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■オトナの時間■

藤森イズノ
【7182】【白樺・夏穂】【学生・スナイパー】
 何だこれ。眩暈がする。
 酒に酔ったときみたいな。
 ふわふわして、視界がボヤけて。
 空を飛んでいるかのようで、イイ気持ち。
 でも、何だろう。足りない。まだまだ、足りない。
 もっともっと、気持ち良くなりたい。
 意識が遠のくほどの快楽が欲しい。

 触れたい。

 そっと優しく触れるだなんて、もう無理だ。
 思うがまま、乱暴に。例えキミが泣き叫んでも。
 ジッとしてて。動かないで。好きにさせて。
 ひとつだけ尋ねるから、拒まないで。
 キミは、ただ頷けばいいだけ。

 壊してイイ?
 オトナの時間

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 何だこれ。眩暈がする。
 酒に酔ったときみたいな。
 ふわふわして、視界がボヤけて。
 空を飛んでいるかのようで、イイ気持ち。
 でも、何だろう。足りない。まだまだ、足りない。
 もっともっと、気持ち良くなりたい。
 意識が遠のくほどの快楽が欲しい。

 触れたい。

 そっと優しく触れるだなんて、もう無理だ。
 思うがまま、乱暴に。例えお前が泣き叫んでも。
 ジッとしてて。動かないで。好きにさせて。
 ひとつだけ尋ねるから、拒まないで。
 お前は、ただ頷けばいいだけ。

 壊してイイ?

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 自室にて、今日も今日とて夏穂は読書。
 本部の書庫から持ってきた、この世界の歴史を綴った書籍に夢中。
(何か……違和感があるのは、どうしてかしら……)
 読み進めるうち、夏穂は違和感を覚えた。
 確かに、事細かに歴史は綴られているんだけれど。
 大切なところが欠けているような、抜け落ちているかのような。
 そんな気がしてしまう。根拠はないけれど。
 疑問を抱きながらも、パラパラとページを捲る夏穂。
 紅茶を飲みながら、読書に専念する有意義な時間。
 とても満たされる、幸せなひととき。
 だが、その時間を邪魔する来客があった。
 ドンドンと扉を叩く音。
 ノックとは言い難い、何とも荒々しい叩き方。
 その叩き方で、夏穂はすぐに理解する。
 読んでいた本を閉じ、テーブルに置いて扉に向かって応じてみれば。
 やはり、予想通り。部屋を訪ねてきたのは、海斗だった。
 夏穂は、クスッと笑って尋ねる。
「どうしたの?」
 だが、海斗は無言のまま。
 ジッと夏穂を見つめるだけで、何も言わない。
「……?」
 何やら、様子がおかしい。
 目の前にいるのは、間違いなく海斗なんだけれど。
 別人かのように思えてしまう。その理由は、目だ。
 いつもは、やたらとキラキラしていて好奇心旺盛な性格がモロに出ている目なんだけど。
 今の海斗の目は、何だか怖い。氷のような……冷たい眼差し。
「海斗……?」
 不安そうな顔で見上げる夏穂。
 だが、海斗はジッと夏穂を見つめたまま、意味不明な言葉を呟くだけ。

 足りねー。
 こんなんじゃ、全然足りねーよ。
 もっともっと、気持ち良くなりたい。
 触れたいし、触れて欲しい。色んなところに。
 どこが一番イイのか、気持ちイイのか。
 聞かせて。俺も、教えるから。

