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■メイズ・オブ・リナール■

藤森イズノ
【7365】【白樺・秋樹】【マジックアクセサリーデザイナー・歌手】
 ハント要請もなく、自室でのんびりと。
 まぁ、何かあれば、すぐに急行できる状態ではあるけれど。
 仕事がないからといって、ただ、ダラダラ過ごすのも何だ。
 良い機会だと捉えて、この世界の歴史でも勉強してみよう。
 本部には、立派な書庫がある。歴書は勿論のこと、魔法書もたくさん。
 勉強するならば、あそこ以上に良い場所なんてないだろう。
 一人頷き、部屋を出て、書庫へ移動。……しようとした時だった。
 コツコツと扉を叩く音。誰だろう。
 応じてみれば、そこには。
「ちょっと出かけない?」
 やぶからぼうに。笑顔で誘う、仲間の姿があった。
 仕事……ではなさそうだ。表情を見るからには。
 うーん。勉強しようと思ってたんだけれども……。
「えぇと? どこに?」
 メイズ・オブ・リナール

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 ハント要請もなく、自室でのんびりと。
 まぁ、何かあれば、すぐに急行できる状態ではあるけれど。
 仕事がないからといって、ただ、ダラダラ過ごすのも何だ。
 良い機会だと捉えて、この世界の歴史でも勉強してみよう。
 本部には、立派な書庫がある。歴書は勿論のこと、魔法書もたくさん。
 勉強するならば、あそこ以上に良い場所なんてないだろう。
 一人頷き、部屋を出て、書庫へ移動。……しようとした時だった。
 コツコツと扉を叩く音。誰だろう。
 応じてみれば、そこには。
「……ちょっと出かけない?」
 やぶからぼうに。笑顔で誘う、仲間の姿があった。
 仕事……ではなさそうだ。表情を見るからには。
 うーん。勉強しようと思ってたんだけれども……。
「えぇと? どこに?」

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 部屋を訪ねてきたのは、梨乃だった。
 彼女が訪ねてくるだなんて珍しい。
 不思議に思いながらも、秋樹は笑顔で誘いに応じた。
「お散歩ですか〜? いいですよ〜」
 いつもと何ら変わらぬ、天使の微笑み。
 梨乃の歩幅は狭く、ちょっと油断すると追い越してしまう。
 秋樹は、先を歩いてしまわぬよう、梨乃と並んで歩いた。
 適当なところを散歩するのかと思っていたのだけれど、違うようで。
 迷いのない梨乃の足取りから "目的地" があることを秋樹は悟った。
 どこに行くのか、質問することはしない。ただ、一緒に歩く。ついて行くように。
 やがて、梨乃の足がピタリと止まった。
 ん? と首を傾げて前方を見やれば、そこには可愛らしいお店。
 入り口に置かれているボードに、おすすめメニューが記されている。喫茶店だろうか。
「可愛いお店ですね〜」
 レンガ造りの店を見上げながら言った秋樹。
 梨乃は、何も言わずに扉を開けて中へ。
 カランカランと、優しい音が響く。
「あっ、待って〜」
 秋樹は、ちょっと慌てて梨乃の後を追った。
 外観だけじゃなく、内装も可愛い店だ。
 テーブルやチェアー、壁の時計、窓、揺れるカーテン。その、どれもが可愛い。
 まるで、妹達が好むドールハウスのようだと微笑んだ秋樹。
 二人は、中央付近の席へと案内されて着席した。
 メニューを見やりながら、秋樹はニコニコと微笑む。
「え〜と……。何にしようかなぁ。梨乃は、決まった〜?」
「……私は、クランベリーティ」
「じゃ〜、僕も、それで良いや」
 オーダーを取りに来た店員もまた、可愛い。
 いや、顔が可愛いということではなくて。
 まぁ、顔もお人形さんのようで可愛いのだけれど。服装が、ね。
 一礼して去っていく店員の背中を見送って、秋樹はテーブルに頬杖をついた。
 そして、いつもの笑顔で尋ねてみる。
「何か、聞きたいことでもあるんですか?」
「……どうして?」
「ふふ。そういう顔してるから〜」
「…………」
 秋樹の言葉に、梨乃は肩を竦めた。図星だったようだ。
 けれど、すぐさま口を開くことはせず。
 オーダーした紅茶が届いてから、梨乃は、ようやく口を開いた。
「……ここに来る前、どんな生活してたの?」
「ん〜。自由気ままに生きてましたね〜。まぁ、今もなんだけど。あははっ」
「……学校は?」
「行ってないよ〜」
 何ていうんでしたっけ、あれ。えぇと、あぁ、そうそう、通信教育?
