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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


があごソルジャーズ


 バウンティハンターの情報網に不審なものが引っかかったと連絡が入り、藤城・瑠日はセンターへ急いだ。
 瑠日は現在お腹の中に双子の赤ん坊がいるが、まだ任務を休むつもりはない。幼児体型が幸いしてか、夫のレオニズと親友以外は瑠日が妊婦であるとは知らなかった。
「どうですか?!」
 飛び込んできた瑠日を見つけて、同僚がすぐにスクリーンを指差してくれた。
「この宇宙船に逃げ込んだもようです。」
 示された地図を見て、瑠日は一瞬固まった。
「ここは……。」
 愛する夫が勤務する宇宙船である。瑠日にとって、敵とは憎むべき相手であり、今まで容赦したことはなかった。それが今は夫に刃を向けている。決して許されることではなかった。
 瑠日はすぐに気を取り直すと、毅然と命を下した。夫を助けるためには迅速に正確な行動を起こさなければならない。衝撃を受けている時間すら惜しかった。
「通信回線を開きなさい。その間に敵がどこにいるか調べます。宇宙船内地図を出してください。」
 瑠日の言葉に、ざっと人波が動く。慌ただしくなった中、瑠日は軽く目を閉じ、集中力を高めた。千里眼を使って、レオニズの宇宙船を探っていく。逃亡者の捜索は瑠日の得意とするところである。
 テロリストは見つかりにくい暗いところを好む。瑠日の千里眼では暗いところでは能力が半減してしまうが、それも承知の上で、敢えて闇の中に目を凝らした。
「……見つけましたわ!」
 きらりと目を光らせて、瑠日はスクリーンの地図を睨みつけた。



 宇宙船はいつになく緊迫した空気が漂っていた。
 レオニズ・藤城が愛する妻と久しぶりにスクリーン越しに会えたかと思えば、もたらされたのはテロリストの侵入報告だったのだ。
 残念に思う間もなく、レオニズは船の警備を最高レベルまで上げた。
「あいつは格納庫に潜んでいます。わたくしめがすぐに行きますから。」
 瑠日がハンターの表情で告げてきた科白を思い出しながら、レオニズは宇宙船の中を走っていた。身重の瑠日を待ってはいられなかった。瑠日の強さは重々承知していたが、今は時期が悪い。
 少しでも助けになるのではないかと、格納庫に向かった。駆け寄って扉をそっと開け、中を覗き込んだレオニズは、そのままその場に倒れ込みそうになった。
「な、何事ですか?」
 目の前の光景が信じられない。
 非常に目立つところに確かにテロリストはいた。百戦錬磨を誇ると思われる彼はこの場から動けずにいるのである。
「あれは……。」
 その周囲に飛び回っているのは5羽の茶色い鴨たちだった。
 瑠日が親友のところから、「コウノトリなの」と理由不明に貰ってきた子鴨たちだ。それぞれ赤、青、黄色、黒、ピンクのバンダナを首に巻いており、その色の名前を付けていた。
 部屋に入れておいたはずなのにいつの間にこんなところに出てきてしまったのだろう。
 レオニズはそんなどうでもいいことを考えて、現実逃避をしてみる。
 子鴨たちが華麗な連係プレーでテロリストを防いでいるなんて一体誰が想像できるだろう。
「畜生っ! 何だこいつらは! こらっ、あっちへ行け!」
 テロリストは両手を振って、鴨たちを追い払おうとするが、その度に嘴で突付かれ、肉を抉られる。
 一番初めに荷物を狙ったらしく、ピンクがリュックを手の届かないところまで引っ張って行っていた。恐らく、中には爆弾でも入っているのだろう。追おうとするテロリストの前にレッドが立ちはだかった。
 彼は片手にはナイフを持っているが、子鴨たちは注意深くそれを避ける。特にイエローは何もないところでしょっちゅう転けるので、テロリストは先の行動が読めず、ナイフが間抜けにも宙を舞っていた。
 銃を持っていないところを見ると、彼はPK系のエスパーなのだろう。自分の能力で十分だと思っていたのが、裏目に出ていた。
 エスパーは能力を発動させるのに、10秒ほどの時間を有する。鴨たちは時差攻撃を繰り出し、その隙を作らせない。ブルーがナイフに注意している間に、ブラックがテロリストの顔に襲い掛かっている。振り払われたら、ピンクが後頭部を蹴飛ばした。
 やがて、レッドが豪快な回し蹴りを顔面にかました頃になると、レオニズにも余裕が出てきた。
「よしそこだ! 行け!」
 シャドウボクシングのように両手を振り上げて応援を始める。子鴨たちがそれに気付いてさらに調子に乗った。我が意を得たりとばかりに勝利の雄叫びを上げながら、テロリストをボコり始めた。
 なんだかリンチみたいに見えて、レオニズは哀れに思ったが、敵は敵として憎む瑠日は当然のこととして受け止めるのだろう。
「レオニズ!」
 瑠日の焦った声が背後から聞こえてきた。はっと我に返ってレオニズは振り返る。瑠日がちょうど角を曲がってきたところだった。
「瑠日さん、ここだよ!」
「何をしているの! 危ないから離れて!」
「大丈夫。ほら見てください。」
 楽しそうなレオニズを不思議そうに見ながら、瑠日は格納庫へ足を踏み入れて、目を丸くする。大分と粘ったテロリストがとうとうKOされて地面に沈んだところだった。
「え? どうなっているの?」
 反射的に取り押さえ、しっかり手錠をかけて同僚に引き渡してから、瑠日はきょとんとレオニズに尋ねた。



