■広場の薬屋■
川岸満里亜
【3368】【ウィノナ・ライプニッツ】【郵便屋】
「いらっしゃい!」
 元気な声と共に、ドアが開いた。
「ごめんね、先生出張中なんだ。でも、薬の調合だけなら、あたしがどうにかするから、どーんと任せてよ!」
 診療はしばらく休みのようだ。
 しかし、診療室には変わらず様々な薬が並んでいる。
「実はあたしが調合してるんじゃないんだ。あたしのお姉ちゃんに有能な薬師がいてさー、だから、ちゃんと薬の手配はできるから、なんなりと申し付けてよね!」
 そう言って、少女ばバンと肩を叩いてきた。

 ここは錬金術師の診療所。
 しかし、錬金術師ファムル・ディートの姿はない。
 “自称ファムルの娘”のキャトルと、ファムルの元弟子ダラン・ローデスが交代で店番をしているようだ。
『広場の薬屋〜魔法具2つ〜』

 賢者の館は、今日も冒険者で溢れていた。
 ただ、ウィノナ・ライプニッツは冒険目的で訪れたのではない。
 人を紹介してほしくて訪れたのだ。
 この場所には、ソーンのあらゆる情報が集る。
 ウィノナが探しているのは、魔法具に詳しい人物だ。
「それなら、あの人に聞いてみたらどうかな」
 受付の女性に訊ねると、女性は本を立ち読みしている男性を指差した。
「彼はなかなかの魔法具使いよ」
「ありがとうございます」
 頭を下げると、早速ウィノナはその男性に近付いていった。
「すみません、少しお時間いただけないでしょうか。魔法具についてお聞きしたいんです」
 驚かせないよう注意を払いながら、ウィノナは男性に声をかける。
「なんだい、お嬢ちゃん」
 人のよさそうな人である。
 ウィノナは迷わずその男性に訊ねることにした。
「ボク、魔法具を作ろうと思ってるんです……」
 ウィノナは順序だてて説明を始める。
 作ろうと思っている魔法具は、ダランの魔力を調整する指輪である。
 銀の指輪に、魔法封じの効果がある鉱石ラスガエリを組み込んで作成する予定だった。
 ただウィノナが自分で判断できないことがまだ幾つかある。
 まず、魔力を抑える量だ。
 全部使えなくするのなら、鉱石を全てはめ込めばいいのだが、そうでななく、必要量だけ抑える魔法具が欲しいのだ。
 しかし、その抑える力だが、調整ができた方が尚良いと考えられる。
 もっと強く抑え込む力が必要になった時、また新たな魔法具を作るのでは、手間やお金の負担が大きすぎるためでもある。
「魔力を抑える力を調節できるように作りたいんですが、自分は六芒星や星型など、直線がある形に刻み、その直線ごとに合わせてラスガエリを加工してもらって、必要に応じて取り外し取り付けをしやすくして、上に別の宝石などをかぶせて簡単には外れないようにして作る手段を考えたんですが」
「ふむ……。出来ないことはないと思うが、職人のスキルによるなあ。指輪に魔法陣を彫るんだろ? かなりの技術者じゃないと難しいと思うぞ。それに取り外しにくくていいのかい?」
 それも、ウィノナが判断できないことの1つであった。指輪で魔力調整は難しそうだということは、検討段階で分かっていたことだ。
「それでは、もっと良い方法って何かありますか?」
 ウィノナの言葉に、男性は腕を組んで考え込む。
「ああ、そうだ。もっと単純に、三連リングとかにしてはどうだ? 手間はかかるが、複雑すぎる魔法陣を刻むよりは3つ刻んだ方が楽だと思うぞ」
「三連リングですか」
 なるほど、それならば、取り外しも楽だし、小さな石を取り外し紛失する危険性も多少は減る。
「分かりました。職人さんと相談してみます」
 ウィノナは頭を下げて礼を言うと、再び受付に向った。
 一流の指輪職人を紹介してもらわねばならない。

