■鳥の姫君−風切羽の行方−■
珠洲
【2872】【キング=オセロット】【コマンドー】
 淡い淡い空赤の羽がひらり。
 大気をしばらく泳いでから人の行き交う通りに落ちて。
 拾った少年は抱えた大きな本を早速開いて見比べているけれど、どうやら鳥の図鑑の類の様子。
 でも見上げた空は鳥の影なんて見えないのに一体どういうことなのか。
 首を傾げた少年から少し離れたところで羽と同じ色をした少女がいることには気付かずに。



 ――そこまで読んでマスタは息を吐きました。
 いいえ。誤魔化したようですけど単なる吐息ではありません。
 笑いかけてこらえたんですね。私には解りますよ。まったく性格悪いんだから。
 くっくっく、と肩まで揺らして頁を繰っていらっしゃいますが……あらまあ、姫君は人間に化けた拍子に風切羽を失くしてしまったようです。それも取り戻さないと戻れない羽ですね。
 やっぱりごく普通の鳥の方より根性があるというのでしょうか。
 それどころではないのでしょうけれど、姫君はまだ気付かないでウキウキと歩いていらっしゃいます。成程、あの男の子に人間の姿をお披露目するんですね。
 ……後ろで風切羽を一つ拾っていらっしゃいますよ?
 ああ、本を抱えて走って行ってしまいました。姫君の羽色とはまた違うから繋がらなかったのでしょうか。それとも初めて見る羽に興味津々で考えがそちらへ至らないのかしら。
『ぁあ――っ!私の羽ぇ!』
 ぱりんぱりんと硝子が割れて人がよろけておりますね。
 相変わらずお元気な様子の姫君ですが、気付くのがいささか遅かったご様子。
 男の子はもう姿がありません。
 姫君はひとしきり絶叫して街中を揺らしてから駆け出されました。
 見つかるとよろしいんですけれど。

「見つからなくても喜んで嫁入りするんじゃないのか」

 マスタ何を適当に仰ってるんですか。
 姫君とあの男の子、まだそこまで仲は進んでいませんよ。
 そもそも人の姿は男の子が知らないんですから展開も読めませんのに。
「……面倒だな」
 面倒じゃありません。
 ほら、お客様がいらっしゃいましたから!
 いつものように物語のお手伝いを依頼してはいかがですか。
■鳥の姫君−風切羽の行方−■





 ――さあ、空赤の羽の対を探しに参りましょう。


 ** *** *


 昼前の街中は、突如割れた硝子の破片で妙に足元が眩しい。
 ある程度は片付けられてごく微細なものばかりではあるが、充分に陽の光を弾くそれらを視界に納めてから少女――つまり物語に記されていたところの姫君は周囲の人々をぐるりと見た。
 それぞれに時間差で彼女に見えたのは六人。
 覚えのある者ない者と混ざりながら、どうやら皆が自分の羽を探してくれるのだという話であり、ぱちぱちとまばたきしてから姫君は唇をつんと尖らせて小さく声を落とす。
「お、お願い、ね」
 ああ言い慣れていないのだなと思わせる拙い言葉にそれぞれの仕草で笑う。
「はい」
「まかせときぃ」
 リラ・サファトが柔らかく髪を揺らして頷くのと同時に多祇が翼を揺らして明るく答える。重なった言葉に視線を合わせてこれまたにっこりと笑い合ったのは、深く頷いていた藤野羽月が妻の隣から目に留めていた。
「この人数であれば聞き込むのも早いだろうしな」
「そうですね。多少は術も役に立てばいいのですが」
 キング=オセロットが今は紙巻煙草を挟まないままにゆるく腕を曲げて言うのには、馨が同意する。彼は地術師であるので風に運ばれていれば羽を見つけるには、と術の有効性を考えるが視線を多祇に向けたところで改めた。馨を見て多祇がにっこりと心得た顔付きで笑う。
 有翼人である彼もいるのだし捜索は難しくはないだろう。そも実際には二つのうち一つは拾い主が判明しているのであるから――これは、姫君は知らず、書棚の主から詳細はともかく聞いて訪れた六人は知るところだ。
「――おそらく、な」
 思い出したように付け加えたオセロットがついと目線を流す先。
 そこには一人うんうんと腕を組んで頷き続ける筋肉隆々の巨漢が一人。オーマ・シュヴァルツである。
「聖筋界のらぶってのはなぁ、コウノトリじゃねぇで羽が運んで来やがるもんなんだぜ……!!」
「そうかもしれませんね」
 妙に感慨深げな様子のオーマの言葉をさらりと笑顔で流して馨。
 オセロットが再び目線を動かせば、その先では姫君が困惑した風でいるのを羽月とリラが相手をしていた。
「コウノトリがらぶ?」
「世界には様々な話があるということだ」
「そうですね。色々です」
 コウノトリは姫君の生活の中では『らぶ担当』でもないのだろう。不思議そうな言葉を二人は上手くあしらっている。


