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【温泉卓球ハプニング】
■桜紫苑■

<ネフティス・ネト・アメン/アシュラファンタジーオンライン(ea2834)>
<アレクシス・ガーディナー/アシュラファンタジーオンライン(NPC)>
<ヒューイット・ローディン/アシュラファンタジーオンライン(NPC)>

●現実逃避
 何故、こんな事になってしまったのか‥‥。
 どこか疲れた表情を浮かべた銀色の髪の青年は、小さく息を吐き出す。
 こんなはずではなかったのに。
 その言葉を心のうちで何度も呟く。
 現実逃避に、思わず遠くへと視線を泳がせた青年に、厳しい声がとんだ。
「ヒューッッ!! 余所見しないでよッッ!!」
「ヒューッッ!! サボるなよッ!!」
 ああ‥‥。
 彼は黄昏れた。
 まさか、あのサボり常習犯の主人に「サボるな」と言われ事になろうとは。
 何故、こんな事になってしまったのか‥‥。
 こんなはずではなかったのに。

●温泉宿の決闘
 この珍しい祭典にアレクシス・ガーディナーとヒューイット・ローディンを誘ったのは正解だった。
 久しぶりにアレクの顔を見る事が出来たし、ヒューにお説教する事も出来た。いろいろな競技で勝敗を競うお祭り自体も楽しかったし。
「そういえば、どこかで見た後ろ姿もあったのよねぇ」
 昼間見かけたのは友人とその想い人。間違いない。
 にやりと笑いながら、ネフティス・ネト・アメンは用意されていた衣服を手にとった。傍目にはちょっと怪しいが、幸いにも脱衣場には誰もいない。
「今度、首尾を聞き出さなくちゃ。‥‥あら?」
 綺麗に折り畳まれた布を開いてみれば、それはジャパンのキモノに良く似ていた。
「簡単なキモノ? キモノって、着た事ないのよねぇ」
 とりあえず身に纏ってみるが、何かが違う気がする。
「亡くなった人の着方があるのよね。ひだりまえって言ってたかしら」
 で、どうなってるのがひだりまえ?
 ああでもない、こうでもないと悪戦苦闘の末に、何とかさまになった頃には体もすっかり冷えてしまっていた。
「出来た‥‥。結構難しいのね、ジャパンのキモノって」
 故郷の服の方が着るのも簡単で楽だ。今度、ジャパンの友人達に勧めてみようと思いながら、ネティは脱衣場の扉を開けた。
「遅いッ!」
 途端に飛んで来たのは、聞き覚えのある怒鳴り声。
 ぷりぷりと怒るアレクに、ネティは、すうっと目を細めた。
「へぇ、遅刻の常習犯がよく言ったものだわ」
 ぐ、と詰まるアレクに、ヒューが額を押さえる。そんなヒューを一瞥すると、ネティはアレクに指を突きつけた。
「しかも、女の子に対してデリカシーってものがないわッ!」
「女の子って誰の事だッ!」
 ぴき、とネティのこめかみが引き攣る。顔を覆って天を見上げたヒューの姿が視界の隅に映るが、そんな事はもうどうでもいい。
「へぇぇ〜? そぉ?」
 どろどろとおどろしい気配を感じ取って、アレクが一歩後退る。
 しかし、顔を上げたネティは満面に笑みを湛えていた。
「じゃあ、私と勝負しましょ♪ アレで。勝ったら、さっきの失礼な言葉を謝って貰うわ♪」
 ネティが示したのは、隅っこに置かれた大きなテーブル。その真ん中に網のようなものが張ってある。そのテーブルには、アレクもヒューも見覚えがあった。昼間に行われた競技の中で使われていたものだ。
「なんでそうなるッ!」
「別に深い意味はないわ。‥‥ただ、アレクをコテンパンに叩きのめしたいだけよ」
 低く呟かれた最後の一言に、今度はヒューまでもが後退った。
「はっ、望むところだ。返り討ちにしてやる!」
「というわけで、ヒュー、審判をお願いね」
 ここは若い2人だけに、と気を利かせて踵を返したヒューの襟をアレクとネティがしっかと掴む。
「主人を置いてどこへ行く気だ?」
「ヒュー、これの飼い主なんだから、最後まで責任をもって見届けてよね」
 にこやかに微笑んで宣告すると、ネティはテーブルの上に置かれていた木の板を見様見真似で握り、白い球を網の向こうへと打ち付けた。
「まずは1点」
「あっ、きたないぞっ、ネティ!」
 口元に手を当てて、ほほほと笑う。
「悔しかったら、私を負かしてごらんなさいよ」
「‥‥言ったな?」
 互いを見据えてにやりと笑い合う2人の周囲に雷が乱舞し、嵐が吹き荒れた。


