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【もみじ‥‥狩り? Ver・B 】
■姫野里美■

<東雲 辰巳/アシュラファンタジーオンライン(ea8110)>
<ミス・パープル/アシュラファンタジーオンライン(NPC)>

 事の起こりは、良く知った生徒が、付き合っている彼女をデートに誘っていた所から始まる。
 え、何。レディさん喋りたいの? 分かりました。ナレーション交代しますよぉう。
「あら、良いもんみちゃったわーねん♪」
 と言うわけで、ここからは私、レディことパープルさんがご案内しますわ☆ で、そのあたしは、生徒の1人が、その彼女ちゃんと、いー感じにデートのお約束を取り付けたのを見つけて、我ながら恐怖の権化みたいな笑いを浮かべているわけ。
「どうした? レディ」
 一緒にいたはずの東雲辰巳‥‥一応、あたしの旦那って事になっている‥‥が、振り返ってそう言った。どーせどっかよそ見してたんだろうなぁと思いつつ。あたしはこう答える。
「さっきの‥‥気付かなかった?」
「へ?」
 案の定、間の抜けた顔をする東雲くん。これだからこやつは‥‥と思いつつ、あたしは彼の襟首をぐいっと引き寄せ、こう言い聞かせる。
「んー、なら良いわ。ちょっと付き合って欲しいの」
「構わんが、一体どこへ行くんだ?」
 って、この期に及んで、顔を赤らめているんじゃにゃい。何を勘違いしてるのよ! と言いたいのをぐっとこらえ、あたしは持っていたチラシを見せる。ここじゃ紙は貴重品なんで、基本的に白樺の皮だったりするが。
「えと、これよーん」
「紅葉狩り? えーと、衣装は丸ごとシリーズで良いのか?」
 ちっ。見抜かれてる。そこまで見抜かれると、面白くないのよねー。確かに紅葉狩りなんだけどさ。
「今回はアンタが狩られるわけじゃないわ。ターゲットは別よん」
「と言いつつ、残念そうだな」
 アンタがそんな事言い出さなきゃ良いんだけど‥‥って、言っても思いつかないよね。きっと。
「ふ。せっかくだから、アンタも追っかけられて来なさいって言うのは秘密よ」
「隠してないだろ」
 図星を突くな。
「わかってんなら、それだけの用意してきなさいよねー」
「俺はリアクション芸人じゃないぞーーー」
 げしぃっと足でツッコミを入れると、ぶつぶつ文句を言われるが、あたしは指先をびしぃっとつきつけて、こう言ってやった。
「うっさいリア芸人」
「言い切られたっ」
 しくしくとなき濡れる東雲。どうでも良いのだが、本当に懲りない奴である。
「ともかく、行くの? 行かないの?」
「いきますよぉう。だから首絞めないでー」
 ツッコミ代わりにヘッドロックかけてやると、悲鳴を上げて降参する彼。毎回毎回何か事件があると、これの繰り返しなんだが、本当に分かっていないんだろうか‥‥と、疑問に思うわけで。
「よろしい。じゃあ今からこの面々を集めてきて。こっちは相手に言っておくから」
 まぁ、そんな疑問はともかく、あたしはそう言って、今回のメンバーを書いたメモを手渡した。
「相手?」
「そ。歓迎の準備位は、整えておかないと行けないでしょ?」
 何かやるのか? と言いたげな彼に、あたしはにやりと笑ってみせる。何しろ相手は、事情で妖怪変化魑魅魍魎の住処と化した山を管理している長命種のにーさんである。暇こいた挙句、てぐすね引いて待ち変えているのは目に見えている。大騒ぎにならないよう、手を打っておかないと、またあたしが怒られる。て言うか、ギルドに持ち込まれても困るし。
「なるほど。ではこちらも、それ相応の用意をしておこう。だが、その前に‥‥」
「きゃっ」
 ちょ‥‥! 何すんの‥‥よ! 顔真っ赤になっちゃうじゃないっ。だから! く、くすぐったいってば! ほ、頬摺り寄せるなっ。耳かじるにゃ〜!!
「手付金ぐらい、くれても良いんじゃないか?」
 そんな内心じたばたしているあたしを、面白そうに眺めつつ、耳元でそう囁く東雲。
「欲張りさんね。もう」
 何が欲しいか分かったあたしは、その要求に応えつつ、そう呟く。最初っからそう言え! 馬鹿っ。

