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■D・A・N 〜Second〜■

遊月
【7266】【鈴城・亮吾】【半分人間半分精霊の中学生】
 呪具。力持つ道具。
 それが必要だった。それを求めていた。
「やっと……」
 その先は音にならない。心で呟く。
 呪具を持つ手に力がこもった。
【D・A・N 〜Second〜】


(あ……!)
 輝く金色の髪を目にして、鈴城亮吾は無意識に顔を喜色に染めた。――本人に自覚は無かったし、仮に誰かが見ていても気づかれるほど顕著なものではなかったが。
「ケイさん!」
 呼んだのは、先日出会った彼の人の名前。
 コーヒーを頭からかけられるという最悪な出会いだったとはいえ、服のクリーニングのみならず新しい服まで買ってもらったのに、ケイがシンと名乗る人物と入れ替わってしまったためにまともにお礼も言えなかった。故に亮吾は暇つぶしついでにケイを探していたのだ。
 ………実のところはあれからずっと気になっていたケイにもう一度会いたい、と思ったからだったのだが、本人に自覚があるかどうかは微妙である。
 名を呼ばれ振り向いたその人は、雰囲気が以前会った時とはどこか違っていた。
 なんと言えばいいのか――憂いと、暗い歓喜と、その他の感情が混ざり合って、まさに混沌としているような。
 しかしそれは一瞬で、亮吾の姿を認めた途端にそれは掻き消える。――否、綺麗に覆い隠されてしまった。
「やあ、鈴城くん。奇遇だね、こんなところで会うなんて」
 そう言って朗らかに笑うケイの手には、布に包まれたナニカがある。そう大きくないそれはケイの手にすっぽり収まるほどだが、なんとなく嫌な感じがして、亮吾は眉を顰めた。
「こんちは。……あの、ケイさん。それ――」
 気になって問おうとした矢先、嫌な気配が強まり、ケイの手の中のモノから禍々しい光が放たれ――。
 亮吾の意識は暗転した。

◇ ◆ ◇

「鈴城くんっ!」
 突如目の前で姿を消した亮吾に、ケイは思わず声を上げる。しかし姿が無いのだから声が届くはずも無く、それはむなしく空気に溶ける。
(油断した…!)
 内心舌打ちする。封印されているからと言って注意を怠ったのは自分だ。腑抜けた己に吐き気がする。
(どうする…?)
 めまぐるしく思考を働かせる。恐らく亮吾は呪具の影響下におかれているのだろう。そこから彼を救い出すためには――。
『何を悩んでる』
「……シン」
 響いたのは、自身の対の声。
『悩むまでも無いだろう。“壊せ”』
「でも、」
『でももだってもないだろう。巻き込んだのは誰だ』
 突き放すような物言い。けれどそれは至極真っ当なものだ。
「―――俺、だけど」
『それが分かってるならさっさとしろ』
「でも、やっと見つけたのに…!」
 思わず口に出せば、心底あきれたような声がまた響いた。
『阿呆が。私達の都合で巻き込んだのに、見捨てるつもりか』
「ちが、」
『ならばさっさとしろ。お前がやらんと言うなら、無理にでも私がやるが?』
 それが、最後通告だった。
「…………分かった」
 手の中の呪具を見る。小さく呪を呟けば、自身の足元にぼんやりと陣が浮かび上がる。
 そして―――思い切り、呪具をそこに叩きつけた。

◇ ◆ ◇

 亮吾は、闇の中に居た。
(誰も、居ない)
 真っ暗で、自分の姿さえ見えないような、深い深い闇。
 独りなのだ、と理解した。
(誰も居ない、誰も居ない、だれも―――いない)
 辺りを見回す。けれど瞳に映るのはただ暗闇だけ。
(こわい)
 無意識に後退さった。けれど縋るものも身体を預けられるものも無く、震える足は自身を支えることすら出来なくなって崩れ落ちるように座り込んだ。
(ひとりはいやだ、こわい……)
 思っても、逃げる場所など無い。誰か、誰でもいいから居ないものかと必死に辺りを見るものの、何も見えない。ただ闇の深淵が広がるだけ。
(こわい、こわいよ…。おかあさん……!)
 しゃくりあげる。身体を支配する恐怖のせいで声も出ない。
 恐怖が高まる。心が、黒に侵食される――。
 何かが、歓喜の声をあげたような気がした。



