■ファムルの診療所β■
川岸満里亜
【3368】【ウィノナ・ライプニッツ】【郵便屋】
 ファムル・ディートには金がない。
 女もいない。
 家族もいない。
 金と女と家族を得ることが彼の望みである。
 その願いを叶えるべく、週に3日、夕方だけ研究を休み診療所を開いている。
 訪れる客も増えてきた。
 しかし、女性客は相変わらず少ない。
 定期的な仕事も貰えるようになったのだが、入った金は全て研究費に消えてしまう。
 相変わらずいつでも金欠状態である。

「ファムルちょっと、魔法ぶっぱなしてみていいかー!」
 声の直後、爆音が響く。
「言いながら、放つのはやめろ!」
 慌てて駆け込んで見れば、壁に大穴があいている。
「わりぃわりぃ、外に向けたつもりだったんだけどさー」
 頭を掻いているのは、ダラン・ローデスという富豪の一人息子である。
 ファムルは大きくため息をつきながらも、心は踊っていた。
 修理代、いくら請求しようかー!?
 くそぅ、もう少し大きく吹き飛ばしてくれれば、一部屋リフォームできたのにっ!
 貧乏錬金術師ファムル・ディートは相変わらず情けない日々を送っている。
『ファムルの診療所β〜魔法具案〜』

