トップページお問い合わせ(Mail)
BACK

【サーキットの娘たち】
■リッキー2号■

<影刃/Beast's Night Online(fa1705)>
<リュティス/Beast's Night Online(fa1518)>
<アルエ/Beast's Night Online(fa0646)>
<霧ヶ峰・まひ流/Beast's Night Online(fa2634)>
<シャロン・マリアーノ/サイコマスターズ アナザー・レポート(0645)>

「……」
 影刃はアルエの赤い瞳を振り返った。
 影刃の目元はいつものように長い前髪に隠れているから、その表情は読みにくいのだけれど、そこは長い付き合いであって、アルエには、どうした?と、彼が問いかけてきたのがわかった。
「なに」
「いや――、アルエ、どうかしたのか」
「べつに」
 そっけなく、アルエは応える。
 こちらも、いつもの無表情を崩していない……ようには見えただろうが、それだけでないことは、影刃には、わかる。
「……」
 どうしたものか。
 言いたいことはわからないでもないが、かといって――。
「あ、風船!」
 リュティスが、くまの着ぐるみが風船を配っているのを見つけて、顔を輝かせた。
 先日、オープンしたばかりの『寺根スポーツワールド』は、休日ということもあって盛況だった。宣伝のために、マスコミ関係者にもバラまかれた無料招待券を手に入れ、訪れた影刃たちである。
「もらってきたら?」
 促してやると、うんっ、と頷いて小走りに。
 その後ろ姿を見遣りながら、影刃は、
「なんかやりたいことあるか?」
 と、アルエに訊ねる。
「べつに」
「せっかく来たんだろ。おっ――」
 ふと見ると、サイクリングコースがあって、変わった形状の自転車を楽しむ人々の姿が飛びこんでくる。極端に車輪が大きいものや、サドルの高いもの、そして、2人で漕ぐもの……。
「あれ乗らないか」
 指したのは2人乗り用の自転車で、とたんに、アルエの表情が揺らぐのがわかった。
「シェイ兄と?」
「ああ」
「ん……」
 アルエが頷こうとしたとき。
「もらってきたよー」
 ゼリービーンズのような色とりどりの風船をもって、リュティスが駆け戻ってくる。そのうちひとつを、影刃に差し出す。そしてアルエにも。
「……ありがと」
 やや間を置いて、受け取ったときには、アルエのおもてはまたもとどおり、目には見えないつめたい仮面で覆われたようだった。
「影刃」
 そして、ぽつり、と、彼女は言った。
「あれに乗ろう」
 彼女が示したのは、カートのようだった。
 のぞいてみれば、なかなか本格的に仕立てられたサーキットを、アトラクションにしては凄いスピードでカートが走り回っている。
「ね、レースをしない? 賞品を賭けて」
 アルエの声音に、わずかに挑むような調子が加わる。
「賞品って……?」
 リュティスは無邪気に微笑みながら訊ね返した。

「あれー、みんなも来ちょったんやー。カートでレース? 面白そうやない? ウチも混ぜてーなぁ」
 霧ヶ峰まひ流だった。なにやら楽しげな気配を嗅ぎつけてきたらしい。
「あー、いや、これはなぁ」
 いつになく歯切れの悪い影刃に、まひ流は圧していく。
「人数が多いほうが盛り上がるじゃろー? なんか賞品でんの?」
「あるといえばあるんだが…………」
 影刃が、そのあと続けた言葉に、まひ流の目が丸くなり、ついで、けたけたと笑い声が漏れた。
「あら、面白そうね」
 その言葉を聞きつけたものらしい――、流れる燃えるような赤毛に、心の中まで射抜かれそうな金の瞳、シャロン・マリアーノの姿がそこにあった。
「ちょうどよかったわ。あたしもエントリーしてもいいわよね?」
「……いいのか、アルエ」
「べつに」
 そっけなく、アルエは――カートをあらため、真剣なまなざしでコースを見渡しながら――応えた。
 出場者はこれで揃ったようだった。