―――……かっしゃぁあん。

 何かが割れる音が、した。
 闇が消える。世界に光が戻った。
 そして、涙で滲む視界に、金色が映る。
「――…泣かないで」
 優しい声音が耳に響く。
 それが誰のものかを理解する前に、亮吾はその人に縋りついていた。
「…独りにしないで…っ」
 一瞬驚きにか身体を強張らせたその人は、しかし優しく亮吾の背に手を添える。
「大丈夫、独りにしないよ」
 その言葉に少しだけ安心する。
 泣きじゃくりながらさらに強くその人にしがみけば、息も出来ないんじゃないかというくらい強い力で、抱き締められた。
 それが『独りにしない』というその表れに思えて、ひどく安心する。
 そしてどれだけの時が経っただろう。
 亮吾のしゃくりあげる声も途切れ、だいぶ落ち着いたところで、抱き締める力が緩まった。それが少し名残惜しい気もしながら、亮吾はぼんやりとその心地よさに身を委ねる。
 そして次の瞬間。
 …………は、と気がついた。
 いや、正気に返った、と言うほうが正しいかもしれない。とにかく、自分が誰で、ついでに何歳で、今自分が縋りついている人物が誰かを、正確に理解した。してしまった。
「わわわっ、悪い!」
 慌てて自分が縋りついていた人物――ケイから離れる。ほとんどパニックになりながら捲くし立てた。
「あの、今のはその、ちょっとおかしくなってたっていうか! 何がどうなってんのかさっぱりなんだけど、さっきまで変な空間に居て、誰も居なくて独りきりで、だからその…っ!」
「まあ、とりあえず落ち着いて」
「いやほんとすいませっ…!!」
 頭を下げて謝ろうとしたら思い切り舌を噛んだ。あまりの痛さに声も無い。
「大丈夫?」
 心配そうに顔を覗き込まれて、その至近距離に驚いて身体を退こうとしたら自分の足に自分の足をひっかけて転んだ。もうなんというか踏んだり蹴ったりだ。
 自己嫌悪に青くなったり赤くなったりしていると、頭上からクスクスと抑えた笑い声がした。顔を上げれば、口元に手を当てて必死に笑いを堪えているらしいケイの姿。
「ご、ごめん……あんまりにもベタな感じだったから…笑っちゃだめだって分かってるんだけど、安心したらつい…」
 言いながらも肩は震えっぱなしだ。何となく気が抜けて、亮吾はぼけっとケイを見る。
(嫌がられて、ない……?)
 先ほどの不可解な空間――誰も居ない、独りきりの暗闇――のせいで、ケイには絶対に嫌われたくない、と思った。だから、自分がしたことを嫌がられ、嫌悪されたらと必死で弁明していたのだが――。
 ケイの反応からすると、別に嫌悪したり嫌ったりということはないようだ。
 尚も笑い続けるケイを前に、亮吾はこっそりと、安堵のため息をついたのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7266/鈴城・亮吾(すずしろ・りょうご)/男性/14歳/中学生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、鈴城様。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜Second〜」にご参加くださりありがとうございました。
 お届けが遅くなりまして申し訳ありません…!

 あれよあれよという間に話が進んでライターも驚きつつ執筆しました。
 好きなシチュエーションだったので、ちょっとやりすぎたかなーと思いつつ…。でも楽しかったです本当に。
 伏線は少なめですが、好感度はあがっていますので…。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。