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■「あなたのお手伝い、させてください!」■

ともやいずみ
【6494】【十種・巴】【高校生、治癒術の術師】
 トラブルメーカー。迷惑を振りまく疫病神。
 などなど。
 彼女はそんなイメージを持つサンタクロース。
 宅配便を仕事にしてはいるが、世間は不況。彼女はいつも貧乏で、おなかを空かせている。
 そんな彼女とあなたの一幕――。
「あなたのお手伝い、させてください!」 〜十種巴編〜



「もし良かったら晩御飯を一緒に食べてくれない?」
 小さな手伝いでもいいのでさせてください、というステラの言葉に十種巴はそう言ったのだ。それは数時間前のこと。
 ピンポーン、と家の中にチャイムが響き渡る。誰が来たのかすぐにわかったので巴は玄関に向かう。
 玄関の引き戸を開けて外に出る。表で待っていたステラが驚いたようだ。
「あ、十種さん、こんばん……」
「さ、入って入って!」
「わあ! なんなんですかぁ!」
 腕を引っ張られてステラが怯える。巴は我に返って苦笑した。
「ご、ごめん。嬉しくて、つい」
「?」
「気にしないで。ほら、用意できてるからどうぞ」
 気さくに言うと、ステラは安堵して巴の家に足を踏み入れた。
 ステラは「はぅ〜」と家の中を見回す。
「大きなお家ですねぇ。日本のお家、って感じですぅ」
「そ、そうかな? そうでもないと思うけど……」
 ステラの前を歩く巴は表情を陰らせた。一人で過ごすには……ちょっと大きい家だ。

「うわっ、うわわ〜!」
 涎を流しそうな勢いで目を輝かせるステラは食卓に並べられたご飯に感動していた。
「大根のお味噌汁と、鯖の味噌煮。それに筑前煮と五目御飯なの」
「和食ですぅ! こ、これ全部十種さんが作ったんですか?」
「そうだけど?」
「すごいですぅ!」
 くねくねと体を動かしてステラは巴を尊敬の眼差しで見ている。巴は照れてしまった。
「そんなたいしたものじゃ……。それにステラだって、できるよ?」
「…………できるも何も、まず作るための材料を買えません……」
 しょんぼり。
 と、肩を落とすステラに焦ってしまった。そこまで貧困とは思わなかった。
「と、とにかく食べて食べて! ほらそこ座って!」
 イスに座らされたステラはそこで気づく。
「あれ? でもご飯は二人分ですよね? ご家族の方は?」
 巴が動きを止め、視線を逸らした。
「いや……実は今日、本当は家族揃って夕食の予定だったんだけど……仕事が入って帰れなくなったって連絡があって」
 もう、と巴が頬を膨らませる。精一杯の強がりだった。
 呆然と自分のほうをステラが見ていることに気づき、巴は慌てる。
「あっ、でも今は平気! ステラがいてくれるもの!」
「……十種さぁん、いい人ですぅ」
 瞳をうるうるとさせるステラが両手を合わせた。
「味わっていただきますぅ」
「あ、お箸は使える? スプーンのほうがいい?」
「お箸もばっちりですぅ!」
 キラーン! と目を光らせるステラは巴が座ったのを見てから鯖に箸を伸ばす。口へ運び、もぐもぐと味わって食べた。
「あっ! 美味しいですぅ!」
「ほんと!?」
「はい! これならいつでもお嫁さんにいけますぅ!」
「やっ、やだぁ! 褒めても何も出ないよ!」
「ほんとですよぅ!」
 二人は笑い合った。今日は楽しい夕食になりそうだ。



