■あなたとの出会い■
川岸満里亜
【3368】【ウィノナ・ライプニッツ】【郵便屋】
 彼女と会うのは18年ぶり、だろうか。
 一緒にあの屋敷を出て以来、会ってはいなかった。
 手紙でのやりとりはあったのだが、返事を書いていたのは当時同居していたシスであり、ファムル・ディート自身は一度もペンをとったことはなかった。
「久しぶりね」
「ああ」
 診療室のソファーに腰かけた2人――ファムルとディセットは、穏やかな表情をしていた。
「手紙一つくれないんだもの。私も嫌われたものね」
「そういうわけでは、ない」
「分かってるけどね……魔女を避けてるんでしょ」
 ディセットのその言葉に、ファムルは自嘲的な笑みを浮かべた。
「この場所だって、ダランに聞いたんだし。……まだ来てないの?」
「今日はまだ来ていない。ここで待ち合わせてるのか?」
「うん。先に行っててもらってもよかったんだけれど、一人じゃ私の家までたどり着けないっていうし」
 同時に、ティーカップを取った。
 同時に、口に運び。
 そのまま2人の大人は沈黙した。
 18年前は、2人とも若かった。
 夢があった。
 未来に希望を持っていた。
 夢を全て無くしたわけではない。
 しかし、昔より現実を知ってしまった。
「今、何してるの?」
「見てのとおり、診療所を開いてる。あとは趣味で薬の研究を続けている」
「趣味、か……」
 ディセットが一つ、吐息をついた。
「お前は何をしてる?」
「普通の生活をしてるわ。田舎で、穏やかな時を過ごしてるの。とても幸せよ」
「……そうか。それはよかった」
 また、沈黙が続く。
 積もる話は沢山ある。
 だけれど、互いに言い出せないこと、触れられたくないことを胸に秘めており、言葉を出しにくかった。
「大体のことは、ダラン達に聞いたから……。私の事も、彼等に話しておいたから、興味があったら、聞いておいてね」
「ああ。ダランには、友人と共に早く戻るよう言っておいてくれ。完成した新薬のことで話があるんでな」
「わかったわ」
 言って、ディセットは立ち上がる。
 元気な足音が聞こえてくる。
 大好きだった姉の息子が駆ける音だ。
 そしてもうすぐ、久しぶりに自分の息子とも会えるだろう。
「ねえ、今度遊びに来てもいい? 家族を連れて」
「来ても何もすることがないだろ」
「それでもいいのよ。……私、ファムルのこと、お兄ちゃんだと思ってるから。私の今の家族に、昔の家族を会わせたいって思うんだ」
「そうか」
 ファムルは微笑した。
 ――妹――。
 そう、姉妹のようでもあった。
 魔女達全てが。
 大きな音を立てて、玄関のドアが開く。
「ちーっす!」
 響き渡ったのは、ダラン・ローデス。姉の息子の声だ。
『あなたとの出会い〜賢者の館にて〜』

