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■クロノラビッツ - フェイクガール -■

藤森イズノ
【8300】【七海・露希】【旅人・学生】
 リエナ・リエールという国。
 その国を一言で説明するなれば、桃色。
 どうして、そのような説明になるのかというと、
 この国そのものが "桜" という花に覆われているから。
 途方もなく大きな桜の木があり、その幹、枝、一つ一つに集落が築かれているのだ。
 決して朽ちることのないその桜の木からは、絶えず雪のように桃色の花びらが降り舞う。
 数々の世界・国を見てきたが、その中でも、あの美しさは格別だと、ワシは思う。

 それでな。ここからが本題なんじゃが。
 ワシが、リエナ・リエールを格別だと認める理由が、もうひとつあるんじゃ。
 その理由というのが …… これじゃ。あぁ、中身は空っぽなんじゃが。
 この瓶にはのぅ、それはもう美味な酒が入っていたんじゃ。
 オウカノウタという銘柄の酒でな。淡い桃色の、目にも美味しい酒なのじゃよ。
 初めて口にした瞬間から、ワシは、すっかりこの酒の美味さの虜になってしもうた。
 じゃが、見てのとおり、空っぽじゃ。これが最後の一本だったというわけなのじゃよ。
 この酒は、リエナ・リエールでしか手に入れることができん。勿論、すぐにでも買いに行きたい。
 じゃがのぅ。あの国の王である男と、ワシは、どうもウマが合わんのだ。煙たがられてもおるでな。
 もう何となくわかったじゃろうが …… そうじゃ。
 ワシは、この酒を買ってきてくれんかと、そういう頼みごとをするつもりで、お前さんを呼んだのじゃ。

 あぁ、待て待て。まだ話の途中じゃ。
 快く引き受けてくれるのは有難いが、そのまま向かっては門前払いを食らってしまう。
 うむ …… どういうことなのかと言うとじゃな。これがまた少し滑稽な理由になるのじゃが。

「困ったことに、リエナ・リエールの国王は無類の "女好き" なのじゃよ …… 」
 クロノラビッツ - フェイクガール -

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 リエナ・リエールという国。
 その国を一言で説明するなれば、桃色。
 どうして、そのような説明になるのかというと、
 この国そのものが "桜" という花に覆われているから。
 途方もなく大きな桜の木があり、その幹、枝、一つ一つに集落が築かれているのだ。
 決して朽ちることのないその桜の木からは、絶えず雪のように桃色の花びらが降り舞う。
 数々の世界・国を見てきたが、その中でも、あの美しさは格別だと、ワシは思う。

 それでな。ここからが本題なんじゃが。
 ワシが、リエナ・リエールを格別だと認める理由が、もうひとつあるんじゃ。
 その理由というのが …… これじゃ。あぁ、中身は空っぽなんじゃが。
 この瓶にはのぅ、それはもう美味な酒が入っていたんじゃ。
 オウカノウタという銘柄の酒でな。淡い桃色の、目にも美味しい酒なのじゃよ。
 初めて口にした瞬間から、ワシは、すっかりこの酒の美味さの虜になってしもうた。
 じゃが、見てのとおり、空っぽじゃ。これが最後の一本だったというわけなのじゃよ。
 この酒は、リエナ・リエールでしか手に入れることができん。勿論、すぐにでも買いに行きたい。
 じゃがのぅ。あの国の王である男と、ワシは、どうもウマが合わんのだ。煙たがられてもおるでな。
 もう何となくわかったじゃろうが …… そうじゃ。
 ワシは、この酒を買ってきてくれんかと、そういう頼みごとをするつもりで、お前さんを呼んだのじゃ。

 あぁ、待て待て。まだ話の途中じゃ。
 快く引き受けてくれるのは有難いが、そのまま向かっては門前払いを食らってしまう。
 うむ …… どういうことなのかと言うとじゃな。これがまた少し滑稽な理由になるのじゃが。

