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【激走! マッチレース!!】
■高原恵■

<銀河/聖獣界ソーン(3004)>
<ティディ・ウォレス/サイコマスターズ アナザー・レポート(0495)>
<藤原・浩司/東京怪談 SECOND REVOLUTION(4214)>
<シェリー・シグルーン/アシュラファンタジーオンライン(eb5311)>
<伊集院・まりあ/Beast's Night Online(fa2711)>

●施設紹介
 『寺根スポーツワールド』という巨大なスポーツレクリエーション施設がある。寺根町に今秋オープンしたばかりの施設だ。
 ここに行けば様々なスポーツを体験出来るとの触れ込みで、それを広く知ってもらうためなのかこの施設は無料利用券をあちこちで配付していた。リピーター確保のために必要であると、施設経営者が判断したのであろう。だいたいどんな施設にしろ、巨大になればなるほど管理維持費なども膨れ上がってゆくのだから。
 まあそんな経営側の裏事情など、利用する側は知ったことではない。せっかくの無料なんだし、たっぷり楽しんで帰るかという心積もりだ。楽しまなければ損であるからして。
 ともあれ、今日の『寺根スポーツワールド』は利用客が多く訪れ、思い思いに皆楽しんでいるのであった――きっと。

●ピットレポート
 様々なスポーツが体験出来ると記したが、では具体的にどのようなスポーツが体験出来るのだろうか。ちょっと調べてみよう。
 陸上出来る? はい、競技場がありますとも。
 水泳はどう? ええ、温水プールを備えております。
 ならテニスとかは? 多目的室内コートにて、様々にセッティングすることでお楽しみいただけますよ。
 じゃあ自転車は? どうぞ外周のロードコースをお楽しみください。
 まさか車は無理だよね? いえいえ、そんなことは。当施設ではミニサーキットをご用意しておりますから。
 ……あるのか、ミニサーキット!!
 とまあこのように、たいていのスポーツなら『寺根スポーツワールド』でカバー出来るという訳だ。
 では、そのミニサーキットの様子を少し覗いてみよう。
「さあさあ、まもなくレースが始まるよー♪ 楽しい楽しいレースだよーっ☆」
 ミニサーキットのピットでは、ヘッドセットマイクをつけた羽根妖精、シフールの少女が楽しそうにあちこち飛び回っていた。
「何と異種混合ハンディマッチ! 実況はあたし、シェリー・シグルーン♪ がんばるのーー☆」
 シフールの少女、シェリー・シグルーンはこれから行う実況に心を弾ませていた。バードゆえ、喋ることには比較的慣れているからして。あとはまあ、シフールという種族柄の脳天気さも加味されてはいるのだろうが。
 しかしシェリー、今ちょっと気になることを言った。異種混合とはどういうことか? それゆえにハンディマッチなのだろうが……はて。これは少し、ピットの様子も見てみなくてはなるまい。
「何というか、この面子は……」
 ピットにて、自らが跨がるバイクから顔を上げた銀河は、これから戦う相手の面子を改めて見てみてついつい苦笑してしまった。
(まともなのは俺くらいだけという気もしないでもないが)
 そんなことを思う銀河。が、まがりなりにも『レース』と銘打たれているのだ。銀河に手抜きする気は一切なかった。何しろ元はフリーのバイクレーサーを務めていたのだ。自らの腕に対する自信やらプライドなどを持ち合わせていることは、想像に難くない。
 その銀河が乗るバイクだが、【餓竜剣・ガルザス】という。剣とつくからして本来は身長ほどもある巨大な剣の聖獣装具だが、使用する銀河に合わせたのか大型のバイクである。ボディは龍の牙のごとくギザギザだ。
