■尋ね人■
三上良
【3364】【ルド・ヴァーシュ】【賞金稼ぎ】
───私の娘を探して下さい。


古い紙の上に短い文章、そしてとても薄く小さな文字で
そう書かれた一通のメモがピンで留めてあった。

依頼人の名前は書かれておらず
ただそこには
「救済の者達集いし時、闇の森への道を開きます……、武器は持ち込まないで……」
とだけ書かれていた。


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参加者が集まり次第、闇の森への扉が開かれます。

一緒に物語の一部となって下さる方を募集します。
プレイヤー様の数や起こした行動、状況により「娘」は変化します。
尋ね人 -ミエナイモノ編-



───私の娘を探して下さい。

古い紙の上に短い文章、そしてとても薄く小さな文字で
そう書かれた一通のメモがピンで留めてあった。
依頼人の名前は書かれておらず、ただそこには
【救済の者達集いし時、闇の森への道を開きます……、武器は持ち込まないで……】
とだけ書かれていた。

「たずねびと? まだ、だれも依頼をうけていないのかな?」
壁に貼ってある古ぼけた紙に、軽く指で触れながら独り言を呟いた。
男性とも女性とも区別がつかない中性的な容姿に、幼さを残した不思議な雰囲気。
依頼の紙に、最初に気付いた者の名前はザド。 ザド・ローエングリン。
「きっと、しんぱいしてるよね。 ─よしっ、ぼくやるよ」
両手を胸の前で握り締めて、決めた!の笑顔。
そして、その手をパッと開いてヒラヒラと振る。
「ぼく、ぶきはもってないよー」
まるで、そこに誰かがいるかのように、えへへと楽しそうに喋っていた。

「随分と古い紙に記されたメモだな」
フワリとザドに影がかかり、後ろから声が聞こえた。
えっ、と思いながらザドが振り返る。
「あ!」
影を作っていた者の正体は、ザドの知った顔だった。
「ルド! いっしょに行ってくれるの?」
そう言ってザドは嬉しそうに笑う。
影の正体、彼の名はルド・ヴァーシュ。
ザドとは既に顔見知りだった。
「尋ね人か、面白そうだな」
ザドの言葉を聞いているのかいないのか、ルドはジッとメモの依頼を読んでいた。
「武器は持ち込まないで…、か」
その一文を口に出し、ルドが少しだけ眉を寄せる。
その表情に何かを感じたのか、ザドがガシッとルドの服を掴む。
「いってくれるよね?ね?」
そう言って、訴え掛けるようにルドの顔を見上げた。
ね?を二回繰り返すあたり、お願いの意味があるのだろう。
そんなザドを、ルドは目線だけで見下ろして
「俺にとっては自分の一部みたいなものだから、手元から離したくないんだがな……」
そう言うと、ルドの服を掴むザドの手に力が篭った。
まるで何かを強請る子供のように、ルドを見上げるその目は力いっぱいの期待に溢れている。
そんな様子を見て、ルドはフゥと溜息を落とし……
「しょうがない、置いていくか」
まだ少し納得のいかない表情ではあったが、そう応えた。
その言葉を聞いて、ザドはヤッター!と2、3度その場で飛び跳ねる。

「で、闇の森ってのはどこにあるんだ?」
「それは、ぼくにもわからないよ」
ルドの問いかけに、ザドが首を傾げて肩を竦める。
「そうだよな。 じゃあ、まずは人物の手掛かりになるような情報を……」
『ソロイ マシタ カ?』
ルドの言葉を遮って、足元から何かが聞こえた。

『フタリ キテ クレタノデスネ』
続く声に、ザドもルドも自分達の足元を見た。
…が、そこには何もない。
『ケッコウデス。 コンナ アヤシイ イライニ メヲトメテクレテ カンシャシマス』
ザドが声の主を捜して右をキョロキョロ、左をキョロキョロ。
念のために上も、そしてもう一度下も見た。
それでも、どこにも誰も見当たらない。
「ねぇ、ルド、ルド、ぼくたちに話しかけてるんだよね? どこから声がきこえてるの?」
ルドの袖を引っ張って、まだ周囲を見回しているザド。
「さぁな……」
ザドとは逆に、周囲を見回すことさえしないルドは、信じられないほど落ち着いていた。
「こんな世界だ。 姿が見えない者がいても、おかしくは無い」
そう言い放った。

こんな世界だからと、そう考えているルドが正解である。
自らの常識だけが全てではない、この世界。
姿の見えないものが居ても、全くおかしくはないのだ。
『ヤミノモリ ゲート ヲ ヒラキマス』
そして続いて聞こえてきた言葉に、ザドが驚きの表情を見せる。
「えぇっ!? もう?」
「宜しく頼む」
「ルド!?まずてがかりを、さがすんじゃないの?」
「無駄だ。 よく見てみろ。 ── いや、見えないんだったな…。」
凄く納得のいかない顔をしているザド。
そんなザドの表情を見て、何かを考えるかのようにルドは一度空を見上げ細く息を吐く。
そして、両手を膝のあたりに置いて腰の位置を下げ、ザドと視線の高さを合わせた。
「いいか? 今ここに聞こえてる声の主は『見えない』んだ」
その言葉を聞いて、キョトンとするザド。
「見えない相手の手掛かりを、ここの誰かが知っているわけがない。 それに……」
そう言いながら、ルドは掲示板の依頼の紙をコンコンと指で叩き
「こんな古い紙だ、何か特別な事情があるのかもしれん」
そう言って、ルドは胸の前で腕を組んだ。
そして、そのルドの言葉に、ザドは驚いたように目を丸くした。
「そっか!そうだね!」
うんうん、と頷く様子は、納得した!と言っているようだった。