「困ったことに、リエナ・リエールの国王は無類の "女好き" なのじゃよ …… 」

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 ・
 ・
 ・

「ふぅん。そうなんだぁ」
「うむ。なかなか、厄介な男でのぅ」
「そういうことならさぁ、梨乃か千華に頼めば良いんじゃない?」
「うぅむ。そうじゃな。ワシも、そう思う。じゃがのぅ、あいにく、あの二人は今 …… 」
「あっ! そういえば、昨日言ってた! みんなで仕事に行ってるんだよね?」
「うむ。そうなのじゃよ」
「そっか、そっか〜」

 うんうんと頷きながら立ち上がる露希。
 本来ならば、梨乃か千華に頼めば、あっさりと解決するであろう問題。
 だが、二人は仕事でよその世界に行っているため、時狭間にいない。
 更に、海斗や藤二、浩太も一緒に出掛けているため、時狭間は現在、一人も正規の契約者がいない状態だ。
 総出で向かうなんて、かなり大きな重要な仕事なんだろうなぁと思っていた露希。
 一緒に行きたいとは思ったけれど、学校をサボるわけにはいかず、
 結局、みんなと一緒に仕事に行くことは諦めた。そろそろテストも近いことだし。
 そういう理由で、みんながいないことは、昨日ちゃんと聞かされていたのにも関わらず、
 露希は、ひとりでフラッと、今日も時狭間に来てしまった。もはや、クセと化してきている。
 マスターからしてみれば、かなりありがたい来訪であろうが、露希にとっては、はたしてどうだろうか。
 今まさに、マスターから御願いされている内容は、ただのおつかいとは少し異なる。
 ただ単に酒を取ってくるだけならば、何のことはないが、今回は、そうもいかないらしい。
 つまり、あれだ。女装とか …… そういう準備が事前に必要になるということ。
 普通は、嫌がる。男の子が女の子の格好をするなんて、恥ずかしい。
 中には、そういう趣味があり、喜んで引き受ける人もいるだろうけれど、一般的に、普通の男の子は、嫌がる。
 もちろん、露希も、そういうのは嫌だと拒むタイプ ――

「わかったよ〜。じゃあ、準備するから、ちょっと待ってね」
「うむ。すまぬな。何か、必要なものはあるか? あれば、言ってくれ」
「ん〜〜〜〜 特にないかな? 多分、何とかなると思うから、だいじょぶ〜」

 拒むタイプ …… ではなかったらしい。
 だがまぁ、喜んで引き受けたわけではない。
 そういうことなら仕方ないねと、半ば諦めるような形で協力する感じだ。
 にしても、随分とまぁ、あっさり引きうけたかのようにも思えるが。
 もしかすると、慣れている節があるのかもしれない。
 発言からして、過去にも、こういうことがあったかのような。そんな気がする。
 とか何とか、かくいうマスターも、そんなことを考えていた。だからこそ頼んだと言っても過言ではない。
 他の誰でもない、露希だからこそ頼める用件。いわば、適役なのではないかと。
 事実として、マスターのその予想は、見事に的中する。
 ちょっと待っててと、着替えに行って、ものの数分で戻ってきた露希。
 戻ってきた露希は、ダークレッドのシックなワンピースに、黒いブーツ、薔薇のコサージュという、
 お人形さん(しかもかなり高価なそれを思わせる)のような姿に変貌していた。
 服装以外に手を加えた部分は、ほとんどない。
 元々、女の子のように可愛らしい顔立ちであることに加え、長い髪や綺麗な声を持ち合わせていることから、
 あれこれ手を加えずとも、服装を変えるだけで、じゅうぶん、女の子として成立してしまうのだ。
 それはもはや、生まれ持ったひとつの才能と言っていい。

「どうですか?」
「う、うむ。予想以上に似合っておる」
「ふふふ。ありがとうございます。嬉しい」
「 …… (既に、なりきっとるのぅ)」
「じゃあ、行ってきますね」
「あ、あぁ。うむ。よろしく頼んだぞ」

 喋り方から仕草まで、どこをとっても、すっかり女の子だ。
 腕に巻いている包帯はそのままだが、それが余計に、お人形さんのような雰囲気を増長させている。
 何というか …… 倉庫のずっと奥のほうに置かれたまま、放置されていた、ちょっと悲しいお人形さんというか。
 あまりにも儚く可憐ゆえに、触れることを躊躇ってしまうかのような。 …… って、ちょっと言い過ぎか?
 まぁ、とにかく、それほどまでに、露希は可愛い。可愛くなったと。そういうことだ。
 チョコチョコと歩いていく露希の背中を見送りつつ、マスターはクスリと笑った。