 では銀河が感じた、少しまともとは見えない面子の方を順番に見ていってみよう。まずは……ブルーのリボンをふわふわウェーブの腰まである金髪につけた少女からだ。
「わたくし、負けませんわ♪」
 両手で抱えたくまのぬいぐるみをぎゅっと抱き締め、少女――ティディ・ウォレスはきっぱりと口にした。その傍らにはティディの乗る車があるのだが。あるのだが……。
 それはどうも、このミニサーキットにあるよりは遊園地にある方がしっくりくる車であった。というのも、外装が自動車ではなくくまのぬいぐるみっぽいのだ。何しろ中に乗り込むのは無理なのだ。しかし、上には乗ることは出来そうだ。そういうことから『遊園地にある方がしっくりくる』と表現してみた。
 気になるのはどうやって操縦するんだということだが、これはラジコンのようなプロポを使用してコントロールするらしい。もちろん全てをそれでまかなえないからかどうか、AIによるサポートも行われる訳だが。
 ちなみにこのくま、もとい車は半自律式戦闘車両『アルカス』というらしい。……って、戦闘車両なんですかっ!? 言われてみれば、両肩部分に何か発射される部分が見えますが……。
 続いて、ティディよりも少し年上に見える少女を見てみよう。銀髪の白い肌の少女だ。
「わあ……面白そうですね」
 少女、伊集院まりあは笑顔で目を細めながら目の前の……自転車をぺたぺたと触っていた。そう、自動車ではない、自転車だ。詳しく言うなら、電動自転車のようなものだ。
 しかしながら不思議なのは、何やらボタンが色々とついていること。普通の電動自転車に、こんなにボタンがついていただろうか? もし普通でない電動自転車であるとするならば、そんなものいったい誰が作ったというのか。非常に気になるものだが、とりあえず今は考えないことにする。
 と、ここまで見て考えると、大型バイク対自動車対電動自転車という組み合わせだ。なるほどこれは確かに異種混合、ハンディマッチレースになっても何ら不思議ではない。
 が、面子はこれで全員ではない。まだもう1人居るのである。
「ガハハハハッ、まだまだ若者には負けはせんっ!!」
 と、豪快な笑い声が聞こえてきたからちょうどいい、そちらを見てみよう。そこには黒のジャージに身を包んでいる、がっしりとした体格の年輩男性の姿があった。この中で一番年長であることは一目瞭然。
「わしも全力を尽してみせるぞ、ガハハッ!!」
 そう言ってまた豪快に笑うと、男性――藤原浩司は首から下げた十字架を握り締めた……って、何で十字架ですか?
「うん? わしは神父であるが? 神に祈りを捧げるのは当然のことだろう!」
 ああ、神父さんでしたか! ……十字架なかったらそうは見えない所ですね。
 ここに居るのだから浩司もレースに参加するのだろうが、バイクも自動車も自転車すらも辺りに見当たらない。いったいどうするつもりなのだろうか。
「何を言ってる、わしには肉体がある!!」
 は? 肉体……ですか?
「うむっ、鍛え抜いてきたこの肉体が見えるだろう!! ガハハハッ!!」
 肉体は見えますが、まさか車両になるはずもないですし……。よもやとは思いますが、走られるんですか?
「その通りだ!!」
 走るのかっ、そこの神父っ!!
 これはまた……さらに混沌としたレースになってきたものだ。大型バイク対自動車対電動自転車対人間である。普通で考えたら、これでレースをするという考えが出てこないことだろう。さてはて、いったいどんなレースになることやら。レースの開始はもうまもなく――。

