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■魂籠〜月戯〜■

霜月玲守
【5698】【梧・北斗】【退魔師兼高校生】
 携帯電話には、様々なメールがやってくる。アドレスを教えた友人から、登録をしたメールマガジンから。そして、忘れてはならないのが迷惑メールである。
 何処で知ったのか、どうして分かったのか。殆どがエッチなサイトを宣伝するものなのだが、中にはお金持ちになれる方法、などといったものまで存在する。
 そんな迷惑メールの中に、最近噂になっている「おみくじメール」があった。
 突如やってくるそのメールには、アドレスが載っている。送り主は、株式会社LIGHTとある。
「突然のメール、失礼致します。試験的にサイトを運営するにあたり、ランダムでメールを送らせて貰っております。近く、おみくじメールというものを行う予定であり、そのチェックを行っております。宜しければ、ご協力ください」
 そう書いてあるメールには、最後に「料金はかかりません」と記述がある。
 アドレスをクリックすると、出てきた画面に「おみくじを引きますか?」と書いてある。「あなたの守護神がお知らせします」とも。
 そこをクリックすると、最初に知らせてあった通りに守護神が画面に現れる。そして本日の運勢を五段階で評価してくれるのである。
 運勢が悪くても「私がついているので大丈夫です」と、守護神が微笑んで言ってくれる。ただそれだけだ。
 しかし、そこにアクセスした者の中で、異変を感じている者がいた。
 夜道を歩いていると何かがついている気がするだとか、何となく何かがいるような気がするだとか。ただそれだけならば、気のせいと割り切ってもいいかもしれない。だが、同時に彼らは訴えるのだ。
 色々な事を、忘れているのだと。
 単にちょっとだけ忘れた訳ではない。頭の中からすっぽりと、少しずつ忘れていっているのだと。
 そうして、登録した覚えも無いのに気付けば守護神の画像がデータボックスにあるのだという。それでも、削除をする者は誰もいなかった。
 削除しようとする、その思いが一番に消えていってしまったからであった。
魂籠〜月戯〜

●序

 光はやがて、体に入る。

 携帯電話には、様々なメールがやってくる。アドレスを教えた友人から、登録をしたメールマガジンから。そして、忘れてはならないのが迷惑メールである。
 何処で知ったのか、どうして分かったのか。殆どがエッチなサイトを宣伝するものなのだが、中にはお金持ちになれる方法、などといったものまで存在する。
 そんな迷惑メールの中に、最近噂になっている「おみくじメール」があった。
 突如やってくるそのメールには、アドレスが載っている。送り主は、株式会社LIGHTとある。
「突然のメール、失礼致します。試験的にサイトを運営するにあたり、ランダムでメールを送らせて貰っております。近く、おみくじメールというものを行う予定であり、そのチェックを行っております。宜しければ、ご協力ください」
 そう書いてあるメールには、最後に「料金はかかりません」と記述がある。
 アドレスをクリックすると、出てきた画面に「おみくじを引きますか?」と書いてある。「あなたの守護神がお知らせします」とも。
 そこをクリックすると、最初に知らせてあった通りに守護神が画面に現れる。そして本日の運勢を五段階で評価してくれるのである。
 運勢が悪くても「私がついているので大丈夫です」と、守護神が微笑んで言ってくれる。ただそれだけだ。
 しかし、そこにアクセスした者の中で、異変を感じている者がいた。
 夜道を歩いていると何かがついている気がするだとか、何となく何かがいるような気がするだとか。ただそれだけならば、気のせいと割り切ってもいいかもしれない。だが、同時に彼らは訴えるのだ。
 色々な事を、忘れているのだと。
 単にちょっとだけ忘れた訳ではない。頭の中からすっぽりと、少しずつ忘れていっているのだと。
 そうして、登録した覚えも無いのに気付けば守護神の画像がデータボックスにあるのだという。それでも、削除をする者は誰もいなかった。
 削除しようとする、その思いが一番に消えていってしまったからであった。


