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■とあるネットカフェの風景■

三咲 都李
【8670】【逸見・理絵子】【コスプレ系アイドル・学生】
「面白いことないかな〜」
 パソコンのサイトを眺めながら、はぁっとため息をついた。
 ここのところ面白い情報は入ってこない。
 停滞期。
 それはどんなものにでもあるものだ。
「まぁまぁ。とりあえず飲み物でも飲んで落ち着いて?」
 ふふっと笑って影沼ヒミコ(かげぬま・ひみこ)は少女の前に飲み物を差し出した。

 と、誰かがネットカフェに入ってくる気配を感じた。
 少女達が振り向くと、見知った顔である。

「あー! どうしたの? なんか面白いことあった?」
とあるネットカフェの風景
 − 友達記念日 −

1.
 見たことのある子だ。
 逸見理絵子(いつみ・りえこ)は洋服を買いに行く道すがら、自分の歩く反対の歩道に見知った顔を見て立ち止まった。
 えっと…誰…でしたっけ?
 抱えていた『ぐれむりん』を見て、記憶が繋がった。
 あぁ、あの時『ぐれむりん』を見つけてくれた人だ。それにテレビでも見たことがある。
 『SHIZUKU』という名のオカルト系アイドルだ。
 友達…だろうか? 周りを3人程の男の人が囲んでいる。
 しかし、SHIZUKUの顔を見ると、どうもそうではない気がした。
 明らかに迷惑そうな顔をしている。困ったチャンのファンなのか、それとも強引なナンパなのか…?
 そんなことはどうでもいいことで、要はSHIZUKUが今ピンチだということだ。
 車の通りを確認して、反対側へ急いで渡る。
「わりっ♪ 待った? さっさと動こう」
 そう言って、理絵子は男たちをかき分けてSHIZUKUの腕を引っ張った。
「え!?」
 驚いたのは男たちだけでなく、SHIZUKUもまたきょとんとしていた。
 今日の理絵子はキャミソールにジーンズ地のホットパンツ、厚底サンダルに手首、足首にアクセサリージャラジャラといった超ギャル系。
 制服姿のSHIZUKUと友達であるとは認識されないであろう姿だった。
「ほら〜! 早くいこっ!」
 それでも、理絵子はSHIZUKUを引っ張って、ぽかんとする男たちの間をすり抜けて走った。
 SHIZUKUはおとなしくついてきていた。ただ、状況はよくわかっていなかったようだが…。
 ある程度走って、男たちが見えなくなったところで2人はようやく一息ついた。
「…ありがとう。助けてくれて」
 SHIZUKUがそう言うと、理絵子はニコリと笑った。
「いつかのお礼。気にしないで」
「いつか? …どこかであったことあったっけ??」
 SHIZUKUは首を傾げる。
 まぁ、それもそうだろう。理絵子は服装やメイクで印象も性格も全く変わる。だからわからないのも無理はない。
「この子、覚えてない?」
 理絵子はぬいぐるみをSHIZUKUに見せた。
 黒い頭巾に背中に悪魔のはねがついた、赤い兎のぬいぐるみ。
「…『ぐ・れ・む・り・ん』…? 『ぐれむりん』!?」
 SHIZUKUはようやく、何かを思い出したようだった。


2.
「あなた…『LICO』!?」
「あったり〜! …あの時はありがとう。慌てちゃってちゃんと挨拶できなかったから…会えてよかった」
 にこにこする理絵子の顔をSHIZUKUは『ぐりむりん』と交互に見比べる。
「…あの時も思ったけど…全然違うよね。この子がいなかったら全然わかんなかったよ…」
「ファッションは無限の可能性を秘めているんだよー」
 SHIZUKUの言葉に理絵子はいたずらっぽく笑った。
 と、いいことを思い付いた。
「そうだ。ファッションの可能性を一緒に広げにいかない?」
 理絵子の言葉にSHIZUKUはまたもきょとんとする。
「どこに?」
 待ってました! とばかりに、理絵子はSHIZUKUを連れて目的の場所へと走り出した。

 ぎっしりと女の子の大好きな服屋さんが入っているファッションセンター。休日とあって、それなりの賑わいを見せている。
「もともと今日はここに来る予定だったんだー」
 理絵子がそういいながら、ポカンとしたままのSHIZUKUを引っ張って中に入っていく。
 ゴスロリ、アメカジ、パンクにスーツ。
 なんでもござれのファッションセンターの中を、2人は歩いていく。
「SHIZUKUにはどんなのが合うかなー?」
 少し止まっては、気になる洋服をSHIZUKUにあてがう。
「ん〜…ちょっと派手じゃないかな?」
「そうかなぁ? 結構いけると思うけど?」
 最初は押され気味だったSHIZUKUも本来の調子が戻ってきたようで、理絵子と洋服を見るのが楽しくなってきた。
「SHIZUKU、これは? 派手じゃないし、可愛いと思うけど?」
 理絵子が洋服を差し出すと、SHIZUKUは少し首を傾げた。
「えー? 似合う…かなぁ?」
「絶対似合うって! 着てみて着てみて!」
 SHIZUKUに服を持たせて、試着室に押し込む。
「着替えたら教えてネ♪」
 そう言って理絵子は試着室から近いところの服を見て時間を潰す。
 そうこうしている間に3分ほどたち、SHIZUKUの小さな声が理絵子を呼んだ。
「ねぇ…これ、ホントに似合ってるのかな?」
 恥ずかしそうな顔で理絵子を見つめるSHIZUKU。理絵子は試着室のカーテンを開けた。
「ひゃあ!?」
 思わず飛びのいたSHIZUKUに、理絵子は「わぁ」と声を上げた。

