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■クロノラビッツ - クロノ・ハッカー -■

藤森イズノ
【8381】【ナナ・アンノウン】【黒猫学生・看板娘】
 いやいやいやいやいや、ちょっと待ってよ。
 何これ、どうなってんの? どういうこと?

「カージュは北、リオネは南。チェルシーは俺と待機」
「りょーかいっ」
「了解です」
「焦っちゃだめよ、カージュ」
「わかってるって」

 何、それ。要するに挟みうちですか。
 まぁね、狭い路地っていう地の利を活かすには的確だと思うけど。
 って、そんなこと言ってる場合じゃないって。どうすりゃいいの、これ。

「 …… うっ」

 間もなくして、見動きがとれない状況へと追いやられてしまった。
 前から一人、後ろから一人。完全に挟まれた。上 …… も駄目だ。既に、他の二人が張っている。
 買い物を終えて帰る途中、その最中の出来事。近道しようと入り込んだ路地裏で大ピンチ。
 本当に、突如って表現がぴったりな感じで、いきなり、男女四人に追いかけられた。
 そりゃあ、逃げるでしょ。そんな状況で逃げないとか、無理でしょ。
 でも結局 …… このとおり、追いつめられてしまったわけで。

(う〜ん …… どうしたもんかな、これ)
 クロノラビッツ - クロノ・ハッカー -

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 いやいやいやいやいや、ちょっと待ってよ。
 何これ、どうなってんの? どういうこと? ねぇ?
「カージュは北、リオネは南。チェルシーは俺と待機」
「りょーかいっ」
「了解です」
「焦っちゃだめよ、カージュ」
「わかってるって」
 何、それ。要するに挟みうちですか〜。
 まぁ、狭い路地っていう地の利を活かすには的確だと思うけど。
 って、そんなこと言ってる場合じゃないってば。どうしよっか、これ。
「 …… うっ」
 間もなくして、見動きがとれない状況へと追いやられてしまった。
 前から一人、後ろから一人。完全に挟まれた。上 …… も駄目だ。既に、他の二人が張っている。
 買い物を終えて帰る途中、その最中の出来事。近道しようと入り込んだ路地裏で大ピンチ。
 本当に、突如って表現がぴったりな感じで、いきなり、男女四人に追いかけられた。
 そりゃあ、逃げますよ。そんな状況で逃げないとか、無理ですよ。
 でも結局 …… このとおり、追いつめられてしまったわけで。
(うにゃ〜 …… 困った〜)

