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■クロノラビッツ - 死神アランデル -■

藤森イズノ
【8273】【王林・慧魅璃】【学生】
 時狭間にある時の扉を経由することでのみ来訪できる異空間 "アランデリオン"
 この空間は、死神 "アランデル" の住処であり、あらゆる世界における "死" が管理されている。
 当然のことながら、死神が、寿命や病死など、俗に運命と称される真っ当な死なんぞを管理するはずもなく、
 この空間で管理されている死とは、深く恨まれて殺害された場合や、自害によって死を迎えた場合などが当てはまる。
 まだ死すべき時ではなかったのに、あらゆる因果で命を落とした、アランデルが総括しているのは、そういうケースの死。
 なお、誰の目から見ても死因がわからないような、変死などのケースも、アランデルの管理下に入る。

 等間隔に並ぶ黒いオベリスク。その先にある奇妙な形をした紫色の椅子。
 そこに座り、肘掛けを利用して頬杖をついている人物こそが、死神アランデルだ。
 黒いフードを目深く被るアランデルの口元には、うっすらと笑みが浮かんでいる。
 マスターに頼まれて、アランデリオンを訪ねた契約者は、しばし、言葉を失った。
 まぁ、ハッとさせられてしまうほど白い肌や、長く伸びた美しい銀色の髪など、
 死神という存在における先入観を持ってすれば、アランデルの外見に意外性を感じるのも当然と言えよう。
「フフ。いつまで、そうやって見つめているつもりだ?」
 これまた綺麗な声で、アランデルが急かす。
 我に返った契約者は、二・三度の瞬きをしてから、ようやく、用件を述べた。
 アランデルが所有している黒いクリスタルを、三つ貰ってきてくれ。
 契約者は、マスターから、そういう内容の依頼を受け、ここを訪れた。
 その黒いクリスタルをマスターが欲している理由については理解らないが、必要とあらば協力するまで。
 クリスタルを譲って貰うには、死神アランゲルの要求に応じる必要があるだろうと、マスターは言っていたが、
 わかりました、任せて下さいと言ったからには、手ぶらで帰るわけにはいかない。どんな要求も可能な限り応じるつもりだ。
 ジッとアランデルを見据えたまま、自らの意思も交えて用件を伝えた契約者。
 強い意思が宿るその瞳に、アランデルは、僅かな高揚を覚えて、クスクスと笑う。
「随分と慕われているのだな。実に滑稽だ」
「あの …… なるべく早く持ち帰るようにとも言われているのですが」
「あぁ、すまん。 …… ふぅむ。そうだな。では、こうしよう。実は今、手を焼いている事象があってな」
「はい」
「昨今、自ら自害する者の数が増えゆくばかりなのだ。まったく、迷惑な話よ」
「自害 …… 自殺、ってことですか?」
「そうだ。まぁ、理由は数多あるだろうが、管理する私としては、煩わしいことこの上ない」
「なるほど。えぇと、それで、どうすれば …… ?」
 何をすれば良いのか、具体的な要望を聞かせてくれないかと、そうさり気なく催促してみる。
 すると、アランデルは、フフフと愉しそうに笑い、手元に黒い水晶を出現させた。
 水晶に映し出される光景。それは、今まさに、自らの命を断つべく、喉元にナイフを宛がう少女の姿。
「ひとまず、この迷惑な女の自害を阻んでくれ。そうすれば、クリスタルを三つまで譲ってやろう」
 どんなに外見が美しかろうと、やはり、アランデルは、死神だ。
 クリスタルを譲る代わりに、と要求を飛ばしてきたアランデルの瞳は、妖しさに満ちている。
 自害の管理が面倒だなんて、死神という立場的に、それはどうなんだろう。職務放棄にあたるのでは。
 とは思うものの …… アランデルもまた、マスターと同じくらい、高い地位に在る存在である。
 死神とはいえ、神であることに変わりはないのだから、偉そうな口は聞けない。
 でも、困ったな。自害の阻止か …… そんなのやったことないし、デリケートすぎる問題な気もする。
 大体、何の関係もない第三者が阻んだところで、余計にカッとさせてしまうだけなのでは …… 。
 口籠る契約者に、アランデルは、またクスクス笑い、別の交換条件を提示してみせる。
「無理だと言うのであれば、そうだな、私への口付けと交換でも構わぬが?」
「えっ …… !?」
「フフ。どちらにするかね?」
 迫られる二者択一。
 どちらを選ぼうとも、美味しい思いをするのはアランデル。
 まぁ、本来、要求っていうのは、そういうもの。だとは思うが …… 。
 クロノラビッツ - 死神アランデル -

