■夜と昼の双子 〜夜と昼の双子■
紺藤 碧
【2470】【サクリファイス】【狂騎士】
 鏡あわせの二人。
 夜と昼で姿を変える呪いを受けた双子。
 呪いを解く方法は―――?

 あなたは話す、かの人との思い出を、その方翼に。
夜と昼の双子 〜暖かい手



「兄、さん……?」
 サクリファイスは目の前で詰め寄る少女を見やり、小さく呟いた。
 少女――マーニ・ムンディルファリは、鋭利なナイフのような視線でサクリファイスを見ている。
 そういえば彼はぼそりとだけれど妹が居ると言っていた。
「……何が何やら……なんだけど……」
 小さく呟いていても、それはいきなり知らない場所に出たと思っているマーニにも言える事で、サクリファイスは小さく「言っていても始まらない、か」と、呟く。
「どこで兄さんと会ったの!?」
 ソールの妹だと言うのに、こんなに性格が違うものなのか。
 彼が流れる柳のように無関心ならば、彼女は刃物の塊。何処から触っても傷を負いそう。
 サクリファイスはベッドサイドの椅子に体勢を整えるようにして腰掛けると、マーニの視線を真正面から受け止め、ゆっくりと話し始める。
「順を追って説明しようかな……」
 何が結論かもわからないけれど、物事はやはり順番どおりに話した方が解りやすい。
「私がソール……あなたのお兄さんと会ったのは、少し前の夜」
 普段は通らないのだが、その日はたまたま先を急いでいたために選んだ道。
「路地裏で不逞の輩に絡まれていたところを割って入ったのが、最初」
「兄さん……」
 マーニの声音にどこか呆けているような音が聞き取れる。
 ついサクリファイスは薄く苦笑を浮かべてしまった。
「それから、天使の広場で一度……」
 人が少ない夜ではあったけれど、その中で、なお独りを纏っていたかのような彼。
「そして昨夜」
 サクリファイスが告げた言葉に、マーニの瞳が驚きに見開かれる。
「病に倒れた彼を看病していて、今に至る」
 マーニは今に至ると言いながらソールの姿が無いことに、辺りを見回す。もしかしたらサクリファイスが隠しているとでも思っているのかもしれない。
「ソールは……あなたに変わってしまった」
「え…?」
 マーニの瞳が驚愕に見開かれる。
「兄さんが、あたしに……?」
 驚愕の表情でマーニは瞳を見開き、俯く。
「呪いは……」
 そして、マーニは小さく呟いた。
 名前の通り、ソールは夜に、マーニは昼にだけ、動けるのではなかったのか。と―――
「スコールが、兄さんじゃなかったの…?」
 話の流れ的に、スコールとはきっとベッドの側の床で丸まっているあの銀狼の事だろう。
「3度も会ったのか…」
 姿が似ているとは言いがたいような気もするけれど、ソールの瞳と髪が夜を表しているかのような濃紺の空と月ならば、マーニ姿はまるで昼を表す青空と太陽。
 マーニの小さな呟きをフォローするようにサクリファイスは苦笑して告げる。
「……探し回っていたわけじゃないけれど……それでも、夜を歩けば、もしかしたらと探していたのかもしれない」
 まるで夜の化身のような彼には、夜にしか会えないのではないかと、何処かで考えて。
 そして、天使の広場でであった姿を思い出す。
「彼はいつも独りで……どれほど独りだったのかわからないけれど、誰かの手を求めることも、諦めているようで」
「当たり前だ」
「どうして?」
「…………」
 都合が悪いと沈黙する所は、良く似ていると思って、サクリファイスはふっと微笑んだ。
 そして、そんなマーニに説明するようにサクリファイスは言葉を続ける。
「でも、それは諦めであって、彼が望んだことではなくて。何が彼に求める事を諦めさせたのか」
 その理由をきっとマーニは知っているのだろう。苦痛に苛まれたような表情で俯く。
「……何故ソールがあなたに変わったのか」
 マーニはぎゅっとシーツを握り締めた。
「……わからないことは山ほどある。でも……」
