■第五の扉■闇の森■
陵かなめ
【3492】【鬼眼・幻路】【異界職】
第五の扉■闇の森

 扉扉扉。
 あたり一面の扉。
 その中で、また一つ扉が開いた。
 扉を管理するのは、ラビ・ナ・トット。彼は、また一つ、扉を開いた。
 しかし、扉の先は、闇だ。
「ええ、そうなんですよ、この先闇の森です」
 トットは、手にしていたランプを、そっと扉の奥へかざす。
 すると、かすかに浮かび上がる、木の影。さわさわと、風にそよぐ葉の音も聞こえる。
「もし、冒険に出発されるのなら、お気をつけください。闇は深く、時に人を飲み込みます」
 トットの声は真剣だ。
 何故なら、彼もこの先に広がる闇の森を知らない。知らないことはそれだけで恐ろしい。
 貴方は、この闇に何を見るのか。


■Q
●どの方向へ向かうのか?(東西南北)
●モンスターと出会った場合の対処は?
●その他、装備や闇の対策など。
闇の森
  ―闇の父の……―

□Opening
 扉・扉・扉。
 この小屋は、一面全てが扉だった。鬼眼・幻路は、その光景を面白そうに受け止める。
「こんにちは、はじめまして、ですね」
 幻路が小屋に入ると、その人物はとととと小走りにかけてきて、にこやかに挨拶をした。ウサギのような耳と尻尾の持ち主はラビ・ナ・トットと名乗り、
「トットとお呼びください」
 と微笑んだ。
「うむ、拙者、鬼眼幻路と申すでござる」
 幻路は、恭しく挨拶をした後、もう一度部屋の中を見渡した。その中で、一つ、遊んでいる扉を見つける。
「えっと、今は、この扉が開いているんですけど、その、この先は闇で……」
 思った通り、トットはその扉に手をかけた。
「闇は、日が差さぬが故の闇と考えて良いのでござるかな?」
 しかし、幻路の問いに、トットは首を振るばかりだった。
「ボクも、何があるのか全く分からないんです、それでも」
 行きますか? と、首を傾げるトットに頷き返す。
 それでは、と、差し出されたのは丸いコンパスだった。
「これは、かたじけない」
 幻路は、手にしたコンパスを覗きこんだ。くるくると、針は回り続ける。扉の先の世界では、大切なコンパスは、この小屋では意味が無いようだった。
「では、どうぞ、お気をつけください」
 トットの心配そうな言葉を背に、幻路は扉の先に足を踏み入れた。

 ▼鬼眼・幻路は【dimensionコンパス】を手に入れた!

□01
 ぱたぱたと、小鳥に変えた浄天丸が、肩で羽根を上下させた。
 とにかく闇が広がっている。見渡す限り、どこまでも闇で、静かに吹く風さえも見えない気がした。ぱたりと、背後で扉の閉まる音がする。すると、その扉も消え、ぼんやりと薄暗い、この場所だけが残った。
 手元のコンパスを確認する。
 幸い、針はしっかりと方角を指し示していた。
 北へ向く。
 闇の中でも、それはそれ。浄天丸のわずかなサインを受け取りながら、確かな足取りで先を目指す。たん、たん、と言う、硬い足音。足の感触からも、自分が石畳を歩いているのだと理解した。風通しは良さそうだ。両脇に、障害物の気配は無い。
 まっすぐ、石の道が続いているのだろうか。
 辺りには、何の気配も無い。
「さて、では、行くでござるか」
 幻路は、一人呟いて、足を進めた。