●抜きつ抜かれつ、追いつ追われつ
 少しして、レースに参加する銀河、ティディ、まりあ、浩司の4人がスタート地点へ横一列に並んだ。それを見て、実況を担当するシェリーが口を開いた。
「はーい、各車ゲートイン完了だよー☆」
 競馬かい、これは。そもそもゲートありません、ここ。
「もう1度説明しておくねー。今回のレースはハンディマッチ、参加する人によって周回数が異なるよー☆」
 何度も出ているようにこれはハンディマッチ。具体的には銀河とティディがコース4周、まりあが2周、そして浩司が1周ということになっている。まあ各人のマシンの種類などを考えれば妥当な所ではあるだろう。
「それではもうすぐレース開始ー♪ みんな準備はいいかなー?」
 シェリーのこの言葉からややあって、シグナルが点灯する。さあいよいよスタートの瞬間だ。銀河やティディの方から、エンジン音が聞こえてきた。
 3……2……1……GO!!
「各車一斉に飛び出したよーっ☆」
 しかしながら、この時点で差は発生していた。先頭に出たのはバイクの銀河、さすがのスタートダッシュである。次いでティディの乗る『アルカス』が追ってゆく。傍目にはバイクを追うくまゆえ、ユーモラスではあるのだが。
 そしてその2人に遅れてまりあの自転車が続き、最後は案の定自ら走っている浩司である。
「あ〜、待ってください〜」
 きこきこと軽やかに自転車のペダルを踏んで追うまりあ。電動ゆえかその動きは軽やかに見える。だがしかし、先を行く2人が待つはずもなく。
「頑張って『アルカス』!」
 激励しつつプロポを操るティディ。まずは先を行く銀河にこれ以上の差を空けられないように心掛けていた。
(外装に似合わぬ力を持ってるってことか……)
 追ってくるティディの姿を確認し、銀河はそんなことを思った。決してそんなことはないのだが、万一にも銀河が手加減していたならばこの時点での先頭はティディと入れ替わっていたかもしれない。
「けど、どこまで着いてこれる……かな?」
 銀河はぼそりつぶやくと、S字カーブを抜けてすぐ少し速度を上げた。そしてティディとの差を僅かずつではあるが広げていった。
「ほう……若者たちもなかなかやりおるわ、これは」
 走りながらニヤリと笑う浩司。マシン性能という意味では一番不利ではあるが、1周だけでいいので浩司はある意味有利でもある。とにかく1周走り切ればよいのだから。
 それに、疲労については考える必要はない。何しろジャージの下には、疲労回復機能付きの呪具を装備しているのだから。疲労が少なくて済むというのは有利なことだろう。
「速いねーっ! もう2台が1周終わっちゃったよー。先頭はええっと……バイク? 2番目がくまさんだねー☆」
 実況のシェリーが周回を通過した2台を見ながら言った。現時点での順位は、銀河、ティディ、まりあ、そして浩司である。まりあは半周、浩司が1/4周過ぎといった所か。
 銀河とティディがまずは浩司を追い抜いてゆく。これは当たり前の光景だ。続いて普通に考えれば、まりあも追い抜かれることになる訳だが……。
「このボタンは何でしょうね?」
 もうすぐ銀河に追い抜かれようとした直前、まりあが適当に近くのボタンを押してみた。するとどうだろう、まりあの乗る自転車が横に6台に分身したではないか!
「何っ?」
 面喰らったのは追い抜こうとしていた銀河の方だ。何しろ直前に目の前に分身したまりあの自転車が現れてしまったのだから。
 衝突せぬよう緊急回避を行う銀河。当然ながら走りが大きく膨らんでしまう。
「今ですわ!」
 その隙を見逃さず、加速したティディの『アルカス』が前に出てゆく。『アルカス』もまりあの自転車を避けると思われたが……いや、避けない。避けずにそのまま突っ込んでゆく。
 あわや激突! ……とはならず、何と『アルカス』は分身したまりあの自転車をすり抜けてしまったのである。どうやら先程まりあが押したボタンは、幻影の分身を発生させる機能があったようだ。『アルカス』が避けなかったのは、AIがそれを物体として捉えなかった結果であると思われる。
「あ、先頭が入れ替わったよ! くまさんが先頭だよーっ☆」
 この時点でティディが先頭に立ち、今度は銀河が追いかける展開となったのだった。
 そのまま2周目が終了し、2台は3周目へと入ってゆく。それに遅れてまりあもようやく2周目に突入。浩司は半周を終えようとしていた。
 3周目に入った銀河はティディとの差を徐々にではあるが縮めていった。やがて3周目最終コーナーのシケインにて、上手くイン・アウトのライン取りを行うことによって、再び先頭へと立ったのである。
「わーっ、とっても面白くなったよーっ☆ 先頭がバイク、2番がくまさん、それから自転車とおじさんって順番だよ♪ みんなラストスパート頑張ってー☆」
 実況なんだか応援なんだか、色々入り混じったシェリーの言葉。ともあれ、もうすぐレースのゴールは近付いていた。