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「こふ、こふ …… はふぅ …… 」
 せきこみながら、壁に手をあてて呼吸を整えるナナ。
 いきなり追いかけ回されたものだから、咄嗟に逃げてしまった。
 別に何も悪いことなんてしてないのに、どうして逃げたりしたんだろう。
 咄嗟に自分がとった逃亡という行動に疑問を抱き、苦しそうにしながらも笑うナナ。
 周知のとおり、ナナは、体力が乏しい。病弱というわけではないが、激しく動き回ると、身体のあちこちに異変が起きる。
 必要以上に揺れる肩にしても、なかなか元に戻らない呼吸にしても、頭痛からくる眩暈で足元がおぼつかないのも、それによるもの。
「おいおい、だいじょぶかー? 顔、真っ青だぞ?」
 ケラケラ笑いつつ、前方から迫ってくる男。
「 …… 私達のせいだけどね」
 苦笑しつつ、後方から迫ってくる女。
 狭い路地裏ではさみうち。上方では、眼鏡をかけた男と色っぽい女が勝ち誇った笑みを浮かべている。
 どこからともなく現れ、ナナを追い詰める謎の男女四人。だが、ナナは、不思議な感覚を今も拭い去れずにいる。
 なぜならば、そっくりだから。前方から迫る男は海斗に、後方から迫る女は梨乃に、上方で笑う眼鏡の男は藤二に、色っぽい女は千華に。
 四人全員が、ナナのよく知る "仲間" にそっくりな姿をしているのだ。
 とはいえ、どんなに似ていても、やはり別人。
 外見こそ似ているものの、放つ雰囲気は、全然違う。冷たいというか、そう、害悪に満ちた、そんな雰囲気。
 どういうことなのか、彼等はいったい何者なのか。わからない点はいくつもある。
 だが、それを尋ねたところで、彼等は応じず、はぐらかすだけ。
 実際に尋ねてみたわけではないが、尋ねるまでもない。彼等の放つ嫌な雰囲気が、それを物語っている。
「 …… ポチ」
 いまだに落ち着かぬ呼吸。
 その合間に、小さな声で名前を呼んだナナ。
 少し説明が遅れたが、今現在、ナナの傍には、巨大な生物がいる。
 犬 …… にしては大きすぎるが、この生物は、キメラという種の魔獣で、ナナが飼っているペットの一匹。
 可愛らしすぎるというか、不釣り合いな気はするが、ナナの呼んだとおり、このキメラには "ポチ" という名がついている。 ← ナナ命名
「グルルルルル …… 」
 その巨体ゆえ、人目を凌げる夜中にしか愉しめぬ散歩。
 それを邪魔されたとあって、ポチは機嫌が悪いようで、唸りながら牙を剥いている。
 そんなポチの背中を優しく撫でながら、柔らかな声で耳打つナナ。
「食べちゃ駄目よ。お腹壊しちゃうから …… ね」
 損なわれた機嫌を宥めるだけの耳打ちかと思いきや、違う。
 ナナの耳打ちは、ポチに対する攻撃指令。食べちゃ駄目。要するに、食べなければ何をしても構わない。という意味合いになる。
 どうして襲うんですかとか、何が目的なんですかとか、そんなこと聞くまでもない。彼等も覚悟の上、襲ってきたはずだ。
 急襲なんて物騒な真似しようものなら、仕返しされて当然だと。
 パチン ――
 ナナが指を弾くと同時に、ポチが飛びかかる。
 食べなければ何をしても良い。自由度の高い主人からの攻撃指令において、ポチが真っ先に牙を剥いたのは、海斗にそっくりな男。
 外見だけじゃなく能力までそっくりだった場合、厄介なのは梨乃よりも海斗だ。おそらく、ポチはそう思ったのだろう。
「あっはは! デケーなしかし! あ〜 …… オレも欲しいな〜 こんな犬」
 ヒョイと、軽々とポチの攻撃を避け、楽しそうに笑う海斗にそっくりな男。
 男は、笑いながら指先に赤い炎を灯し、その炎をポチの足元めがけて次々と飛ばしていく。
「うりゃうりゃ! どしたー! 逃げてばっかじゃ、ご主人様に怒られんじゃねーの?」
 ケラケラ笑いながら、絶え間なく炎の玉を飛ばして攻める男。
 ポチは、逃げているわけではなく、様子を窺っているだけ。
 とはいえ、巨体のポチが狭い路地で飛び跳ね暴れれば、あちこちに被害が生じてしまう。
 時間も時間だし、人気のない場所とはいえ、騒音を立てるのは好ましくないと、ポチは気を払っているようだが、
 どんなに気を払っても、大きな手足や尻尾がある以上、静かに様子を窺うことは難しい。
 海斗にそっくりな男とポチの遣り取り。それを見やるナナは、妙な違和感を覚えていた。
(何かが …… おかしいような)
 どこがどうおかしいのかまではわからない。だが、確かな違和感がある。
 この違和感は何だろう。何が、どこがそう思わせるのだろう。
 普段とは違う、鋭い眼差しでポチと男の遣り取りを見やり、違和感の原因を探るナナ。
 そんなナナに、声をかける。梨乃にそっくりな女が、鞭を揺らしながら淡々と、綺麗な声で。
「余所見なんかしてて良いの?」
 その声にハッとし、顔を上げたナナ。
 梨乃にそっくりな女は、既に至近距離まで迫っており、鞭をピンと張っている。
 女の持つ鞭に、攻撃力はない。おそらく、いや、間違いなく、女の持つ鞭は、捕縛性能に長ける呪具だ。武器ではない。
 間近で女の鞭を見た瞬間、そう悟ったナナ。根拠こそなかったものの、その察しは的を射ており、
 実際、梨乃にそっくりな女は、鞭を用いてナナの身体の "拘束" のみを試みた。
 バチッ ――
 まぁ、当然、そう容易く捕らえられるはずもなく。
 ナナの腕から実体化して姿を見せたシャドウによって、捕縛はあっさりと妨害されてしまったが。
 とはいえ、一度妨害されたくらいで諦めるはずもなく、梨乃にそっくりな女は、それからも何度も捕縛を試みる。
 ものの見事に、すべてがシャドウによって妨害されるため、何度試みたところで無駄だが、それでも女は諦めなかった。
 ここでもまた、ナナは、違和感を覚える。何かがおかしい。どこかがおかしい。でも何がおかしいのかまでは、わからない。
 妙な違和感を胸に抱きつつも、ナナは、準備を進めていた。
 本格的な応戦の準備 …… ではなく、逃走の準備を。
 準備に用いたのは、海斗に貰った黒い鍵。
 これさえあれば、いつでも、どこからでも、時狭間へと赴くことができる。
 時狭間は、隔離された空間。関係者以外は絶対に出入りできない。ゆえに、避難場所には最適だ。
 ポチが、海斗にそっくりな男の気を、シャドウが、梨乃にそっくりな女の気を引いている間に、準備を済ませたナナ。
 黒い鍵を使って開いた時狭間への入り口。その入り口がしぼみ始めた頃、今だとばかりに、ナナは飛び込んだ。
 タイミングを合わせて飛んできたポチの背中にガシッとしがみつき、そのまま、時狭間へと飛び込んだ。
 時狭間への入り口は、しぼみ始めて三秒後には、あとかたもなく消えてしまう。
 つまり、退避が失敗に終わることは、まずない。
 ナナが時狭間へ飛び込むと同時に、シャドウも併せてフッと姿を消す。
 あっさりと逃げられ、悔しがっているかと思いきや …… 正体不明の男女四人は、笑っていた。
 何が可笑しいのか、さっぱりわからないが、深夜の路地裏に響き渡る四人の笑い声が不気味だったのは確かだ。