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 時狭間にある時の扉を経由することでのみ来訪できる異空間 "アランデリオン"
 この空間は、死神 "アランデル" の住処であり、あらゆる世界における "死" が管理されている。
 当然のことながら、死神が、寿命や病死など、俗に運命と称される真っ当な死なんぞを管理するはずもなく、
 この空間で管理されている死とは、深く恨まれて殺害された場合や、自害によって死を迎えた場合などが当てはまる。
 まだ死すべき時ではなかったのに、あらゆる因果で命を落とした、アランデルが総括しているのは、そういうケースの死。
 なお、誰の目から見ても死因がわからないような、変死などのケースも、アランデルの管理下に入る。

 等間隔に並ぶ黒いオベリスク。その先にある奇妙な形をした紫色の椅子。
 そこに座り、肘掛けを利用して頬杖をついている人物こそが、死神アランデルだ。
 黒いフードを目深く被るアランデルの口元には、うっすらと笑みが浮かんでいる。
 ハッとさせられてしまうほど白い肌や、長く伸びた美しい銀色の髪など、
 死神という存在における先入観を持ってすれば、アランデルの外見に意外性を感じるだろう。
「フフ。いつまで、そうやって見つめているつもりだ?」
 これまた綺麗な声で、アランデルが急かす。
 契約者は、二・三度の瞬きをしてから、ようやく、用件を述べた。
 アランデルが所有している黒いクリスタルを、三つ貰ってきてくれ。
 契約者は、マスターから、そういう内容の依頼を受け、ここを訪れた。
 その黒いクリスタルをマスターが欲している理由については理解らないが、必要とあらば協力するまで。
 クリスタルを譲って貰うには、死神アランゲルの要求に応じる必要があるだろうと、マスターは言っていたが、
 わかりました、任せて下さいと言ったからには、手ぶらで帰るわけにはいかない。どんな要求も可能な限り応じるつもりだ。
 ジッとアランデルを見据えたまま、自らの意思も交えて用件を伝えた契約者。
 強い意思が宿るその瞳に、アランデルは、僅かな高揚を覚えて、クスクスと笑う。
「随分と慕われているのだな。実に滑稽だ」
「あの …… なるべく早く持ち帰るようにとも言われているのですが」
「あぁ、すまん。 …… ふぅむ。そうだな。では、こうしよう。実は今、手を焼いている事象があってな」
「はい」
「昨今、自ら自害する者の数が増えゆくばかりなのだ。まったく、迷惑な話よ」
「自害 …… 自殺、ってことですか?」
「そうだ。まぁ、理由は数多あるだろうが、管理する私としては、煩わしいことこの上ない」
「なるほど。えぇと、それで、どうすれば …… ?」
 何をすれば良いのか、具体的な要望を聞かせてくれないかと、そうさり気なく催促してみる。
 すると、アランデルは、フフフと愉しそうに笑い、手元に黒い水晶を出現させた。
 水晶に映し出される光景。それは、今まさに、自らの命を断つべく、喉元にナイフを宛がう少女の姿。
「ひとまず、この迷惑な女の自害を阻んでくれ。そうすれば、クリスタルを三つまで譲ってやろう」
 どんなに外見が美しかろうと、やはり、アランデルは、死神だ。
 クリスタルを譲る代わりに、と要求を飛ばしてきたアランデルの瞳は、妖しさに満ちている。
 自害の管理が面倒だなんて、死神という立場的に、それはどうなんだろう。職務放棄にあたるのでは。
 とは思うものの …… アランデルもまた、マスターと同じくらい、高い地位に在る存在である。
 死神とはいえ、神であることに変わりはないのだから、偉そうな口は聞けない。
 でも、困ったな。自害の阻止か …… そんなのやったことないし、デリケートすぎる問題な気もする。
 大体、何の関係もない第三者が阻んだところで、余計にカッとさせてしまうだけなのでは …… 。
 口籠る契約者に、アランデルは、またクスクス笑い、別の交換条件を提示してみせる。
「無理だと言うのであれば、そうだな、私への口付けと交換でも構わぬが?」
「えっ …… !?」
「フフ。どちらにするかね?」
 迫られる二者択一。
 どちらを選ぼうとも、美味しい思いをするのはアランデル。
 まぁ、本来、要求っていうのは、そういうもの。だとは思うが …… 。

