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【もみじ‥‥狩り? Ver・A 】
■姫野里美■

<ルシフェル・クライム/アシュラファンタジーオンライン(ea0673)>
<麗 蒼月/アシュラファンタジーオンライン(ea1137)>
<早河 恭司/アシュラファンタジーオンライン(ea6858)>
<ティム・ヒルデブラント/アシュラファンタジーオンライン(ea5118)>

 それはいつも顔を合わせている街角で起きた事件だった。
 とは言え、ギルドを通しての‥‥と言うわけではなく、ちょっとした微笑ましい‥‥恋人達の『事件』だったわけだが。
「どうした‥‥の? こんな所に呼び‥‥出して」
 とある街角。秋の足音が聞こえ始めたその町で、ルシフェルは恋人である麗蒼月と、待ち合わせていた。怪訝そうに首をかしげる麗に、彼はあさっての方向を見ながら、指をつんつんさせている。
「あー、そのー。今日は良い天気だなー」
 特に何か火急の‥‥と言うわけでもなさそうな彼、どーでも良いような話題でもって、言葉を濁している。その額には、玉のような汗が浮かんでいた。
「暑いの? なんだか汗たくさんかいてるわ‥‥」
「私は健康だからって、違うんだーー」
 心配そうに額に手を当ててくる麗。ぶんぶんと首を横に振り、耳まで真っ赤になりながら、良いわけするルシフ。
「えーと‥‥。じゃあ、何‥‥?」
「そ、そうじゃなくてっ。良い天気‥‥だし。どこか食べ歩きにでも、行かないか?」
 困ったように眉根を寄よせ、そう尋ねてくる麗に、ルシフはようやく用件を口にする。普段とはとてもかけ離れたうろたえぶりを可愛いと思いながらも、彼女はこう言った。
「良いとこ知ってる‥‥の?」
「あ、いや! 別に用事があるなら良いんだっ。私はそのっ。こんなチラシが回ってきてて、面白そうだから行って見ないかって思っててっ。決して疚しい気持ちじゃないぞっ」
 わたわたとお手手を振りつつ、手にしたお知らせ版を見せるルシフ。それにはこう書いてある。『招待券』と。よく見れば、とある街で行われるキャンペーンに借り出されたようだった。
「美味しいものは‥‥ありそう?」
「う、うん。たぶんっ」
 何しろ場所は風光明媚な温泉地。果物が自慢で、川魚も沢山取れるそうだから、それなりに食は豊かだろう‥‥と、そう判断するルシフ。
「なら、断る理由はないわ‥‥ね」
「そ、そうか。良かった」
 OKのサインを出す麗に、ほっと胸をなでおろすルシフ。こうして二人は、連れ立って旅に必要そうなものを調達しに行くのだった。

