■【バレンタイン2009】バレンタインパーティー■
陵かなめ |
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】 |
バレンタインパーティー開催のお知らせ。
「大切なあの人と素敵な思い出を作りたい!」「バレンタインの雰囲気を味わいたい」「自分達だけのオリジナルバレンタインを企画したい」そんな思いを実現するバレンタインパーティー。
当委員会では、貴方のその思いをかなえるべくバレンタインパーティーの開催を予定いたしております。
パーティーと言っても、会場には貴方と貴方の大切な人だけ。
そうです、会場を思いの数だけご用意いたします。
この機会に、素敵な思い出作りをしてみませんか?
どんなパーティーになるかは貴方の思い次第です。
日時:2009年2月14日付近(依頼者のご都合最優先)
場所:当委員会がご用意する納得の会場
※会場につきましては、広さ、場所、内装などあらゆるニーズに対応いたします。
その他:お料理やBGMなどは事前にご相談下さい。
ご注意:プレゼントのチョコレートはお客様がご用意下さい。
募集人数:1名〜
■ライターより
このノベルはクリエーター企画【バレンタイン2009】参加ノベルです。
【バレンタイン2009】はバレンタインのノベルや作品をリンク紹介する企画です。
納品後、企画ページから作品へリンクさせていただきます。詳しくはクリエーターズルームをご確認下さい。
バレンタインパーティーです。
今年はどんなバレンタインにしましょう?
ご自由に、パーティーをプロデュース・お楽しみ下さい。
■その他
●基本的に個別ノベルです。
●お友達と一緒に参加される場合は、プレイングに相手のお名前を明記しできるだけ同じ日にご依頼ください。
●NPCについてはご自由にご指定下さい。
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【バレンタイン2009】バレンタインパーティー
■01
その日、草間興信所はいつものように暇だった。
いやいや、決して、経営難に陥るほど依頼主が来ないわけではない。ただ不況不況と世間が騒ぐので、依頼主の財布の紐が緩まないのだ。頻繁に相談に来ないし、追加料金を払うオプションを嫌がる。
だから、この日も、興信所の所長である草間武彦はストーブの前で丸まっていた。
他に誰もいないので、気が緩んでいるのだろう。
シュライン・エマは区切りの付いた帳簿をしまい、そっと立ち上がった。
武彦の背中をゆっくりとつついてみる。
「ん?」
「あのね、武彦さん。食べ放題があるの」
器用にバランスをとりながら、武彦が振り返った。
一緒にどうかしら、と、シュラインは首を少しだけ傾げる。
「そうだな」
一度屈伸してから武彦が立ち上がる。
(……食べ放題か。ずらりと並ぶ温かな料理。好きな物を好きなだけ選び心行くまで食べる事ができる。しかも、誰をそれを咎めない。いや、むしろ、必要以上に食べなければ、元が取れない。だから、沢山食べて当たり前。そんな風潮さえも許してしまえる。素敵な食事のスタイルだ。食うぞ。俺は食う。この時ばかりは、クールな俺を脱ぎ捨ててもいいんじゃないか? いや、あくまで紳士的に食えば良い。きっとそうだ)
嬉しそうに頬が緩む様を見て、何となく、武彦の考える事が分かってしまったような気がする。
シュラインは頷く武彦に「出来ればそれなりの格好だと嬉しいな」と付け加えた。
「ホテルのイベントか?」
「うふふ」
余程楽しみなのか、武彦はそれ以上疑問を口にしなかった。
まさに、思うツボである。
■02
待ち合わせに現われた武彦は、意外と言っては失礼だが、随分とピリッとしたスーツを身に纏っていた。上着も、いつものくたびれたコートではない。シンプルだが、さりげなく上品な素材が見て取れる。
「悪い。待たせたか?」
「大丈夫。行きましょうか」
きちんと気を使ってくれたのだろう。
素直に嬉しい。
シュラインは、自然に武彦の腕をつかんだ。
振り払われない。
ちらりと見上げると、武彦の腕が緩んだ。そこへ手を通し、腕を組む。
「こっちよ」
「ん」
二人は並んで歩き出した。
会場は、小さなレストランだった。ドアベルがカランと可愛い音を立てる。
「いらっしゃいませ」
初老の男性が、二人を迎えてくれた。
ふわりと、甘い匂いが鼻腔をくすぐる。コートを店員に預け、店の奥、外の景色が楽しめる広いテーブルに案内された。当たり前だけれど、他に客の姿はない。
「本日は、バイキング形式となっております。お料理はあちらに。ご自由にお楽しみ下さい」
食べ放題の店にありがちな説明だったけれど、にこやかに頷いた。
「さて、行きますか」
「そうだな」
店員の姿が見えなくなると同時に、二人はさっと立ち上がった。
■03
ホワイトチョコレート、ミルクチョコレート、チョコレート。三種類のチョコレートファウンテンがぱっと目を引く。周りに並んでいるのは、イチゴ、パイナップル、キウイフルーツなど、色とりどりのフルーツ類。チョコレートでコーティングすれば、さぞ美味しいことだろう。
固形のチョコレートの種類も豊富だ。
キャラメルをミルクチョコレートで包みコーティングしてあるもの。
チョコムースをダークチョコレートで包みミルクパウダーをふってあるもの。
林檎フレーバーをミルクチョコレートで包みフレークの飾りをつけているもの。その他、カラメルソースでデコレーションされているものやホワイトチョコレートで包まれているものなどなど。トリュフだけでも数えればキリがない。
ハート型の一口チョコも色々な種類があるし、スタンダードな一口チョコも、板チョコも多数用意されている。変わったところでは、ショコラのマカロンなども見える。
また、生チョコやチョコレートケーキなどは、専用のケースにずらりと並んでいた。
とにかく、チョコ、チョコ、チョコ!