  ▼

『えー、それでは、レースをはじめたいと思います。ワタクシは影刃、本日の実況兼――賞品です……』
 マイクを通して聞こえる影刃のアナウンスに、まひ流がぷっと吹き出す。
「なんだか、ちょっとかわいそう……」
 リュティスが言ったが、
「なかなか粋やと思うでぇ? こぉら、ウチも本気で狙わんわけにはいかんべなぁ、『影刃・1日占有権』」
 とまひ流が応える。
「収穫期まっさかりで、人出が欲しかったところよ。助かったわ」
 長い髪をスカーフで縛りながら、シャロンが言った。彼女は農園を所有しているという。
「え、したら、畑仕事の手伝いを?」
「そうよ?」
「せっかくの占有権じゃきに。うちはやっぱりデートやね(と言うと、アルエの瞳にかすかに険しい光が宿った)。いつも前髪で隠れちょってよぉわからんけど、ちゃんとした格好して不精ヒゲも剃ったらたぶん男前じゃと思っとよ。これを機会にお友達からはじめるしか!」
『……えーと、各選手、準備はいいんですかぁ』
 キィン、とマイクがハウリングした。
「あの……、運転とかしたことないんですけど、大丈夫かな……」
 不安げなリュティス。
「F1カーを運転するわけやなし。ゲーセンのレースゲームはやったことないん? とりあえず、アクセル踏んどきゃええやろ」
「……と、とりあえず、がんばりますねっ」
 そんなリュティスとまひ流の姿を、ひそやかな闘志を秘めたアルエの瞳が見つめる。
「本気でいくわよ」
 そんなアルエに、シャロンが挑むように告げた。
 かくして、4人の女性たちによる、影刃の争奪をかけたカートレースの幕が、切って落とされたのである。

