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【深夜TVドラマ「ザ・DOG−2007−」出演者募集】
■有天■

<稲川ジュンコ/Beast's Night Online(fa2989)>

「はぁ‥‥」
 その日、稲川ジュンコ(fa2989)は最早朝から何度目か判らぬ溜息を吐いた。
 これから「顔合せ」をするドラマを思うと、ついつい溜息を吐いてしまうのだ。
(「誰だったけ‥‥溜息を吐く度に幸せが逃げて行くって言ったのは‥‥」)
 ちらりとバックに入った台本を見る。
 タイトルには『深夜TVドラマ「ザ・DOG−2007−」痛快ダブルハンギング・MIDNIGHT FLYERS』と書いてある。

 ジュンコはその容姿に相応しく元々モデルであった。モデルの多くがそうするように芸能界に入って仕事をしていた。体を張ったリポートと大きなリアクションで人気が出始めた頃、恩人から「このままレポーターで終わるよりは女優をしてみないか?」と持ちかけられ、「ザ・DOG−2007−」の前身「潜入捜査官−ザ・DOG−」に出演を決めたのである。
 事前にきちんと調べれば、多くの役者が逃げ出している現場だと判っただろう。
『難しく厳しい現場に並の役者は着いて来れずに逃げ出す。ここで逃げずにやり遂げれば、お前は一人前の女優だ』
 その言葉を信じて仕事を受けた。
 まさにジュンコの当り役と言われた『高田鈴こと、囮役のモルモットお姉さん』そのものである。

 「ザ・DOG」は深夜ドラマに名を恥じぬ通り、一般視聴者の多くには余りにもマニア過ぎる内容が敬遠され、一部コアマニアには絶大な人気を誇った深夜番組である。
 そこでジュンコは『高田鈴』として準レギュラー出演していた。

 余りも暗くなり過ぎるシリーズの中で「華」となる──そう言われて出演したにも関わらず、乗用車の後部座席の窓に顔を押し付けられ、大アップで変な顔を映し出される。時には、極めて布の少ないバニーガール姿で怪しい演技をし、そしてアクション俳優も逃げ出すとも言われたアクションシーンは、男優に正拳で顔面を殴られるシーン等もあった。上手く避け切れず鼻血を出す事も度々あった。
 放送を見たジュンコの友人らは口を揃えて「嫌がる仕種とかって演技じゃなく絶対『マジ』だよね」と評していた。
 視聴者からは「扱いが酷すぎる」「いじめを助長する」等とクレームが殺到した為にジュンコの出演シーンは中盤大幅にカットされたという「曰く付き」である。
 だが、だからこそ、裏があるとも知らずに「御褒美でハワイ旅行だ」「これで家賃が払える」と健気に喜ぶ鈴の姿は人気が高かった。

 ジュンコは「ザ・DOG」が終了しホッと一息つける。と思っていた──が、2ndシーズンである。聞けば内容がCS放送になった分、更にマニアに、そしてスペシャルと言う事で思いっきり脚本家が趣味に走ったのだという。
「放送コードの限界、ギリギリ勝負です♪」
 勝負しなくいい‥‥そう思うジュンコであった。

 ドラマは、深夜を徘徊する若者達が女性を誘拐して集団暴行した挙げ句、それを理由に脅す。逃げ出そうとする被害者を殺す。等、複数の犯罪を犯し悪の限りを尽す。それを『犬』達が狩る。という内容であった。
『鈴』は被害者が所属していたモデル事務所にお約束通り『囮』として所属する。だが騙されてヤバいビデオに出演強要されるという役である。

 ──考えれば考える程、気が重くなる仕事である。
 そして顔合せに集まった現場は「ザ・DOG」の現場は珍しく女性だらけになった。長い撮りの間、何時の間にか女優同士で派閥が出来ており、ジュンコは増々気が重くなっていく。
「何事もありませんように‥‥」
 鈴のように平和を願うジュンコ。