 ハプニングの翌日、ウィノナ・ライプニッツはダラン・ローデスの家を訪れた。
 ずっと忙しくしていたこともあり、この豪邸に入るのは本当に久しぶりであった。
 応接室でダランを待ちながら、ポケットから小さな魔法具を取り出す。
 赤い石の嵌められた指輪だ。
 待つこと数分。応接室に飛び込んできたダランは、息を切らせていた。
 ダランの部屋からこの応接室までは、結構距離があるのだ。
「おーっす、ウィノナ〜。もう身体平気なのか?」
「うん、昨日はゴメン。……ありがとね、助けてくれて」
「いや俺何もしてないし。結局風呂に入れてあげることも出来なかったし」
 笑いながらダランは椅子に腰掛けた。
 ウィノナは苦笑したあと、指輪の石の部分を指で覆った。
「はい、これ。長い間借りちゃってごめんね」
 石を見せないよう、ダランに渡す。
「お、おお! そうそう、これがあると、俺すんげー魔術使えそうな気がするんだ!」
 ダランは嬉しそうに指輪を受け取って、左手の人差し指に嵌めた。
「最近、身体の調子はどう?」
 ウィノナがそう質問すると、ダランは少しだけ表情を曇らせる。
「特に変わってないと思うけど」
「そっか」
「ファムルが魔力を抑える薬、作ってくれたんだ。それを持ち歩くことにしてるから、万が一の時も大丈夫!」
 ダランは虚勢を張るかのように、再び表情を笑顔に変える。
「んー、そだね。で、ボクも色々考えてみたんだけれど」
 ウィノナはノートを取り出して、最近調べた魔法具について記入してあるページを開いた。
「ダランの魔力を調整する手段として、魔女の魔力を押さえ込んで封じる魔法具を作ろうと思う。魔女の魔力を人間と同じ威力まで抑え、その後人間としての魔力を消して魔女の魔力を使うようにすれば、魔女の魔力を残したままで人並みの寿命を保ことが出来るようになるんじゃないかと考えてる」
 ウィノナの言葉とノートを見たダランは、腕を組んで唸り声を上げる。
「なんか……俺にはさっぱりよくわかんねーんだけど、ええっと、俺の魔女の魔力は今封印された状態にあるわけだろ? んで、少しずつ漏れ出してるから、多少は循環している、んだよな? んーと、魔女の魔力が完全復活してから、それを試してみるってわけ? でもさ、そしたら今まで訓練して使えるようになった人間の魔法は全部捨てなきゃなんねーんだよな? 俺、人間の魔力も消したくないんだよな……。んで、もう一つ重要なことがある」
 真剣な目でダランがウィノナを見る。
「……なに?」
 ウィノナは緊張しながら、ダランの言葉を待つ。
「俺……女になるかもしれねぇ」
「は?」
「って、言われたことがあるんだっ。だって、魔女って女しかいねぇだろ? 魔女の魔力だけ体内に残したら、女になっちまうかもー!?」
 不安そうにダランは言うが、肉体の変化が起こるとはウィノナには思えなかった。……絶対とは言えないが。
「からかわれただけじゃない?」
「そ、そうかな?」
「多分」
 しかし、力を抑えたとはいえ、ダランの身体に悪影響を及ぼさないとは言いきれないのも事実だ。
 ただ、もしもの時には、魔力を完全に封じれば、最悪命には影響を出さずには済むだろう。
「薬、持ってるとはいっても、薬の効き目って短いよね? だから、どちらにしろ魔力を抑える魔法具は持っていた方がいいと思うんだ」
「うん、それは俺も思う。ホントは魔力抑えるのなんて嫌なんだけどさーっ。で、ウィノナには作れるのか?」
「多分。銀とラスガエリっていう鉱石を使って、魔法具を作ってみたい。絶対成功するとは限らないんだけど、ダランは資金面で協力してくれないかな?」
「幾ら?」
 ダランに問われ、ウィノナはペンを取り出すとノートに市場価格と必要量を書き出していった。
「……作る品によるんだけれど、腕輪なんかが無難? 銀の量は50gくらいあればいいかな。とすると、加工費も含めて10Gくらい」
「ん、それくらいなら全然平気ー。でもさ、腕輪は……」
「そんなに邪魔にならないよ。ダランに合うサイズにすればさ」
「それは知ってる」
 言いながら、ダランは右腕を捲くった。
「あ、そっか。ダランもボクと同じ腕輪してるんだ、今でも」
 ダランの右腕には、ウィノナが魔女に嵌めてもらった腕輪と同じ、銀色の腕輪が嵌められているのだ。
「外そうと思えば外せるんだけどさー。なんか、もったいないんだよな。で、さすがに両手に違う腕輪っていうのはなあ……」
 そして、首には母親の形見であるネックレスをしていることが多い。外出時には友人にもらった御守りも首から下げているとのことだ。
 更に、指には、魔女の指輪……。
「って、ダラン、そんなに魔法具装備してて、平気なの!?」
「いや、強力な魔法効果を出してる魔法具じゃねーから平気だろ〜」
「ならいいけど……で、魔力を抑える魔法具はどんな形がいい?」
 その言葉に、ダランは深く考え込んだ。
 眉間に皺を寄せ。
 額に手をあて。
 ついには頭を抱え込んで。
「ううっ、いっそのこと、銀歯とかどうだろう」
 長時間考えてダランが発した言葉に、ウィノナは思わず吹き出してしまう。
「ダラン、虫歯でもあるの? 差し歯にするっていうんなら、とめないけど?」
「いや、ねーけど……」
 そしてまた、ダランは考え込む。
「好きな装飾品ならいくらでもあるんだけど、ずっとつけてるとなるとなー。……あー、やっぱウィノナに任せる。でまあ、腕輪の場合は、多分右の腕輪外して嵌めることにするけど、もしかしたら両手に嵌めるかもしんねーから、違和感ないのがいい。指輪にする場合は、右手の人差し指サイズがいいかな。大人になったら小指に嵌める。ネックレスの場合はよくある男モンのシルバーチェーンのヤツがいい」
 そう言った後、ちょっと待っててと言い、ダランは応接室を出ていった。
 再び、息を切らせて戻ってくると、ウィノナに金貨を20枚手渡した。
「銀の代金と加工にかかる手数料」
 ウィノナが提示した金額の2倍であったが、ウィノナは全額受け取ることにする。あまったら返せばいい。
「それと」
 硬貨を渡した後、ダランはこう付け加えた。
「完成した時には、ちゃんとお礼したいから。何でも好きなこと言ってくれよな! ……ま、俺に出来ることは限られてるけどさ」
 そう言って、ダランは照れたような笑いを見せた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3368 / ウィノナ・ライプニッツ / 女性 / 14歳 / 郵便屋】
【NPC / ダラン・ローデス / 男性 / 14歳 / 駆け出し魔術師】

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸満里亜です。
ダランは結構派手好きではありますが、既に色々身につけているので、あまり凝っていたり大きなものは不似合いかもしれません〜。
お金はあまったら、あげると言い出しそうです。
ご提案ありがとうございました!

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