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■特攻姫〜お手伝い致しましょう〜■

笠城夢斗
【6759】【神凪・彩】【姫巫女 概念装者「心」】
 ぽかぽかと暖かい陽気の昼下がり。
 広い庭を見渡せるテラスで、白いテーブルにレモンティーを置き。
 白いチェアに座ってため息をついている少女がひとり――
 白と赤が入り混じった不思議な色合いの髪を珍しく上にまとめ、白いワンピースを着ている。輝く宝石のような瞳は左右色違いの緑と青。
 葛織紫鶴(くずおりしづる)。御年十三歳の、名門葛織家時期当主である。
 が、あいにくと彼女に、「お嬢様らしさ」を求めることは……できない。

「竜矢(りゅうし)……」
 白いテーブルに両肘をついて、ため息とともに紫鶴は世話役の名を呼んだ。
 世話役たる青年、如月(きさらぎ)竜矢は、紫鶴と同じテーブルで、向かい側に座って本を読んでいた。
「竜矢」
 再度呼ばれ、顔をあげる。
「はあ」
「私はな、竜矢」
 紫鶴は真剣な顔で、竜矢を見つめた。
「人の役に立ちたい」

 ――竜矢はおもむろに立ち上がり、どこからか傘を持ってきた。
 そして、なぜかぱっとひらいて自分と紫鶴が入れるようにさした。
「……何をやっているんだ? 竜矢」
「いえ。きっと大雨でも降るのだろうと」
「どういう意味だっ!?」
「まあそのままの意味で」
 役に立ちたいと言って何が悪いっ!――紫鶴は頬を真っ赤に染めてテーブルを叩いた。レモンティーが今にもこぼれそうなほどに揺れた。
「突然、いったい何なんですか」
 竜矢は呆れたようにまだ幼さの残る姫を見る。
 紫鶴は、真剣そのものだった。
「私はこの別荘に閉じ込められてかれこれ十三年……! おまけに得意の剣舞は魔寄せの力を持っているとくる! お前たち世話役に世話をかけっぱなしで、別に平気で『お嬢様』してるわけではないっ!」
 それを聞いて、竜矢はほんの少し優しく微笑んだ。
「……分かりました」
 では、こんなのはどうですか――と、竜矢はひとつ提案した。
「あなたの剣舞で、人様の役に立つんです」
「魔寄せの舞が何の役に立つ!」
「ずばり魔を寄せるからですよ」
 知っているでしょう、と竜矢は淡々と言った。
「世の中には退魔関係の方々がたくさんいらっしゃる。その方々の、実践訓練にできるじゃないですか」
 紫鶴は目を見張り――
 そして、その色違いの両眼を輝かせた。
「誰か、必要としてくれるだろうか!?」
「さがしてみますよ」
 竜矢は優しくそう言った。
特攻姫〜お手伝い致しましょう〜

 『この想いは消えない、折れない、砕けない』

 ――いつだったか、そんなことを教えてくれた人がいた――

 『だから私の想いは絶対無敵!』

 ――凛とした声で。
 心から憧れたものだ。あの人の声は綺麗だ――と。

      ■□■□■

 月夜の下で剣舞を舞う時、紫鶴はいつも不安になる。
 魔寄せの剣舞。これを舞えば必ず『魔』は寄ってくる。

 今日は半月。

 寄ってくる魔も、それなりだろう。
 ――舞う姿に、その怯えがのぞいてしまったのだろうか。

「紫鶴!」
 高らかな声がした。
「紫鶴、私を信じて――私の想いを信じて!」
 美しい声だ。力に満ちた、すべての穢れを祓ってくれそうな声。
「前の剣舞みたいに楽しんで。それが勇気をくれるから」
 それに応じるように、紫鶴の舞の動きに鋭さが増した。
 暗闇を、空間を切るように。しゃん、しゃん、と紫鶴がつけた手首の鈴が涼やかに鳴る。
 そして――今日も葛織紫鶴の舞に引き寄せられて、敵はやってきた。
 大量の――『魔』が。

      ■□■□■

「久しぶり、紫鶴」
 久方ぶりに紫鶴邸にやってきた少女は、竜矢の話を聞くなり、
「もう。声かけてよ。友達なんだから遠慮しない」
 と言ってウインクした。
 神凪彩。長く流れるような緑の髪に、輝く茶の瞳。ひとふりの剣を腰に装備している。
 紫鶴の剣舞で寄ってくる魔物で、退魔師の人々の訓練にしてもらったらどうか――
 そんな話が、彩の心に留まったようだった。