 夕食後、二人でのんびりお茶を飲んでいた時に……巴はちら、とステラを盗み見た。
 巴の目から見てもステラはかなり可愛い顔立ちをしている。童顔だから余計に子供っぽく見えるのである。
 巴自身も大人っぽい体型や顔立ちではないので……なんだか親近感を持ってしまう。
「ね、ねえ」
 ステラに話し掛けると、彼女は巴のほうを見遣った。青い瞳は真っ直ぐ巴に向けられた。綺麗な目だなあ、と巴は思う。
「なんでしょう?」
「……あの、ね」
 少しもじもじしつつ巴は視線を伏せる。両手で持った湯のみの中のお茶が揺れた。
「ステラって……好きな人とかいる?」
「へえっ!?」
 仰天したステラが大声をあげる。思わず巴も驚いてしまった。
 ステラは目を丸くしていた。
「好きな人ですかあ? それは異性のラブですかあ?」
「う、うん」
「…………」
 期待の眼差しを向けてくる巴に、ステラは渋い表情をする。
「い、いないですぅ」
「いないの? ほんと?」
「本当ですぅ。いたら自慢してますぅ」
 ぷうっと頬を膨らませるステラに巴は「そうなんだ」と呟いた。じとりと巴を見て、ステラは唇を尖らせる。
「そういう十種さんはいらっしゃるんですかあ?」
 質問に巴は頬を染める。その様子にステラが「う?」と首を傾げた。
「……いるよ、片思いだけど……」
「ええーっっ!」
 またも大声を出したステラに巴がビクッと反応する。ステラがわくわくした目を向けてきた。
「わはー! コイバナは大好きですぅ! どんな人ですかあ?」
「どっ、どんな人って……」
 想像する巴は顔が真っ赤になるのを感じた。姿を思い浮かべるだけで照れてしまう。
「えっと、背が高くて、ちょっとぶっきらぼうだけど明るくて優しくて……」
「ふんふん」
「目がね、すごく綺麗な人なの」
「おー!
 写真はないんですかあ? 見てみたいですぅ」
「写真!? ごめん、写真はないの」
 写真があるというなら欲しい。携帯の待ち受けにだってしたい。友達に見せて自慢もしたいし、こっそり誰にも見せずに自分だけで愛でるというのもいいかもしれない。
 自分が見つけた素敵な人。だから、誰にも知られたくないという気持ちもある。友人まで彼を好きになってしまったらとか……そんなことすら考えてしまう。
(陽狩さん……)
 ぼんやりと想像していると、眼前で手を振られていることに気づいた。
「十種さ〜ん、戻ってきてくださ〜い」
「あっ、ごめん!」
「恋する乙女は盲目と言いますぅ。どこでお知り合いになったんですかあ?」
「どこって……学校帰りに偶然出会って……」
「それからそれから?」
「夏休みにね、プールでバイトしてるの見かけて……」
「…………デートの約束とかしてないんですかあ?」
「でっ、デートっ!?」
 ぎょっとして巴がのけぞる。慌てて両手を振ってみせた。
「そんなの! 無理だよ、無理無理っ!」
「どうしてですかあ? 相手は十種さんを嫌っているんですか?」
 巴は俯く。嫌われては……いないと思う。だが、好かれている自信もない。
「……嫌われてはいないと思うけど……」
「じゃあ、まだまだ頑張れますよ! もっとガッツでゴーゴーです! 十種さんみたいに可愛い女の子に迫られたら相手だってドキドキします!」
「せ、迫るって! そんなの無理よ!」
「なんでですかぁ! やってみなきゃわからないですよぅ!」
「………………」
 黙ってしまう巴はちょっと考え込んでしまう。
 嫌がられたらどうしようとか。
 迷惑に思われたらどうしようとか。
 不安になってしまう。どうやったって。
 沈黙してしまった巴に対し、ステラが怪訝そうにした。
「……もしかして、十種さんの相手って…………奥さんがいる方とか?」
「ええっ!? 違うよ!」
「じゃあ、すっごく年上ですか?」
「すっごくじゃないってば! 一つ上、だと思う」
 ステラが青ざめた。
「………………あ、相手も女性の方ですか?」
「なに言ってるのよ! 男よ、男!」
「あぁ、びっくりした。もしそうだったら反応に困るところでしたぁ……」
