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■限界勝負inドリーム■

ピコかめ
【7403】【黒城・凍夜】【何でも屋・暗黒魔術師】
 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。
限界勝負inドリーム

 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。

***********************************

 だがしかし、相手の姿を確認して黒城 凍夜(こくじょう とうや)は驚愕する。
「……なん……だと!?」
 全身の毛が逆立ち、血が逆流するような感覚。
 視界が一瞬揺らぎ、途端に口の中が渇き始める。
 気付かぬ内に拳を握り、限界まで目を見開く。
 ヤツは、確かに死んだはず。いや、殺したはず。
「なんで……お前が!?」
「驚いたか?」
 不適に笑う相手は、杖を構え、無詠唱で炎弾を放つ。
 不意打ちではあったが、凍夜は何とかそれを避ける。
「そう、確かに私は死んだはず。お前に殺されたはずだ」
 目の前で大仰に手を広げ、歌劇でも始めるかのような態度の男。
「だが、何故私がここにいるのか? その答えは既にお前の中にあるはずだ」
「……夢」
 そう、思いがけない人物の登場で忘れていたが、これは夢。
 ならば、どんな人間が相手になろうと、おかしくはない。
 それが自らの手で殺した、妹の仇であろうと。
「……だとしたらとんでもない悪夢だな、これは」
「そうか? 私はこの上ない喜劇だと思うがね」
 いやらしい笑みを浮かべつつ、男はクルクルと杖を回す。
 まるでバトンでも操るかのような手さばき。
「私を憎み、私を殺したお前が、まさか私を夢にまで見ようとは。おかしいとは思わないか?」
「俺は、お前なんかに会いたくなかった」
 できれば二度と。
 敵討ちは成ったのだ。これ以上、この男の嫌な顔を見ていたくはない。
「おいおい、悲しい事を言うなよ」
 大きな身振りで落胆を表す男。
 さも悲しげな顔は、役者というにふさわしい。
「私はお前に呼ばれ、私はお前に応え、私はやっと舞台に上がれたのだよ? それなのに『会いたくなかった』とは……。寂しいじゃないか」
「俺は! お前なんかに会いたくなかった!」
 うざったい口上に痺れを切らした凍夜は、自らの血を操る。
 激情に任せて長槍を作り出し、それを伸ばす伸ばす。
 穂先の目指すは男の心臓。
 だが男はそれをサラリと交わし、槍は左脇を通り過ぎる。
「歓迎の挨拶としてはまずまずだな。華が足りない」
 余裕の様子の男。だが、凍夜の攻撃が終わったわけではない。
 凍夜が念じれば、その槍はたちまち大火力の爆薬と化す。
 轟音と共に爆ぜる血の槍。男はその爆発を、すぐ脇腹で受けたのだ。当然、無事では……。
「おぉ、これで華が出来たな。上出来だ」
 無事だった。
 全く傷も負わず、そこに立っている。
 種も仕掛けもあるのはわかっている。脇腹にいつの間にか魔法で作り出された障壁がある。
 男は高位の魔術師。これぐらいどうって事無いのだろう。
「此度は、この大舞台に立てたことを光栄に思いますぞ、黒城 凍夜。我が命を散らした人間と戦えるとは、そうそう立ち会える舞台ではありますまい」
 仰々しくお辞儀をし、礼を述べる男。
 一挙手一投足が、凍夜を苛立たせる。
「知っての通り、私は戦闘が大好きだ。そこに当然、勝ち負けはついて回るが……だが負けるのは大嫌いだ」
 男は杖をクルクル回し、それに交えて魔法を繰る。
「だからこの場は私の顔についた泥を落とす良い機会。これほど待ち望んだ舞台はあるものか、いや無い」
 一つ、杖が大きく振られ、そこから真空の刃が飛び出す。
 凍夜はそれに真っ向から立ち向かい、作り出した血の剣で真空の刃を切り払う。
「此処こそが、私の人生において、最大の山場。一世一代の盛り上げどころなのだよ」
 真空の刃を切り払った途端、すぐ目の前に男が迫っている事に気づく。
 振りかぶられた杖。凍夜はそれを血の剣で受け止める。
「さぁ楽しもう。祭りはまだ始まったばかりだぞ」
「早々に終わらせてやるさ。俺はお前に付き合ったりしない」