 空から多数の魔物が襲ってくる。
「心は力である!」
 神凪彩は概念空間を作り出した。
 この中ならば、彼女の想うことすべてが力になる。想いは永遠であり永久であり無限であり、ゆえに彼女は最強たるのだ。
 彩はガリアンソードに霊力を込め、鞭へと変化させた。
 鞭は上空の魔物を叩き落した。胴体を狙うようなことはしない。翼を狙い、また首を狙い。
 そして上空から落ちてくるのをみはからって、ガリアンソードを鞭から剣へと変化させる。そして剣での一閃。
 翼あるものたちは、地上に落ちる前に叩き斬られていた。
 その隙に魔物たちが彩を狙って急降下してくる。彩は振り向きざまの一閃ですべての目をつぶし、地面に落ちて悶絶しているそれらを1体ずつ確実にしとめていった。
 のたくる蛇。その隙間に現れる銀色の一閃。
 ――雑魚、にも賢しいものはいる。
 鳥型のものの中には、大きくくちばしを開いて――
 その中央から、炎や冷気ならぬ、矢を飛ばしてきて彩を襲った。
 彩はガリアンソードを蛇の形にし、舞うような動きで矢をすべてからめとっていく。
 そう――それは紫鶴とは違う、舞うような剣技。
 そして彩は上空をにらみつけた。
 倒しても倒しても生まれてくる翼持つ魔物。その中央に――
 まるで彩の動きを観察しているかのように、動かずにいる大鷲がいる。いや――翼を動かさずに空中に浮遊している時点で鷲ではないのかもしれないが。
 それが『生きている』とかろうじて分かるのは、その閉じられたくちばしの端から、炎が時折ぼう、ぼう、と噴き出されているからだった。
 ――あれはいざとなったら炎を駆使してくる魔物か――
 雑魚どもを相変わらず蛇でからめとり切り裂きながら、彩は真顔で考える。
 しかしその爪も鋭そうだ。つかまったら大怪我をしそうである。その前に脱出できるだろうか。
 ――つかまらなければいい。彩は当たり前のことを考えた。
 何にせよ、上空にいられたままじゃ届かない。どうにかしてこちらの得物を届かせるか――あちらを地面に落とすか。
 彩は即断していた。蛇をまっすぐ硬くし――まるで西遊記に出てくる孫悟空の如意棒のように伸ばした。それを支えにして思い切り跳躍し、鷲のさらに上空まで跳ぶ。
 鷲が振り向く前に、彩は長くなった棒を思い切り持ち上げ――
 大鷲に叩き付けた。
 ぎゃーす、と鳴いて大鷲が地面に叩きつけられる。彩は降下しながらガリアンソードを剣状に戻し、大鷲にさらに叩きつける。
 まずは爪を。ばきん、と音が鳴って、爪は叩き折れた。
 それと同時に、彼女は大鷲の上に着地した。
 大鷲がくちばしを開こうとした。彩はさっとガリアンソードを蛇にして、くちばしをふさぐ。
 と、背後から雑魚たちの攻撃が襲ってきた。
 彩は大鷲のくちばしの戒めを解き、そのまま蛇のガリアンソードをうねらせて背後の雑魚をからめとると、大鷲のくちばしの前へと叩き付けた。
 大鷲がちょうどくちばしを開く。そののどの奥から噴き出されるのは――

 大鷲はいつまでも彩をその背に乗せていてはくれなかった。ばたばたと暴れ、彩を地面へ跳ね落とす。
「くっ」
 彩は背中から落ちた。しまった、とガリアンソードを剣にして地面に刺し、すぐに立ち直れるよう準備する。
 立ち上がる前に大鷲の翼が襲ってきた。それらは彩の体を傷つけ、さらに彩の体を吹き飛ばす。
「う……」
 彩は立ち上がれずにうめいた。
「彩殿!」
 遠くで紫鶴の声がする。
 大切な友人の声を聞いた時、彩は覚醒した。
 すとっと一気に立ち上がる。大鷲の翼がさらに襲いかかろうとしていた。彩はガリアンソードを一閃した。翼がめきめきと音を立てて折れていく。
「彩殿……! 彩殿は負けない!」
 紫鶴が叫んでいる。
 さすが、と彩はひそかに微笑んだ。さすが友達。私の力をよく理解してる。
「そう、私は負けない!」
 彩は宣言した。そしてその言葉をそのまま力にした。
 ガリアンソードの輝きが増す。彩は突進した。2本足で立ち上がった大鷲の懐へ。
 深く、
 深く、深く、
 ガリアンソードで貫いて。