●勝利のチェッカーフラッグ
 銀河とティディが4周目に入った時、まりあは1周半過ぎ、浩司は3/4周といった具合だった。レースとしては非常に面白い展開だ。これはひょっとするとひょっとする結果があるかもしれない訳で。
「あと少し……絶対に負けませんわ!」
「やるじゃないか……」
 ティディと銀河は抜きつ抜かれつの展開を繰り返しつつ進んでいた。そしてまりあと浩司の姿が見えてくる。
「若者たちよ……わしは手強いぞ!! ガハハハハハッ!!」
 豪快に笑いながらラストスパートに入る浩司。ちなみに何と、現時点での先頭である!
「もっと速くならないかなあ……?」
 ぽつりつぶやいて、現時点2番手のまりあはまた適当なボタンを押してみた。するとどうだ、自転車の速度が急激に上がったではないか。ペダル1踏みで進む距離が3倍くらいになっている。もっとも自転車は赤くなってはいないのだが。
 そこへ後方から銀河とティディがやってくる。最終コーナーを抜け、一団となってやってくる4人。そして――肉眼ではほぼ同時に見えるタイミングで4人がゴールラインを通過したのである。
「あーっ! 審議だよ、審議だよー! 持ってる投票券は捨てないでもうしばらく持っていてねー!!」
 だからこれは競馬でもなけりゃオートレースでもないと……。だいたい賭けじゃないんだし。いやまあ、そう言いたくなる気持ちも分かりますが、実況のシェリーさん。
 ともあれ肉眼ではほぼ同時に見えたので、レースの結果は写真判定となる。
 しばらく時間を要し、写真判定の結果がシェリーの元へと届いた。さあ、気になる結果は……?
「結果が出たよー☆ 4着が自転車、3着がくまさん、それで2着が……バイク! 優勝はおじさんだったよー♪」
 番狂わせ! 優勝したのは何と浩司だったのだ!!
「胸の十字架の分だけ先にゴールラインを過ぎていたみたいだよー?」
 どうやら非常に際どい差だった模様である。しかし神が微笑んだのか、今回のレースの栄えある優勝をつかんだのは浩司となった。
「参ったな……」
 苦笑いを浮かべる銀河。悔しくはあるが、全力を尽した結果だ。素直に勝者に向けて拍手を送った。
「もう少しでわたくし優勝出来ましたのに……」
 ティディはそうつぶやいて優しく『アルカス』の頭を撫でてあげると、保管してもらっていたくまのぬいぐるみを受け取って、それに顔を埋めるようにしてぎゅうっと抱き締めた。
「うふふ……楽しかったです♪」
 まりあはといえばにこにこ笑顔。レースの勝ち負けよりも、楽しく過ごせたことの方が重要だったようである。
「じゃあ、優勝者インタビューだよー☆ おめでとうございまーす♪」
 シェリーが浩司の所へ行って、優勝した感想を尋ねた。
「ガハハ、どうもありがとう。若者たちよ、お前たちもよくやった! だがしかし、わしにまだ1歩及ばぬようだったな。これからも頑張るがよい! わしはいつでも挑戦を受けてあげよう、若者たちよ! ガハハハハッ!」
 とても上機嫌に語る浩司。神に仕える身ゆえか、優勝者の感想ながら他者への配慮が感じられる言葉であった。
「それじゃあこの辺で、みんなと『寺根スポーツワールド』ミニサーキットからお別れだよー☆ 実況はあたし、シェリー・シグルーンでした。まったねー♪」
 ぶんぶんと手を振るシェリー。かくして浩司を優勝者として、今回の異種混合ハンディマッチレースは事故もなく幕を閉じたのであった。

【おしまい】




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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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