 さて、一通りあたしをなで繰り回して満足したらしい東雲は、命じられるままに、ある御仁を呼び出していた。
「ほほう。そいつは面白そうだな〜。で、なんで俺に?」
「いや〜。嫁からの指定で。分担して声かける事になったんだよ」
 生徒のお友達。確か既婚。どっかの誰かさんと同じように、お友達から買うのが大好きな御仁らしい。2人とも同じ日本人冒険者なので、遠慮なんてものはなく、事情を話す東雲。要は、生徒のデート約束を目撃したので、皆で見物‥‥いや、見守りに行こう‥‥と言うわけ。
「どこも立場が弱いのは変わらんなー」
「悪く思わないでくれ」
 何2人して、『嫁の尻に敷かれた旦那』っぽい、深いため息付いてるのよ。
 まぁ、本来なら、放っておいた方が良い話ではあるんだけど、最近はどこのご家庭でも女房と奥様とか彼女とかには、は逆らえないらしいけど。
 でもねぇ‥‥。
 女受けする話って、だいたいマメな良い人系の殿方より、ちょっとわがままで、悪ぶってる子が、彼氏役張ってるのよねぇ‥‥。どうも、ケンブリの雑貨屋でブランド物物色しているような世間一般では、『親切なだけの彼氏はいらない』そうで。
「まぁ良い。面白そうだから、行って見るか」
「そうか。なら、後は頼む。俺はレディを回収してくる」
 こいつらがその条件に合うかはともかく、相手方の男性がその誘いに乗ると、東雲はそう言ってくるりと踵を返す。と、ほどなくして、あいつはあたしの所に戻ってきた。
「だって、 ほったらかしにはしておけないしな」
「あたしは、そんなに保護者のいる女かっ!」
 げしぃっと照れ隠しの一撃が飛んでったのは、言うまでもない。

 色々と紆余曲折の結果。
「私は見世物じゃないっ。だいたいなんでここに‥‥」
 ぷんすかと怒る生徒。まぁ、ここに来る事は、誰にも言っていない筈だし、そろそろネタばらししてやるか。
「私が呼んだの。何か面白そうじゃない?」
 あたしがそう言うと、ああやはし‥‥と、ちょうちん涙を流しながら、肩を落とす生徒。あたしを始めて見るらしき御仁に、彼は、「学校の先生」と紹介している。
 正確には、妹の方が世話になっているわけだが、まぁ大きなくくりで言えば、教師であることに変わりはないわけで。
「ああ、なるほど‥‥。でも、ずいぶんとぶっ飛んだ‥‥」
「あたしの出自はどうでもよろしい。ちょっと楽しそうでしょ?」
 あたしははそう言いながら、改めて手紙を見せる。それには、とある山で行われる紅葉狩りの模様が記されていた。もっとも、狩りがどうとかと言う話は伏せられている。そのトラップカードを見て、もみじだけではなく、果物やその他の物もあると知って、何も知らずに興味を示す一行。
「どーせ巻き込まれるんだ‥‥」
「まぁ、それが本分だしな‥‥」
 あ、生徒気付いたかな。東雲はもう覚悟完了してるみたいだけど。うーん、そこまで諦められると、面白くないな。
 そう思ったあたしは、じろりと二人をにらみつけた。
「行くの? 行かないの?」
「「行きます」」
 声を揃えて応える二人に、彼女は満足げに「よろしい」と、不敵な笑みを浮かべるのだった。

 さて、あたし達が向かったのは、果物狩りコーナーを設置された山の一角。特に種類が指定されてるわけじゃなくて、中にある果物は、基本的に採って食べて良いみたい。まぁ、土産代はきっと別だろうけど。
「けっこう見たことない木もあるのね」
 この辺りは、彼らが普段過ごしている地域とは違い、様々な木々が生えている。綺麗に整備されたそこで、色々と知識を深めていると、なんだか後ろの方でなき濡れている。
「せめて二人っきりが良かったのに〜」
 ちょっと、そんなのこんだけカップルだのなんだのがいる状況で、出来るわけないでしょ。駄々こねないの。
「ほら、何めそってんの! こっちこっち」
「あー、はいはいっ」
 情けない姿を晒させるわけにも行かないので、襟首引っ張るようにして、あたしは東雲を集団から離した。これで多分、向こうもそれなりにまとまってくれるはず。
 と、その時だった。
「あれ? 何か聞こえるぞ」
「闘技場みたいな音ね。行って見ましょう」
 耳を澄ますと、なんだか歯車が回るのに似た音が聞こえる。次いでなので、あたしは東雲と一緒に、そちらへと向かうのだった。

