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■シシュウ草を探して■ |
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川岸満里亜 |
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【2787】【ワグネル】【冒険者】 |
ファムル・ディートの元弟子、ダラン・ローデスが魔術の勉強を始めて半年が経つ。
「やっぱ、修行の成果を見るには、実践だよなー。実際どれだけ使えるのかわかんねーし」
半年間の修行で、見える範囲の物に何らかの影響を及ぼすことが出来るようになっていた。ただ、その規模はごく僅かであり、実戦で役立つレベルではない。
「なあ、ファムル！ 魔力を高める薬くれよ〜。それがあれば、俺様の魔術でどんな相手でも一撃必殺だろーし」
ダランはベッドに近付き、横になって本を読んでいるファムルを、両手で揺すった。
最近、ファムルはこうして読書で一日過ごすことが多い。
というのも、ついに材料も底を付いてしまったからだ。
客が来るか、ダランが器物破損でもしてくれなければ、収入を得ることができない。
「またバイトでもするか……」
ファムルは一人呟きながら、ページを捲る。
「おい、聞いてんのかよ！」
「聞いとらん」
ファムルにとっては、ここで修行を続けていてくれた方が都合がいいのだ。
早く成長して、魔術で家ごと吹き飛ばしてくれたら申し分ない。
乞損害賠償！
ああ、夢の新築ぅ〜。
しかし、ダラン次の言葉で、ファムルの妄想は吹き飛び、あっさり商談は成立することになる。
「んじゃ、相場の１０倍払うからさ！」
「よし！ それほど必要だというのなら仕方あるまいっ」
勢いよく本を閉じ、ファムルは飛び起きたのだった。
そのまま連れ立って研究室に向かい、ファムルは薬品棚から、小瓶をひとつ取り出してダランに渡した。
「魔力を高める薬の在庫はこの１回分で最後だ。効き目は直後のみってところだ」
「げげっ、それじゃ全然たんねーよ。作ってくれよ〜」
「材料がないんだから、仕方ないだろ」
「それじゃ、俺がその材料集めてくればいいんだろ」
「なるほど、それは良案だ」
ファムルは紙とペンを取ると、材料と採取のできる場所をメモし、ダランに手渡した。
「ええっと、店で買えないものもあるのか……シシュウ草？」
「１度に採取できるのは……お前1人じゃ、せいぜい１回分だろうな。聖都を離れる場合は、護衛を雇った方がいいぞ。一回分入手の為に、薬を１回分使っては本末転倒だろ」
「いいよ、それでも。修行の一環だ！」
こうしてダラン少年のシシュウ草採取の日々が始まったのだった。
探索場所リスト
１）噴水公園（発見率：極少 採取難易度：易）
２）レイル湖（発見率：少 採取難易度：普）
３）郊外の地下道（発見率：普 採取難易度：難）※前後編
４）底無しのヴォー沼（発見率：高 採取難易度：極難）※前後編
５）ファムルの診療所内
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『シシュウ草を探して〜冬の湖〜』
空気は冷たいが、陽の光は暖かい。
この時期、晴天の日の日中は建物の中にいるよりも、屋外の方が心地よい。
草に触れた足が、朝露で僅かに濡れる。しかし、不快ではなかった。
すがすがしい気持ちで、近付いた矢先――
「お、おおー！ グッドたいみぃぃいいいんぐ！！」
「！！？？」
そう、久しぶりにファムル・ディートの診療所を訪れたワグネルは、飛び出してきた少年に突如腕をつかまれたのだった。
「まてダラン！ それは俺の客だ！！」
「いいじゃんかよ〜。んじゃ、用事が済んだらコイツ貸してくれよな！ 俺、準備してくるから〜」
嵐のように少年は去ってゆく。
「すまなかったな……あー、ワグネルだったか？ さ、入ってくれ」
意味が分からないまま、ワグネルは診療所へと通される。