『ソレデハ ヨロシク オネガイシマス。 オキヲツケテ…』
その声が途切れると同時に、突然虚空が歪み闇の森へのゲートが解放される。
「わ!」
「…ッ!」
二人は吸い込まれるように、闇の森へと導かれた。



***



「ルド? どこ? ルドー」
「…ここだ」
「まっくらで、なにも見えないよ、どこー?」
「闇の森、やはり名前の通りだったか……」
暗闇の中で、そうこう話していると、ボッという音とともに突然周囲が明るくなった。
まるでマッチに火が点ったかのように。

「ザド?」
その光を頼りにザドの姿を捜すと、光源はザドの手の中にあった。
「え、えへへ。 真っ暗だったからつい……」
「武器はダメだと……」
「ぶ、ぶきじゃないよ。 ぼくぶきはもってないよ!」
ザドの返答に、ルドは少し考える素振りを見せた。
…が、傷つける為の道具ではないのなら武器ではなく『灯り』として扱われる……ことを願った。
「ここが、やみのもり?」
両手で掬うように灯りを持ったまま、ザドが周囲を見回す。
周り一面には木、そのまた向こうに木、更に向こうにも木。
「随分と深い森だな。ザドこっちに灯りを……」
『キャァッ!』
ルドの言葉を遮って、高い声が響き渡る。
ザドもルドも同時にその声が聞こえた方向を見た。
その先に見えたのは、小さな女の子。
「えっ、もしかしてこの子?」
ザドが目を丸くして、その子を見ると、少女は怯えたような表情で森の奥へと走り出した。
その姿に気付いたルドが追いかけようと、少女の逃げた方向へと走り、加速をつけた途端……

───少女の姿が、フッと消えた…。



***



「ルードーがーこーわーがーらーせーるーかーらー!」
一音一音を伸ばして、ザドがルドを責める。
「俺は何もしていない」
ルドは凄く納得のいかない表情だ。
「いきなり追いかけたらビックリするにきまってるよ!」
「わかった、悪かった」
言い返せば言い返した分だけ更に返って来る。
そう考えたのか、ルドが早々に折れて言い合いは終了。
言い争っているより、ルドは早く少女を探したいようだ。

「それにしても…、ようやく理解が出来た」
両手を腰にあてて、ルドがポツリと呟く。
「なにが?」
ザドはルドの言葉に首を傾げる。
「尋ね人は『見つからない』んじゃなく、『捕まえられない』んだ。
いくら突然だったとはいえ、小さな女の子を見失う程、俺のスピードは遅くない」
その言葉通り、少女はルドから逃げ切ったのではなく、途中で突然姿を消した。
「おばけ?」
「さぁな。 ただの人間じゃないことは確かだろう」
「せいれい?」
「さぁな。…って、…え? ザド、お前、今なんて言った?」
ルドが驚いたようにザドの顔を見る。
ザドは、え?、と頬に書いてありそうな顔でルドと顔を合わせている。
「せ、せいれい?」
そして、先程の言葉をもう一度繰り返した。

「武器を持ち込むな…、突然消えた…、明らかに文明に比例していない古いメモ……」
思い出すように、言葉をポツリポツリと唇から零しながら、握った片手を顎にあててルドの瞳が横へと動く。
「凄いなお前。 それを精霊と考えるなら、辻褄が合う」
そして、ルドは関心したかのようにザドを見た。
ザドは理解していないようだったが、褒められたことは嬉しいらしく、ルドのその言葉に表情が緩んだ。
逃げた少女の正体は精霊なのだろうか?
確証こそまだないものの、ザドのその言葉で一歩進んだことは確かだった。



***



「ルド!みて!みて!すごい!」
ルドの腕をバシバシと叩きながら、空を見上げているザド。
「な、何だ?」
そう言いながら、(痛いので)さりげなく一歩離れたルド。
そしてルドもザドと同じように上を見た。
「これは……」
見上げた先にあったのは空、……ではなく、巨大な樹木。
この森のヌシと言っても良いくらい、他の木々の何倍の大きさを湛えていた。
「すごいねー。 ──あれ?」
ほあー、と口をあけたまま見上げていたザドが、樹の傍に何かを見つけた。
「ルド、あれ…、さっきの、おんなのこじゃない?」
ザドが木の幹を指差す。
指差す先には、先程の少女が宙に浮いて樹に縋り付いている。
「お前、よく気付いたな……」
「ルド、あのこ、ないてるよ!」
「泣いてる?」
「ルド飛んでいけないの?!ねぇ、ないてるよ!」
「──飛ばん。 仮に俺が飛んであの場所へ行ったとしても、あの子は逃げる」
宙に浮き、樹に縋り付く様になく少女。
ルドの言葉はおそらく正解で、追い詰めて捕まえることは出来ないだろう。
「じゃぁ、どうするの?」
不満そうにザドが言う。
「それが俺達の仕事だろう」
ルドの返した言葉は尤もで、ザドも、うーん、と考え込んでしまった。