 ・
 ・
 ・

 マスターに聞かされたとおり、リエナ・リエールは、それはもう美しい世界だった。
 巨大な桜の木。その枝上で暮らす人々。ゆらゆらふわふわと舞う桃色の花びら。
 想像していた以上に美しいその光景に、露希は思わず息を飲んだ。
 すっごい綺麗。こんなに綺麗な世界、本当にあるんだ …… 。
 どこかで見たことあるような気もしたけど、たぶん、きっと、絵本だ。
 小さい頃、お姉ちゃんに読んでもらってた絵本。あの絵本の舞台も、こういう世界だった。
 もしかして、この世界にきたことある人が描いた絵本だったりするのかなぁ。さすがに、それはないかなぁ。
 そんなことを考えながら、桜の木のてっぺんを目指す露希。
 町の人に尋ねたところ、王様はてっぺんにあるお屋敷に住んでいるらしい。
 しかも、王様とはいえ、誰でも会って話をすることができるらしい。ただし、女の子限定。
 女の子であれば、いつでも屋敷を尋ねて良いと、王様は、国民に伝えているそうだ。
 どんだけ女の子好きなんだって感じだけど。まぁ、わかりやすくて良いかも。
 入国して二時間ほどが経過したが、誰も露希を怪しむ人はいない。
 男の子なんじゃないか、なんて疑いの眼差しは一切向けられていない。
 ノープロブレム、ノープロブレム。サクッと用を済ませて、帰りましょう。

「おぉ …… これはまた、可憐な娘だな」

 露希を見た国王が放った、第一声がそれ。
 あからさまに機嫌が良い。ちょっとデレッとしているようにも見える。
 一国の王が、女の子を見て鼻の下を伸ばす姿は、見ていて良い気分ではないけれど、
 気にいってもらえたならば、話は早い。露希は、早々に用件を述べた。

「オウカノウタっていうお酒が欲しいんですけど …… ありますか?」
「む? 確かに、その美酒は倉庫にあるが。キミ、それをどこで聞き知った?」
「えっ? えっと …… 知り合いに頼まれたんですけど」
「ふぅむ。そうか。あいつか。つまり、キミも契約者なのだな?」
「えっと …… ちゃんと契約した正規のってわけじゃないんですけど」
「そうかそうか。仮契約の段階か。 …… それにしても、あいつの周りには可愛い娘ばかり集まるな」
「あ、リーちゃ …… じゃなくって。梨乃とか、千華のことも御存じなんですか?」
「うむ。過去に遊びにきたことがあってな。彼女らは、サービス精神旺盛だったぞ」
「え? サービス …… って?」
「酌をしたり、共に湯浴みをしたり、添い寝をしてくれたりな」
「 …… そうなんですかぁ ( …… は? 湯浴み? 添い寝?)」
「キミも、サービスしてくれるのかな?」
 
 ニコニコ(っていうかニヤニヤ)しながら歩み寄ってくる国王。
 露希は、笑顔を浮かべつつも、一歩、また一歩と後退していく。
 サービス精神旺盛。梨乃と千華が? まぁ、千華は、わからないでもない。
 状況に応じて、そういうのが必要であれば、彼女ならやる。目的のためには手段をいとわず。
 でも、梨乃はしない。断言してもいい。梨乃は、そんなこと、絶対にしない。
 つまり、国王が強引にやらせたってことになる。根拠?
 ニヤニヤしながら寄ってくる。その姿が、何よりの根拠になるではないか。

