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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


運び屋さん、荷物にご注意ください。


●カガリ

 白神・空(しらがみ・くう)は少し遅くなってからカガリの元へ訪れた。
「遅かったわね。」
「ごめんごめん。いろいろと食材買いこんでたから。」
「?」
 芽衣がきょとんと空を見上げる。
「現地調達も面白いけど、美味しいもの食べたいじゃない?」
「そうだよね。プーちゃんもおなかが減るのはいやっ!」
 芽衣の後ろから、プティーラ・ホワイト(ぷてぃーら・ほわいと)がぴょこんと顔を出した。
「やっぱり食料と水は大切ですからね。」
 森杜・彩(もりと・あや)が穏やかに口を開いた。
「そ、そうですよね。」
 気が回らなかったことに、芽衣は赤面した。
「このメンバーで行くのね。」
「そうみたいっ! 訓練のつもりでがんばるっ!」
「お兄様にお使いを頼まれて、何も渡されず、ここに行く様に言われた時点で、おかしいな、とは思いましたが……こういうことだったんですね。」
 彩が諦めの境地で呟いた。かくいう彼女は事前の調査でそれに気付き、長めのロープを持参していた。
「これをアキラの元へ届けて欲しいの。」
 カガリが箱を持って来て示す。
 空は持ち上げて軽く振ってみた。そんなに重くはない。中から、動物なのか機械なのかよく分からない音がした。
「何の音なの〜?」
 あまりにも聞きなれない音にプティーラは怯える。
「中身は何ですか? 生ものや壊れやすいものですと、それなりの取り扱いにしなければなりませんが。」
「箱に入っている限りは安全よ。」
「……究極ねぇ。」
 空はひゅっと口笛を吹いた。
「それじゃあ、お願いね。」
「中身が気になる〜。」
「開けないでね。壊すのも困るわよ。」
「分かってますって。ちゃんとアキラに見せてもらうから。」
「お気をつけて。」
「行って参ります。」
 カガリと芽衣に見送られ、3人の運び屋が旅立った。



●山賊のいる山

「ここが山賊のいる山ね……。」
 空はふむと腕を組んだ。敵がいると思うだけで、山自体が大きく見えるようだ。
「傷物になったらやだし、気配だけは気を付けておかないとね。」
「そうですね。危険回避で行きましょう。」
 空は一部だけ【玉藻姫】を使うことにする。耳だけよく聞こえるように狐耳にした。彩は猫の勘で周囲を探る。
「プーちゃんは空飛んで偵察するね。空飛ぶの好きだし〜。」
「じゃあ、この箱渡しておくわ。落としたりしないでよ?」
「うん。分かったー。まっかせてっ!」
 プティーラは《天使の翼》を広げて飛び立っていった。
 空と彩はさくさくと山を登っていく。周囲に気を配ってはいるが、空は暢気に鼻歌などを歌っていた。
 ふと狐耳が揺れる。同時に彩の勘にも何かが引っかかった。
(あ……やな気配する……。)
(これは……もしかしますね。)
 思ったときにはすでに遅かった。2人はあっという間に山賊に取り囲まれていた。
「めんどくさい〜。戦わないといけないの?」
 傷つくの嫌なんだけど、と言いながら、空は身構えた。彩は逃げられないことが分かって、じっと自分の身体に注意を向ける。
 しかし、同時に背後から新手の気配も感じ取っていた。
(なんだろう。敵かしら?)
 注意を怠らないようにしながら、完全に獣人に変身する算段を整える。
「なるほど。これが例の山賊か。」
 背後から現れたのは、小麦色の肌をした少女、ロディ・ヴュラート(ろでぃ・ヴゅらーと)だった。彼女は囲まれている2人の少女には見向きもせずに、真っ直ぐ山賊へと歩み寄る。
「ちょうどよかったわ。任せたわよ!」
「は?」
 ロディは思ってもみなかったところから声をかけられ、一瞬ぽかんとした。突然のことに彩も驚いている。
「襲われてるのはあたしたち。か弱いお姉さんたちを助けてちょうだい。」
「どうでもいいけど、あたしの邪魔だけはするなよ。」
 彼女は別口の依頼の仕事でこの山賊たちの掃討を引き受けていたのだ。
 空と彩のことはとりあえず無視することにして、ロディは山賊に向き直った。対集団の戦闘は心得ている。仕事の為なら手段は選ばない。
 銃を引き抜いて威嚇すると、2人を引き連れて木々の間に転がり込んだ。振り向きざま、3人撃ち倒した。空を奥へと押しやり、体勢を整えようとしている山賊を撃つ。
(……あれがボスか。)
 こういう組織は頭を潰せば四散する。ロディはぴたりと照準を当てた。
 ガンっと鈍い音が山の木々を揺らした。



