶ。
 立ち上がった空木崎はそんな彼女の様子に思わず笑ってしまった。だが、スガタとカガミが怪訝な顔付きをしているので、不思議そうに見返す。そんな視線を受けた二人は困ったように首を左右に振った。


「実は俺達好物ってねーんだよなー」
「実は僕達好物ってないんですよねー」
「おや、それは結構珍しいことですね。大抵の人は好きなものの一つや二つは有りそうなものなんですけど……」
「俺達別に食わなくても生きていけるし、食べた種類が少ないからなー」
「僕達別に食べなくても生きていけますし、食べたことのあるものが少ないですしね」
「「そんなわけで、今までびびっと来た食べ物はなくて」」


 きっぱりあーんどはっきり。
 その言葉に空木崎は一瞬目を丸める。自分では食事をして当たり前だが、彼らはそうではないらしい。どうしようかと腕を組んで考える。今のところ社の希望した里芋の煮物と具なしの茶碗蒸しくらいしかメニューに組み込めない。だが、それだけでは夕食としては決め手がない。
 ふと、くいくいっと袴が引っ張られる。くいっと下を見ればいよかんさんがじぃーっと見上げていた。
 そして彼? は片手を口に添えると、こう呟いた。


「こんにゃくぜりぃー……」


 上目遣いで訴えてくるいよかんさんにうっかりときめいてしまった空木崎は、ゼリーを一番最初に買いに行こうと心に決めた。



■■■■



「随分沢山、ですね」
「くぁああ、重ぇええ!!」
「にゃっははーん★ 頑張って運べよ、かがみんっ!」
「お前も見てないで運べよッ! 茶碗蒸しとか希望したのお前だろ!?」
「へぇ? 僕にそんな重そうなもの持たせるの? こ の 僕 に ?」
「……かがみー、がんば」
「む、無理はしないでね?」


 手ぶらで歩く社の言葉にしくしくと心の涙を零すカガミ。
 そんな彼の足をいよかんさんがぽんっと叩き、空木崎が僅かに困ったように微笑む。ちなみにいよかんさんはいよかんさんでちみっこい袋を抱え持っている。中身は空木崎に一番最初に買って貰ったこんにゃくゼリー。最初はぶら下げて持っていたのだが、そうすると身長的にずりずりと引き摺る形になってしまったので、仕方なく両手で抱えていた。スガタと空木崎の両手にも大量の食料品が入った袋が握られていて、重たそうにぶら下がっている。


「いやー君達が来てくれて助かったよ。荷物が多いから、僕一人じゃ大変で……」
「三日に一度の買い物ならやっぱり量が多くなってしまいますよね。これくらいならお手伝いしますよ」
「しっかし、マジで大量だよな。まあ、俺達が食う分も付加されてっからだろうけどさー」
「んっしょんっしょー……」
「はい、お疲れ様。はい、中に入って入って。すぐに支度するからね」
「はぁー、僕もう疲れたー!」
「お前何にもしてねえだろうがぁああ!!」


 一番楽をしているはずの社がふぃーっと額の汗をかく素振りをする。
 そんな彼女に対して素早くカガミが突っ込み、カガミに対しては社がにぃいいっこりと邪悪な笑みを返した。
 空木崎家に到着すると、三人と一匹の中で一番大量の荷物……というか社に分担されたはずの荷物までも持たされていたカガミがぐったりと玄関に崩れた。そんな彼の隣でいよかんさんが段差をぴょんっと飛んで登る。スガタは重そうにしつつも、中に入って荷物を渡すことにした。カガミもいつまでもぐったりとしていられない。何とか復活すると、くぁあああ! と変な気合を入れながら歩き出した。


「此処が居間だよ。僕夕食を作ってくるからこの部屋で寛いでてくれる?」
「あ、手伝いますよ。台所はどちらですか?」
「いえいえ、お客さんに手伝わせるわけには……」
「此処まで来たら下準備くらいは手伝うぜ。な、いよかん」
「ぜりーのおれーぃ!」


 きゃっきゃっと本当に嬉しそうにいよかんさんがはしゃぐ。
 そしてよろめきながらも大量の荷物を運ぶカガミに、両手で荷物を持つスガタ。そんな彼らに向かって社はぴっと手をあげ……。