薄汚れた診療所だが、診療室だけはある程度清潔にしているようだ。
「で、今日はなんだ？ 薬が欲しいのか？ 今なら特別にいつもの倍差し上げよう！ ただし、価格も倍だが」
「それ、全然特別じゃねーだろ。つまり２倍買えってか」
苦笑しながら、ワグネルは先ほどの少年について聞いてみる。
どこかで見たことがあるのだが、記憶が定かではない。
「アイツは元弟子だ。ほら、以前薬を盗んだ……」
＊＊＊＊＊＊＊＊＊
「さ〜て、探すぞ〜〜〜」
前を歩く少年は、今回の依頼主となったダラン・ローデスだ。５歳は年下に見えるが、態度だけはご立派なものだ。
ワグネルはファムルから今回の依頼の説明を受けた際、シシュウ草を探させる目的についても確認してみたのだが、ファムルの目的としては、単に材料と金目当てに過ぎないらしい。
ただ、今回は初めての探索の為、ダランが何と言い出そうと、「噴水公園」か「レイル湖」周辺にするようにと忠告をしてくるあたり、多少なりとも元弟子を案じてはいるようだ。
探索場所はダランに決めさせるつもりではあったが、一応そのファムルの言葉をダランに伝えると、ダランはしばし迷った後、今日は出発が昼になってしまったことも理由に、比較的気楽に行けるレイル湖にすると決定を下した。
レイル湖は観光地になっているため、聖都から馬車も出ており、そう危険もない。
日の高いうちに、二人は目的地へとたどり着く。
初雪はまだであり、どこかしら寂しい風景が在った。
観光客の姿も少なく、たまに見かける警備兵の姿も今はない。
「やっぱ、この辺りにはないよな〜」
ダランはファムルから受け取ったシシュウ草の絵を見ながら、周辺を見回す。
シシュウ草という草は、一般的にあまり知られていない。ワグネルも聞いたことがある程度であった。
ダランの手元を覗き込み、ワグネルも周囲の草を見回してみる。
しかし、観光の為に整備されているこの付近には、それらしき草は見当たらない。
「時期的に生えてねぇ……なんてことはねーよな？」
シシュウ草だけではない。青々とした草自体、あまり生えていないのだ。
「雑草に混じって年中生えてるって話だから、雪が積もったりしてなきゃ、生えてるとは思うんだけど〜」
ダランは木をつかみながら、湖畔へと近付く。
傾いた陽射しが、湖面で跳ね返る様がとても美しい。
「うわっ！」
一瞬湖に見とれていたワグネルだが、間一髪、滑って転がり落ちそうになったダランの腕を掴み上げる。
「さんきゅー」
「大丈夫か？ この先は足場が悪いようだが」
「だなー、転んで服汚れるのもやだし。じゃ、ワグネル行ってきて！」
あっさりと言うダランであった。
「は？ シシュウ草を採るのは修行の一環じゃねぇのかよ？」
「修行とは、結果に意味がある。つまり、シシュウ草を持ち帰れれば、内容はどうでもいいんだ。はーっはっはっ！ わたっ！」
「……胸を張って言うな」
反り返った拍子に再び滑り落ちそうになるダランであった。
呆れるワグネルだが、確かにこの先、経験の乏しいダランに行かせるのは危険でもあり、足手まといにもなる。
まずは自分が行って、目当ての草が存在するかどうかを確かめてきた方がいいだろう。
……しかし。
今回の依頼は、シシュウ草の探索と入手ではない。
シシュウ草の探索を行うダランの手伝いが依頼なのだとワグネルは考えていた。
ワグネルは用意してきたロープを取り出すと、ダランの体と太めの木に巻きつける。
「こうしておけば、万が一湖に落ちても、ロープを手繰れば岸に戻れるだろ」
「なるほど！ でも、落ちたら、服が濡れるじゃんか！ 冷たいじゃんかー！ 風邪ひきたくないぜー！ そう考えたら、寒くなってきたー。ややややっぱかーえーるー！！」
なんだかぎゃーぎゃー騒いでいるが、一応相手は依頼主なので、軽く眉根をひそめた後ワグネルは精一杯おだててみることにした。
「あんたなら、大丈夫だ。一目見た時から、只者じゃねぇって感じてたんだ。この程度の苦難、未来の大魔術師であるアンタには、取るに足らない小事に他ならないぜ！」
