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【白き焔】
■蘇芳 防斗■

<ガイエル・サンドゥーラ/アシュラファンタジーオンライン(ea8088)>

●九月中旬、景色が紅に染まり始める頃
 京都に吹く風が日に日に冷たくなっていく中、街の外れにてガイエル・サンドゥーラはその寒さの中に身を置いてもそれを感じていないかの様に平然と立ち尽くし、伊勢がある方をただ見つめていた。
「紅葉狩りになぞ、行ける筈もない‥‥一体、どの顔を下げて出向けば良いと」
 先日、京都の冒険者ギルドに張り出されていた依頼の事を思い出せば辺りを吹く風に負けぬ程の冷たさを含ませて呟く彼女。
 しかしその呟きは先日、天岩戸にてあった依頼の幕引き‥‥何を考えてか敵の手によってみすみす攫われてしまったルルイエの事を考え、未だに引き摺っているからこそ自戒を込めている事が彼女を知る友人らが聞けば容易に窺い知る事が出来る。
「あの時、ルルイエ殿へ警告をしていたならば‥‥それともあの時、同じ班であったならば。いや、或いは‥‥」
 そして『あの時』を振り返りガイエル、自身に出来た筈だった事を思い出してはそれを口にして数多広がっていた可能性を思い付く限り、それぞれ振り返るが
「‥‥今、過去を振り返り『もしも』を口にしても詮無き事と分かってはいるが‥‥!」
 すぐに口を噤んでは彼女、それが今更に無駄だと言う事を悟っているからこそ自身の弱さを叱咤すべく、珍しく怒気に塗れては歯噛みして叫ぶガイエル。
「‥‥これでは、アシュド殿に顔向け出来んな」
 だがそれもすぐに自身の内へ飲み込み、深く‥‥深く息を漏らせば、伊勢にて今も頑張っているだろうもう一人の英国より来た魔術師が名を紡ぎ、自嘲の笑みを湛えれば
「あの彼でも、気丈にかも知れないとは言え以前とは違う振る舞いを見せているのだ‥‥責めて私も、彼には負けぬ様にせねばな」
 一年以上前の出来事を思い出し、悲嘆に暮れていたあの時の彼とは違う様相を思い出すと沈む夕日を目に留めながら漸く、踵を返してその場を後にしようとするも
「‥‥そう言えば、家族と言う認識で問題なかったろうか?」
 ガイエルはその最後、今更にてささやかな疑問を響かせれば次にアシュドと会った時には問い尋ねてみようと思うと初めてその日、穏やかな微笑を湛えては街中の方へと歩き出すのだった。

 しかし未だ、自身の内で燻っている自戒の念だけはただのそれだけで消える筈もなく‥‥刻だけが虚しく過ぎる。

●九月下旬、紅が濃くなる頃
 斎宮によって新設された巫女部隊『十種之陽光』に属しこそするも天岩戸での戦いより、特に大きな動きは無いまま今に至ればその拠点代わりともなっている猿田彦神社にてガイエルは一人、禅を組んでいた。
「落ち込んでいても時は戻って来る筈も無い。それならば気を引き締め直し、いずれある機に備える」
 それより至った答えは開き直りでも自棄でも落胆からでも得られた訳ではなく、自然と何事かに希望を抱いたからこそ‥‥それに理由や理屈は要らず、自身が信じていれば良いと言う強い信念を持ったからに他ならないからこそ今、誰もいない猿田彦神社の留守番ついでに自身のみを見据えていた。
「絶対に取り戻す、それが償いだ。いや‥‥果たさなければならない、誓いか」
 そしてガイエル、やがて瞳を見開けば改めて抱いた強い意思を確認し終えると
「さて、人が来てもいい様に近くの森で修行に臨むとしようか。奪還の機会があるその時まで己を磨き、何時でも動ける様にしておかねば」
 一応周囲を確認した後、何の気配も無い事から凝り固まった体を解すべく立ち上がれば近くにある森の方へと歩を進めるのだった。
 まだ頼りないかも知れないが、それでも今‥‥出来得る限り、確かな足取りで。

●十月初旬、秋は尚も深まる
「それでも、彼女がいなくとも‥‥時は移ろうのだな」
 秋の色が濃くなる中、京都にある茶屋にて暖かな湯気を立てる茶を啜りながらガイエルは天岩戸で起きた大規模な戦闘から後の、昨今の伊勢の情勢を漸く纏め上げれば今はそれを頭の中で反芻する。
「伊勢はあれより今、尚も混沌に塗れる。斎宮が落ちて後、死霊達の顕著な出没に加えて、尋常ならざる尾張藩の援軍‥‥これより一体、何が起きると言うか」
 やがて茶屋の娘が注文した団子を携えて来れば、目の前に置かれたそれを掌で弄びつつ今までの出来事に溜息こそ漏らすが
「唯一つの朗報と言えば‥‥エド殿の事位か。何も無いよりはマシだな」
 報告書と風の噂でだけ知った、紅葉狩りでの一幕を勝手に思い浮かべれば微かにとは言え表情を緩ませるガイエルは二人の事を内心でだけ、祝福する。
「‥‥そう言えばまた、白焔の力を借りる事になるやもな」
 だが先日‥‥資料の整理にて伊勢神宮へ足を運んだ際に今後、鍵の一つとなろう『真なる天岩戸』の話を思い出せば以前、要石再封印の際に持主として自身を選んでくれた霊刀の名を紡ぐと一度、身震いする。
「恐らく伊勢神宮にある、『真なる天岩戸』の鍵はあの二本の霊刀以外にあるまい」
 今はまだ、自身の憶測だけではあるがほぼ間違いないと理屈ではなく直感で捉えている彼女は平和を望むからこそ二度と手にしたくないと思ったあの、長大ながらに湾曲した斬馬刀を髣髴とさせる白い燐光を纏った巨大な刀身を持つ白焔が形状を脳裏に思い浮かべ、嘆息こそ漏らすが
「その時が来たら、迷わず手にしよう。あの霊刀を他でもないルルイエ殿、貴女を必ず救う為に。だから‥‥だから、今暫くだけ無事でいてくれ」
 次にはすぐ、まなじりを上げて厳しい眼光を湛えたままにその決意だけ間違いなく己の内に宿し固めればその最後は静かに、祈る様に言葉を吐くと
「‥‥先ずは祥子殿の所へ参るとしよう。彼女なら良いと言うだろうが、それでも未だ自身にけじめをつけていない以上、詫びねば気が済まないし何よりも‥‥先へ進めん」
 残っていた茶を最後まで啜り終えた後、立ち上がると未だ団子を頬張っていない事に気付いたガイエルは一口大のそれを口内へ放り込めば、卓上へ茶と団子の駄賃を置いて踵を返して未だ天岩戸の一件にて頭を垂れていなかった主の元へ向かおうとする。
「余り無理をしていなければいいのだがさて、何か菓子でも見繕って携えるとしよう」
 資料整理の際に見受けられた、言葉の割には疲労の色が濃かったその斎宮が主の顔を思い出しながら乾ききった風の中へ身を躍らせれば、余り詳しくはない甘味処を探すべく京の街中を歩き出すのだった‥‥自らが抱いた意思を、想いを今度こそ間違いなく体現させるべく。

 〜そして刻は、今に至る〜




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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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