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 凍夜と男は、十、二十と剣戟を重ねる。
 血の剣の閃きは杖によって弾かれ、杖による殴打は剣によって払われる。
 傍目には互角に見えようが、それは実ではない。
「どうしたどうした、私を殺しにかかってきた時は、こんなものではなかっただろう?」
「……っく!」
 メンタルにおいて、確実に男の方が優位に立っている。
 突然の予期せぬ客人、そしてその客人による心を掻き回すような言動。
 それによって凍夜の余裕は石臼にでもかけられたように、ゴリゴリと削り取られていく。
 魔術師とは喋ってナンボの商売。
 相手のメンタルを崩すのも喋り、自ら魔法を操るのも喋り。
 魔術師にとって口は最大の武器なのだ。
 それを理解していながら、男の言動を受け流す事ができない。
 それは、妹の仇であるから、というのが一番大きいのかもしれない。
 憎しみが、まず初めに凍夜の余裕を奪っていたのだ。
(落ち着け……。相手のペースに乗せられては、負ける)
 絶え間ない攻防の中、凍夜は隙を見つけて男の杖を弾き、距離を取る。
 十分に距離の出来た時、凍夜は落ち着いて息を吸い、吐く。
 深呼吸による気分転換。余裕は幾らか取り戻せたはずだ。
 それを余裕タップリに眺めながら、男はニヤニヤ笑う。
「おやおや、やりにくいねぇ。もう立ち直るのかい? もう少し慌ててくれた方が、私としては嬉しいのだがね」
 男の大仰な身振りも、実の無い言葉も、一切気にしない。
 とりあえず、この場はこの男を殺し、悪夢を覚ますのが先決だ。
「ふむ……もう相手もしてくれないか……。それならばここで取って置きを見せてやろう」
 男がそう言って、杖の石突で地面を叩く。
 するとクリーム色の地面から、人の形をした岩のようなものがせり出てくる。
「これは私が作ったゴーレムに近いものでね。まぁ、代わりの利く便利な使い魔として、生前使っていたものだ」
 凍夜は『無視しろ』と自分に言い聞かせる。
 男の隙を狙い、一撃で仕留める。
「この使い魔は便利でね。色々と形や色を変化させる事が出来るのだよ。例えば……こんな風に」
 その岩は、見る見るうちに少女に形を変える。
 ……それを見て、凍夜の心に波紋が浮かないわけが無い。
「見覚えがあるだろう? お前の妹だよ」
「……ッ!!」
 忘れるはずも、見間違うはずも無い。
 それは確かに、凍夜の妹の泥人形だった。
 泥人形とは言えディテールに凝り、細部まで厳密に再現されているのだろう。この男はそこまで変態だ。
「……その人形と俺を戦わせて動揺を誘うつもりか? 悪いが、人形を壊すのに、俺は何の感慨も沸かないぞ」
「そうかい。だが、私はそんな事はしないよ」
 男は人形の肩に手を置き、頬擦りする。
「こんな可愛い幼子とお前を戦わせるなんて……そんな事よりも兄妹が戦い、殺しあうなんて、ああ、これ以上の悲劇があろうか!?」
 気付かぬ内に、またも凍夜は男のペースに乗せられている。
 男の動きから目を離せない。男の言葉が耳から入ってくる。
「そんな悲しいことは、私には出来ない。ああ、そうとも。私はそこまで非情ではない」
 悲壮感すら漂う男の顔。
 だが、次の瞬間には一変して悪魔の表情を見せる。
「だからまた、私は、お前の前で、この娘をぶち壊してやるのさ」
 言った瞬間、男の杖が少女を串刺しにする。
 芸の細かい事に、人形は声も無く、その口で『おにいちゃん』と呟いていた。
「くくく……くくはははは! ははははははは!!」
 癇に障る笑い声。その声が凍夜の怒りを煽らないわけがない。
「良いね! 良いね良いね、その顔! 怒りと無力感に塗りつぶされたその顔!」
 嬉々として叫ぶその声を、この手で捻りつぶしてやりたい、と心から思う。
 そう思った瞬間、凍夜は血の剣を握り、男に斬りかかっていた。
 それを待っていたかのように、男は不適に笑う。
 そしてまた、地面を杖で叩く。
 振り下ろされた凍夜の剣は、またも現れた人形を確実に捉えていた。
「残念だったな。お前が殺したのは、お前の妹だ」
「……ッ!! 貴様ッ!!」
 凍夜は人形を蹴倒し、その奥にいた男を殴りつける。
「ブッ……っふ! あはは! はははは! 痛いな! 痛いなぁ!!」
「黙れ!」
 もう一撃、今度は剣で足を斬りつける。
「あひゃひゃひゃ! たまらないな、おい! これだから戦いはやめられない!!」
「黙れといってるだろう!!」
 更に一撃、腕を斬りおとす。
「なぁ、お前も思うだろう!? 今ならわかるだろう!? 戦いのすばらしさ! 殺し合いの楽しさ!」
「うるさい!!」
 加えて一撃、腹部を貫く。
「昂ぶるだろう!? 感じるだろう!? やめられないだろう!?」
「だまれぇえええええええ!!」
 最後に一撃、唐竹に割る。

「鏡を見るようだろう? それがお前の本性さ」

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 吐き気を覚え、洗面台に駆け込む。
 胃の中のモノを全部吐き出してもまだ、気分が悪い。
「……くそっ!」
 苛立ちを言葉にして吐き出してみても、胸糞悪さは取れない。
 ふと見上げれば鏡。
 あの嫌な笑顔を思い出し、右手で鏡を割ってやった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7403 / 黒城・凍夜 (こくじょう・とうや) / 男性 / 23歳 / 退魔師/殺し屋/魔術師】

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■         ライター通信          ■
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 黒城 凍夜様、ご依頼、ありがとうございます! 『嫌なヤツは突き抜けて嫌なヤツの方がいっそ清々しい』ピコかめです。
 物理的な戦いというよりは、メンタル面での戦いみたいでしたね。
 勝敗としては、気分の悪い勝利でした。

 さて、仇の魔術師は勝手に作っても良い、という事でしたので、ムカつくヤツにしてみました。
 戦闘狂で、殺人者で、変態で、とってもヤなヤツ。
 これぐらいの方が敵役としてはまるんじゃないかと。
 では、気が向きましたらまた是非。