 レオニズから事の顛末を聞き、瑠日は難しい顔をした。
「すごいわ。……やっぱり戦闘訓練をきちんと受けさせておくべきかしら。」
「そうすると、鬼に金棒ですね。」
 笑いながらも、レオニズは頭の隅で、暴走したら止めることのできるものなどいなくなるなあ、と薄ら寒いことを考えていた。同時にいい考えが閃き、ぽんと手を打って、瑠日の肩に手を乗せる。
「でも、生まれてくる私たちの子供の護衛にぴったりかもしれませんね。彼らがいれば、瑠日さんも安心して産休を取れますしね。」
「そうね。それはいい考えだわ。」
 瑠日は嬉しそうにお腹に手をやって、にっこりと微笑んだ。
「でもね、レオニズ。危険なところに飛び込んでいくのは感心できないわ。今回はよかったけれど、今度はこんな無茶しないでね。心配でおちおち子供も生んでられないわ。」
「ごめんなさい、瑠日さん。でも、私が瑠日さんの身体のことを心配しているのも理解してほしいんです。妊婦は激しい運動を控えた方がいいと言いますし、瑠日さんだけでなく子供にも影響があるんでしょう?」
 瑠日から、女の子と男の子とどちらがいい?と驚愕の質問をされ、懐妊を知ってから、レオニズは自分なりに勉強したらしい。必死に言い募ってくるのを見ていると、瑠日は幸せな気分になった。
「分かったわ。あの子鴨たちをしっかり訓練してから、わたくしめは休みを頂くことにするわ。」
「任期中だからといって、無理はしないでくださいよ?」
「ええ。レオニズに心配かけないようにするわ。」
 言い方が気になり、もしかして、危険なことは報告しなくなるんじゃないだろうかと、レオニズは危惧したが、瑠日の方は、レオニズの心遣いが心地よく、そんな考えは全くなかった。
 凶悪な犯罪がしばらくの間は起こりませんように、と2人は心の中で祈っていた。



 瑠日やレオニズが直接に関係していないと子鴨たちが真剣に活躍しないことに気付いたのは、まだしばらく後のことだった……。



 *END*