 闘技場にいたのは、何やらカードデュエルを行っていた二人。ところが、途中で出てきたドラゴンが暴走してしまい、あたし達も追いかけるハメになっていた。
「いたぁ!」
 2人組みの1人が、そう声を上げる。視界に映るのは、ばりばりと周囲を破壊しまくっているトゥインクルドラゴン。
「うわ、酷い事になってるー」
 竹垣は壊され、女風呂は晒され、木々も踏み荒らされているが、不思議なことに母屋の部分や、ボイラー等、重傷になりそうな部分は、器用に避けられている。
「どうする? レディ」
「‥‥大丈夫そうだから、しばらく様子をみましょう」
 東雲に尋ねられ、あたしはそう言った。壊されているのは、人数がいれば、すぐに修復出来そうな場所ばかり。このまま、怪獣映画の見物に走るのも、悪くないしね。
「しかし‥‥」
 ほうって置いたら、セクシー衣装のまま暴走している女性まで、巻き込まれてしまうんじゃないか? とか言いたげな東雲に、あたしはこう言い切る。
「だってあの子、確かギルドのつわものランキングかなんかで見た覚えあるもの」
 おそらく、実力はあたしとそれほど変わらないだろう。で、そのあたしが、ちょっとしたモンスターくらいなら、ライトハルバードで一撃制裁出来るので、彼女もあれくらいは、素手で蹴り倒せるはず‥‥と言うわけだ。
「ランキングなんてあったのか?」
「ひみちゅ」
 うっさいわね。何その考え方わかんないとか言う顔は。多少謎めいてた方が面白いでしょうに。
「だーーー! お前ら調子に乗って、変なところイタズラするなーーー!」
「嫁入り前なのにー」
 一方の女性陣はと言うと、面白がってつつきまくっているドラゴンを、蹴り飛ばしたり、鼻っ面叩いたりしていた。
「前から気になってたんだが、そう言う情報、どこから出てくるんだ?」
 そんなの企業秘密に決まってるでしょ。女には、時々誰にも言えない情報源が存在するのよ。
「きっと、失われた記憶の中に埋もれてるのよ。おっと、そろそろヤバそうかな」
 そう言って、はぐらかすあたし。きっと東雲は、一度、その頭の中を覗いてみたいと思っているに違いない。でも残念ね。記憶のプロテクトが、他人に明かせるくらいなら、あたしは過去を切り捨ててなんていない。
「おーい。何か騒動が起きてるのか?」
 いよいよ追い詰められちゃった2人‥‥ってな所へ、呼び出した4名が戻ってきた。なんともご都合主義名タイミングである。
「って、あれは!」
 見つけた瞬間の、一行の行動は早かった。元々、騎士が2人もいるご一行様である。女性がピンチになっている姿を、見過ごしてはおけないらしい。あたしが号令を下す前に、トゥインクルドラゴンが取り囲み、けちょんけちょんにしていた。
「何か騒いでいたようですが‥‥どうかなさいましたか?」
 と、そこへ従業員が何食わぬ顔で、姿を見せる。
「おま、ふざ‥‥むぐ」
 文句つけようとした入浴客を、誰かが抑えつけていた。そりゃそうだ。その背中は、ちょうど壊された竹垣部分に重なっていて、黙ってればバレない位置。
「これでばれたら、請求書のあて先はあたし達よ」
 あたしがそう言うと、客も納得したようだ。他の面々と同じように、黙り込む。
「そうですか。では夕食のご用意が出来ましたので、食堂へどうぞ」
 従業員さんは、にこりと笑いながら、くるりときびすを返す。それに「はーい」と答えながら、追随する不利をし、従業員が姿を消すのを待つあたし達。
「これ、どうする?」
「そのうち復活するわよ。たぶん」
 ため息をつきながら、壊れた露天風呂の外装を見下ろす東雲に、あたしはそう答えた。だって振り返ったら、トゥインクルドラゴンは光の欠片になってて、まるで壊された部分が逆再生するように復活して行くんだもの。
 その間に、女性客は女性陣が部屋まで送る事になっていた。彼女が持っていた大量の食材は、一番若い騎士くんに、ぽぽいと渡されている。例の女の子達も、用事があるみたいで、何処かに消えていた。やはり、温泉にはこう言うのんびりした空気が良く似合う‥‥と思う。ガラにもなく。
「俺達も行こうか」
 すいっと肩を抱き寄せられた。
「そうね。幸い貸切風呂も、いくつかあるみたいだしね」
 その彼に、ちゅっと軽くご褒美をあげつつ、あたしはそう言って、旅館へと誘うのだった。



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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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