■月の紋章―戦いの果てに―■
川岸満里亜
【2787】【ワグネル】【冒険者】
目を閉じても、月が見えた。
脳裏に浮かぶ鮮やかな月は、未だ消えない。
『月の紋章―戦いの果てに<足の下>―』

「はあ……」
 大きなため息をついても、何も変わりはなしない。
 失敗してしまったものは仕方ない。
 時間は元には戻せない。
 事実は覆せないのだ。
 ワグネルは肩を落としながら、盗賊ギルドを出た。
 ギルドに戻ってきたのは深夜だったが、外に出てみれば、太陽は真南にある。
 朝食は喉を通らなかったが、さすがに昼は何か口に入れねば……。
 そう思うも、出るのはため息ばかり。
 これから数日間、後処理の為に走り回らねばならないだろう。
「楽な仕事だと思ったんだけどな」
 受けた依頼は盗みだ。
 盗みといっても、盗まれた物を盗み返して欲しいという依頼である。
 なんでも、親戚に奪われた高価な壷だとかで。
 事情は兎も角、簡単な依頼に思えた。
 主人が留守中に家に忍び込み、壷を盗ってくるだけの仕事だ。
 ただ、その壷が……とてつもなく大きかった。
 大きさについては、受け取った図に書かれてはいた。
 しかし、その数字で記された大きさが、あまりの大きさであったため、依頼人が桁を間違えたんだろうと勝手に思い込んでいた。
 故に、ワグネルのミスだ。
「とはいえ、家の玄関よりでけぇつぼって……そりゃねぇだろうよ」
 どうやって盗めというんだ。
 寧ろ、どうやって盗まれたんだ? 分解できるものじゃないし。
 そんなことを考えながら、てくてく歩く。
「ふう」
 また1つ大きくため息をついた後、顔を上げたワグネルは建物に寄りかかり眠っている人物に気づいた。
「おい……」
 眉根を寄せながら近付く。
 知らない顔だ。
 しかし、知っている人物だ。
 これは自分が教えた……。
「動けるようになったからと油断するな」
 軽く小突くが、その少年は目を覚まさない。
 仕方なく、ワグネルは少年を抱え上げた。
 片手で持ち上がるほど軽い。

 少年を背負い、エルザード城へとたどり着く。
 城の裏側にある使用人用の勝手口から、侵入する。
 顔が知られているので、見つかっても事情を話せばいいだけだが、この少年の為にもなるべくそれは避けたい。
 とある部屋へと入る。
 宿屋の一室のように、一式揃った部屋だ。
 少年――に変装した少女をベッドに寝かせる。
 意識を失っているが、幸せそうな表情だった。
「大人しくしてろとは言わねえが、気をつけろよ」
 もう一度額を小突いて、ワグネルは部屋を後にした。

 ――翌日。
 ワグネルはギルドでこってり絞られた。
 あの程度の依頼で失敗しては、ギルドの信用に関わるとかなんとかで。
 現場を見てから言って欲しいものだ。
 まあ、そういうわけで現場を再び調査し、始末書でも仕上げるか……とまたもや昼頃ギルドを後にしたワグネルは……。
 ぐにゃりとした感触に、足を止めた。
「………………………………」
 足の下に、何かがいる。
 目を回してペタンと倒れこんでいるその人物は。
「をーい」
 踵で軽く叩いてみるが、返事がない。ただの行き倒れのようだ。
 細い腕を掴み上げて、ワグネルはその少年の姿をした少女を、担ぎ上げるのだった。

 ――そして翌日。
 ワグネルはギルドに始末書を提出した。
 現地の写真や仲間の証言も書き記した。
 それを見た担当の男は、苦笑しながら「災難だったな」と一言言ったのだった。
 まあ、帳消しにはならないが、株は大して落ちずに済んだようだ。
「今日は、美味いメシが食えるかー」
 そう伸びをしながら、外へと出た。
 ぐにゃり。
「んきゅー」
 何かを踏んだ感触と、奇妙な声が響いた。
「………………………………」
 ゆっくりと足の下を見る。
「だから、お前はなんで俺の足の下で寝てんだ!?」
 しかし、返事はない。目を回して幸せそうに寝ている。
 どうやら今日も昼食前に、ひと働きせねばならないようだ。

 ――更に翌日。
 ワグネルは気の合う仲間と、一晩中騒ぎ、明け方ギルドに顔を出した。
 壷に関しての調査につき合わせてしまったため、その日の飲み代はワグネル持ちだった。最も、顔なじみの店だったため、ツケておいてもらったのだが。
 とりあえず、今度は仕事を成功させ、所持金を増やしておきたい。
 とはいえ、また妙な仕事を掴むのはゴメンである。
 ハイテンションな状態で、ワグネルは依頼書を捲っていた。
 しかし、昼頃には酔いも醒め、腹も減ってきた。
 腰を上げて、一旦外に出て食事にすることにする。
 伸びをしながら、ギルドを出る。
 陽射しがとても眩しい。
 うん、いい天気だ!
 ぐにゃり。
「んぎゃっ」
「………………………………」

 そして、翌翌日。
 とゆーか、その翌日も!
 でもって、その次の日もッ!
 ワグネルの足の下に、その少年は現れた。
 さすがに、3日目にはワグネルも気づいていた。
 自分が毎日にように顔を出しているこの場所で、わざと彼女が行き倒れていることに。
 力尽きる場所をここと決めているのだろう。
 良い様に使われている。
 そう気づいた後も、ワグネルは軽い笑みを浮かべながら、彼女を荷物のように背負って城へと届けるのであった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2787 / ワグネル / 男性 / 23歳 / 冒険者】

【NPC】
キャトル・ヴァン・ディズヌフ

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸満里亜です。
プレイングを拝見していて、足の下ー! とイメージが湧いてしまいましたっ。
保護先が城から診療所に変わった後も、ふらふらしそうな彼女ですが、その際にもどうぞよろしくお願いいたします。
ご依頼ありがとうございました。

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