 ほー、と安堵の息を吐き出すステラはお茶をぐいっと一気に飲み干す。湯のみをテーブルの上にどん、と力強く置くと、きっ、と巴を見遣った。
「年も一つ上! だったら望みはありますぅ!」
「そ、そうかな?」
「そうですぅ! 彼女がいるとかなら仕方ないですけど、それでも頑張ってみる価値はあると思いますよ?」
「……彼女は、いないって言ってたよ」
 小さく言うとステラは顔を輝かせた。テーブルの上にある巴の手をしっかりと握りしめる。
「問題なんて全然ないじゃないですか! イケイケゴーゴーです!」
「で、でもね」
 途端、巴が落ち込んだ声を出した。
「日本には仕事で来たって言ってたから…………仕事が終わったら帰っちゃうみたいなの」
「…………留学生か何かですかぁ?」
 首を傾げるステラに苦笑してみせる。
「違うの。でも、ちょっと変わったお仕事してる人だから」
「若いのに大変なんですねぇ」
「……うん」
 自身のことをかえりみない陽狩のことを思い、巴は気分が暗くなる。
 ぎゅ、と手を強く握られて巴はステラを見つめた。
「でも十種さんはその人のことが好きなんですよね? 人間は人生が100年くらいなんですから、後悔しないように頑張ってみるのもいいと思いますぅ」
「後悔……。
 ……でも彼、他人に関わって欲しくないみたいだった……。私じゃ、迷惑になるかも……」
「本当に迷惑だったら、無視したり、邪険にしますぅ!
 十種さんから見て優しいのなら、他人を寄せ付けないのには何か理由があるんですよ! きっとそうです!」
 それは……考えなかったわけじゃない。
 昔、大恋愛をして失恋してしまったとか、そういうこともあるかもしれないなと考えていたこともあった。
 大変な仕事をしているから、誰かを巻き込むのが嫌でそうなのかもしれないな、とか。
「そう、かな……? そう思う?」
「はい! わたし、十種さんの恋の味方ですぅ! 誰がなんと言おうと、わたしはあなたの味方です!」
 ……なんて。
 なんて、心強い言葉だろう。
 そこには打算もなく、ただ真っ直ぐに巴の恋を応援する気持ちが溢れていた。
「ありがと。ちょっと自信なくて、臆病になってたから、すごく嬉しい」
「自信がない、ですか?」
 つい、なぜかそこで互いの胸を見比べてしまう。ステラほどの貧乳ではないが、巴も大きいとは言えない胸だ。
 そっと二人は顔を見合わせた。互いに胸に多少なりともコンプレックスを持つため、言葉を交わさずとも二人の心は通じ合ったのである!
「うちの先輩に教わったんですけど、ぺったんこの胸が好きな男性もいるとのことなので、体型は気にしちゃいけないですぅ!」
「そ、そうね!」
 巴はステラの手を掴んだままイスから立ち上がった。ステラもつられて立つ。
「そうよ! 胸がでかいのがなんだっていうのよ! 女は胸やお尻で見るもんじゃないわ!」
「わたしもそれには同感ですぅ!
 そうだ! 十種さんはその人と両思いになったら、その人に胸を揉んでもらえばいいんですぅ!」
「きゃー! な、なに言うのよちょっと!」
「おっきくなるかもしれないですぅ」
 真剣な表情で言うステラに、真っ赤になって照れていた巴は神妙に頷いた。
「う……も、もし恋人になれたら、ね。そういうのは」
「ガンバですぅ!」
「うん!」
 恥ずかしいけれども、とても心強い。それに、とても楽しい。
「今日はありがとう!」
 とびっきりの感謝を込めて、巴は笑顔でそう言ったのだ。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【6494/十種・巴(とぐさ・ともえ)/女/15/高校生・治癒術の術師】

NPC
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、十種様。ライターのともやいずみです。
 女の子二人で恋の話とか胸の話……いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!