□02
 しばらく進んでみたが、景色に変化は無かった。
 景色、と言っても、薄ぼんやりとした闇の中、特に何も無い。ずっとまっすぐ、石の道が伸びているようだ。ただ、歩きはじめた時と変わった事と言えば、両脇に崩れた壁の残骸がつみ上がっていることだろうか。
 闇に手を伸ばし、壁に触れてみた。
 壁の残骸は、何かに壊されたと言うよりも、長年風にさらされて少しずつ崩れて行った、そんな感触だった。それは、少しの力を加えるだけで、簡単に、触れている部分からさらさらと崩れて行く。
 何かが在った、のだろう。
 しかし、壁の残骸は、それ以上を語る事はなかった。
 肩の上の浄天丸が、くいと反応をする。
 前方から、小さな気配を感じ取った。幻路は、静かに気配を殺し闇に溶け込む。静かに壁の残骸に身を滑り込ませ、気配を測った。
 魔物、だろうか。
 それは、ひょこひょこと、小さく飛び跳ねて移動して来た。
 丁度、幻路が向かっていたほうから、まっすぐに移動している。気配を消し物影に隠れて、自身の前を通り過ぎたそれを観察する。身体は小さく、両手で持ち上げる事ができるような大きさだった。その姿は、まるで、ウサギのようだ。ただ、ウサギは額に刻印など持たない。ウサギは、闇の炎のような影を纏わない。
 魔物が過ぎ去っていくのを、じっと待った。
 その姿が見えなくなって、気配も消える。
「別にトット殿から討伐を頼まれたわけでもござらぬしな」
 交戦しないならそれが良い。
 幻路は、にやりと口の端を持ち上げ、呟いた。
 辺りの気配を探る。その場には、また静寂が訪れていた。ただ、この先も魔物の類と出会うかもしれない。幻路は、身を隠せるような壁の残骸を確認しながら、先へと進んだ。

□03
 奥へ進むと、それだけ魔物の気配が増えてきていた。
 それらを、柱の影などに身を隠してやり過ごす。
 そう、ただ崩れていた残骸だけだった景色は、はっきりと、何か建造物の一部に変わっていた。崩れた柱。両側の壁はかろうじて、壁と言えるくらいに形を残している。天井こそ無いが、今歩いている石の道が、廊下であった事が想像できる。
 がさり、と。
 目の前で、また魔物が通り過ぎて行った。
 幻路は、柱の後ろ側で、気配を押し殺す。
 浄天丸から流れ込んでくる映像を見る限り、だんだんと魔物も大型のモノが出てきている。それだけ、この先に何か在る事を予感させられたが、いつまでもやり過ごすだけで終わりそうに無いなと感じた。通り過ぎたのは、熊に良く似た魔物だった。やや前かがみの二足歩行。しゅうと、漏れる息には、闇のオーラが見えた。腕は筋肉で盛り上がり、例えば、振りぬく一撃はかなりの威力があるだろう。そして、その背には、先ほど見た刻印が浮かび上がっていた。
 あれは、最初にすれ違ったウサギのような小型の魔物の額にあった刻印。闇の世界を生きるものの証か、それとも、魔物を統率する何者かの証明か。どちらにしても、この先進んで行けば答えが見つかるかもしれない。
 身体を滑らせるように、柱の影から柱の影に移動する。
 石の道は、まだまだまっすぐに伸びていた。

□04
 どのくらい歩いただろうか。
 多分、ここが終着点だった。
 風が吹き上がる。長く続いた一本の道は、高い壁に丸く囲まれた広場につながった。ここは、壁もしっかりとしているし、装飾の施された柱は、ひびも入っていない。誰かが、手入れをしていると言う事か? 幻路は、広場の入り口で浄天丸を通し、様子を伺った。
「盗賊っ? 許さないんだからっ」
 きん、と。
 耳に響く、女の声。
 それは、突然幻路の前に現れた。それまで全く気配がなかったし、空間がぐにゃりと目の前でゆがんだのを見た。どうやら、空間を捻じ曲げて転移してきたらしい、と言うことを咄嗟に理解する。
 ぶん、と、振り下ろされる杖のようなものを、身を引きかわす。
 ちっ、と、可愛い声の舌うちが聞こえた。
 振り下ろされた杖の速度、狙いの甘さから、相手が近接の戦闘に不慣れな事を感じ取る。しかし、言葉は理解できた。そして、何より、ちらりと見えた姿が少女のようだったので、いきなり殴りつけるのもいかがなものかと考えた。
「! あ・た・れ!」
 相手は、初撃がかすりもしなかった事にあせったのか、さらに、ゆっくりとした二撃目を繰り出した。
 それは、横からなぎ払われたのだが、あまりにもつたない攻撃で、ひらりと半分だけ身体をひねって避けた。そもそも、そんなに大きな声で気合を入れると、今から攻撃しますよと相手に宣言しているようなものだ。
 ともあれ、なにやら興奮気味の相手と距離を取ろうと、幻路は火薬を放った。
 ぱちん、と、走る閃光。
「きゃっ」
 明らかに動揺した相手を片目で捉え、十分に間合いを取る。
「わーん、ずるいずるいずるいーっ」
 暗闇に慣れた目に、突然の光。かなり錯乱したのか、少女はぶんぶんと手にした杖を振り回し、好きなだけ叫んだ。
 その相手を、どうしたものかと眺める。小柄な少女と言うのが一番ふさわしい容姿。大きなマントで身体をすっぽりと覆い、フードを目元まで深くかぶっている。気になったのは、そのフードに、今まで出会った魔物に刻まれていた刻印と同じモノがあるという事。
「盗賊の癖にっ、こんなの、なぁーい」
 ようやく落ち着いたのか、少女は大きく両手をあげてぶーぶーと文句を叫んだ。
「ええと、でござるな、拙者盗賊ではござらんよ」
 相手の様子に思わず笑いがこぼれそうになるが、そこは堪えて、できるだけ相手を刺激しないように穏やかに話しかけてみた。
「嘘ばっかり!」
 けれども、少女は幻路の言葉に顔をしかめて、それから目を吊り上げた。
「むう、嘘、と言われても……」
「黒い衣装、気配を消して忍びこんで、住人を避けてここまで来た、ほら盗賊!」
 幻路の言葉をさえぎり、少女はびしりと幻路を指差した。
 なるほど、確かに、言われてみれば何となく、そんな気がしないわけではなかった。が、そうでは無いと言うことは幻路自身が一番良く知っている。
「そもそも、ここに盗むものがあるのでござるか?」
 これは、純粋な疑問だった。
 確かに、広場は丁寧に掃除されていると言う印象はあったが、宝石など金銭的に価値のあるものがあるとも思えないような殺風景なところなのだ。
「む、あるもん、大切なもの、あるもん」
 馬鹿にされた、と思ったのだろうか。
 少女は、幻路の言葉に、一瞬たじろいたが、口元をへの字にまげて何故か胸を張った。
「ふむ、それは是非拝見したいでござる」
 それが、きっと、ここに来た目的のような気がして、幻路はまっすぐと少女を見つめた。