 ディセットが用事を終えてファムル・ディートの診療所へ向った頃、ウィノナ・ライプニッツは王立魔法学院を訪れていた。
 賢者の館で、目当ての資料を探すことにする。
 ダラン・ローデスの魔力を調整する手段として、ウィノナはダランに流れる魔女の魔力を抑えこんで封じる魔法具を作ってはどうかと考えた。
 そこから調整して、抑える力を弱め、人間と同じ威力まで抑える。その後に人間の魔力を消して、ダランに魔女の魔法を使わせるようにすれば、ダランの寿命が短くならずにすむのではないかと考えていた。
 無論、いくつも問題はある。
 大人達――ダランの父親や、ファムルはおそらく反対だろうということ。彼等は魔女の魔力を消すべきだと言うだろう。2人の協力が得られないと知識や資金面で苦労することになる。
 更に、ダランは一生その魔法具と過ごすことになる。それが良いことなのかどうか……。
 まあ、その辺りは構想を進めつつ、ダラン達と話し合っていけばいいだろう。
 ウィノナは魔法鉱石についての書物を取り出し、魔封じの効果がある鉱石を調べる。
 数種類あるのだが、その中でも強大な力を持つ魔族の魔力をも封じると書かれていた鉱石――スラギアルに目をつけた。
 しかし、当然ながら、かなり貴重な鉱石らしく、発見された場所は国に属さない魔族が管理し、魔の生物達で溢れているようだ。
 次に目に留まったのは、ラスガエリという鉱石だ。こちらも聖獣クラスの力を抑えこむといわれている。採掘場所は浜だ。稀に海から流れてくるらしい。しかし、大きくても米粒ほどの大きさであり、今回の素材としては適さなそうだ。
 最後の鉱石は、市販されている鉱石ビスタリだ。これを購入して、加工して、更に魔力抑制の効果をつけるとなると、市販の魔力封印効果のある魔法具を買った方が安いという結果になりそうだ。
 一般的な採掘場所は、国に管理されており、やはりタダでは採掘させてもらえない。
 あとは、一般人が近付かないような場所――冒険者が立ち入る探索地。魔物が住みついている閉鎖された鉱山などで、発掘できそうだ。
 大の大人でも1人では近づけないような場所だ。ウィノナ一人では厳しいだろう。
 ふと、ダランを連れていくことを考えたが、すぐに首を横に振る。足手まといになりかねない。
「どうせ危険な場所に行くのなら、スラギアルの方が……」
 魔物には言葉は通じないが、魔族であるなら、交渉が出来る可能性もある。とはいえ、友人を救いたいなどといった、情は一切通じないだろうが。
「あともしかして、ラスガエリを沢山採って、砕いて魔法陣に埋め込めば効果が倍増するとか、そういうこともありうる?」
 ウィノナは魔法陣に関しても調べてみる。
 魔法陣は通常の単純に描くだけのもの。魔術を籠めて描き、魔術を留まらせるもの。描きはせず、特定の場所に配置した物質をポイントととし、魔術を発動するもの。魔力に作用する鉱石などを媒介するもの……などがあるらしい。
 となると、銀の道具にラスガエリを使用した魔法陣という方法も可能に思える。……いや、銀も高価ではあるが、銀の道具くらいなら、ダランの小遣いで購入できるだろう。
 続いて、ウィノナは魔法道具の作成に関する書物を探し出す。
 ダランの魔力の調整手段としては、魔法陣に籠める魔力の大小で調整できないかと考えている。
 先に読んだ魔法陣の資料からすると、有能な魔道士であれば可能と思われるのだが、魔術を籠めてもらうタイプだと、効果持続期間が短いようだ。
 魔封じの鉱石を使うのなら、魔法陣のタイプで調整してもらう手段もよさそうだ。
 あと、やはり効果の高い魔封じの鉱石を使うのなら、魔女の屋敷で学んでいる魔法具作成の知識により、ウィノナが魔力を籠めて効果を調整するという方法もある。ただし、持続期間はとても短いだろうが。
「作り方としては……」
 銀などのそれ自体は効果のない素材を使う場合は、好きな形に加工して、その後に魔法陣を描けばいいようだ。
 魔封じ効果のある鉱石を使う場合は、加工の段階から適した形にした方がいいだろう。肉体により密着する形がよさそうだ。量も重要と思われる。
「サークレットをずっと付けているのは、邪魔だよね。腕輪……はどうだろう」
 自分の腕に嵌められた腕輪を見る。さほど邪魔とは感じないが、風呂などの際は外したいと思うことが多い。
「指輪なんかだと、よさそうなんだけどなー」
 指輪だけで、体内の魔術を抑えこむには、相当な技術が必要そうだ。
 ぺらぺらと本を捲っていて、更によさそうな形を発見する。
「ピアス、か。直接身体に刺す分、効果も高そうだけど。これもやっぱり小さいから、相当な技術が必要だよね」
 ダランがピアス――。似合わなくはないだろうが、穴を開ける際に「いてぇからヤダー」とか言いそうでもある。
 抵抗するダランの様子を思い浮かべ、ウィノナはくすりと笑いながら、立ち上がった。
 幾つか本を借りて、賢者の館を出る。

 太陽の位置は、南。そろそろお昼だ。
 ディセットはもう家に帰っただろうか。
 研究用のノートを手に、ウィノナはどこに向おうかと考えるのであった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3368 / ウィノナ・ライプニッツ / 女性 / 14歳 / 郵便屋】

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸です。
いつもありがとうございます。
どんなものを作ってくださるのか、楽しみにしています。
近日中に引き続きご参加の際には「あなたとの出会い」をご選択下さい。
その後は、まだ検討中ですが新オープニングを設けるか、探索系に入れるか、フリーシナリオで物語を展開していきたいと考えています。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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