 あと、家庭教師とかがいた時期もありました。勉強は、自宅で済ませてましたね〜。
 学校に行くべきだったのかもしれないけど、何となく懸念してしまって。
 面倒だとか、そういうんじゃないんだけどね。気分的に、行く気にならなかったっていうか。
 その気もないのに行っても、楽しくないでしょ?
 だから、勉強は全部自宅で済ませてた。
 そのぶん、仕事に熱入れてたかな〜。
「……仕事っていうのは、例の?」
「そうそう。アクセサリーのデザイン。今も現在進行形でやってるよ〜」
「……結構、有名なんでしょ?」
「どうだろ〜。あんまり気にしたことないかも」
「……そういうものなのかしら」
「もうひとつ、やってることがあってね。そっちが忙しいってのもあるかなぁ」
「……もうひとつ?」
「うん。何をやってるのか知りたい?」
「……まぁ」
「ごめんね。内緒〜」
「…………」
 教える気がないのなら、どうして訊いたんだろう……。
 梨乃は、コクコクと紅茶を飲みながら、目を伏せた。
 まぁ、教えられない理由でもあるのだろう。追及はしない。
 カップをソーサーに置き、梨乃は、ゆっくりと目を開けた。
 チラリと、秋樹の頬を見やって、また少し伏せ目になる。
 訊いたところで、教えてくれないのではないだろうか。
 そうは思うけれど、訊かずにいられることは出来ない。
 他人・個人への干渉というわけではなく。
 ただ単に、仲間として。
 この先、一緒に生活していく仲間だからこそ。訊いておかねば。
「……その絆創膏は、怪我?」
 ポツリと尋ねた梨乃。秋樹は、淡く微笑んで返した。
「僕ってドジだから、あちこち怪我しちゃうんですよね〜」
 やっぱり駄目か。教えてはもらえないか。
 梨乃は俯き、小さな溜息を落とした。
 ほんの僅かな隙間、そこで落とされた溜息だったけれど。
 秋樹は、その溜息を見逃さなかった。聞き逃さなかった。
 一時停止する会話。沈黙の中、秋樹は目を伏せて物思う。
(まだ、君達には話せないんだ。ごめん)
 妙だな、とは思ったよ。梨乃が誘ってくるなんてね。
 きっと、こういうことなんだろうって。質問をする為なんだろうって。
 すぐに気付いたけれど、逃げようとはしなかったよ。でも、はぐらかしはするんだ。
 言いたくないんじゃなくて、言えないだけ。今は、まだ。ね……。
 どうして言えないのかって? まぁ、理由はいくつかあるけれど。
 一番の理由は、巻き込みたくないっていう……そういう気持ちかな。
 こんなこといったら、海斗とか浩太は、水くさいって怒るかもしれないけど。
 この世界に来て、まだ日も浅くて。君達との付き合いも、始まったばかりだけど。
 皆、良い人だってのは、じゅうぶんに理解るからさ。
 だから、嫌なんだよ。巻き込みたくないんだ。
 何て。ちょっとカッコつけてみたりするけど。
 実際は、怖いだけかもしれないね。
 また、失うんじゃないかって。不安なだけかもしれない。
 目を伏せたまま、紅茶を口に運ぶ秋樹。
 その姿は、妙に大人びていた。
 いや、年齢的には、もう立派な大人……に該当するのだろうけれど。
 普段の天然ボケっぷりや、おっとりした話し方を目耳にしていると、
 今の秋樹の姿は、まるで別人かのように映る。
「…………」
 さりげなく秋樹の様子を窺いながら、梨乃はテーブル上にあった鈴を鳴らして店員を呼んだ。
 そして、何やら耳打ちして。また、何事もなかったかのように紅茶を口に運ぶ。
「ん? 何か頼んだの〜?」
 へにゃっと笑って尋ねた秋樹。
 梨乃は何も言わず沈黙したままだったけれど。
 数分後、トレイにお菓子を乗せて店員がやって来る。
 テーブルに置かれたのは……。何だろう。パイのような、タルトのような。
 甘い香りに鼻と興味をくすぐられ、首を傾げている秋樹。