 そして、今に至る。
 おかしい、とヒューは思った。
 目が合えばポッと頬を染めつつ、目と目で会話をするというのが普通一般の、互いを意識し合う年頃の男女ではないのか。なのに。
「とぉりゃあああっ!」
「甘いわよっ! アレク!」
 怪鳥のような奇声と、戦闘中かと思う程の乱打音。
 ああ、一体どこでどう間違ってしまったのだろう。
「秘技ッ! 太陽神のお導きッ!」
「なんのッ!」
 絶好球だ。打ち返そうと足を踏み込んだネティは、いつの間にか着崩れていたキモノの裾を踏みつけとしまった。あ、と思ったのは束の間。勢いがついていた彼女の体は、派手な音を立てて床へと倒れ込む。
「ネティ!」
「ネティさん、大丈夫ですか!」
 慌てて2人が駆け寄り、ネティを覗き込んだ。
 と、示し合わせたように同時に背を向けた。
「イタタ。足、捻っちゃった。‥‥? 何よ2人とも」
「いえ、その‥‥」
 珍しく口籠もったヒューに、ネティは首を傾げた。アレクはと言えば、後ろから見ても分かるぐらいにそっぽを向いている。
「何よ、気になるじゃない」
 アレクを問いつめようと立ち上がりかけ、ネティは痛みに呻き声をあげる。
「無理するんじゃない!」
 ぱっと振り返ったアレクが、ネティから視線を逸らしたまま体に手を回してくる。その態度が気に入らなかったのか、ネティは乱暴にアレクの手を払った。
「いいわよ、自分で歩けるんだから」
「立てない癖に」
 呟かれた言葉に、ネティはつんと顎を反らせる。
「人の顔も見る事が出来ない人に助けて貰うつもりはありません」
「お前なぁ!」
 些か乱暴に、アレクは自分が羽織っていた上着をネティへと放り投げた。
「わぷ。なによ!」
「今、自分がどんな格好しているか、ちゃんと確認しろ!」
 先ほどまでとは違う、本気で怒っている声にネティは上着の中から顔を出した。
ー私の格好‥‥って、キモノが似合わないって事? 失礼しちゃうわ!
 むくれながらも、自分の体へと視線を向けたネティの息が止まる。
 大きくはだけた胸元と裾から、彼女の褐色の肌が覗いていたのだ。
ーぃゃああああああああっっ!!
 条件反射で、思わず自分の近くにいたアレクの頬を引っぱたいてしまうぐらいに驚いた。
ーやだやだやだやだ! こんな姿をアレクに見られたなんて〜っっ!!
 叩かれた事に何も言わず、アレクは混乱と自己嫌悪とで頭の中がぐるぐる回ってしまったネティの背に手を回し、膝裏を掬って彼女を抱き上げた。ヲトメが憧れるお姫様抱っこというやつだが、今のネティはそれどころではなかった。
「アレク! 降ろしてよ、アレクってば!」
 じたばたと暴れるネティに、アレクは大きく息を吐き出す。
「ネティ、お前な‥‥。いいから大人しくしてろ」
 ぶっきらぼうで、いつになく真剣な口調に、ネティは黙り込んで自分を抱き上げた男の顔を見つめた。ふざけてばかりで軽い男の真剣な表情に、しばし見惚れてしまう。
 ややあって、ネティは腕を伸ばすとアレクの襟首を掴み、そこに顔を埋めた。
「‥‥‥‥ありがと」
 聞き取れないぐらい小さな礼の言葉と、耳まで真っ赤なネティの様子にアレクは彼女に分からぬよう小さく微笑んだのだった。





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この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

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