 高らかなGOサイン。
 一斉にスタートする4台のカート。
 道幅は広く、なかなか本格的な構造のサーキットである。
『まずは意外と穏やかな出足。……と、一台、抜きんでてきました――1番のカート、アルエ選手だ』
 アルエの口元に、かすかな笑みのようなものが浮かぶ。そこはレジャー用のカートであるから、そうスピードも伸びないはずなのに、前へ前へ抜け出していくのは、あたかも意志の力による牽引でも受けているようだった。
(負けない)
 ちらり、とバックミラーを見れば、シャロンが2番手にピタリとつけてきている。不敵な笑み。いかにも自信ありげだったので、それなりに腕に覚えがあるのだろう。
 だが、アルエにはどうでもいいことに思えた。
 シャロンの後方に、リュティスとまひ流がふらふらと着いて来ているのが見える。けれどストレートでは追い越せる可能性は薄い。
 勝てば、影刃と、何をしよう――アルエは思った。
 リュティスと笑い合う姿を、意識から閉めだす。リュティスから風船を受け取る影刃。買ったジュースをリュティスに渡してやる影刃。連れだって歩くリュティスと影刃。なによ、なによ。シェイ兄は…………今日はアルエと遊ぶの!
 アクセルを、さらに深く踏み込んだ。
『早くも差がついてますね。アルエ選手とシャロン選手がトップを競り、リュティス選手とまひ流選手が後続グループとなります。さて、コースはS字コースに入りますが……』
「……あら?」
 シャロンが、目をしばたいた。バックミラーの中に、ぐんぐん大きくなる影。
『なんだ、なんだ、突然、攻勢に出たのは……2番の――って、リュティスぅ!?』
 驚きに、実況が素の声をあげた。
「雑誌に載ってた巨大パフェ、食べに連れて行ってもらいますっ!」
 リュティスは、ハンドルを切った。
 言っていることはかわいいが、カートは、前を行くシャロンのカートにほとんどこすらんばかりのコースをとって、S字カーブへ飛び込んでいく。
「……!」
 シャロンが息を飲む。
「ちょ――、なによ」
 アルエが、抜かせるものかと、ハンドルを握る手に力を込める。
「えええっ、運転したことないとかゆーてなかったぁ? 裏切りものぉーー!」
 ビリになってしまったまひ流が叫んだ。
『いや、運転はしたことないはずだが……って、ああ、ええと、リュティス選手、2位に食い込んで参りました。S字カーブでアルエ選手と一騎打ちだ!』
「行かせない!」
「前開けてくださーい。危ないですよー」
 リュティスはいつものほんわかした笑顔なのだが……なにかが違う。笑顔の仮面の中に、たしかに潜む鬼気のようなものを、あっという間にすぐ後ろに肉薄されながらアルエは感じた。
「ハンドル握ると性格変わるっていうやつ?」
 と、シャロン。
 サーキットには魔物が棲むというが……。
 抜かせまいと、巧みにカーブ上で先手をとり、コースを封殺しようとするアルエだったが、リュティスは、にこにこしながら、平然と、そんなアルエのカートに車体をぶつけてくる!
『リュ、リュティス選手――、普段からは想像つかないラフな走りっぷりです……』
「はい、通りまーす♪」
 ガリガリガリ、と車体がこすれて、火花が散った。
 舌打ちして、アルエが距離を開けたところを、強引に、アルエが抜いてゆく。それが、S字カーブの間に起こった出来事だった。
「やるわね、あのコ」
 シャロンは不意打ちを受けたけれど、危なげなくカーブを越えて、アルエのすぐ後に再び迫っている。今度はアルエを抜いて、リュティスの後につける算段だ。
 そして最後尾は、勢いあまって、カーブのあちこちに、がつんがつんあたりながら、まひ流が追いかけてきていた。
「あたっ! ……ちょい、待ちんしゃ〜いっ」
『さあ、この後はヘアピンが待ち構えています。リュティス選手、今のスピードのまま突っ込むのは無謀と思われますが、減速しすぎはそのあとで、後続に隙を与えることになります。……おっと、シャロン選手の追い上げ、アルエ選手を抜いたか?」
 シャロンのカートが、ぐんと速度を増した。
『カーブでもないところで見事に抜いた。……というか、あのスピードは一体……!?』
 サーキットの職員たちのあいだにもざわめきが広がる。リミッターがあるから、あんな速さは出ないはずだが――的な言葉が漏れ聞こえてくる。そういえば、彼女、出走前になんかマシンをいじってなかったっけ?みたいな話も。
『ま、まさか、自らマシンに手を加えて……?』
「人聞きの悪い。ほんのすこしカスタマイズさせてもらっただけよ」
『同じことだぁーーー!』
「気持ちだけで走り抜けるお嬢ちゃんたちのほうがすごいと思うけど――勝負には戦術も必要ということね」
 シャロンが、なにかのレバーを引いた。
 するとカートの後部の一部が開き、そこからなにかが道路上にバラまかれたではないか。
『!?』
「……!」
「ちょ――」
 そんな機構などもとよりあるはずもないから、これも彼女の施したカスタマイズなのだろうか。はたしてそれは――
『バ、バナナ!? バナナの皮だぁ! 仕掛けはスゴイがなんと古典的! っていうか、あんな大量のバナナの皮をどこから!?』
「いったでしょ、農場やってるって」
『バナナ農園だったーーーっ! それにしても皮だけだから中身を誰が食べたのかという謎は残るが、後続の2選手、ピンチです! お、俺はバナナ農園に農奴として連れ去られるのかぁ!?』
「させないわ」
 アルエがカートを操る。
「!」
 なんと、そのスピードを保ったまま、いったいどうなっているのか、ほとんど水平移動にさえ見える小刻みな動きで、道路上に散ったバナナの皮をすべて避けていくではないか!
『これはすごい、アルエ選手! あまりにも正確無比! まさに人車一体の動き! ……というか、このカートはいったいどうなってんだ……?』
 明確に、なにか仕掛けをほどこしたらしいシャロンは別にしても、カートでこんなことありえるのか?といった出来事が続く。
「なんか、そのノリのまま、うちにも奇跡がおこりゃーせんかなーなんて……」
 しかし、まひ流のカートは、
「……わけにはいかへんかったぁああああああ」
 渾身のスリップ!
 滑った先にまたバナナがあってさらにスリップ!
「いやああああああああああああああ」
 そして派手にコースアウト!
 壁に激突する。
『まひ流選手、ワナにかかったぁ! クラッシュです!』
「ひ、ひどいー……! これって反則じゃないの!? いったぁ〜」
『あまりの衝撃に、言葉も標準語に戻ってしまったぁ!』
「そんなツッコミは無用じゃけぇ!!」