 先ほどと様子が変わっているマーニに気がつき、サクリファイスは言葉を止める。
「兄さんが、大切?」
 その間を縫うように、願いのように語られた言葉に、そっと頷く。
「私は……孤独から彼の手をとりたいと思う……」
 自分が、孤独なのか、そうでないのか、区別がつかなくなるほどに独りになってしまった彼に。
 けれど彼は一度一緒に居る事を拒んだから、
「私がダメでも、彼が誰かと共に在ることを再び望んでほしいと、思っている」
「違う……」
 サクリファイスの言葉に、マーニは小さく呟く。
「兄さんは、あなたと一緒にいたくないわけじゃない。けれど……」
 そこでマーニは口ごもる。
 そしてゆっくりと瞬きをすると、サクリファイスを真正面から見据え、淀みのない強い口調で告げた。
「あたし達にこれ以上関わるな」
「何故?」
 サクリファイスの問いは至極全うなもので、マーニは唇をかみ締めてサクリファイスの服に手を伸ばし握り締める。
「あなたを失ったら……」
 そしてその顔を見上げるようにして叫んだ。
「兄さんがまた心を捨ててしまうから! そんなの嫌だ!!」
「どうしてソールが心を捨てることがある?」
 自分が居ても居なくても、きっとソールにはそれほど重要なことではないと思っていた。
「あなたが失われるから!」
 自分の事よりもソールの事を気にしたサクリファイスに、マーニの瞳が揺れる。
 そして、真摯な瞳でサクリファイスを見つめなおし、告げた。
「兄さんとあたしは、同じ呪いを受けている。だから分かる」
 その声が震えている。
「あたし達に関わった先に待つのは………死だ」
 だからソールは、サクリファイスに一緒に居ることはできないと、告げた。
「大丈夫だ。私はここに居るから」
 縋りつくようなマーニを安心させるように微笑んで、そっとその髪をなでる。
(死………)
 マーニの言葉で分かった。どうして彼が孤独の道を進まざるを得なかったのか。
 自分に関わってきた人達が次々と死んでいく様を何度も見ているうちに、悲しみを感じないよう感情を捨てていった。
「優しくしないでくれ!」
 パンッ! と、マーニの手がサクリファイスを弾く。
 この少女も同じなのだ。ソールと。
「兄さんを大切だと思うなら、これ以上関わらないで!」
「それでは誰も救われぬ」
 ソールも、そしてマーニも。
「いいの、それでも!」
 マーニの叫びで分かった。
 彼らは呪いの影響を受けさせないよう、自分達を傷つけていたのだと。
「解けぬはずがない」
 呪いだと解っているならば、解呪の方法だって必ずあるはずだ。
 サクリファイスは告げる。
「一緒に探そう」
 一瞬だけマーニはその瞳を揺らす。けれど、
「すまない……」
「…っ!?」
 マーニはサクリファイスを押し倒し、ベッドから立ち上がる。
「行くぞ、スコール」
 機敏な動作でマーニは銀狼を連れて部屋から跳び出て行く。
「待って…!」
 サクリファイスは急いで立ち上がり扉へと走る。
 マーニの姿はもう何処にもなかった。










☆―――登場人物(この物語に登場した人物の一覧)―――☆


【2470】
サクリファイス(22歳・女性)
狂騎士

【NPC】
マーニ・ムンディルファリ(17歳・女性)
旅人


☆――――――――――ライター通信――――――――――☆


 夜と昼の双子にご参加くださりありがとうございます。ライターの紺碧 乃空です。
 第四話にてパートナーが逆であるのは、大切であればこそ告げたくない真実もある。という事情からです。もう1つ理由もあるのですが、ネタバレになりますので最終話で、と言うことで。
 お兄さんの知り合いであると言うことを加味して、サクリファイス様の想いに頑固な妹が少しだけ陥落しかけています。
 それではまた、サクリファイス様に出会える事を祈って……


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