食べ放題は食べ放題でも、チョコレートの食べ放題でした。
シュラインは、可愛いプレートに一種類ずつチョコレートを取る。バレンタインパーティー開催のお知らせを受け取ってから、この日のために、入念な打ち合わせをしたのだから。
その隣で、武彦は、口の端を引きつらせて呆然と黒い塊を眺めていた。
店員が、新たなチョコレートケーキを並べ始める。二人の到着に合わせて、出来立てを用意したのだ。店員は、不思議そうに武彦をちらりと見た。
食べ放題なのだから、沢山手に取れば良いのに。
そう、言われて居る気がする。
食べないわけにはいかない、か。
武彦は、不承不承幾つかチョコレートを自分のプレートに乗せた。
先に席へ戻ったシュラインが、温かい飲み物を二人分持って来る。当然……ホットチョコレートだ。
「シュライン、たしか、食べ放題って言わなかったか?」
ホットチョコレートを受け取り、武彦がひくひくと頬を引きつらせる。決してチョコレートが嫌いなわけではない。ないのだけれど、チョコレートだけ、山ほどと言うのは一体どう言うことだろう。
一方、シュラインはほくほくと幸せな笑顔を浮かべトリュフチョコレートを口に放り込んだ。
「そうよ。チョコレートの食べ放題なの」
口に広がる甘い香り。まろやかな舌触り。とろりと溶けていくチョコレート。ああ。何て幸せな味なのだろう。一つ一つ微妙に味が違う。これならば、いくつ食べても食べ飽きない。
その後も、シュラインはもきゅもきゅと幸せを噛み締め続けた。
何度もチョコレートと席を往復し、止め処なくチョコレートを飲み込む。
チョコレート狂だから! いくらでも大丈夫!!
そんなシュラインを、武彦は諦めたように眺めていた。付き合い程度に数粒口に運んだようだが、結局手は止まっている。
「本当に好きなんだな」
「ええ。大好きよ」
大好きよ、とても。その言葉も、チョコレートと一緒に噛み締めた。
武彦は頬杖をついてシュラインを見ている。もうチョコレートは食べない様子だ。
「ふっふっふ」
ようやく食べるのを止め、シュラインは優しく微笑む。
手を伸ばし、武彦の口の端に付いたチョコの欠片をぬぐってやった。
ゆっくりと手を下ろし……。
シュラインはニヤリと口の端を持ち上げた。
「今日のコレは武彦さんを苛める為だったのよー」
人差し指を立て、意地悪く相手を睨みつける。
「なにぃ?!」
今気が付いた、と言うようなオーバーアクションで武彦がのけぞった。もし効果音が必要なら、ががぁーんと大げさな音が響いただろう。
「すっかり騙されたようね、最後の拷問を受けるがいいわ」
「そ…………」
シュラインの言葉に何かアクションをしかけた武彦は、言葉を引っ込めた。
取り出したのは、バレンタインのチョコレート。
渋い包装の中身はウィスキーボンボン。
それを、そっと両手で差し出す。
「……なぁんて、一度山ほど食べてみたかったのつき合わせちゃってごめんなさい」
いたずらっ子のような表情を浮かべるシュライン。
「いや」
それ以上何も言わず、武彦はチョコレートを受け取った。
■Ending
「それは無理して食べなくても良いのよ」
「食うよ、ちゃんと」
手渡されたチョコレートの箱に手を置き、武彦は静かに笑う。
ようやく人心地が付いたような表情だった。やはり、チョコレートの山には疲れたのだろう。
二人の前には、口直しの軽食が並んでいた。
最初から、きちんと用意しておいたのだ。
「帰ってからな。今は……無理だ」
「どうぞ、ご自由に」
まだチョコレートの甘い匂いに包まれていたけれど、冷えたワインが、喉に心地良かった。
<End>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
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■ ライター通信 ■
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シュライン・エマ様
こんにちは。いつもご参加有難うございます。
チョコレートを山ほど食べる……それは、乙女の夢だと思います。いかがでしたか。甘い夢を堪能していただければと思います。チョコレートの山を前に呆然とする武彦氏を想像すると、非常に楽しく思いました。
では、また機会があリましたらよろしくお願いします。
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