 ――さて、まずは羽を探す第一歩を。


 ** *** *


 盛大な硝子の割れ具合の中を普段の通りに靴音を響かせて歩き近付くと、姫君の方から振り向いた。怪訝そうにしてから記憶に残っていたのか表情を変える。
 それを確かめからは唇を開いた。
「久しぶり、というべきかな、姫君」
「そう、そうね。お久しぶり」
「ふむ……」
 当然ながら鳥の姿とはまた印象が異なる。
 無礼にならない程度に眺めてから何気ない口調で問うた。
「察するに、あの少年に会いに行かれるのか」
 どうして解ったのと言わんばかりの表情。
 だが以前の出来事を知る者ならば、書棚で聞かずと容易に推測出来ようというものだ。
「止めはしないが……一つ約束頂けないかな?」
「……約束?どうして」
「思うのだが……姫君たるもの、淑女でなければならない。思うままにならないこともあるかとは思うが、声を荒げるなど淑女らしからぬ振る舞いだ。承知されているだろうが」
 さらりと言えば居心地悪そうに「そうね」と頷く。喧々と騒ぎがちな自覚はあるらしい。言いたい事も解っているのだろう。
「如何なるときでも心落ち着け、淑やかに」
「そう……ね」
「約束いただけるかな?」
 少女はきゅうと唇を噤んで頷いた。その旋毛を見下ろしつつオセロットは内心で一つ、息をついた。あとは探し物を手伝えば良い。
 そして周囲の硝子の破片を見ながら思ったことは。

(……これで声の被害を抑えられれば、いいのだが)

 街人が慌しく片付けに動く中で異なる空気の数人が視界に入る。
 それは同様に書棚を訪れた者達だろう。おそらくは。



 そんな風にしてそれぞれが姫君と挨拶を交わしたわけで、当初から一緒であったのは羽月とリラの二人だけであった。
 しかし基本的な方針は変わらないと相談――急かす姫君を宥めつつという微妙な手間をかけながら――する間に知れて、では姫君が人間になった理由を考慮して少年と一緒に捜索させようと。多少の差はあれそういった辺りである。