 静かになったのを確認して、空と彩は茂みから出てきた。ロディは自分の仕事の最終確認をしている。一部始終を上から見ていたプティーラは真っ青な顔をして降りてきていた。
「大丈夫?!」
「はい。大丈夫です。」
「よかったぁ〜。」
 プティーラは彩にぎゅっとしがみ付いた。プティーラは孤独を恐れる。もしこのまま1人になってしまったらどうしようと思って震えた。
「大丈夫ですよ。」
 彩はプティーラの頭をよしよしと安心させるように撫でてあげた。
 一方、空はロディへと近付く。ロディは山賊たちが散り散りになって、こちらを襲ってこないだろうことを確認してから戻ってきていた。
「助けてくれてありがとう。で、物は頼みなんだけど、暇ならあたしたちに付き合ってよ。この箱をアキラのところに持っていくの手伝ってくれない?」
「…………?」
「じゃあ、行きましょっ。」
 返事も待たずに空は彩とプティーラを連れて歩き出してしまう。その背中はロディがついてくると信じて疑っていない。断るタイミングを逃し、何故かロディも箱を運ぶのを手伝うことになった。



●底なし沼の谷

 山を越えると目の前に広がっていたのは黒い沼だった。しかも、かなり広大だ。
「下手に動くと沈みそうだな。」
 ロディは眉を顰めてプティーラを見やる。彼女は浮いているので大丈夫だろう。
「ロープがあるんですけど、端まで届きそうにないですね……。」
 念のために長めのロープを用意したが、読みが甘かった。彩は残念そうに肩を落とす。
「ああ。あたしも空飛べるわよ。」
 空がどこか得意そうに胸を張る。
「これはどうかしら? ロープで彩とロディの2人を吊り下げて、あたしとプティーラで運ぶの。プティーラいける?」
「過重運搬はできないんだけど〜。」
「そう? それじゃあ1人ずつ運ぶしかないわね。長時間1人になっちゃうけど、自分の身くらい守れる?」
「あたしが先に行こう。向こう岸は危険かもしれないからな。」
 ロディが彩からロープを受け取った。
「ダメダメダメ!!」
 プティーラが突然空に飛びついて首を振った。
「どうしたの?」
「誰かを置いていくのはダメ! 危ないもん。プーちゃん頑張るから2人とも一緒に連れて行こうよ!」
「プティーラが大丈夫だって言うならいいけど……。」
「これは訓練なのっ!!」
 頑固なプティーラに空と彩は困惑を隠せない。特に彩は連れて行かれる身として落とされては堪らない。ここは慎重になって欲しいと思い、口を開こうとした。
「分かった。あんたに任せるよ。」
 ロディがいち早くそう告げて、プティーラの頭を撫でる。素早く彩にもロープを巻きつけた。
「私もプティーラ様を信じてます。箱を渡してください。私が持ちます。」
 彩も穏やかに微笑んだ。ロディのおかげで覚悟が決まった。今では不安はない。
「じゃあ、あたしは【天舞姫】に変身させてもらうわね。」
 空は鳥人に変身した。顔以外の全身に白い羽毛が生え、耳は羽耳、両腕は大きな翼、足は鉤爪に変化する。
「行くわよ。しっかり捕まっていてね。」
「頑張る〜!」
 空とプティーラはロープの端を持ち、浮かび上がった。
 底なし沼を足元に眺め、向こう岸へと渡って行った。



●断崖絶壁の山

「大丈夫か?」
 無事に沼を越えることが出来たが、ぜえぜえと苦しそうに息を吐くプティーラの背をさすって、ロディが尋ねる。
「だいじょーぶ。ちょっと疲れただけ。」
「どうもありがとうございます。」
 彩がシチューを差し出してきた。各自が持ってきた食料と、現地調達した食材で、美味しそうな匂いがする。
「ありがとっ。」
「しっかり食べてね。明日はこの断崖絶壁を登らないといけないんだから。」
 空は隣に聳え立つ山を見上げた。
「明日も頑張りましょうね。」
「うんっ!」
 4人は楽しく美味しい食事を取った。
「見張りは交代で。火は絶やさないように。」
 ロディが一番初めに見張りをすることになった。