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 まぁ、何にせよ。
「お元気そうで何よりです」
 ニコリと、柔らかな笑みを浮かべて言った慧魅璃。
 本日の慧魅璃の装いは、赤を基調に小奇麗に纏められ、要所要所に黒のアクセントが映えるゴシックワンピース。
 普段と少し異なるその服装は、特別な意味を持つ。亡き祖母に貰ったその衣服が持ち合わせる意味を、慧魅璃は、はっきりと認識している。
 いわば、正装の一種。古くからの知人、世話になっている恩人など、確固たる絆と関係性を持つ者と面会する際に纏う服。
 元気そうで何よりだ、と発した言葉のとおり、慧魅璃は、死神アランデルと面識がある。
 とはいえ、こうして実際に会って話をするのは、ものすごく久しぶり。
 最後に会ったのは、いつだっただろうか。
 記憶が正しければ、おそらく …… 祖母が亡くなった、あの夜だったかと思うのだが。
 などと、少し昔を思い返しながら、友人とこうして再会できた事実を喜んでいる慧魅璃。
 一方、慧魅璃のすぐ傍で実体化し、その姿を露わにしてい紅妃は、鮮血のごとく紅い瞳で、アランデルを睨みつけている。
 敵視しているわけではない。もう一人の慧魅璃、という立場にある紅妃からしてみても、アランデルは知人・友人ということになるのだ。
 まぁ、紅妃にとっては、友人だとかそんな爽やかなものではなく、切っても切れぬ腐れ縁のような、そんなもどかしい関係だったりもするのだが。
「昔を懐かしむのも結構だが、生憎、私の要求から逃れる術はないぞ?」
 妖しい笑みを浮かべ、ワザとらしく手元にクリスタルを三つ出現させたアランデル。
 掌、指先で出現させたクリスタルを弄ぶアランデルのその所作は、催促行為の一種である。
 自害を阻止するか、それとも、唇を捧げるか。どちらかひとつ。ふたつにひとつ。迫られる選択に、慧魅璃は苦笑を浮かべる。
 相変わらずズル賢いというか何というか。要求内容が私利私欲に満ちているなぁ、なんてことを考えながら。
 言っても、アランデルは "死神" である。
 まぁ、死神にも上から下まで階級のようなものが存在しているが、アランデルはその中でも最上位に君臨する死神。
 直接、魔界で暮らしているわけではないが、アランデルもまた、悪魔の一種に該当する存在。
 悪魔嬢として、多くの悪魔を束ねる立場にある慧魅璃は、彼等の要求や要望を叶える義務がある。
 ましてや、高位悪魔に該当するアランデルの要求とあらば、スルーは不可能だ。
 とはいえ、二者択一の結論は、悩む間もなく既に出ている。
 じっとりとした目つきでアランデルを睨みつけている紅妃を見れば、それは一目瞭然。
 敵視しているわけではないにしろ、高慢な態度の目立つ死神という種族を、同族ながら不愉快に思う悪魔は多い。
 始末したいだとか、そんな物騒な考えこそないものの、他の悪魔からしてみれば、
 死神という種族は "何だかイケすかない連中" という存在にあたる。
 ここで、死神に唇を捧げようものなら、他の悪魔たちが暴動を起こしてしまいかねない。
 というより、紅妃が、絶対にそれを許しはしないだろう。 …… というわけで、必然と要求への返答は決まる。
「 …… では、自害阻止の要求を飲みます。できるかどうかわかりませんが、最善を尽くしますね」
 クスクス笑い、アランデルを睨みつける紅妃の背中をポンと叩いて宥めながら告げた慧魅璃。
 ようやく返ってきた返答、慧魅璃が出したその結論に、アランデルは肩を竦めて、こう言った。
「そうか。実に残念だ」
 悪魔嬢の唇を奪うのは、至難の業。

 *

 確かに、無関係です。
 えみりさんは、あなたのことを何も知りません。
 あなたの名前も、年齢も、生まれも、何ひとつ知りません。赤の他人です。
 でも、少しだけ。ほんの少しだけで構いませんから、考えてみてはくれませんか?
 あなたのことを大切に思っている人、きっと、たくさんいますよ。あなたにも、お友達いるでしょう?
 えみりさんにも、たくさんいます。大切なお友達。かけがえのないマイフレンド。
 実はですね、えみりさんも、昔、一度だけ。たった一度だけ、死を考えたことがあるんです。
 自らの命を絶ってしまえば楽になるのではないかと、そう考えたことがあるんです。
 でも、命を絶っても解決なんてしません。
 想いというのは不思議なもので、死して尚、更に強くなったりするんです。
 誰かを思う気持ちにしろ、誰かを憎む気持ちにしろ、誰かを恨む気持ちにしろ。
 それに、解決しないばかりか、他の人にまで迷惑をかけてしまうんです。
 いなくなってしまうことにより、あなたのことを大切に想っていた人の心に、ぽっかり穴が開いてしまう。
 あなたが存在しない限り、開いてしまったその穴は、決して元通りにはならない。例えその人が死しても、元には戻らない。
 わかりますか? あなたが命を絶つことによって、他の人の心に、決して癒えぬ傷が残ってしまうんです。
 そんなの知らない。他人のことなんて構うものか。
 あなたがもしも、そう思うのならば。どうぞ、ご勝手に。自害でも何でもお好きになさってください。
 少し残酷な言い方をすれば、えみりさんには関係のないことですから。
 先程も述べたとおり、えみりさんは、あなたのことをまったく知りませんので。
 仲が良いわけでもないし、関係間に絆があるわけでもない。あなたが死んでも、えみりさんの生活に支障はありません。
 でもそれは、あくまでも、えみりさんに限っての話です。
 どうしても死にたいというのなら、もう止めはしません。でも最後に、もう一度だけ。
 考えてみてくれませんか。これまで自分を支えてくれた人のこと。
 産んでくれた母のこと、育ててくれた父のこと、愛してくれた恋人のこと、救ってくれた友のこと。
 ほんの少しで良いですから。考えて、思い返してみていただけませんか。
「 …… 余計なお世話、ですかね?」