「でも拾った人がその、その子だってどうして解るの?」
「うち空飛んでたからなぁ。綺麗な羽ぇてちょっと遠くで言ってるの、聞いたところにお姫さんの声聞いてんよ」
 ぷくと頬を染めつつの姫君の疑問を多祇がいかにもと翼をはためかせて笑顔でかわす。先に行くほどに色を抜き煌く多祇のそれをまじと見た姫君は「そ」と少し拗ねた様子になった。
(おや)
 ふと気付いたのは馨。
 姫君の動作が拗ねた子供を思わせたのだ。
 どうやら先に相手の少年を見つけられたのが悔しいやら羨ましいやら、といったところか。
「ともかくだ、片方は拾い主が判っていることでもあるし一度少年の許へ向かうのも良いのではないかな」
「ぅえ!」
「……姫君?」
 奇妙な声にリラが怪訝そうに首を傾げて瞬きする。
 それはそうだ。
 改めて話を聞いても『人(つまり少年だ)に見せに』と自ら言っておきながら仰天するというのは訳が解らない。
 だがリラと何やら考えている様子の羽月の他――オセロットや多祇、馨といった面々は何やら納得のいった表情になる。やや遅れてリラもなんとなし理解すると、少しだけ眉を下げた。苦笑だ。
「乙女心ってやつやね」
「可愛らしいものです」
「それはそうだが――姫君、なんにしろ我々はその羽の外観すら知らないままだ。少年に確かめて、間違いなくその羽ならば捜索も容易になるのではないかな」
 にこにこと笑顔で言い交わす多祇と馨はどちらもいまいち表情の奥が読み取れない。筋の通った説明をするオセロットといい二人といい、姫君には勝てそうにない相手である。
「そうですね。羽を探すのだけで時間を潰しても勿体ないです。こんなに綺麗な姿を見せないなんて絶対損ですよ。姫君にも、あの子にも」
 ね?と諭すようなリラの声。
 でも、とまだ土壇場で踏み出せないというのも明らかな姫君の様子をそれでも微笑んで見守っていた彼女はふと気になった。普段であれば自分の言葉を補強してくれるような、夫の静かな声がまるで聞こえないままであることに。
「羽月さん?」
 振り仰ぐ。
 肩越しに、ライラックの髪を透かして見えた彼は今もなにやら考えている。リラが繰り返して呼ばわるとそれでようやく意識を向けた。
「羽月さん?何か、気になることでも……」
「……いや、そういう訳ではないのだが」
 気遣わしげなリラの声に珍しくも多少慌てた様子で否定する。
 が、すぐにまた思案する素振りを見せたかと思えば「姫君」と空赤の髪をした少女へと真面目な顔を向けた。
 一本芯の通った様子の羽月がそういった態度を取ると、なにやら他の者も引き摺られて真面目になる。ぴりと一転して引き締まった空気の中で和装の青年は口を開いた。

「嫁入りというものは」

 ――――え?
 小さく洩れた声は誰のものだろう。
 すとんと落ちた空気の中で羽月は真面目に言葉を綴るのだけれども。
「付き合いに付き合いを重ね、この人ならば共に何時までもと思える人とこそやるのが一番なのだ」
「……は」
「まだそこまで親しくはないのであれば、一足飛びの決断は互いの関係を逆に悪くする可能性も――」
 ぱくりと開閉した少女の唇。
 瞬間に抜け落ちたそれぞれの表情を取り戻す間にも二度三度と開閉する。
『喜んで嫁入りするんじゃないのか』
 ああ書棚の主が言ってたのかとそれぞれが思い至った中、苦笑するリラを挟む位置で姫君だけが顔面に血を昇らせた。
 ぱく、とまた唇が一度開閉して。
「嫁、嫁入りって――」
「姫君」
 至近距離の叫び声が披露されかけたところですかさずオセロットが言葉を挟む。曰く、淑女らしく。金髪の向こうの冴えた瞳が言わんとするところを理解して姫君が口を噤むのは叫びが凶器になる寸前であった。むぐりと堪えて危機一髪。
「えっと……羽月さん、それは」
 生真面目な夫にどう話そうかとリラが言葉を探す。
 だがその間に当人が周囲の表情に気付くと「ああ」と困惑したような、申し訳なさそうな、そんな様子で姫君を見た。
「先走ったか。すまない」
 何が悪いと言えば主が悪いんですけどね、と例の館の言葉を聞けたなら耳に届いただろう。
 更なる破壊活動を回避したオセロットが懐を探りかけて止める。紙巻は今は不要とすべきだけれど習慣というのは無意識で出るものだった。
 やれやれとなんとなし苦笑しつつの吐息。
「それで、あっちのお人はどうなんやろね」
「――ああ」
 そんな一同を笑顔で愉しく見守っていた多祇と馨。
 二人は最後まで沈黙を続ける一際大きな人物を見た。
 気付けば彼はいつの間にやら真面目な顔で眉間に深々と皺を刻んで苦悩している。静かだと思えばこれはまた。
「オーマさんも多少先走るきらいがあるのかもしれませんね」
 人当たりよく、馨の言葉は控えめだ。
 しかし実際のところオーマの脳内では行方の知れぬ残る片方の羽捜索シミュレートが展開されているのだから控えるどころではない。
 ふぅん、と多祇はそちらへ向かい一見強面なオーマと目を合わせた。問うてみよう。
「なんや引っ掛かる事でもあるん?」
「む?いやいやいやそうじゃねぇ。そうじゃねぇんだがな……」
「しかし随分と悩んでおられたようですが」
 とはいえ彼の脳内シミュレートなぞ解る筈もない。
 馨が言外に「話してみては」と促して、多祇も同意する。
 それを順に見てからオーマは重苦しく口を開いた。
「――いや、な。その羽がよ」
「はい」