 翌日、空は【玉藻姫】に変身した。顔以外が白銀の獣毛に覆われ、獣眼や狐耳、尻尾、鋭い爪などが備わる狐の獣人である。
 彩も白銀の猫の獣人へと変化する。プティーラはいつも通り、≪天使の翼≫で空を飛ぶ。
「ロディの命綱はあたしの身体に巻いて。彩より大きいから、安心なはずよ。」
 サバイバル術に長けているロディは、多少の崖なら上り下りできると主張したので、一応念のためにロープを空の身体につけておくことにした。箱はプティーラが持つことになった。
「さあ、行こう!」
「気を付けてくださいね。」
 猫のしなやかな動きで、彩が道を探しながら、先に進んでいく。その後を空とロディが続き、プティーラは空から周囲を見張っていた。



●陰気な村

 そこはじっとりと湿気が這うような生気の乏しい村だった。
「うわー、嫌だわ。さっさと抜けちゃいましょ。」
 空が眉を顰めた。溌剌としている彼女には全く似合わない場所である。
「閉鎖的でしょうからね。できるだけ穏便に通り抜けたいですね。」
 彩も怯えたように周囲を見回す。ほとんどの村人は家の中に閉じこもっており、時折見かけたとしても、目も合わせようとしない。
「何かあったんだろうか?」
 息が詰まって、ロディは溜息を付いた。
「こんにちはー、初めましてっ!」
 他の3人を他所に、プティーラはにこにこと村人に話し掛ける。
「……大物ね、この子。」
 空は腕組みをして唸った。ロディと彩はこくこくと頷いて同意を示す。
「あの大きなお山に魔物が住んでるんですか?」
 幾人かに話し掛けた話を総合させて、結論を導き出す。
(出来ればやっつけたいけど、プーちゃんじゃあ無理だし。)
 プティーラはにっこり笑って小首を傾げた。
「怖いな〜。どうやったら逃げれるの?」


 山へと向かいながら、プティーラは口を酸っぱくして他の3人に説いた。
「いい? 絶対音立てちゃダメだからね。魔物は音に反応して近付いてくるんだって。」
「足音にもですか?」
 猫になって無音にしたほうがいいだろうか、と彩は考えた。しかし、他のメンバーには出来ないことである。
「もし魔物が来たら、息を止めてじっとその場を動かないのがいいらしいよ。」
「分かった。善処しよう。」
 ロディが生真面目に頷く。
「あら。ロディは戦うのかと思ったわ。」
「無益な殺生はしない。それに話を聞いていると、出来れば手を出したくない相手だ。」
「そうなの?」
 空はわけが分からず首を傾げた。
「音を聞きつけてやってくる、ということはその魔物は目が見えない。息を止めていれば見つからない、ということは、恐らく……。」
「ロディ様?」
 険しい顔をしているロディを心配して彩が覗き込んだ。なんでもない、と首を振られてしまう。



●魔物が住む山

 プティーラの忠告どおり、4人は出来るだけ音を立てずに静かに山を登っていた。
 空の狐耳がしきりに周囲を窺っている。彩は白猫になって、先頭を歩いて行く。プティーラは自分で自分の口を塞ぎながら、黙々とついてきていた。ロディは殿を務めている。
 順調に進めると思った矢先、箱の中からガリガリガリとものすごい音が響いた。しばらく大人しかっため、すっかり忘れていたが、元々この箱は変な音を出していた。
「やばいよ〜! 魔物が来ちゃうっ!」
 箱を持っていたプティーラがパニックになって叫んだ。
「しっ!」
 空が慌てて、プティーラの口を塞いだが、すでに時遅し。
 どこからともなく、気配が集まってくるのが分かった。
「ちっ。早く走れ。一刻も早く山を降りるんだ。」
「でもでも、息を止めていれば……。」
「あの姿を見たら、そんなことも出来ないぞ。」
「ロディ様? 何かご存知なんですか?」
「いいから、早く行くんだ!」
 ロディの叱咤に、彩はすぐに思考を切り変え、前に向き直る。空はプティーラを半ば抱えるようにその後に続いた。ロディは身体の半分で背後を窺いながら、走った。
「ダメだ……。」
「ロディ?!」
「見るな!」
 ロディの剣幕に押されて、つい空とプティーラは魔物の姿を見てしまった。
「うわぁ!」
「あーーー!!」
 2人が悲鳴を上げる。魔物はゾンビだった。半身が腐ってはいるが、まだ人型をしていた。
「早くっ!」
 ロディの鋭い声に突き飛ばされるように、3人は走っていった。それを見送ってロディは銃を構える。ダダンと連続して引き金を引いた。
 ある程度離れたことを確認して、ロディは違う道へと駆け込んだ。上手く策略に乗ってくれて、ゾンビはロディを追ってくる。やっぱり1人のほうが動きやすいと、思った。