□Ending
「絶対に、盗まない?」
 もう何度目かのその言葉。
 幻路は、少女に問われるたびに、盗らないでござると延々返事をした。盗むつもりなど毛頭無い。ただ、確かめたいだけ。その心が伝わったのか、何度目かの問答の後、少女はごそごそと鍵を取り出した。
 その鍵を、少女が壁につき立てると、そこから二つに壁が割れて、大きな像が現れた。
 戦慄く馬に乗り、堂々と剣を構える男の像だ。
「ふむ、これは……、明かりを付けさせてもらうでござるよ」
 あまりにも荘厳としたその像は、やはり直接肉眼で確認したかった。少女に一言断りを入れ、用意していた明かりをはじめて灯す。
 ほの暗い広場に浮かび上がったのは、やはり騎士の像だった。
 幻路の隣で、少女もその像を見上げる。その表情は、とても誇らしげで、少女は無意識だろうか、かぶっているフードを何度も撫でていた。
 騎士の鎧には、見覚えのある刻印。
「彼は……」
「父よ、この闇の中で森を切り開き、そして城を築いたとされているわ」
 少女は、恭しく像を見上げ、はじめて笑顔を見せた。
 父とは言葉通りなのか、それとも、闇を切り開きこの地で暮らす全ての父と言う存在なのか。全てを追求する気はなかったが、一つだけ、どうしても言わなければならないことがあった。
「こんな大きな像、どうやって持ち帰るでござるか」
 これは、盗めない。勿論、盗みに来たわけでは無いが、それでも、これを盗むのは無茶と言うものだ。
「あ、そっかぁ」
 その言葉が最後だった。ふと気がつくと、少女の姿がなかった。辺りには、また、闇だけ。
 少女のなりをした魔物の類だったのかもしれない。
 それでも、これほどの像を見る事ができたのなら良しとしよう。
 幻路は、もう一度、騎士の像を見上げ、ゆっくりと帰路についた。

▼鬼眼・幻路は闇の父・騎士の像を発見した!
<End>


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3492 / 鬼眼・幻路 / 男 / 24 / 異界職】

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■         ライター通信          
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□鬼眼・幻路様
 こんにちは、いつもご参加有難うございます。
 Interstice of dimensionでは、初の冒険でしたが、いかがでしたでしょうか? よろしければ、また遊びに来てやってください。激しい戦闘はありませんでしたが、闇に潜むいかにもな忍者の鬼眼様をとても楽しく書かせていただきました。
 発見した物につきましては、後日Interstice of dimension内にも追加致しますので、ご確認下さい。
 少しでもお楽しみ頂けたら幸いです。
 では、また機会がありましたらよろしくお願いします。

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