「え……? 何言って……きゃっ!」
 首を傾げて尋ねた夏穂だが、突然抱きつかれて驚いてしまう。
 いや、抱きつかれたというよりは、抱きしめられたというべきか。
 ガバッと、全身を包み込むようにして、海斗は夏穂を抱きしめた。
 いったい、何がどうなっているのか。どうすればいいのか。
 さっぱり理解らず、夏穂は戸惑った。
 様子がおかしいのは、明らかだ。
 いくら天真爛漫とはいえ、急に抱きついてくるような真似、海斗は絶対にしない。
 異変、その原因は何なのか。夏穂は、抱きしめられたまま、あれこれと考える。
 とりあえず、離れて。ちゃんと、向かい合って話がしたい。
 会話は成立しないかもしれないけれど、何もしないよりはマシ。
 話すことで、原因を特定できるかもしれないし。
 そう思った夏穂は、身を捩って、何とか逃れようと試みた。
 けれど、何だかんだで海斗も男。腕力では敵わない。
 まぁ、それは平常時に限ったことだ。
 夏穂が、内に秘める能力を解放すれば、逃れることは容易い。
 ただ、それは、かなり手荒な手段になってしまう。
 傷付けてしまう可能性が、極めて高い。
 どうしたものかと困り顔の夏穂。
 だが、数秒後、その躊躇は強制的に払われる状態になる。
「あっ……!?」
 目を丸くして身体を揺らす夏穂。
 何やら意味のわからないことを呟きながら、海斗は夏穂の背中に触れた。
 腰元から、そっと服の中に手を差し込んで、何かを探すかのように触る。
「ちょっ……ねぇ、海斗……?」
 くすぐったいのと、何だか恥ずかしい気持ちが混ざり合う。
 夏穂は、何ともいえない表情で身を捩った。
 でも、夏穂がどんなに拒んでも、止めてと言っても海斗は無視。
 聞こえないフリをしているのか、それとも本当に届いていないのか。
 弄ぶかのように触れる海斗の手指に、夏穂は慌てた。
「ねぇ、ちょっと待っ……止め……ねぇ、海斗……」
 泣きそうな顔で、震えた声で言ってみるものの、無駄。
 海斗は止めず、そればかりか、空いているほうの手で、スカートの中にまで手を差し込もうとする。
 太ももに触れる、指の感触。
「……!!」
 瞬間、夏穂の中で何かがプツンと切れた。
「嫌ぁっ!」
 ギュッと固く目を閉じて叫んだ夏穂。
 すると、その悲鳴に応じるかのように……。
 夏穂の身体を、ガシャッと氷が包み込んだ。
 危険を察知した際、夏穂は自身の体温を極限にまで下げる。
 結果、触れた人物を凍りつかせてしまう。
 けれど、今は、夏穂の身体自体が凍りついている状態だ。
 要するに、制御を失ってしまった状態。過剰な自己防衛だ。
 危険を回避しようと我を忘れた結果、夏穂の身体は氷そのものになってしまった。
 当然、密着していた海斗も同じように……。
「……はっ」
 我に返った夏穂は、更に慌てた。
 夏穂の身体は元通りになったけれど、海斗はそのまま。
 氷漬けになってしまった状態である。
 夏穂が察した危険度合いの分だけ、氷は分厚く硬くなる。
 即ち、海斗の身体を包む氷は、ダイヤモンド並みの硬度を誇る。

 *

 魔法とは少し異なる氷の為、消すことはできない。
 ゆっくりと時間をかけて溶かしていくしかない。
 夏穂は、魔扇子で炎を出しながら海斗を扇ぎ続ける。
 全然溶けない……。かなり時間が掛かりそうだ。
(……ごめんね)
 やむなき行動だったとはいえ、自分の所為でカッチカチになってしまった。
 氷漬けになった状態は、いわば仮死状態にあるため、死んでしまうことはないけれど。
 それでも、自分がやったことに変わりはない。夏穂は、しょんぼり気味。
 と、そこへ騒ぎを聞きつけた藤二がやってきた。
 本部内に響いた夏穂の悲鳴に、駆け付けたのだろう。
「どうした、大丈―」
 部屋に飛び込んできながら言いかけて、藤二はピタリと停止した。
 氷漬けになった海斗と、熱風を送りながら溶かそうとしている夏穂。
 その光景を目にした藤二は、何となく事態を把握した。
 夏穂の背中をまさぐっていた状態で氷漬けになっているため、海斗の姿は滑稽だ。
 何ともいえない指の形が、どうしようもなくイヤラシイ……。
 藤二は、苦笑しながら氷漬けになった海斗に近づき、首元を確認した。
「魔蜘蛛だな」
 笑いながら言った藤二。夏穂は、あぁ、そうか……と納得した。
 海斗の身体に起きた異変、それは "魔蜘蛛" に噛まれたことが原因。
 魔蜘蛛は、魔法生物の一種。
 噛まれてしまうと、全身に特殊な毒がまわる。
 魔蜘蛛の毒に侵された被害者は、幻覚作用を伴う為に奇天烈な言動が目立つ。
 普段からは想像できない言動が確認できた場合、魔蜘蛛にやられた可能性が高い。
 また、魔蜘蛛の発生は春先、特に5月の半ばに多い。
 どこで噛まれたのか、それはわからないけれど、
 海斗の異変は、魔蜘蛛に噛まれたことが原因だったのだ。
「ちょっと待ってて。マスター呼んでくるよ」
 その調子で扇いでいては、時間が掛かり過ぎてしまう。
 マスターに頼んで、強力な炎の魔法を一発放ってもらえば、すぐに溶けるだろう。
 そう提案した藤二。夏穂の双子の妹に頼んだほうが手っ取り早いかもしれないけれど、
 あいにく、妹は居候と一緒に外界に遊びに行っている。
「そうね……。ごめんなさい」
 夏穂は、魔扇子で氷漬けになった海斗を扇ぎ続けながら申し訳なさそうに言った。
 気にしないでと言い残し、藤二はマスターを呼びに行くのだが。
 氷漬けになった海斗の滑稽な姿が頭から離れなくて、笑いが込み上げてしまう。
 元通りになったら……あれこれ詮索され、大笑いされることだろう。
 氷漬けになったままのほうがマシだったと思えるくらい。
 間違いない。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7182 / 白樺・夏穂 / 12歳 / 学生・スナイパー
 NPC / 海斗 / 17歳 / ハンター(アイベルスケルス所属)
 NPC / 藤二 / 25歳 / ハンター(アイベルスケルス所属)

 こんにちは、いらっしゃいませ。
 シナリオ『 オトナの時間 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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