 3人が麓へと降りても、ロディはなかなかやってこなかった。
「まさか。やられちゃったりしてないわよね。」
 空が心配そうに呟く。すぐこの先にアキラがいるはずなのに、足が前に進もうとはしない。
「やっぱり戻ってみたほうがいいんじゃないでしょうか。」
 彩はしきりに山のほうを窺っていた。魔物退治は本職ではない。戻っても何を手伝えることもないのは分かってはいた。
「大丈夫なのっ! ロディちゃんはちゃんと帰ってくるのっ!」
 プティーラが涙ながらに、喚く。
「だって《天使の瞳》で見たもん。ちゃんと帰ってくる夢だったもん!」
「そうですね。信じましょう。」
 彩に慰められ、空に励まされ、泣かないようにプティーラはじっと待った。
 日も落ちかけた頃、何かが山から下りてくる音がする。
「ロディ?!」
「ロディ様?!」
「ロディちゃん?!」
 くるりと一度に3人に振り向かれ、当の本人は目を丸くした。
「まだこんなところにいたのか?」
「当たり前でしょ。心配したんだからね!」
「よかったー。よかったよぉー。」
「本当に無事でなによりです。」
 涙ぐまれ、ロディは慌てた。どうして泣かれるのか分からない。でも、何か温かいものを感じた。



●アキラ

「お疲れさま〜。運搬ありがとうございます。」
 アキラがにこにこと笑いながら、4人を出迎えた。
 白衣をびしっと決めているが、カガリと同じような年齢、つまり、子供にしか見えない。
 箱を預かり、嬉しそうにアキラは笑う。それだけで、長い道中の苦労が少しは報われたような気がした。
「ところで、その箱の中身見せて欲しいんだけど。」
 魔物の山では、それのせいで大変な目にあったし。
「見たいんですか? いいですけど。」
 アキラはちょっと待ってください、と言い置いて、研究所の奥へと入ってしまう。しばらくすると、なんとも奇妙な音が漏れてきた。
「……なんなんでしょうね。」
「産声みたいね。」
「断末魔にも聞こえるぞ。」
「怖いよ〜〜。」
 戦々恐々と待っていると、アキラが満面の笑みで出てくる。
「中身は無事でしたよ〜。ほら。」
 アキラの背後から現れたのは、天井まで届きそうなゲル状の物体だった。間接部分などは機械が埋め込まれている。うようよと動くありさまはあまりにグロテスクだ。
「これ、何にするんですか?」
 彩が呆然と呟く。
「こんなもののために、あんなに苦労したのか?」
 はっきり言って、本当にただ巻き込まれただけのロディは容赦がない。
「ふえ〜ん。やっぱ怖いよ〜〜っ!」
 プティーラは本格的に泣き出してしまった。
「そんなことより、物体と箱の大きさがどうも違うみたいなんだけど……??」
 空は呆然と呟いた。
 アキラはただ微笑んだまま、4人にお礼を言っていた。


 *END*


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
【0233 / 白神・空(しらがみ・くう) / 女 / 24歳 / エスパー】
【0136 / ロディ・ヴュラート(ろでぃ・ヴゅらーと) / 女 / 16歳 / エキスパート】
【0284 / 森杜・彩(もりと・あや) / 女 / 18歳 / 一般人】
【0026 / プティーラ・ホワイト(ぷてぃーら・ほわいと) / 女 / 6歳 / エスパー】
(受注順で並んでいます。)

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、初めまして。龍牙 凌です。
この依頼に参加していただき、本当にありがとうございます。
ギャグにするつもりが、シリアスだったり。
バトルが多かったですが、お疲れ様です。
如何でしたでしょうか? 満足して頂けたら幸いです。
それでは、また機会があったらお目にかかりましょう。