「そ、そうかな？」
「ああ」
強く頷いてみせる。というかワグネルならばこの程度のこと、本当に取るに足らないことなのだが。
「そ、そうだな！ よぉし、未来の大魔術師ダラン・ローデス様自ら、シシュウ草を見つけ出してやろうじゃないか！ はーっはっはっ。うわたっ」
またもや踏ん反り返ろうとしたダランは、足を滑らせる。間一髪ロープをつかんで、彼が湖に落ちることだけは防いだワグネルであった。
霜が溶けて非常に滑りやすくなっている。
ダランは木をつかんで慎重に歩き出す。ワグネルはその後ろについて、彼が転びそうになるたびに支えた。
湖畔の斜面に生えた細い木々を掻き分けるように進む。
「あれ雑草、だよな？ うーん、屈むと滑り落ちそうだ！ ワグネルとって！」
「……転んだら起してやっから、自分で確かめたらどうだ？」
ダランが見つけた草は、単なる雑草のようだ。
周囲には背の低い草がところどころに生えている。
ファムルから受け取ったシシュウ草の絵は、道端でも見かける雑草とあまり変わりがない。
手にとって間近でみても、区別がつくかどうか……。
ワグネルは周辺を見回してみる。
それらしい草といえば、ダランが目星をつけた足下の草、少し離れた岩の隙間に生えている草、大木の根元に生えている草、etcetc……。
「なんか……山ほど似た草がねぇか？」
「だよな！ それ全部シシュウ草なら、沢山薬が作れるぜ〜」
細い木に腕を回しつつ、ダランは足下のシシュウ草らしき草を抜き、ワグネルに渡す。
「全部抜いて持って帰ろうぜ〜。お、あんなところにも！ うわっ」
またまた足を滑らせて滑り落ちそうになるダランを、体を張って止めるワグネル。反動で草を落としてしまう。
ダランは袋を持ってきてはいなかったようで、仕方なくワグネルの道具袋に入れるのだが、入りきらず両手で抱えることになる。
「のわああああああー！」
足場の悪い中、１歩踏み出すたびに転ぶダランを足や胴で止めつつ、衝撃で落ちた草を拾う。そうしている間にまたダランが転がってくる。
なかなかハードな探索であった。……自分ひとりなら大して苦労しなかっただろうに。
夕方には、２人はレイル湖を後にした。
沢山の草は、湖畔に落ちていたシートに包んで、ワグネルが持った。
「疲れた〜。体痛ぇー。腹減った〜。ねーむーい」
依頼主が愚痴を連発しているが、その顔には何かをやり遂げた満足感が表れていた。
草の殆どは雑草だろう。もしかしたら、全て雑草かもしれない。
（ま、今回はこれで精一杯だろうな）
ワグネルは道具袋から、探索中にこっそり採取しておいた草を１株シートの中に忍ばせた。この１株だけはシシュウ草に間違いない。
「おし、今日は俺様が一緒だから、大量だったけど、次からはお前１人で行けるよな！」
両手が空いていたら、頭を抱えそうになる言葉だ。
このダランのいう少年、どこまで本気でその言葉を発しているのだろう。
軽くため息をついたあと、ワグネルは言った。
「ああ、今回はあんたのお陰で大量だ。俺も勉強になったぜ（こんなにダメな人間もいるんだと）」
「そうかそうか〜」
擦傷、泥だらけの笑みをワグネルに向けてくる。
ワグネルの言葉にご満悦のようだ。
（でもなんか、憎めねぇよな……コイツ）
釣られたのか、それとも泥だらけの顔が可笑しかったのか――いつしかワグネルの顔にも笑みが浮かんでいた。
※本日の成果
雑草／大量
シシュウ草／２株（１回分の材料未満）
薬の使用／なし
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
【2787 ／ ワグネル ／ 男性 ／ 23歳 ／ 冒険者】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、川岸です。
ダランの探索に対し、ワグネルさんが一番最初の協力者でした。
この度はご参加ありがとうございました！
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