 穏やかに、厳しく。
 自らの命を絶とうとしていた少女を諭した慧魅璃。
 慧魅璃自身も、一度きりとはいえ、考えてしまったことのある "死" だからこそ、優しく諭した。
 おそらく、齢七つか八つか、幼い少女が苦しむ姿と、過去の自分が重なったというのも少なからずあっただろう。
 慧魅璃は、過去、自分が命を絶とうとしたときに救ってくれた言葉を、
 今度は自分が他人を救うために発していたという事実に、何とも言えぬ不思議な感覚を抱いていた。
 慧魅璃が少女を諭した言葉は、すべて、過去に、友人 …… 悪魔たちがかけてくれた言葉だったから。
「ごくろう。たかが一人、されど一人。面倒な処理がなくなった私の利益は大きい」
 少女の自害を思い止まらせ、異空間アランデリオンに戻って来た慧魅璃に、死神アランデルは、そう感謝を述べる。
 どうせなら、この調子で、すべての自害を阻んできてもらえると助かるのだが。などと言いつつ、アランデルは、
 手元で弄んでいた三つのクリスタルを、すっと慧魅璃に差し出した。利益に伴う報酬。
 死神とはいえ、約束や契りを放棄することはできない。
 相手が、魔界そのものを束ねる悪魔嬢ならば、なおさらのこと。
「ありがとうございます」
「ふふ。いいや、こちらこそ」
 三つのクリスタルを受け取り、ペコリと頭を下げた慧魅璃。
 受け取ったクリスタルは、死神から譲り受けたものとは思えぬほど美しく澄んでいて、
 クリスタルを包みこむようにして持つ慧魅璃の白い手肌が透けて見えていた。
 マスターから頼まれた用件は、これで無事に済んだ。すぐにでも時狭間に戻り、マスターに報告しなければ。
 そうは思うものの、慧魅璃は、クリスタルをじっと見つめたまま、その場を動けずにいる。
 確かに目的は果たしたけれど。何だろう。どこか、何かが引っかかる。このもどかしい感覚は何だろう。
 美しいクリスタルをじっと見つめながら考えていた慧魅璃は、ひとつの仮説を見出し、辿り着く。
 マスターは、なぜ、慧魅璃にこの用件を頼み、託したのか。
 海斗でも、梨乃でも、浩太でも、藤二でも、千華でもなく。マスター自らでもなく。何故、慧魅璃が抜擢されたのか。
「あの …… もしかして ―― 」
 頭の中に浮かんだ仮説を、直接声にして放ち、それが正解なのか勘違いなのかを確かめようとした慧魅璃。
 だが、死神アランデルは、ふっと薄く苦笑を浮かべて、こう返すばかり。
「さぁ。何のことやら。私にはわからぬな」
 そっけないその言いようと裏腹に、どこか優しさを感じさせるアランデルの笑み。
 はぐらかしているかのようで "そのとおりだ" と肯定している、そんな態度。隠し事のできない死神。
 冷たいようで、実はそうでもない。嫌味なようで、実はそうでもない。死神アランデルの "相変わらず" っぷりに、慧魅璃はクスリと笑った。
「早急に持ち返れと命じられているのだろう? 用が済んだのなら、さっさと戻れ。私は忙しいのだ」
「ふふ …… はい。それでは、失礼します。クリスタル、ありがとうございました」
「あやつに伝えておいてくれ。たまには、顔を見せろとな」
「はい。わかりました。 …… あっ、アランデルさん」
「うん?」
「紅妃から伝言です。お前もたまには、こっちに顔を出せ。だそうですよ」
「 …… ふふ。気が向けばな」

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 The cast of this story
 8273 / 王林・慧魅璃 / 17歳 / 学生
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 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。