●始

 入ってしまったという事実を、知ることも無い。


 梧・北斗(あおぎり ほくと)は学校の帰り道、いつものように草間興信所に向かっていた。
「勝手知ったる興信所―ってね」
 北斗が鼻歌交じりに歩いていると、どん、と背中に何かがぶつかってきた。北斗は思わず「う」と呟く。
「す、すいません。大丈夫ですか?」
 ぶつかってきたのは、女性だった。手に大きな荷物を持ち、おどおどとしながら北斗に謝る。
「大丈夫だけど……」
「本当にすいません。ちゃんと前を確認していなくって」
「危ないじゃん、それ」
 北斗は思わず苦笑する。前は確認して歩かないと自分は勿論、手にしている大きな荷物が通行人に対して凶器にもなるのだから。
「ちょっと、場所を探していまして」
「場所?」
「ええ。草間興信所っていうんですけど」
 女性の言葉に「あ」と北斗は声に出す。草間興信所なら、今まさに行くところではないか。
「じゃあ、一緒に行こうぜ。俺、そこの調査員なんだよ」
「そうなんですか。じゃあ、お願いします」
 女性はそう言って頭を下げる。北斗は「いいって」と言いながら、手をすっと差し出す。
「その荷物、持ってやるよ」
「え、でも……」
「いいからいいから。どうせ同じ場所に行くんだし」
 北斗はそう言って、荷物を受け取る。その時、ふと手にした荷物の中身を見る。中にはたくさんの洗剤。洗濯用、食器用など、様々な洗剤が入っている。
「こんなに洗剤を買うってことは、安売りセールでもしてたのか?」
「いいえ、ただ……必要だと思って」
「必要?」
「ええ。洗うための……」
 女性はそう言ってから、はっとした表情を見せる。北斗は「ええと」と言いながら後頭部を掻く。
「ま、いいや。ともかく草間興信所に行こうぜ」
 北斗はそう言い、先導する。
 そこから五分ほど歩くと、草間興信所に辿り着いた。北斗は「こっち」と言いながら、慣れた足取りで興信所内に足を踏み入れる。
「おっす、武彦」
「おっす、じゃない。おっす、じゃ……」
 草間はそう言いながら、北斗の方へと来る。やってきた草間に対し、女性がぺこりと頭を下げる。
「おい、お前の彼女か?」
「ばっ……違うって」
「またまたー。お前も隅に置けないなー」
 にやにやと笑う草間に、北斗は「違うっつーの!」と言い放つ。
「依頼人だよ、依頼人。俺が案内してあげたんだよ」
 北斗の言葉に、草間は慌てて「失礼」といい、ソファを勧めた。北斗は「やれやれ」と言いながら、草間の隣に腰掛けた。
「……なんでお前も一緒にいるんだ?」
「いや、俺も話を聞こうと思って」
 北斗の言葉に女性は一瞬戸惑いつつも、草間の「これでも調査員なんで」という言葉に頷いた。「これでもは余計だ」と、北斗は小さく呟く。
「それで、どういった事が?」
 草間が尋ねると、女性はまず自分を神田・真澄(かんだ ますみ)だといってから、放し始めた。
「私、最近いろんな事を忘れている気がするんです」
「いろんな事って、たとえば?」
「コンパの約束だとか、洗剤を買った事だとか……。スケジュール帳にコンパの予定をちゃんと書いてあるのに忘れてしまっていたり、家にいっぱい洗剤があるのにまた買って帰ったりだとか」
「それって、うっかりしてたって事じゃなく?」
 北斗が尋ねると、神田はゆっくりと首を横に振る。
「全く記憶に無いんです。普通はスケジュール帳を見たり、友達に言われたら気づくでしょう?私には、そういうのが全く無くて」
 神田はそう言い、続けて「それに」と口にする。
「最近、夜道で誰かにつけられている気がするんです。ずっと、傍に何かがいるような気がするし」
「ストーカーっていう可能性は?」
「分かりません。ですけど、いろんな事を忘れたりするのと時期が重なっていて」
 草間は「ふむ」といい、考え込む。
「何か思い当たる事があるんじゃねーか?だから、ここに来たんだろ?警察とか病院じゃなくて」
 北斗がそう言うと、神田はこっくりと頷いて携帯電話を取り出す。そして一つの画像を表示させて差し出した。
 その画像は、仁王像を思わせるようないかつい顔つきをしている、青い姿をしたものだった。鬼、と言ってもいいかもしれない。
「なんですか?これは」
 草間の問いに、神田は「守護神です」と答える。
「それは、私を守る守護神なんです」
「守護神?」
 北斗が訝しげに言うと、神田はこっくりと頷くのだった。