「羽募金に紛れていないと良いなと思ってなぁ」

「…………そやね」
「…………そうですね」
 二人にそれ以外の返答は出来ただろうか。
 笑顔の質も変わりそうなオーマの言葉はまだ続く。
「勝手に金使えないからもし募金に紛れてたらアレだ。俺は命をかけなきゃならん。聖筋界のラブの為とはいえ出来れば避けたいってトコロが本音だろ」
 どれだけ思考は進んでいたのだろう。
 血の気さえ失せるこの巨漢の脳内では帰宅後の恐怖までまざと浮かんでいるのかもしれなかった。
 静かに二人はオーマを見る。
 ややあって多祇がふっと息を吐いてから普段の通りに笑んだ。
 続いて馨も一度目を閉じて腹腔辺りに力を入れてから多祇同様に笑んで。
「心配いらへんよ」
「ええ。きっと大丈夫です」

 そろそろ羽を探しに動かないと、と当たり前ながら考えた。


 ** *** *


「ないのかしら」
「みつかるよ。大丈夫」
 少女らしい声がそれぞれの耳に届きいて視線を向ければ男の子が一人、姫君と一緒に歩いて来る。
 手にぎゅうと少女の髪色と同じ羽を握って歩く姿。
 微笑ましいとリラが顔を綻ばせる隣で羽月も口元を柔らかくたわめる。
 二人は街の外に向かう道を左右それぞれを担当して探しつつ歩いた。当然ながら羽のことだ。
 離れた場所では馨がオセロットから、彼女が手早く聞き止めた目撃情報に添って樹木や地面に問うて辿っている。地術師であるからこその手段。
「この辺り鳥多いねんなぁ。色まで絞れんから違う羽まで大量報告やわ」
「こちらも日常的に羽は落ちるようですね。どうも多すぎて」
 ばさりと羽音がして多祇が一度降りてくる。
 己の種族と職を生かして上空であれこれと手を打ってくれていたのだが、芳しくはない様子だった。
 報告する背中(正確には翼だろう)に視線を感じつつ馨と言葉を交わす。傍らでオセロットはさめた眼差しをオーマに送って。
「スライディングに意識を取られた者が多かったようだしな」
「テヘ☆」
 白々とした言葉にも巨漢は可愛らしく首を傾げてみるが当然小娘サイズではないので微妙な印象だ。なんとなく生温い視線が複数刺さり、オーマは申し訳なさそうに肩をすぼめた。
「いや、勢い余っちまってなぁ……」