 ところが、である。その話は、あっという間に他の御仁へと届いていた。理由は簡単。ある人物が恭司に密告したからである。
「さて、予想としては、食いものの匂いがするあたりか‥‥」
 麗の好みを考えれば、デートの場所は概ね決まってくる。そう思った恭司は、招待された中でも、観光客向け買い食いスポットとして紹介されている商店街を訪れていた。
「結構色々なモノが売っているんだな‥‥」
 きょろきょろと周囲を周囲を見回すルシフ。良い匂いを漂わせる中華まんから、色とりどりの菓子、パイまで、見た事もあれば見たことがないものまで、様々な食べ物が売っていた。
「次、あれ‥‥」
 いずれも、紅葉をモチーフにしたものばかりだが、麗姫殿には、そんな事関係ないらしく、両の手に山ほど『戦利品』を携えている。しかも、そればかりではなく、ルシフに頼んで、次なるお土産品を物色中だ。
「名物だけに、危険な香りがするんだが、大丈夫かな」
 自然界ではありえない色したお菓子を、心配そうに摘み上げるルシフ。だが、麗はもごもごと口を動かしながら、あっさりとこう言った。
「試食は美味しかった」
 見ると、『味見してみて☆』と書かれた小箱の中に、小さく切ったその菓子が数個残っている。
「いつの間にっ」
「ついさっき」
 素早い‥‥と思うルシフ。見れば、お手手には菓子の欠片らしいものが見え隠れしている。
「うーん‥‥。麗殿が言うのなら‥‥間違いあるまい」
 彼女は食の人だが、それだけに美味しくないものは食べないだろう。
「つまらんデートだなー。もうちっとこー手をつなぐとか、腰に腕を回すとか、ラヴい事はしないのかよ」
 はむはむはむはむ‥‥っと、麗ばかりが食べている光景に、恭司は建物の影からこっそり様子を伺いつつ、不満そうにそう言った。これでは、ただの買い食いシリーズで、色気もへったくれもなかったから。
 だが、恭司の危惧していたのはそこまでで、楽しそうに買い食いに明け暮れる麗に、ルシフはこう誘いをかけた。
「麗殿。食べ物のほかにも、何か名物があるらしい。これ、弁当代わりに包んでもらって、行って見ないか?」
商店街のガイドに聞いてきたと思しき話を聞かせるルシフ。麗は、手にしていた棒付おにぎりをジーっと見つめていたが、おばちゃんの『持ってても美味しいよ』の弁に、「うん。それでもいいわ」と頷いてくれた。
「やっとでーとらしくなってきたな。じゃ、俺も行くとするか‥‥おや?」
 そのまま、連れ立って山のほうへ向かう二人を追い、恭司もまた、同じ物を片手に、同じ方面へと向かおうとしたのが。
「えーと、確かこの辺りだって聞いたんだけど‥‥。いないなぁ‥‥」
 そこへ、手紙を片手にきょろきょろと周囲を見回す若い騎士。恭司も良く知っているティムだった。
「奴まで呼び出されたのか‥‥」
 ちょっと残念そうな表情の彼。別にティムがどうこうと言う話ではない。ただ、実に騎士らしい性格の彼のこと、暖かく見守ると言う行動は出来ないに違いない。
「あ、ルシフェルさんに麗さんじゃないですか。なにやってるんですか? いったい」
 思った通り、デートをしているなんて意識は、欠片も持っていない表情で、元気に声をかけるティム。驚いているのは、ルシフの方。
「え、いや別にっ。た、ただ良い天気だし、美味しそうなイベントやってるから、麗殿を誘ってみたわけじゃないぞっ」
 うろたえる彼。麗の方は、きょとんとした顔‥‥と言うより、目の前のご馳走に、夢中になっているようだ。
「なぁんだ。デートだったんですね」
 若干天然入ってるティム、二人仲良さそうに連れ添っている姿を見て、納得したようにそう言った。
「って正面きって言わないでくれぇぇぇ」
 が、言われたほうのルシフは、まるでどっかの取材班に、見付かってしまったかのように、あたふたと頭を抱えている。
「デート‥‥だったの?」
「そ、そりゃその‥‥。そのつもり‥‥だったと言うかなんと言うか‥‥」
 麗さんに問いかけられ、真っ赤になりながら、指をもじもじさせているルシフ。その姿に、恭司は耐え切れずに吹き出してしまう。
「って、そこの物陰で大笑いしてる奴誰だーー!」
 で、思いっきり見付かって、指差して大声を張り上げられてしまう。まだ笑いがこらえきれないように、くすくす言いながら、観念して出てくる恭司。
「いやぁ、すまんすまんっ。面白そうだったから様子見‥‥っていうかなんと言うか」
「私は見世物じゃないっ。だいたいなんでここに‥‥」
 ぷんすかと怒るルシフ。ここに来る事は、誰にも言っていない筈である。と、そこへ当の仕掛け人が姿を見せた。
「ある人が教えてくれてね。たぶん、今頃は2人もこれに参加してるんじゃないか?」
 恭司が見せたのは、とある山で行われる紅葉狩りの模様だ。
「紅葉狩りですか‥‥」
 もっとも、狩りがどうとかと言う話は伏せられている。
「美味しいもの‥‥あるかしら‥‥」
「俺も、妻に土産を持って帰らないとなー」
「何か面白そうですね」
 もみじだけではなく、果物やその他の物もあると知って、何も知らずに興味を示すルシフ以外の3人。
「物凄く嫌な予感がする‥‥」
 もっとも、ルシフ自身は、手紙の差出人を見て、心当たりがあるらしく、ちょっと複雑な表情。
「で、行くのか? 行かないのか?」
「行くさ。麗殿の頼みだしな」
 その複雑な表情のまま、それでもルシフはそう答えて、山へと向かうのだった。