●動

 知る必要も無いが、知らない必要も無い。


 神田によると、守護神は突如やってきた「おみくじメール」というもので手に入れたのだという。「おみくじメール」に添付されたリンクをクリックすると、簡単な運勢が現れる。その結果があまりよくないものだったが、代わりに「あなたを守りましょう」といってこの画像が現れたのだという。
「よくこんなんをダウンロードしようと思ったな」
 北斗が言うと、神田はゆっくりと首を横に振る。
「私自身、これをダウンロードした覚えは無いんです。気づけば、画像フォルダに入っていて」
「ダウンロードした覚えが無いのに、画像が入ってるっておかしくないか?」
「だけど、本当に覚えは無いんです」
 北斗は「じゃあ」と言いながらじっと画像を見つめる。
「消せば良いじゃん」
「……あ、ああ。そうですよね。消せば……」
 神田はそう言って携帯電話に手を伸ばし、画像を消すためにカチカチといじりはじめた。が、途中で不意にそれをやめてしまう。
「どうしたんだ?」
 北斗の問いに、神田は顔をゆっくりと上げてきょとんとした表情を見せる。そして、ごく自然に携帯電話を鞄に収めた。
「画像、消したのか?」
「え?」
「だから、守護神とかいう画像。消したのか?」
 北斗の問いに、やっぱり神田はきょとんとする。北斗は少しだけ苛々しながら「だから」と付け加える。
「守護神っていう画像。さっき、消すって言ってたじゃん」
「そうですっけ?」
 埒が明かない。北斗は「ああ、もう」と言いながら手をすっと差し出す。
「携帯電話貸してくれねーか?」
「あ、はい」
 素直に頷き、神田は携帯電話を差し出す。北斗は「全く」と言いながら携帯電話のメニュー画面を開く。画像ボックスを選び、守護神の画像を表示する。やはり、消していない。
「消すから」
 北斗はそれだけいい、守護神の画像に対して「消去」を選んで実行する。だが、途中で「削除できません」というメッセージが出てくる。
「何で削除できねーんだよ!」
 北斗はそう言い、じっと守護神の画像を睨みつける。こうして見ると、妙に子憎たらしい気がしてならない。
「なあ、これってどういう会社が配信してるんだ?」
「確か……株式会社LIGHTって言うところでしたけど」
「株式会社LIGHTか……」
 北斗はそう言い、ふと気づく。この前起こった事件の会社は、HIKARIという名前だったはずだ。
 つまり、どちらも「光」である。
(何か意味があるのか?)
 似通っているとしか思えぬ、二つの事項。
(天使の次は守護神か。ホント、嫌になるくらい似てるな)
 思わず北斗は苦笑する。
 携帯電話の画像を消す事を諦める。消去が出来ないのは、何かしらのロックがかかっているからだ。そのロックとは、おそらくは神田自身も分からないものだろう。
 何しろ、ダウンロードした覚えからないのだから。
「この画像が入ってるフォルダ、見てもいい?」
「あ、はい」
 神田の了承を得、北斗はフォルダを確認する。すると、守護神の画像が入っているフォルダは画像フォルダの中にある「shugo」というフォルダ名であった。
(うわ、怪しい)
 北斗は守護神画像以外のファイルが無いかを確認する。すると、画像ファイルの隣に「SYSTEM」という名のフォルダがある。
(システムって、たかだか画像ごときに?)
 北斗は怪訝に思いつつ、そのフォルダを選んで開ける。が、中には何も無かった。
(空か?)
 腹立たしいくらい、何も無い。そして、当然のようにフォルダもロックがかかっていて消去する事ができない。
 北斗はため息をつき、ひとまず神田に返した。神田は携帯電話を受け取ると、何も気にすることなく鞄に収めた。
「それでさ、何か傍にいるって言ってたけど」
「あ、はい」
「それ、実際に見たことはあんのか?」
 北斗の問いに、神田は少しだけ考え込んでから首を振る。
「特には、ないんです。でも、確かに」
 神田はそう言って、ぐっと言葉をつまらせる。何の証拠も無いというのが、引っかかっているのだろう。それをフォローするかのように、北斗は「別にさ」と口を開く。
「別にさ、あんたを疑ってる訳じゃねーから。ええと、あと夜道に後ろからついてくるって言ってたよな?」
「はい」
「それは、夜道だけか?昼間は特に何も無いのか?」
「多分……。昼間は静かな道を歩いたりする事がないから、しっかりとはいえないんですけど」
「夜、静かな道を歩いたら感じるってことか?」
 北斗の問いに、神田はこっくりと頷いた。小さく「なるほどねぇ」と北斗は呟く。
「それじゃあ、その夜道とやらを歩いてもらおうか」
「え?」
「大丈夫だって。ちゃんと見張ってるからさ」
 北斗はそう言って、にかっと笑う。神田はそれを聞いて少しだけ、ほっとしたような表情を見せる。
「案外、お前の方が怪しい奴だとされたりしてな」
 話を聞いていた草間が、悪戯っぽく笑いながらそういう。
「そんな、武彦じゃあるまいし」
「俺の何処が怪しいっていうんだ?」
「そっくりそのまま返すっつーの」
 北斗と草間のやりとりに、神田はくすくすと笑う。思わず北斗と草間は神田の方を見つめてしまうと、神田はその視線に気づいて「あ」と声を出す。
「ごめんなさい。とても、楽しくて」
「別にいいって。武彦が可笑しいのがいけないんだから」
「お前が言うな、お前が」
 草間の抗議を軽く無視し、北斗は「それよりも」と付け加える。
「夜道についてきている気がするってのは、毎回なのか?」
「あ、はい」
「んで、何かいるような気がするってのは、今も?」
 北斗の問いに、神田は少しだけ考えてから頷く。
「夜の方がその感覚が強いとかそういうのじゃなくて?」
「どういうことだ?」
 草間が怪訝そうに北斗に尋ねる。
「だからさ、夜の方が出てくる気配とかってのが強くなるのかなーって」
 北斗の言葉に神田はちょっとだけ考え込み、そっと「そういえば」と口にする。
「そういえば、そうです。どちらかといえば、夜の方がその感覚はあるかもしれません。勿論、夜の方が静かにすごす事が多いから、そう感じるだけかもしれませんけど」
 神田の答えに、北斗は「そっか」と返す。そうして窓の外を覗き込む。大分、日が落ちてきた。
 北斗は「よし」と小さく呟き、布で包んだ長い棒のようなものを手にする。手にすっとなじむ、愛用の退魔弓「氷月」だ。
「じゃあ、行くか」
「は、はい」
 神田は北斗の言葉に返事をし、立ち上がる。そして傍らに置いていた大量の洗剤が入った袋を手にするのだった。