 雑魚たちは相変わらず消えない。ボスクラスの大鷲が消え去ってもこれということは……
 彩は注意深く辺りを見渡した。そして、
 見た。
 小さな小さな、小さすぎて今まで視界に入っていなかったほど小さな小鳥のような――魔物、が――
 徐々に鶏大までには成長していて――
「………!!!」
 気づいた時には遅かった。
 あの雛のようだった小鳥が、一気に先ほどの大鷲よりも大きい――鷹となって目の前に現れた。
 鋭いくちばし、鋭い眼光。大きくなった途端に攻撃をしかけてくる。くちばしが彩の頬をかすって通り過ぎていく。彩の頬からつうと血が流れた。
 速い!
 彩は奥歯を噛みしめ大鷹の動きを見極める。しかしそんな余裕もなかった。
 大鷹の速さは観察する暇も与えてくれなかった。何とか彩は蛇のガリアンソードで対抗したが、それでも次々と服を裂かれ、肌が傷ついた。
「彩殿、彩殿……!」
 危うく、自分の名を呼ぶ友の声さえも聞き逃すところだった。
 紫鶴の声は、焦燥心で一杯だった彩の心を落ち着かせた。
「私は速い……!」
 声に心を、力を託して、彩はその言葉通りに自分のスピードアップをはかる。
 ――見える!
 今まで、見きることもできなかった大鷹の爪攻撃が今はっきりと見える。
 爪が襲ってきた。彩はそれを足首ごと蛇状ガリアンソードでからめとる。
 そして、遠心力を利用して思い切り大鷹の体を振り回し、地面に叩きつけた。
「彩殿……!」
 紫鶴の嬉しそうな声が聞こえる。
 不思議だ、と彩は思う。紫鶴は今、概念空間の外側にいる。なのに彼女の声は力となってこちらへ届くようだ。
 くすり、と彩はおかしげに笑った。
 ――紫鶴なら何をやらかしてもおかしくないか。
 大鷹には、あいにく大したダメージを与えられなかったらしい。彩は切れた唇の端を拭いながらつぶやく。
「あの数の魔物と連戦の疲労、おまけに大物か……でも身体は動く。心は折れてない。だからまだ戦える」
 心はそう、想いはそう、そのまま力になって。
 疲労なんてどこにある? へっちゃらだ。
 大物なんてどこにいる? 雑魚と一緒だ。
 体が動く以上、心がある以上、
「私は、勝つ!」
 上から右から左から、しつこく襲ってくる雑魚は蛇のガリアンソードではたき倒し。
 遠くから飛び道具で攻撃してくるものもガリアンソードを伸ばして対抗し。
 そして。
 そうしている間にも、大鷹の攻撃をかわし。
 大鷹の絶対的な弱点をさがしていた。

 鷹は鷲と違って炎を吐かないようだ。冷気も同じく。くちばしの奥から何かを――という攻撃タイプではないらしい。
 ただ純粋に。くちばしと爪の硬さと鋭さに頼っている。そして速さとを。
 今、速さは互角だ。
 くちばしと爪の強度は、あいにくガリアンソードで折れるほどやわではなかったが。
 これなら――いける!
「紫鶴、前に言った私の創る剣、見せてあげるわ」
 高らかな声で、遠くで見守っている友に宣言する。
 言いながら、うまく鷹の翼を払って、真正面に向くようにして。
 くちばしが見える。鋭い凶器が。
 それと同時に、一番の弱点であるはずの腹が見える。
 想いは力。想いは無限。無限は心。心は力!
「込める想いは一撃必殺、絶対無敵。ゆえにこの一撃は『約束される勝利の一閃!』」
 剣状ガリアンソードがまばゆく光った。
 その一瞬、世界が金色に輝いた。
 金色の斬撃。
 金色に輝く――想いの一閃……

      ■□■□■

 気がついた時には、大鷹はもちろん、しつこかった雑魚たちも皆いなくなっていた。
「ふ〜お疲れ様」
 彩はのんきに言いながら、紫鶴に近づいていく。ガリアンソードは腰に装備しなおされていた。
 紫鶴は目をしばたいた。
「どうかした?」
 彩が少女の顔を覗き込むと、
「い、いや……一瞬朝が来たのかと……」
 彩がぷっと吹き出した。
「今はまだ夜よ。ね、如月さん」
「ええ、まだ夜ですね」
 紫鶴の世話役の如月竜矢がくすくすと笑う。
「ね、ところでケーキ買ってきたの。お茶にしましょ」
 彩はどこから取り出したのか、ひょいっとケーキの入った箱を見せてきた。
 ……こんなことを終わらせた直後に?
「さ、彩殿、お怪我……」
「ん? もう治ったわよ」
 ――概念空間にいれば怪我が治るのだって早い。自分は無傷、と思うだけで本当にそうなってしまうのだから。
「ささ、気にせずに。食べましょう食べましょう」
 竜矢が食器を持ってきてくれる。月夜の下でのティータイムも悪くなかった。
 月を見上げながら、彩はふと思い出したように紫鶴に言った。
「そうだった。今日の剣舞も綺麗だったわよ、紫鶴」
 紫鶴が赤くなった。
 彩が笑って、紫鶴は耳まで真っ赤になる。
 月明かりに照らされて、それは隠すことのできない恥じらい……

 ―FIN―

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【6759/神凪・彩/女/20歳/姫巫女 概念装者「心」】

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■         ライター通信          ■
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神凪彩様
お久しぶりです、笠城夢斗です。
今回もゲームノベルへのご参加ありがとうございました!そして納品の大幅な遅れ本当に申し訳ございません;;
「概念空間」という世界観が大好きなので、書かせていただいて楽しかったです。
よろしければ、また会えますよう……