 さて、4人が向かったのは、果物狩りコーナーを設置された山の一角だった。
「もぎたては美味しい‥‥」
 この辺りは、彼らが普段過ごしている地域とは違い、様々な木々が生えている。綺麗に整備されたそこで、手に取った事のない木の実を、口に運ぶ麗。対照的に、ちょっぴりなき濡れているのは、ルシフくん。
「せめて二人っきりが良かったのに〜」
「諦めろ。こいつらに見付かった時点で、水の泡だ」
 そのの肩をぽむっと叩く恭司。どうして良いか分からず、おろおろするティムの図。集団で遊びに来ると、そう言う事はあるようで、他のカップルも、楽しそうにしているのは、彼女の方ばかりだ。だが、そのカップルは、気を使ってくれたのか、ややあってどこか別の場所へと向かってしまう。
「麗殿。あちらにも美味しそうな果物がなっていた。食べても良いみたいだから、採りに行かないか?」
「うん、そうする」
 それに気付いたルシフも、麗を誘い、集団から離れて行く。その姿を見て、ティムはほっとしたようにこう言った。
「仲、よさそうじゃないですか」
「ち、上手くやりやがってるな」
 ちょっとうらやましい気分の恭司。今頃、妻は何をしているだろうか‥‥と、頭によぎるのだった。

 ところが、である。
「おーい。何か騒動が起きてるのか?」
 一通り食料を確保した4名は、戻ってきた瞬間、ドラゴンに遭遇していた。しかも、追いかけられる女性陣付きで。
「って、あれは!」
 見つけた瞬間の、一行の行動は早かった。元々、騎士が2人もいるご一行様である。女性がピンチになっている姿を、見過ごしてはおけない。
「み、見ないでくれないか‥‥」
 助け出された方の女性客は、安心したのか、胸を押さえてへなへなと座り込んでいる。
「ああっ。すまんっ」
「と、とりあえずこれをっ」
 ルシフとティムが、纏っていたマントを、彼女達にかぶせた。
「こ、これで大丈夫のはずだっ」
「あ、ありがとう」
 ぽっと頬を染め、礼を言う女性。気の強そうなお嬢さんだったが、このあたりはやっぱり女の子しているようだ。と、そこへ従業員が何食わぬ顔で、姿を見せる。
「何か騒いでいたようですが‥‥どうかなさいましたか?」
「おま、ふざ‥‥むぐ」
 文句つけようとした女性客を、他の客が抑えていた。その背中は、ちょうど壊された竹垣部分に重なっている。
「いいえ、なんでもないですっ」
「そうですか。では夕食のご用意が出来ましたので、食堂へどうぞ」
 言われた従業員さんは、にこりと笑いながら、くるりときびすを返す。それに「はーい」と答えながら、追随する不利をし、従業員が姿を消すのを待つ一行。その間に、トゥインクルドラゴンは光の欠片になり、まるで壊された部分が逆再生するように復活して行く。それを見届けた麗は、ティムにこう頼んだ。
「これ、持って行って‥‥」
「え、なんで僕が‥‥
 彼に渡されたのは、山ほどの食料だ。積み上げられるそれに、麗さんはこう告げる。
「だって、私は、彼女達を連れ帰らなきゃ、いけないから‥‥」
 4人の中で、唯一女性の彼女、部屋まで入浴客を送り届けてから、食堂へ向かうようだ。
「私は彼女を送り届けなければならんし」
 だったらルシフに頼めば‥‥と言いかけたのをさえぎるように、あっさりとそう言うルシフ。
「諦めろ。男は生まれた時から、女性の下僕だ」
「しくしく‥‥」
 恭司に諭され、がっくりと肩を落とすティムだった。



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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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