●遊

 全てを知っていると断言するならば、それ相応の理を持て。


 空は赤から黒へと変わっていく。明るかった空は、ぽつりぽつりというか弱い光が点在するようになる。街中は、人工的な光に包まれる。
 そんな中、神田は洗剤がたくさん入った大きなビニール袋を手に帰路についていた。歩くたびに、みし、みし、とビニールがきしむ。
 足がほんの少し震えている。それは、ビニール袋の重みによるものではない。
「本当に、大丈夫かしら」
 ぽつりと神田は呟く。家までは、あと少しという距離になっている。辺りは人通りがないが、街灯が明るい所為か事件が起こったという事は聞いていない。治安がいいのだと聞いていたから、今住んでいる場所に家を決めたのだから。
 手に食い込むビニール袋を持って歩いていると、ようやく家が見えてきた。ほっと息をつき、震えていた足を速める。
 ずん。
 家まで早歩きで行こうとした、まさにその瞬間だった。いつものように、後ろから気配を感じたのだ。
「やっぱり」
 いつも通りだ。家が近づく頃になったら、余計に感じるのだ。
 後ろから感じる、気配を。
 神田はぐっとビニール袋を握り締め、振り向こうとした。すると、びん、という音が辺り一帯に響き渡った。
 弓の弦の音だ。平安時代でも行われていたという、悪霊を祓うための弓鳴らし。その音が今、響き渡っているのである。
 ゆっくりと振り返ると、そこには退魔弓「氷月」を構える北斗の姿があった。そして同時に、黒い影も。
 巨大な影だ。こんなものが自分の後ろを歩いていたのかと考えると、本当に恐ろしくなるほど。
「……お出ましだ」
 北斗はそう言い、再び弓を鳴らす。びいん、という音が空気を震わせ、身体に心地よく響く。黒い影は、忌々しそうだが。
「何なんだよ、お前」
 北斗の問いに、黒い影はゆっくりと神田に向かっていく。神田は逃げようとしたが、黒い影の方が、動きが早かった。
「よせ!」
 北斗の制止を聞くはずも無く、黒い影は神田の中へと入っていった。神田は一瞬だけその影に対して暖かさを感じ、そしてまた冷たさを感じた。
 そうして、意識の底へと沈んでいく。
 意識を失ったはずの神田は、ゆっくりと北斗の方を向き直る。その目に宿るのは、何も映さぬ虚ろな色。
「……何してるんだよ、お前」
 北斗はそう言いつつも、ふと気づく。虚ろな目をした、取り付かれた人。それは前回直面した結城と、酷いデジャヴを感じたのだ。
「何を、とは。守ってやっているだけなのだ」
 神田とは違う、低い声。
「守ってやってるって、それが?」
「この者を守ってやらねばならない。守って欲しいと、この者が願ったのだから」
「無理矢理に近いんじゃねーの?」
 北斗の言葉に、ただ「笑止」とだけ答える。至って真面目なのだ。ただ、何かが間違っているように思えて仕方が無い。
 事実、間違っているとしか思えなかった。
「ずっと取り付くのが、守るって?」
「そうだ。道を踏み外させたら、いけない」
「道を踏み外すって、まさか……日常的な思い出を消していくって事じゃないだろうな?」
 北斗の問いに「馬鹿な」と答え、言葉を続ける。
「ただ、道を踏みはずす要因を排除しているだけだ。世界を綺麗にするために」
 また、だった。また、感じたデジャヴ。
 北斗はぐっと氷月を握り締める。怒りが溢れてきて、たまらない。
「そんな事が、許されてたまるか!」
「許しなど必要ない。ただ、美しい世界こそが不可欠なのだ」
 理想、妄想、自己中心的美。
 北斗は守護神の言葉に腹立たしさを覚える。押し付けてくる世界の、何処が美しいというのだろうか。なんと勝手な理論だろうか。
「……俺は、認めねー」
 ぽつり、と呟く。
「俺は、絶対認めねーからな!」
 北斗はそう言い放ち、氷月を構える。すう、と息を吐き出し、精神を統一しながら矢をイメージする。
 光り輝く、北斗の心を反映する一本の矢を。
「お前が認めようと認めまいと、世界は進むべき世界に進むのだ!」
「んな訳あるか!」
 びぃんっ!
 北斗は矢を引き、まっすぐに放つ。手を離れた矢は光り輝いたまま、神田の方へと進んでいく。
「ははははははは!」
 神田が、神田の中にいる守護神が、低いしゃがれ声で笑う。そして、矢が突き刺さったと同時に笑うのをやめ、その場に倒れた。
 北斗は氷月を掴んだまま、神田の下へと駆け寄る。
「おい、大丈夫か?」
 北斗が尋ねると、神田はゆっくりと目を開く。先ほどまでの虚ろなものとは全く違う、生者の持つ輝きがある。
「あ、私……」
 無事な様子に、北斗はほっと息を吐き出す。
「画像、どうなった?」
 北斗の問いに、神田はゆっくりと鞄の中から携帯電話を取り出し、画像フォルダを確認する。
 不思議そうな顔をしたままの神田を見、北斗は画面を覗き込む。
 そこに、あの「shugo」と書かれたフォルダは何処にも存在してはいなかった。