 梨乃は、フォークを差し出して説明した。
「……メオリー。一緒に食べましょう」
 メオリーという愛称で親しまれている、このお菓子。
 正式名称は "メイズ・オブ・リナール"
 異都フィガロヴィアンテにしか存在しない、特別なお菓子。
 争いの絶えない下界の場景に呆れた女神が、
 人々の心を安らかにしようと、空から降らせたお菓子。
 まぁ、逸話なのだけれど。信憑性なんて、皆無なのだけれど。
 都に住まうものならば、誰でも知っている話。童話のようなもの。
 そんな逸話から、いつしか、このお菓子は "誓約" と "和解" ふたつの意味を持つようになった。
 争いなんて止めて、仲直りしませんかという気持ちと、
 これからも、ずっと仲良くしていきましょうという気持ち。
 ふたつの気持ち、意味を込めて、人々は、このお菓子を口にする。
 喧嘩した二人が、仲直りしたいという証に、互いに贈りあったりだとか、
 結婚式の際に、このお菓子がテーブルに並ぶこともある。
 要するに、梨乃は、これを一緒に食べることで誓約を結ぼうとしている。
 仲間として、友達として、これからも宜しく。そんな気持ちを込めて。
 傍にいる大切な仲間だからこそ、知りたいと思うのは必然。
 けれど、無理やり聞き出すような真似はしない。
 いつか、話したくなったら、その時は遠慮なく話して欲しい。
 ゆっくりでいいから、絆を深めていこう、お互いに。
 梨乃が、秋樹を連れだしてここに来た本当の目的は、それだった。
 アプリコットとバターの香りが、とても優しい。
 秋樹は微笑み、フォークで一口サイズを切り取る。
 腕を交差させて互いの口に運ぶのが、メオリーの正式な食べ方。
 梨乃に教えられた秋樹は、その食べ方に従った。
 何だか儀式じみた食べ方。
 それに、ちょっとだけ恥ずかしい。
 クスクス笑いながら、秋樹は目を伏せた。
 全身を包み込むかのような甘い香り。優しい味。
 初めて食べたのに、懐かしいような不思議な感覚。
 いつか、君にも、みんなにも、ちゃんと話せるときがくるかな。
 ごめんね。僕達は、まだ臆病で。過去に縛られて生きているから。
 でもね、辛いだとか苦しいだとか、そういうのはないんだよ。
 この世界に、僕が迷い込んだのが全ての始まり。
 って言うと何だか大袈裟かもしれないけど。
 君達に会えて良かったと思ってる。
 内緒ばかりで、ごめんね。
 でも、いつまでも内緒にしておくわけじゃないから。
 ゆっくりでいいかな。 ねぇ、ゆっくりで、いいよね?
 微笑みながら、心の中で尋ねた秋樹。
 まるで、その質問に応じるかのように梨乃は頷いた。
「これ、美味しいね。お土産に持って帰りたいくらい〜」
「……できるよ。頼んでおきましょうか」
「あっ、ほんとに〜? うん、是非〜!」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7365 / 白樺・秋樹 / 18歳 / マジックアクセサリーデザイナー・歌手
 NPC / 梨乃 / 17歳 / ハンター(アイベルスケルス所属)

 こんにちは、いらっしゃいませ。
 シナリオ『 メイズ・オブ・リナール 』への御参加、ありがとうございます。
 作中に出てくる お菓子(メイズオブリナール)は、
 イギリス宮廷伝統、門外不出とされたお菓子(メイズオブオナー)と同じもの。
 ちょっと弄っておりますが "特別なお菓子" であることに変わりありません^^
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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