***



一旦その場から離れ、二人は最初の場所へと戻ってきた。
「………」
ルドは何かを考えているようで、黙りっぱなし。
ザドはチラチラとルドの様子を伺いながら隣を歩いている。
「ザド」
「なに?ルド」
名を呼ばれ、ザドが間髪入れずに言葉を返す。
「例えば、樹が親だとしたら子供は何だと思う?」
ルドが俯いたまま、ザドにそう問いかける。
その問いかけを受けたザドは、口を開いて固まってしまった。
そして、うーん、と考えるように頭をカリカリと掻いて……
「実?」
一本指を立てて、答えた。
「種?」
指を二本に増やして、更に答える。
「苗木?」
指を三本に増やして答えた瞬間、ルドがバッとザドの方を見た。
「それだ!ザド、お前凄いな。 最初にあの子が居た場所のあたりを探してみよう」
そう言うと、最初に少女が出現した場所へ向かって、ルドが歩き始めた。
「えっ、う、うん!」
ザドもその後ろを追いかけた。


***



「あった!」
ザドが小さな苗木を見つけ、両手で掬うように持ち上げた!
「って、おい……、お前、抜いたのか?」
ルドが慌てたような顔でザドの方へ急ぐ。
「ちがうよ!ぬけてたんだよ!」
むぅ、とザドがむくれる。
「ほら、あそこ」
そしてザドが指差した先には獣の足跡が残っていた。
「なるほど、獣に攫われたということか……」
「ここまで連れてこられたんだね。大丈夫かなぁ?」
ザドが苗木を胸に、そっと抱きしめた。
「元気はないように見えるが……。 とにかく、先程の樹の所へ連れて行くか」
「うん、そうだね!」



***



ルドが穴を掘り、ザドが苗木をそっと置いて、上から土をかぶせた。
そして両手で土をポンポンッと叩く。
「これでいいのかなぁ?元気になるかなぁ?」
不安そうなザドの後ろから、ルドがポンッと肩を叩く。
「大丈夫だ。きっとな……」
『オォ、ミツケテ クレタノデスネ』
二人の会話を遮って、聞き覚えのある声が耳へと届いた。
この声の主の姿が見えなかったことは記憶に新しく、どうせ何も見えないだろうと思いながら、声がした方向を見る。
『ブレイヲ ワビル。 ダガ ワレラハ ココカラ ウゴケナイ ノダ』
だが、次の瞬間ルドもザドも驚いた表情に。
「ルド!き、ききききき、…木!木が!」
「あ、あぁ……」
ザドの言葉の通り、巨大な樹木を取り囲む普通のサイズの木々が喋っていた。
続いて、どこか嬉しそうにザワザワと葉っぱの揺れる音と共に沢山の声が聞こえる。

『アリガトウ ナカマヲ ミツケテクレテ』
『アリガトウ カンジュセイ ユタカナ モノタチヨ』
『アリガトウ ザド ルド ワレラ フタリヲ ワスレナイ』

『── お帰りなさい……、私の娘……』

片言の中、流暢な言葉遣いで最後に聞こえた声は、巨大な樹木から聞こえていた。
巨大な樹木の傍に植えられた、小さな苗木は、再び少女の姿を得て……
弾けそうなほどの笑顔で、巨大な樹木に抱きついていた。

『アリガト ザド、ルド、アリ…ガト……』

少女はそう告げて、再び姿を消した。

──けれど、確かにここにいる。
そう思わせるかのように、苗木は穏やかな風に揺られていた。
母親に寄り添うように、フワリフワリと遊ぶように……。



***


「よかったね!ルド」
「あぁ、そうだな」
「じゃ、ぼくたちもかえろう」
「そうるすか」

木々が零す月の光を道標に、不思議と解る帰り道を歩きながら
ルドとザドは元の世界へと戻って行った。



『── ありがとう。 心優しき者達よ……』





fin






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3364 / ルド・ヴァーシュ / 男性 / 26歳(実年齢82歳) / 賞金稼ぎ / 異界人】
【3742 / ザド・ローエングリン / 両性 / 16歳(実年齢6歳) / 焔法師 / レプリス】


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■         ライター通信          ■
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ご依頼&ゲームノベルへの参加ありがとうございました。
そして、ルド様、ザド様、初めまして。
今回は参加者様がお二人のみでしたので
今回の『尋ね人』 は 『-ミエナイモノ編-』 とさせて頂きました。
少しでもお楽しみ頂けましたら幸いです。
また機会がありましたら、その際にはどうぞ宜しくお願い致します。

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