●結

 道は決まる。理を以って。


 草間興信所で、北斗は草間に提出するレポートを書く。途中で何度か「もういいか?」と草間に尋ね、その度にレポートを覗き込み「そこで終わるな」と突っ込みを受けながら。
「……なぁ、武彦」
「ちゃんと終わったんなら、いいぞ」
「いや、そうじゃなくて。世界の進むべき道って、どんなんだと思う?」
 北斗の問いに、草間は怪訝そうに「熱でもあるのか?」と尋ねてくる。が、北斗の真剣な表情を見て「そうだな」と声を漏らす。
「少なくとも、決められているようなものじゃないと思うが」
「だよな。決められると、つまんないよな」
 笑い声が耳に残っている。あの低く、しゃがれた声が。
 何故あの時、守護神は笑ったのだろうか。いや、その前にも天使とやらは笑っていた。
 倒されるというのに、高らかに笑っていたのである。
(決められた世界が美しいだなんて、俺は絶対に思わねーよ)
 北斗は心の中で呟き、レポートに「頑張った」と書き込む。そしてにやりと小さく笑い、鞄を引っつかむ。
「じゃ、レポートを書いたから俺はこれで!」
「どれどれ?」
 草間はそう言って、レポートを覗き込む。北斗は慌て気味に草間興信所を後にした。
「……まだ途中だぞ、北斗!」
「また今度なー」
 背中から聞こえる草間の声にくすくすと笑いながら返し、北斗は走り抜けていく。
 まるで鬼ごっこでもしているかのように。

<まるで戯れのようにも思い・終>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 5698 / 梧・北斗 / 男 / 17 / 退魔師兼高校生 】

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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました、コニチハ。霜月玲守です。この度はゲームノベル「魂籠〜月戯〜」にご参加頂き、本当に有難うございます。
 「雪蛍」から続けてのご参加、有難うございます。内容は前回の結果を反映しつつ、書かせていただいております。如何だったでしょうか。
 このゲームノベル「魂籠」は全三話となっており、今回は第二話となっております。
 一話完結にはなっておりますが、同じPCさんで続きを参加された場合は今回の結果が反映する事になります。
 ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。それではまたお会いできるその時迄。