 *
 
 黒の鍵を用いて時狭間へ赴く場合、
 目的の場所を頭の中に思い描きながら鍵を回さねばならない。
 例えば、居住区に行きたいのならば居住区をイメージしながら鍵を使わなければならないということ。
 何のイメージもなしに鍵を使った場合は、適当な場所に飛ばされる。まぁ、そこが時狭間という空間であることに変わりはないが。
「いたたた …… ポチ、大丈夫?」
「ワゥ」
 勢いよく入り口に飛び込んだため、スライディング気味になってしまった。
 ゆっくりと身体を起こし、キョロキョロと辺りの様子を窺うナナ。
 白い瓦礫のようなものが散乱している区域 …… ということは、ここは、時狭間の南方か。
 まっすぐ北に向かえば、やがて居住区へと辿り着く。時狭間はただっ広い空間でこそあるものの、
 方角さえわかれば、迷うことはない。特に居住区は中心にあるから、わかりやすいといえばわかりやすい。
 何はともあれ、まずは居住区へ行き、みんなに話を聞いてもらおう。というか、報告しよう。
 いきなり追いかけ回されたこと、襲われたこと、それから、急襲してきた人たちが海斗らにそっくりだった疑問も添えて。
 方角を確認し、ゆっくり歩き出すナナ。居住区へと向かう最中、ナナは、抱いていたあの違和感の原因を何となく理解することになる。
 隣にぴったりとくっつき、乱れなく同じ歩幅で歩くポチ。あれだけ炎の玉で攻められていたというのに …… ポチは、傷ひとつ負っていない。
 また、ナナ自身もそうだ。襲われこそしたものの、どこにも怪我を負っていない。
 急襲の最中、抱いた違和感は、ここにある。
 向こうには、彼らには、こちらを負傷させる意思はなかったのではないか …… という点。
「捕まえて …… どこに連れて行くつもりだったのかな」
 誰に尋ねるわけでもなく、ポツリと小さな声で呟いたナナ。
 そう呟いたナナの横顔が、やけに寂しそうに思えたのか、ポチは不安気な声でキュウンと鳴いた。

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 The cast of this story
 8381 / ナナ・アンノウン / 15歳 / 黒猫学生・看板娘
 NPC / カージュ / ??歳 / クロノハッカー
 NPC / リオネ / ??歳 / クロノハッカー
 NPC / トライ / ??歳 / クロノハッカー
 NPC / チェルシー / ??歳 / クロノハッカー
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 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。