『秘筋奥義!大胸筋スライディングぅううっ!』
『あぁ――――っ!』


 甦る瞬間の凶器。
 オセロットも咄嗟に少年の耳を守った為に姫君の絶叫を制止し損ねたのはつい先刻だ。思い出すだけで鼓膜が裂ける気分になる。
 馨や多祇はまだ反射的に自分で塞いだからごく一瞬の被害だったけれど、通りにそって足元と通行人をチェックして進む夫婦というか夫の方つまり羽月は気の毒だった。リラをまず守って抱き込み声が届かないようにした為に彼だけは姫君の叫びに直撃されたのだから。
 聴覚の機能を調節していたオセロットはともかく、原因であるオーマが『鼓膜筋』とやらで無傷というのはいささか納得しかねる展開であった。
 ――話を戻そう。
「愛やねぇ」
「愛だなぁ」
 多祇の感心した声に重ねてオーマがうんうんと頭を振る。
「貴方が羽を見つけた途端に飛びつかなければ既に終わっていたのだがな」
「まさかあんなに筋風力で飛ぶたぁ思わなくってよ」
 素っ気無く言い差すオセロットの言葉もなんのその。
 はっはっはと軽快に笑う。憎めない人種ではあるのだろうが、いかんせん先程の絶叫の余韻を思えば次の発見時にむけて警戒すべきだった。
「……まあ、もう暫く探してみて見つからなければ姫君にお話して、もう一度オーマさんに対を辿って貰うといいかもしれません」
「そやね。あの子とお姫さんが見つけるのも良さそうやけど」
 同意の声を聞きながら馨が視線を向ける先ではまだ小さな男の子の手を引いてはにかむ姫君の姿がある。まるで違うけれど、気恥ずかしそうにしながら平静を保とうとしている彼女の様子が馨の知る人を思い起こさせて、ふと笑みを誘われた。
 同様に姫君と少年を見守っているのはリラと羽月。
 見て微笑んでは羽を探す二人はお互いを見て笑み交わすことも多い。つとまた目が合った。
「見つからないですね」
「だがリラさんは楽しそうだ。あの二人か」
「はい」
 ひらひらと姫君の髪を飾る布がある。
 少年の家を訪ねる前にリラが結わえたものだ。
 ひらひら、ひらひら。
 手を繋いだ二人が動くたびに揺れるそれが姫君の弾む心のようにも感じられて、なんて言わないけれど旦那様にはきっと伝わっているのだろう。瞳を緩める羽月を見てリラは思い、それから気遣うように首を傾けた。
「ところで、耳は大丈夫……ですか?」
「問題ない。リラさんの耳も無事で良かった」
 とんとんと手で耳の後ろを叩いてみせて笑う羽月であったので、謝るのはもうしたのだからと己に言い聞かせて代わりに「ありがとうございます」とリラも笑う。
「もうちょっと奥かなぁ」
「危ないってば、わ!」
 そこへ聞こえる会話。植え込みを覗き込んでそのまま転がる少年と、驚いて小さな声を上げる姫君のもの。
 保護者よろしくオセロットが近付くのが見えた。
「もうちょっと、もうちょっと」
「む、無理しちゃダメよ。ねえ」
 姫君と少年の遣り取りを聞きながら、リラと羽月、別の樹木に訊ねていた馨も風に声を乗せていた多祇も、傍に寄っていたオセロットも。それから「らぶ魂オプションよ再び相反波動を」とかなんとかのたまっているオーマも。

 もうすぐ見つかりそうだななんて揃って思ったり。
 あるいは誰かが探し出して姫君と少年が探す場所にさりげなく置いておいてもいいかもしれない。


 もうちょっと。もうちょっと。


 だって多祇が本来の体色と同じ布で神懸りじみた脅威の速度で縫い上げた服を姫君が着ていたとはいえ、一目見るなり「お姫さまだ!」と言った少年であるから。
 進展が期待出来そうならば、こっそり御伽噺の小人さんみたいにしてもいいかなぁと。
 当初の満場一致の方針にあった「姫君と少年の後押し」的な部分に即して考えてみる一同である。


 ** *** *


 あったぁ!と上がる幼い声に手を止めた。
 顔を向ければそこで姫君が少年と一緒に手を取り合って飛び跳ねている姿。

「一段落といったところですね」
「そうだな。本来はもっと早かったのだろうが」
 丁度意志を交わしていた辺りの地面に労いを告げて立ち上がった馨はオセロットに話しかけた。この束ねた金髪が豪奢な印象を強める女性はすでに捜索の姿勢をやめて姫君達を眺めていたのだが、ついと視線を馨に滑らせる。
「なにか」
「いや……彼の家を訪ねる前のことを思い出した」
「おや。私は何かしましたか」
 さらりとした言葉の投げ合いに笑みが混ざる。
 オセロットの言わんとすることは馨にも解っているのだ。