 バナナの罠をかわしたアルエは、シャロンへと迫る。
「よくかわしたわ……。バナナの皮くらい、なんて思って突っ込んできていたら危なかったわね。あれはあたしがトラップ用に改良した、滑りやすさに重点を置いたバナナの皮だったのだから」
 そんな品種改良してどうするんだ、という話を開陳しつつ、シャロンはヘアピンにさしかかろうとしていた。
 見れば、一足先に行ったリュティスが、コース脇の障害物をふっ飛ばしながら、異常なコースどりでほとんど減速せずにカーブに挑んでいた。それでもなんとかなっているから不思議だ。
「ここで減速したらあの子に追いつけないわね」
 しかし、ハイスピードのままヘアピンに挑むのは危険すぎる。
 だがやるしかない!
 すぐうしろにはもうアルエがいる。
 巧みに隙を突き、シャロンを抜き去らんばかりだ。
 次の瞬間!
 シャロンのカートからなにかが飛びだした。
『こ、これは……またバナナ……? しかし、今度は前方へ……!?』
 コースの前へバナナを射出し、そこへ自ら飛び込んでいく!
「そうすると思った」
 だが、まるで二重写しのゴーストのように、シャロンの隣にアルエのカートがあらわれた。
 そしてそれはさらに加速し――
「まさか……!」
 シャロンの視界を、アルエのカートが隠す。
 シャロンより先に、アルエがバナナを踏んだ!
『あ、ああっ、アルエ選手がスリップ! スピンしてしまったぁあああ…………あ!?』
「やられた」
 スピン――いや、ドリフトターンとともに、アルエのカートが、わずかにだがコースから浮いた!
 次に着地したところは……
『コ、コースを――ヘアピンをショートカットぉ!? し、しかも』
「アルエさん」
「負けないわよ、絶対」
 アルエがリュティスと並んでいる!
 反則じゃないのか、という囁きも漏れ聞こえてくるが、カートを改造したり、バナナが出たりしている時点でもはやそんな次元は超えていた。
 誰もが……彼女たちの勝負のゆくえを、固唾をのんで見守っているのだ。
 コースは最後の、カーブの連続――シケインへと差し掛かる。ここを超えたらゴールだ。
『アルエ選手とリュティス選手の一騎打ちになりました! 栄冠は、どちらの頭上に輝くのかぁーーー……って、自分で言うのもなんだが、賞品は俺なんだよな……』
 賞品のつぶやきをよそに、優勝候補のデッドヒートが佳境に入る。
 もともと性能に差のないはずのカートなのに、まるで魔法でもかかっているかのように、見えざる翼で飛ぶようなリュティス。しかし、アルエの技巧は、的確なコースどりでそれを抜き、差を広げていく。
「もらったわ」
 最後のカーブを抜けた。この先の直線で抜き返すのは、このカートでは難しい。
「シェイ兄……なにしてもらおうかな」
 なんだっていいのだ。
 本当は。
 ただ、自分のための時間がそこになるのなら――
「パフェ食べたいですっ!」
「えっ!?」
 執念か。それとも他の何かか。
 サーキットに唸る爆音。
『ぬ、抜いた!? リュティス選手、抜き返しましたぁああああ!!』
 その差、数センチ――
 チェッカーフラッグが、はためくのを、アルエは茫然と見ていた。

  ▼

「……」
「いや、その、なんだ、ほら」
 どういった言葉をかけるべきか。
 アルエはじっと影刃の服の裾を握りしめたまま。その涙目に、誰が何を言えただろう。
「本当にいいんですか?」
 リュティス(降りるなり、「あんなに速いと思いませんでしたっ。こわかったですぅ」とかなんとかいって、まわりのものを唖然とさせた)が、嬉しそうだが、すこしのためらいもまぜつつ、影刃を見上げた。
「約束だからな」
 そう応える。
 アルエが、フーッとネコのように威嚇するのに気圧されつつ、しかし、リュティスが言った。
「あの……よかったらみんなで行きません……?」
「巨大パフェを食べにか……?」
「え、ええの?」
「彼の独占権なんでしょ?」
 申し出に、皆が驚く。
「そうですけど……、今日はもともと3人で遊びに来たわけだし……」

「そうしよう」

 応えたのは、アルエだった。
 赤い瞳に、再び、光が宿る。
 そして――

『えー……そんなわけで……』
 キィン、とマイクがハウリングする。
『……ただいまより、「巨大パフェフードファイト」を行います! ……って、なんでこんなことに(ブツブツ)……ワタクシは影刃、本日の実況兼――賞品です……ってまたかあああああ!!』


−END−
 



※この文章をホームページなどに掲載する際は、必ず以下の一文を表示してください。
この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。

BACK



このサイトはInternet Explorer5.5・MSN Explorer6.1・Netscape Communicator4.7以降での動作を確認しております。