 ***

 モデル事務所で仲良くなったモデルの家で『一緒に呑もう』と誘われた鈴。
 酔いが回り、モデル同士。肌の手入れやスタイルの話で盛り上がる。
「このレースクイーンで一緒になった娘でね。『隣のチームに負けない』ってパッドを入れていたのに、トイレでストッキングを脱いで詰めていたのよ。信じられる?」
「あー、でもそれ判るわ」
「大きいの好きな人多いよね。でも女から言わせるとデカい乳は、重いし、垂れる、可愛い下着がないで大変なのにね」
 女子校のような会話である。
「そう言えば最近、胸が大きくなったわよね?」
「ふふ‥‥ネットでいいマッサージローション見つけたのよ。あ、安くないから貸してあげられないからね」
「えー、じゃあ‥‥ちょっとこの場で誰かに試してみない?」
「じゃあ、鈴ちゃんで試してみようか♪」

 ***

 不幸だったのは、派閥対立をしていた女王様同士とジュンコが共演してしまった所である。
 どちらの派閥にも属していないジュンコは双方から目の敵にされていたのである。
「ちょ、ちょっと聞いていないですよー!」
 鈴のように叫ぶジュンコだったが、スタッフからは役者達のアドリブだと思われたらしく『カット』という声が掛からない。
 後ろから羽交い締めにされ、別な女優がプチプチとジュンコのブラウスのボタンを外して行く。白い胸とブラジャーがレンズに反射してジュンコの目に映る。
 カメラは、羞恥心に頬を染めるジュンコのアップを映し出す。
 スナップが外され、形の良い胸がぷるんと揺れる。
「大丈夫よ♪ すぐに気持ちよくなるから」
 目の前にいる女優が悪魔に見えて瞬間であった。

「こんな話、聞いていませんよー!」
 マネージャーに噛み付くジュンコ。
「ジュンコちゃんに言ったら絶対、嫌って言うじゃないですか。監督も誉めていたから良いじゃないですか。それに見られたのは現場にいた人だけで、放送で『胸』は流れませんから」
 だけど、あの声は是非使いたい。って音響さんが言っていましたよ♪
 明るく言うマネージャーを殴りたい。と思ったジュンコであった。

 ***

 繁華街のゴミ集積所にパンツ1丁で簀巻きにされた犯人グループ。
 側に置かれたポータブルDVDから撮影されているとも知らず自分達の犯行を楽しそうに紹介する犯人グループの姿が再生されている。遠くからサイレンの音が近付いて来る。

 事務所社長にいつものように食って掛かる鈴。
「あんな危ない事、あたし聞いていません!」
「私もだよ。あんな、危ない所だって知っていたら大事な鈴ちゃんをやらなかったよ。次の仕事は『韓国の最新エステ』のレポーターなんだけど、今回のお詫びを兼ねて1泊余計に遊んで来て良いから」
「え、本当ですか!?」

 楽しそうに韓国をレポートする鈴の姿と犬達の暗い表情が対比するように写し出され、画面はフェードアウトする。
 スタッフロールが流れる中、ジュンコの歌うビートが効いたラップ『ARIGATAYA−BUSHI 二十一世紀リミテッド』が流れる。

♪♪♪〜
 ARIGATAYA! ARIGATAYA!×4

 笑うKAO見りゃ 気NI食WAなくって
(何処迄行こうGA DAREに会おうが)
 泣いたKAO見りゃ 気GA滅入RU
(気分HA晴れNU OH-YAI!)

 所詮 このYOは 哀しみばKARI!
(つけれる薬HA このYOに NAI!)
 所詮 このYOは 悲しみばKARI!
(迷うこのYOは 暗闇バカRI!)

 なみだ 涙DE
(NAMIDA NAMIDA)

(ドコまで涙)
 人並みDA!!
〜♪♪♪

 ─END ─




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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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