『でも、ほら、やっぱり』
 もぞもぞと踏ん切りのつかない――羽と一緒に度胸も落としたかのような姫君の様子に馨は膝をついた。正面から言葉をかける為だ。
『ですが、その方にお見せしたくて変幻されたのですよね』
 こくりと素直に頷く姫君の表情にはじらいを見つけて笑みを深くする。
『女性の華やいだ彩りは微笑ましい物です。見惚れることはあっても逆はありません』
 折角皆さんが協力して下さったのですし、と示すのは髪を飾る幅広のリボンと常識外れの製作時間であった可愛らしい衣服。しかし姫君はそれを確認する前に居た堪れない様子で顔を一息に赤くしたのである。
『はずかしいこと――むぐ』
『淑女らしく』
 普段聞かない言葉であった為に羞恥で叫びかけたのを留めたのはオセロット。うううともがく姫君を挟んで視線を交わした二人だったのだ。


「まだこれから、ということだな」
「そのようですね」
 賑やかな若人二人を見守りつつ自然と並んで立っていたのだが、そこで馨が今度は「それにしても」とオセロットを見た。
「他の方もですが」
「なにかな」
「鳥と人という点を問題とされていませんね」
「貴方もだな」
「ええ」
 相手の思考を探るような雰囲気ながら実際は二人が簡単に感情を晒さないというだけの話で、そこで一度言葉を切ってからオセロットがふと息をつく。
「私は異種族間であれ、両者が同意と覚悟の上での恋愛であれば止めるつもりはない。勢いばかりではまずかろうが……互いに真剣であるならば、な」
 冴えた瞳の青が和む。
 その見詰める先を馨も追って、同意するばかり。
「もっとも、まだそこまでの話ではないか」
「先は長そうですよ」
 そんな風にするすると静かに言葉を交わしつつ。
 それぞれが空赤の羽を握って笑い合う姫君と少年を和やかに見ていた。
「揃いの羽ペンか羽飾りというのは如何でしょう」
「記念かつ絆、というわけやね」
 二人の縁を示すもの、と提案し応じ話していく。
 その間にも姫君と少年はあれこれと笑顔で言葉を交わしていたようだったのだけれども。


「その羽は普通とどう違うの?色が変わるのってどうして?風切羽だけど取っても大丈夫なのって風切羽とは別になる?」


「……ええと……」
「いや、しかし」
「まだこれから、だろう」
 一際大きく上がった少年の声。
 そこに純粋な好奇心しか感じ取れなかったなんて言えない。言えやしない。姫君が気付いてなくて幸せそうなら言わない方が多分良い。そうきっと!
「これからですから」
「そやねぇ」
「らぶがあればいつか必ず」

 ――多分。いつか、多分。

 力の抜けた笑顔は程度の差こそあれど一同に共通していただろう。


 ** *** *


 薄紅よりも鮮やかに、空赤の羽。
 見つけて姫君は少年にその姿を見せることが出来ました。

 けれど恋はまだ遠く――





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1879/リラ・サファト/女性/16歳(実年齢19歳)/家事?】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳(実年齢999歳)/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【1989/藤野 羽月/男性/16歳(実年齢16歳)/傀儡師 】
【2872/キング=オセロット/女性/23歳(実年齢23歳)/コマンドー】
【3009/馨/男性/25歳(実年齢27歳)/地術師】
【3335/多祇/男性/18歳(実年齢250歳)/風喚師】

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■         ライター通信          ■
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 はじめまして、こんにちは。ライター珠洲です。
 羽の捜索ありがとうございました。とはいえ捜索場面以外がやたらと多いので、捜索方法を書いて頂いた点を思うと申し訳ないです。プレイングで使い切れなかった部分も惜しいです。
 けれど会話だのはとても楽しく書かせて頂きました。普段のイメージから外れている方もいらっしゃるかと思いますが、普段と違うのは書を通して関わったからだ、と誤魔化してやって下さいませ。

* キング=オセロット 様
 姫君に『淑女』で沈黙方式は素晴らしいです。
 なにやらお守をして頂いてばかりだった気もしますが、非常にお世話になりました。姫君といいライターといいという感じです。

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