 ベージュ色のシンプルなミニスカワンピース。黒いネクタイがポイントだ。だが、この服にはおまけがついている。
 帽子だ。『ギャリソンキャップ』という戦闘帽だ。
 要するに、これは軍服のコスプレである。

「可愛い〜! 可愛い可愛い!!」
「そ、そう? そうかな?」
 まんざらでもなさそうなSHIZUKUを理絵子は思いっきり褒めた。

「お買い上げ、ありがとうございました〜」


3.
「次はあたしに合いそうなのを見てもらっていい? 他人の目も大切だからさ」
 理絵子がそういうと、SHIZUKUは「よぉし」と腕まくりした。
「折角だから、わたしに選んでくれたやつとお揃いっぽくしよう♪」
 そういうとSHIZUKUはウキウキと服を選びだす。片腕にポイポイっと理絵子に似合いそうな服を選びだしては重ねていく。
「LICOちゃん、はい! 着てみて!」
 SHIZUKUが笑顔で理絵子に服を渡す。
 4着ほどが理絵子の手に渡った。理絵子は試着室に入って…すぐに出てきた。
「!?」
「どう?」
「え!? もう着替えたの!?」
 SHIZUKUが驚くのも無理はない。理絵子はわずか数秒も経たずに着替えてその姿を現したのだ。
 もちろん、SHIZUKUが選んだ迷彩柄のミニつなぎを着て。
「ん〜…なかなかいいと思う!」
「そっか! じゃあとりあえずキープで…次着るね」
 またシャッとカーテンを閉めると、すぐに着替えて出てくる。
「!?」
「今度はどう?」
「さっきの方が可愛いかなぁ…」
 SHIZUKUの言葉に鏡を振り返り、迷彩柄のワンピースを見て理絵子も「たしかに」と頷いた。
「じゃ、これはやめね。次いこう!」
 また試着室に入ると、すぐに出てくる。
「これはどう?」
「イメージしてた感じとは…違うけど、結構可愛いと思うよ」
「う〜ん…なんか運動できそう! って感じだね」
 ダブダブのダンスパンツに思わず2人して笑ってしまう。
「保留! 保留して次いこー!」
 次の服は最初に着た服に似た長袖のつなぎだった。帽子がSHIZUKUに選んだ服についていた物と同じだ。
「これ、SHIZUKUとお揃いで着たら面白いかも…」
「…あはは」
 ノリノリの理絵子に、恥ずかしそうなSHIZUKU。

 そうして、なんだかんだと理絵子は結局最後に試着した1着を購入した。


4.
 少し休憩を入れた。テラスのある小さな喫茶店で2人はたくさんの紙袋に囲まれて座った。
「ありがとう」
 理絵子がそういうと、SHIZUKUは「ん?」と聞き返した。
「久しぶりに…なんだかすごく楽しかったです。お友達と一緒に買い物なんて…ホントに楽しかった」
 理絵子がそういうとSHIZUKUは笑った。
「私も楽しかったよ。LICOちゃん、ホントに着る服で雰囲気も何もかも変わっちゃうんだもん。服選び楽しかった!」
 そう言って飲み物を一口飲んだSHIZUKUに、理絵子はポツリと呟いた。
「ネットアイドルって言われても、普通の女の子だから…今日は本当に楽しかったです」
 SHIZUKUはその言葉に、少し真剣な眼差しで理絵子を見た。
「うん、アイドルも普通の女の子だよね。私もそうだもん…」
 2人の間に、しばしの沈黙が流れる。
 口火を切ったのは理絵子だった。
「SHIZUKUさんは…私のこと、どう思ってますか?」
「………へ?」
 意表を突かれた質問にSHIZUKUは間抜けな声を出した。
「どうって…会ったの今日で2回目だし…ていうか、まともに喋ったの今日が初めてで…好きとか嫌い…ていうのはちょっとまだわかんないけど…」
 しどろもどろに、SHIZUKUは考えながら言葉を紡ぐ。
 理絵子はそれを真剣に聞いた。
「友達…ていうにはまだ何となく違う気がするし…う〜ん…そうだなぁ…」
 SHIZUKUは理絵子の問いに、真剣に考えて真剣に答える。

「いい友達になれそう、かな」

 今度は理絵子が意表を突かれた。
「いい友達に…?」
「うん。今日楽しかったし、もうちょっと話せばもう少し仲良くなれるんじゃないかなって思うよ」
 そういうとSHIZUKUは「うん」と力強く頷いた。
「友達…」
 理絵子はぎゅっと『ぐれむりん』を抱きしめると、その言葉を反芻した。
 一方、SHIZUKUは最初に出会った時のことを思い出していた。
 ちょっとだけ…ライバル出現だと思っていた。でも、話してみたらいい子だし、話も合いそう…かな。
 最初の印象なんて、アテにならないものだ。
「あ、そうだ! アレ撮ろ? 友達開始記念!」
 SHIZUKUは立ち上がり、理絵子の手を引いてある場所へ向かった。

 
 その日ネットアイドルLICOのホームページには、オカルトアイドルSHIZUKUとのツーショットプリクラが掲載された。


■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 8670 / 逸見・理絵子 (いつみ・りえこ) / 女性 / 16歳 / コスプレ系アイドル・学生


 NPC / SHIZUKU / 女性 / 17歳 / 女子高校生兼オカルト系アイドル


■         ライター通信          ■
逸見理絵子 様

 こんにちは、三咲都李です。
 ご依頼いただきましてありがとうございます。
 オカルトアイドルとネットアイドルのお話です。理絵子様の早着替えは神業ですね! 羨ましい!
 そして、女子高生定番・プリクラを撮らせていただきました。
 友情大切。少しでもお楽しみいただければ幸いです。