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■桜花苑奇譚<「ふわふわ」という名の恐怖。>■

天瀬たつき
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
 それはある、雨の日のこと。

 ― コンコンコン

ドアをノックする音が人気のない廊下に響く。
「すみませーん。桜花苑ですが、お菓子をお持ちしましたー」
<草間興信所>と書かれたプレートの貼られた扉の前で、エプロン姿の青年が扉の奥に声をかける。

 しかし、扉の向こうはしぃん、と静まり返り、何も音がしない。
「おかしいなぁ……。桜華様が居ればこんなに静かなはずは……」

 エプロンの青年 ― 篠原 藤也(しのはら とうや)― はつい1時間ほど前に突然の呼び出しを受けた。
「藤也! これから草間興信所、という所で茶会をするゆえ、茶菓子をもってこい」
電話口でこの一言だけ言い放たれてガチャンと電話を切られたのだ。

 ここ数日雨が続いているせいか、木霊である桜華はご機嫌だ。
時々神社の外に散歩に出ては遊んで帰ってくる。
 今日も、後で藤也が興信所にかけなおしたところ、興信所の主人で草間と名乗る男性がいうには、偶然数人の訪問者が居た所に桜華が訪問したらしく、折角だから茶でも飲もうと桜華に誘われたらしい。

「呼び出しの声が弾んでたから……カッコいい男性でも居たんでしょう。どうせ」
面食いの桜華の性格を考え、藤也は大きなため息をつきながらも彼女の注文どおり、茶菓子を用意して興信所に来た、というわけなのだ。


 さて、ノックをすれど反応しない興信所。しかし、どうやらドアの鍵は開いているらしい。
このままボーっと突っ立っているわけにも行かない。藤也は意を決してドアノブに手をかける。
「すみません。桜花苑ですが……」
と、そっとドアを押し開け、中を見た。しかし……

「!?」
その光景に思わずドアを閉める藤也。
 何故そうしたかは分からない。しかし、「これはまずい」そう彼の中の本能が警告している。

 よくよく中の光景を思い出してみる。
 中はそう、言いようのなく色とりどりな世界が広がっていた。
 ふわふわとした綿の様なものが赤だったり黒だったり……。それが部屋一帯を覆い尽くしていた。

「これって……放っておくわけにはいきませんよね……? っていうか桜華様も!?」
ご神体に何かあっては神社の危機。いやそれよりもこの状況を放っておけるほど白状でもなく。

「桜華様!?」
ドアを開けようとしたその時。
「なんじゃ? 騒々しい」
「……え?」
振り返れば、そこに桜華がいた。
「な、なぜ??」
「いやはやまったく。酷い目におうたわ」
どうやら、慌てて興信所内にあった観葉植物を媒体に外に逃げ出してきたらしい。
「しかし参ったのぅ。菓子が来るまでにと思って田楽を作れば……」
「田楽?」
どうやら菓子がくるまでに小腹が空いたと興信所内の食材をあさって、田楽を作ったところ、それを食べたものがあの状況になったらしい。

「さて、こいつは見てみなかったことに……」
そういいながら桜華はちら、と藤也を見る。彼の目にありありと「責任取りましょうね?」という意志が浮かんでいる。
「……はできんようじゃのぅ」
「当たり前です」

 しかし、何とかするのはいいものの、はてさてこれをどうしたものか。2人は頭を抱えるのであった。

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はじめまして、もしくはお世話になってます。
今回は季節ものということで一本どたばたコメディなシナリオを用意いたしました。

 梅雨の季節になるとわいて出てくる……そう、アレです。
 それが興信所内を占拠し、中にいた数名が犠牲になっている模様。
 何はともあれ、中の人を助けてあげてください。

■募集人数
1〜4人
■執筆仕様
上の画像のようにモノクロでの作成となります。
ページ数は参加人数によります。