「じゃぁ、僕は寛いでるから二人と一匹は頑張れよっ!」
「「少しは手伝ったら?」」
「らー?」


 にゃはんっと楽しげに言う社に二人と一匹が思わず突っ込んだ。



■■■■



「はー! この里芋の煮物美味しいぃ!! んむんむ、いけるわよ、ぐーよっ!」
「お口にあったようで良かったです。あ、この茶碗蒸しはどうです? 結構上手に作れたと思うんですが……」
「んー、あむ……んっきゅんっきゅ……」
「美味しいですか?」
「ん、美味しい!!」


 好物を作ってもらった社が心から嬉しそうに親指を立てる。
 その隣では食べることに一生懸命になっているカガミがいた。普段は口数が多い彼が無言になっている様子から言って、どうやら食事を気に入ったらしい。箸の進みが速いのもその証拠である。カガミの隣では何故かいよかんさんを膝の上に乗せたスガタがいた。玉子焼きを摘んだ箸を差し出す。それに対していよかんさんは、口を開けたのも分からないほど速いスピードで喰らい付いた。
 本日の主食は焼き魚。スガタは丁寧に魚の骨を取りつつ、空木崎に対して笑いかける。


「美味しいご飯有難う御座います。好物って言うのはまだ良く分からないんですけど、結構和食は好きですよ」
「気に入って頂けたならとても嬉しいです。やっぱり美味しいって言って頂けるのが一番ですからね」
「ん、ん。んまいで、ふぉれ」
「今の時期は脂がのっててお魚なんでも美味しいですけれど、良いハマチが入ってて良かったですね」
「カガミ、食べきってから喋って。口の中のもの見えてみっともないから」
「ふぁいー」


 もごもごと口を動かしながら喋るカガミをスガタが軽く叱咤した。
 空木崎もまた自分の取り分を食べながら三人と一匹の嬉しそうな顔に心がほくほくと温まる。それはとても賑やか風景。食事に招待してよかったなーと思わず彼自身も顔が綻んだ。


 そんな彼の目の前ではいよかんさんがじゃっじゃーん! と買って貰ったこんにゃくゼリーを取り出す。
 それから小分けされたケースを一つ取り出し、ぴーっと蓋を剥く。底の軟らかい部分をきゅっと押し、そのまま勢い良くゼリーをちゅるりんっと上に噴出させた。
 そしてゼリーが落ちてきたところを……。


 ぱっきゅんっ★


 ものの見事に口でキャッチし、もごもごと咀嚼するいよかんさんに思わず皆で拍手を贈った。



■■■■



「そんなわけでご飯がとても美味しかったです。まーるっと」


 スガタが日記を読み終える。
 目の前にはまたしても空木崎にお土産として貰ってしまった和菓子が置かれ、三人と一匹はあむあむと食べた。


「はぁー、具なし茶碗蒸し美味しかったぁー……うっふっふっ★」
「ああ、美味かったよなー。里芋の煮物も結構いけた」
「そうですよね。空木崎さんお料理本当に上手でした」
「んまんまー」


 皆でほぉっと夕食の味を思い出す。
 この中では好物を作ってもらった社が一番愉悦に浸っていた。そしてカガミもまた本気で美味しかったと思っているらしく、にこやかな表情だ。


「うふうふ、今度こっちに来てお料理作ってくれないかしらんーっ。出張くっきんぐー! みたいな感じでさー」
「お前が買出しとか全部したら来てくれるかもな」
「やっだなー、そこはかがみんの役目でしょう? 何で乙女な僕がそんな重労働しなきゃなんないのん?」
「…………もう、何も言わねえ」
「あは、でも本当にご飯美味しかったですもんね。ねー、いよかんさん」
「ねー」


 スガタといよかんさんはにこにこと笑い合う。
 本日の日記発表はこれにて終了。
 次は誰と出逢えるかなーと三人と一匹は楽しみにすることにした。



……おしまい☆





□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【2029 / 空木崎・辰一 (うつぎざき・しんいち) / 男 / 28歳 / 溜息坂神社宮司】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【共有化NPC / いよかんさん / ? / ?? / いよかん(果物)】
【共有化NPC / 三日月・社(みかづき・やしろ) / 女 / ?? / 三日月邸管理人】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 こんにちは、再び発注有難う御座いましたv
 今度はこちらが遊びに行かせて頂き、楽しませていただきました。色々趣味に走ってしまったところがあるのですが、ど、どうでしょう?(小声)一つでもぷっと笑って頂ければ嬉しいですv
 ちなみにスガタの方は飲み物でしたら玉露を好んでおりますとぷち知識進呈(ぇ)