「さぁ、私の部屋へ。案内するよ」

 そう言いながら、国王が露希の肩をぎゅっと掴む。
 次の瞬間。露希は、近くにあった花瓶を咄嗟に持ち、それをぶん投げた。

「キャー! いやーっ!」

 スコーンッ ――

「キャー! キャー!」

 ガシャァンッ ガシャァンッ ――

 はたから見れば、襲われそうになって抵抗している女の子。
 でも、事実は異なる。最初に投げた花瓶が額にヒットしたことで、国王は既にダウン。
 その後も、ガシャンガシャンと、何かが割れる音が続いているのは、露希のうっぷん晴らしだ。
 次から次へと近くにある物を取り、それを国王に向けて投げている。
 最初の花瓶以外はジャストヒットしていないが、それでもダメージはかなりのものだ。
 当然、これだけ騒げば、兵士たちも黙っていない。
 何事ですか! と言いながら、ぞろぞろと国王の部屋に入ってくる兵士。
 露希は、兵士たちが部屋に入ってくるのとほぼ同時に窓を蹴破り、そこから脱出した。
 目的の酒がどこにあるかは、もうわかっている。倉庫だ。屋敷の倉庫にあると国王は言った。
 あのままおとなしくしていたら、自分も梨乃たちと同じ目に遭わされたに違いない。
 可愛くおねだりすれば何とかなるだろうと思っていたけれど、そんな気、失せた。
 サービスしなきゃ譲らないなんて、とんでもない国王だ。死ねばいいのに。
 露希は、ブツブツ文句を言いながら、屋敷を駆けまわって倉庫を探す。
 可愛い格好をしつつも、眉間に、ただならぬシワを寄せて。

 ・
 ・
 ・

「大事に飲んでよね」

 酒が入ったバッグを渡しながら、不愉快そうに言う露希。
 倉庫から盗んできた酒は全部で三十本。まだまだ盗めたけれど、
 兵士に見つかってしまって、それどころじゃなくなったので、三十本で諦めた。
 不愉快そうな顔をしている露希を見て、どんなことがあったのか、その大体を把握するマスター。
 申し訳ない気持ちと、やってくれたなという苦笑いの感情、ふたつの想いをマスターは抱く。
 だがまぁ、手段はどうあれ、目的を果たして戻って来たのは確か。
 そもそも、自分が撒いた種。露希を責めることはできない。
 マスターは、苦笑しながらお礼を述べた。
 しばらくは、誰も、あの国に出入りできまい。 
 露希の言ったとおり、大事に飲まねば …… そんなことを考えながら。

「あれ? 誰だ、あいつ」

 その時だった。
 聞き覚えのある声が後ろから。
 ゆっくり振り返った先、露希の目に映ったのは、仕事を終えて戻って来た海斗。
 隣には、梨乃の姿もある。藤二と千華と浩太の姿はないが …… おそらく、後処理でもしているのだろう。
 とても可愛らしい格好をしているがゆえに、海斗は、それが露希であることに気付かない。
 見知らぬ人物が時狭間にいる。その状況に海斗が疑問を覚えるのは当然のことだ。
 何だ、何だ、誰だ、誰だ、そう繰り返しながら近づいてくる海斗。
 別に、バレるのは良い。こういう理由で女の子の格好をしてたんだって説明すれば良いだけだから。
 でも、このモヤモヤした気持ちは、どう足掻いてもすぐに振り払うことができない。
 海斗と一緒に歩み寄ってくる梨乃。どうやら、梨乃も露希だと気付いていないようだ。
 キョトンとした、そんな梨乃の姿に、露希のモヤモヤは、さらに大きくなる。
 梨乃が近付いてくる度、頭の中で再生されるのだ。
 あの気持ち悪い国王が発した、気持ち悪い発言が、頭の中で。
 梨乃に非がないことはわかっている。悪いのは、全部、あの国王だ。
 でも、だからといって割り切ることはできない。だって、だって、だって。

「梨乃のバカぁぁぁっ」

 我慢できなくなり、大きな声でそう叫んで、ダッと駆けだす露希。
 それを "逃亡" だと捉えた海斗は、すぐさま露希を追いかけた。
 おい、待て、このやろー、誰だお前、名を名乗れ! とか何とか言いながら。
 一方、梨乃は、キョトンとしている。先程よりも、更にキョトンとしている。
 だって、バカって言われた。知らない子に、バカって言われたから。
 梨乃は、首を傾げて小さな声で呟くように言った。

「えっと …… 何で …… ?」

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 CAST:

 8300 / 七海・露希 / 17歳 / 旅人・学生
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 梨乃 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / マスター / ??歳 / クロノ・グランデ(時の神)

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 Thank you for playing.
 オーダーありがとうございました。
 2010.02.22 稀柳カイリ

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