    *    *    *    *

 その日のうちに、ウィノナは魔法陣に関する書物と、鉱石、お金を持って職人を訪ねた。
 冒険者が集うこの聖都では、有能な職人も多いようだ。
 迷った末に、細工が得意な職人を選んだ。
「こんな風に、作ってほしいんですけれど……」
 ウィノナは、ノートに描いた指輪と複写した魔法陣を、壮年の職人に見せた。
「で、この指輪に、この魔法陣を刻んでもらって、その直線ごとに合わせてこの鉱石をはめ込んで欲しいんです。更に簡単には外れないように上に魔力に影響を及ぼさない無属性の宝石を嵌めてもらいたいんです。できますか?」
「最初の鉱石を埋め込んで構わないのなら、難しくはないが、必要に応じて外すとなると、外す際に描いた魔法陣を傷つける可能性があるぞ?」
「んー、それでは三連にしてもらうことは可能ですか? 1つ1つに魔法陣を描いてもらって、鉱石をはめ込んでもらうことになるんですけれど」
 賢者の館で聞いた話を元に、三連の指輪の図もノートに書き込んであった。
 職人は頭を掻きながら苦笑した。
「まあ、出来ないことはないがなあ、両方ともかなり難しい依頼だ。……お嬢ちゃんに代金が支払えるとは思えんのだが」
「幾らくらいになりますか?」
「そうだな……」
 壮年の職人は、紙に金額を書いていく。
「大体これくらいか」
 ウィノナの案の指輪の場合、15G。三連の指輪の場合、19Gであった。
「なんとかなると思います。でも、どちらにするのかは、もう少し考えてみます。あと……」
 ウィノナは、もう一つ職人に頼みたいことがあった。
 ラスガエリを半分取り出して、職人に渡す。
「このラスガエリで、針を作って欲しいんです」
「針?」
 ウィノナは頷いた。
「縫い針の長さの針です。出来ますか?」
「縫い物をするってわけじゃなさそうだな。まあ、こちらは難しくはない。材料持込だし、指輪の方の代金をちゃんと払ってくれるのなら、こっちの代金はまけさせてもらうよ」
「はい、ではお願いします」
 ウィノナは頭を下げた。
(……ダラン、ごめん。無駄になるかもしれないけど、ファムルさんが魔術にかかっていた時のために、残ったラスガエリ、使わせてね)
 頭を下げながら、ウィノナは頭の中でダランに謝罪していた。
 アセシナートの騎士団の手に落ちた錬金術師ファムル・ディート。彼が魔術で洗脳されていた時の為に、ウィノナはもう一つ、魔法具を欲したのだった。
 ただ、キャトルの時とは違い、ファムルは魔力が殆ど……もしくは、全くないらしい。だから、彼女の時のように魔力に混ぜるという手段で操られることはないだろう。
 それでも、どんな可能性にも、備えておきたかった。
「しかし、これは面白い発想だな。どうせなら吹き矢にしたらどうだ? 厄介な魔法を使うモンスターの類いに打ち込めば、冒険が楽になるんじゃないか?」
「はい。でも、ボクは吹き矢は得意ではないので、針にして下さい。もしかしたら、また違う形に加工して欲しいと依頼するかもしれません」
「そうか」
 職人の言葉を聞くと、ウィノナは「よろしくお願いします」と、もう一度頭を下げて、その日は帰路についたのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3368 / ウィノナ・ライプニッツ / 女性 / 14歳 / 郵便屋】

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■         ライター通信          ■
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ライターの川岸満里亜です。
いつもありがとうございます。
魔法陣ですが、指輪職人に描いてもらうということで、よかったでしょうか?
次回は指輪決定から完成した指輪&針を受け取るところまでプレイングに書いていただいて構いません。
発注ありがとうございました!

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